感覚過敏・鈍麻について教えて下さい

理解されづらい発達障害のもう一つの苦しみ
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発達障害があると、通常とは異なる感覚を持つことは珍しくありません。一般の人よりも鋭敏な場合は感覚過敏、鈍感な場合は感覚鈍麻(どんま)と呼びます。この記事ではその原因と具体例、周囲への伝え方を解説します。

  1. 感覚過敏・鈍麻とは?なぜ生じるの?
  2. 発達障害だと必ず感覚過敏・鈍麻があるの?
  3. 具体的な例を教えて 聴覚編
  4. 具体的な例を教えて 視覚編
  5. 具体的な例を教えて 体内編
  6. 具体的な例を教えて 触覚編
  7. 具体的な例を教えて その他篇
  8. 会社では、就活では、感覚過敏はどう伝えればよいの?

1. 感覚過敏・鈍麻とは?なぜ生じるの?

 人が何かを感じるには、①耳などの感覚器官で情報を受信し、②①の情報が神経回路を通って脳に伝わり、③脳がその情報を解析する、という段階を経ます。

 感覚過敏は①・②・③のいずれかで情報を過剰に感じる状態で、逆に感覚鈍麻は①・②・③のいずれかで情報が著しく欠損した状態です。感覚はおそらくすべての人で異なるものですが、これが日常生活や社会生活を送るうえで支障をきたすレベルになると、感覚過敏・鈍麻と言われます。感覚の問題にはこの他に強い刺激を求める「感覚探求」や刺激を避ける「感覚回避」も含まれます。

 感覚過敏・鈍麻は五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)のいずれでも生じえます。また、平衡感覚や第6の感覚ともいわれる固有受容覚(関節の曲げ伸ばしや筋肉を動かすときに、関節や筋肉の位置や状態、重さを感じる感覚)が上手に機能していない人も目立ちます。

 発達障害の中でも感覚の問題は最も他人にわかってもらいにくい特性のひとつです。神経医学の研究が進んではきましたが、具体的な仕組みはまだはっきり解明されていません。

 感覚過敏・鈍麻があるとたくさんの感覚が個々に存在しているように感じています。重みづけ、概念化、原因などが想像できないことで、心も不安定になりがちです。

2. 発達障害だと必ず感覚過敏や鈍麻があるの?

 いいえ。発達障害の診断を受けている人でも、感覚に関する苦しさを訴えない人は沢山います。そもそも発達障害は、特性のすべてに当てはまらなくても、いくつかが該当するだけで診断されるもので、感覚に関する違いも一部の発達障害の人が抱える悩みであり、またその深刻さも様々です。

 最新の診断基準(DSM-5)では感覚に関する項目が自閉スペクトラム症の診断基準に入っていることから、発達障害の中でも特に自閉スペクトラム症に多い特性と考えられます。ただしどの程度の割合の人がどういう感覚異常をどの程度訴えているか、定説になるような具体的で大規模な調査研究はまだ行われていません。

3. 具体的な例を教えて 聴覚編

 感覚過敏の訴えで最も多いのが「聴覚」に関するものです。ほぼすべての発達障害の人が何らかの聴覚の違和感を感じているようです。以下具体例です。

  • 小さな物音が気になってしまう。(例:空調や時計の音が気になって夜眠れない)
  • 特定の大きな音が頭の中に突き刺さり、その場から逃げ出すほど苦手。(例:太鼓、雷、ドライヤー、掃除機)
  • 飲み会など騒がしい場で話している相手の声が聞き取りづらい。(※いわゆる”カクテルパーティー効果”が効きづらい状態です。音の取捨選択が難しくすべての音が聞こえてしまうのでしょう。)
  • 遠くの音が聞こえすぎたり、音の遠近が付きづらかったりする。(例:遠くの電話も近くで鳴っているような気がする。)
  • 聴覚異常はないはずだが、特定の音や声が聞こえづらい。
  • 騒がしい場だと急激に疲弊してしまう。(例:駅やショッピングモール)

 他人のヒソヒソ話が気になることを聴覚過敏と訴える方も珍しくありません。確かに遠くの話し声が聞こえたり、小さな音でも感じてしまっている可能性はありますが、発達障害の人は小さいころからイジメられたり、のけ者にされたりしているため、他人に悪口を言われているのではないかと疑いを抱くなど被害意識が強くなりがちで、それが原因で他人の言動に敏感に反応してしまっている場合もあります。ですからヒソヒソ声が気になることを感覚過敏と断定する前に、ご本人の状態をしっかり確認する必要があります。

 また、聴覚過敏があるのに何かに集中するとかえって物音が聞こえなさすぎる状態になる方もいます。この場合は周囲から「いつもは神経質に音を気にしているのに、名前を大きな声で呼んでも気づかないなんて、なんて自分勝手な奴だ」と勘違いされがちです。

4. 具体的な例を教えて 視覚編

 発達障害の感覚の違いがはっきり表れるのが視覚です。ただKaienでお会いする当事者の中では日常生活に大きな困難を抱えるほどの苦しさがある方は少ない印象です。典型的な例を以下に挙げます。

  • わずかな明かりが気になる。(例:外の街灯のわずかな明かりでも眠りが浅くなる)
  • 連続する図柄などの些末な違いが気になったり、目に飛び込んできたりする感覚がある。
  • 蛍光灯のちらつきが気になる。パソコンの画面を長時間見ていられない。
  • いろいろな模様がちらついて見える(サンド・ストーム現象)

 特定の色の光の波をカットしてくれるカスタムメイドのサングラスなど、視覚過敏を緩和するツールの開発は進んできています。

5. 具体的な例を教えて 体内編

 発達障害の人の隠れた苦しみが体内の感覚過敏・鈍麻です。発達障害の人は体調を崩しがちですが、実は感覚過敏の影響を強く受けている可能性もあります。例えば以下のようなケースです。

  • 生理痛が人よりも著しく重い。(感覚過敏だからかもしれません。)
  • 空腹の感覚が乏しく、食事をたびたび忘れる。(空腹はいつも同じ感覚とは限りません。概念化が出来ないので分かりづらいのです。)
  • 気圧の変化に弱い。(例:台風や大雪のときなど頭痛や気持ち悪さから動けない。)
  • 疲れているという感覚がわからない。このため急に倒れる。(身体感覚と感情などによるラベリングが出来ていないからです。)

 こうした体内感覚の不調は、専門医にかかっても異常がないといわれることが多いようです。その場合、「風邪をひいているからだるい」など、身体感覚を言葉で示しましょう。定期的にリラックスする状態を作り、緊張感を和らげることも重要です。ストレスがかからないようにする、適度に運動する、規則的に生活する、食事もバランスよく腹八分目にする、など健康に良いといわれていることをコツコツ実践していくことが、不快感を緩和する近道です。

6. 具体的な例を教えて 触覚編

 触覚についての感覚過敏もよく話題になります。どちらかというとお子さんの例が多く、働く年齢に達する当事者から触覚の異常に関する深刻な悩みはそれほど聞きません。ただし以下のような訴えはよく耳にします。

  • 他人から触られることが苦手だったり、痛みを感じることもある。
  • 手や足にものを付けることを著しく嫌う。(例:靴下、手袋)
  • 特定の衣服や布でないと身に着けられない。(※家の中では裸を好むことも)
  • 触診や超音波検査などを著しく不快に感じる。

 なお特定の食べ物が苦手な人がいますが、その場合味覚にほかの人との違いがあるとは言い切れません。歯ごたえや口の中での動き、溶け方など、触覚で違和感を訴えているケースもあります。噛んでいる途中で感覚が変わる、しいたけ、焼きなす、グリンピースなどが苦手な人も多いでしょう。

7. 具体的な例を教えて その他篇

 このほか嗅覚や味覚に大きな違和感を訴える例があります。

  • 特定のにおい、強い香りが苦手。(例:香水)
  • においがあるだけで気分が悪くなる。(例:デパ地下が不快)
  • においへの感覚が乏しい。(例:自分の体臭が気にならない)
  • 特定の食べ物の味に強く不快感を抱く。あるいは特定のものだけしか味わえない。(例:偏食)

 音やにおい、味に対する過敏さは上手く生かせば音楽家、調香師、ブレンダー、テイスターといった職業に有利に働く可能性もありますが、そうした分野の調査研究や、特性を系統立てて支援に活かす試みは、まだあまり知られていません。

【参考】感覚過敏?切り替え下手?――発達障害のある在職者向けのしゃべり場で話し合ってもらいました

8. 会社や就活で、感覚過敏はどう伝えればよいの?

 感覚過敏や感覚鈍麻は、発達障害の支援に慣れた人でもなかなか理解が難しいもので、発達障害のことをあまり知らない上司や面接官にはなおさらわかってもらうのが難しいでしょう。中途半端に伝えると「努力が足りない」「大げさに言っている」などと誤解され、かえって職場の上司・同僚や面接官などとの距離を広げてしまいかねません。対策として、このページを印刷したり、発達障害の解説書を持参したり、感覚過敏・鈍麻の困難さを上手に説明してくれる支援者に”通訳”・”解説”してもらうなど、職場の人が理解しやすい手段を考えましょう。

 視覚や聴覚過敏の場合、サングラスやノイズキャンセラーなど個人で対応できる場合もありますが、周囲が配慮をしたいと思っても、そう簡単に対策を打てないのが感覚過敏・鈍麻に対する配慮の難しさです。オフィス内の環境を感覚過敏を抱える人に合わせて劇的に変えることは現実的ではないからです。感覚の違いによる苦しさが極端な場合は、在宅勤務(テレワーク)などを活用する対応策が、今後増えていくでしょう。

※Kaienでは、自分の特徴・強みを生かして就職を目指す就労移行支援や、自立に向けた基礎力を上げる自立訓練(生活訓練)、また学生向けのガクプロというセッションを運営しています。それらの中で独特の感覚やその対応方法についても専門のスタッフに相談できますので、支援者の伴走を活用することもご検討ください。


監修者コメント

感覚過敏と鈍麻は客観的指標をもとに説明することが難しい状態です。その人固有な感覚であるだけに、身近な人さえ理解に苦しむ点で、当事者の方は理解されない苦しさを持つのは記事の通りです。医療的にも選択肢が少ないのが事実。ただし、ノイズキャンセリングイヤホンを代表に、過剰な感覚に対処するツールは進化してきているので、何か自分に合ったものがないかは是非探してみてください。個人的には、サングラスやノイズキャンセリングイヤホンなど、職場で気軽に使えるといいのに、とは思いますが…とはいえ接客の場など難しい場面があるのも事実ですね。

最近、感覚過敏に関してはHSPという用語もホットな話題かと思います。HSP概念については色々意見があるとは思いますが、これまで医療があまり関心を払えてこなかったからこそ、苦しんでいる人が共感を覚えているという側面があると私は考えています。また、感覚過敏(鈍麻)=ASDと誤解されている方が専門家にさえいるようです。今後はこの領域の医学的理解が進み、今はない解決策が実現されることを願っています。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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