【セミナー解説】専門家に聞く【発達障害とギフテッド】

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近年、優れた知能や能力を持つ人を指す「ギフテッド」という言葉がよく聞かれるようになりました。発達障害*と混同されることもあるギフテッドですが、その定義や特徴をしっかり把握できていない人も少なくないのではないでしょうか。

本記事では、2022年10月20日開催のオンラインセミナー「専門家に聞く【発達障害とギフテッド】」にて、北海道教育大学旭川校教授・片桐正敏(かたぎり・まさとし)先生にお話しいただいた内容を紹介します。

ギフテッドの一般的な定義や発達障害との類似性と違い、ギフテッドにはどのような支援をすべきかなどをまとめています。ご自身やご家族、周囲の方がギフテッドではないかとお考えの場合に参考になる内容ですので、ぜひご覧ください。

2022年10月20日開催のオンラインセミナー専門家に聞く【発達障害とギフテッド】(講師:北海道教育大学旭川校教授 片桐正敏先生)の本編動画はこちら

近年注目が高まるギフテッドとは?

ギフテッドについて「IQが高い人」「特別な才能がある人」といったイメージがありますが、具体的な定義についてはあまり知られていません。はじめにギフテッドの一般的な定義と、どのくらいの割合で存在するのかを解説します。

ギフテッドの一般的な定義

以下の3つが認められる際にギフテッドと呼ばれることがあります。

  • 高い学業成績
  • ウェクスラー式知能検査のスコアがおおむね130以上
  • 1つ以上の領域で傑出した才能がある

ただしこれは医学的な診断基準ではなく、一般的な定義として紹介されている内容です。片桐先生も、「医学的な診断名ではなくあくまでも教育的な用語だと考えてほしい」と解説しています。

「高い学業成績」というのも、「非常に高い学業成績を収める人もいれば、そうではない人もいる」と片桐先生はいいます。ただしギフテッドの場合、学業成績がそれほど高くない人も、興味関心のある教科については非常に高い成績を収める傾向にあるのが特徴です。

IQに関しても、「高いIQがあればギフテッドである」とはいえません。ギフテッドの条件のひとつに高IQは含まれますが、正しく測定されていなかったり、数値だけではうかがい知れない能力を示すことがあったりすることがあり、IQだけでギフテッドと判断するのは危険です。

数値的な判断基準には知能指数のスコアがありますが、これもあくまで目安です。「特定の領域の才能」という定義も判断が難しく、表立って見えないだけで潜在的な可能性を秘めている人もいるでしょう。

このように、明確にギフテッドと判断できる数値的な基準があるわけではなく、あくまで「一般的な定義」であり、アメリカギフテッド協会の定義でも「1つまたは複数の領域において、より高いレベルで能力を発揮する」ことの他に成長するために「何らかの配慮や支援が必要」な子どもたちをギフテッドと呼んでいます。

ギフテッドはどれくらいいる?

アメリカではそれぞれの州の基準でギフテッドを認定していて、知能検査のスコア基準を120以上としている州もあれば、130以上としているところもあり、基準はまちまちです。

アメリカ全体で見ると約6.5%がギフテッドと認定されていて、幼稚園から高校までの幼児・児童・生徒のおよそ370万人がギフテッド教育を受けています(Worrell et al., Annu Rev Psychol, 2019)。IQ130以上の人は理論上では約2.3%ですが、アメリカのギフテッド認定割合を見ると、実際には高IQの人はより多くいると考えられるでしょう。

日本については、「アメリカと厳密に比べるのは難しいものの、少なくともかなりの割合でギフテッドが存在すると考えていいのでは」と片桐先生は解説しています。

ギフテッドと発達障害をあわせ持つ2Eとは?

ギフテッドと関連する用語に、「2E」があります。2E(twice-exceptional)とは、ギフテッドと発達障害をあわせ持つ人のことです。「二重の特別支援を要する」という意味で、発達障害を持つ人のうち、非常に高い知能を持っている人が2Eに当てはまります。

片桐先生は、「ギフテッドは2Eを包括した概念」と解説しています。発達障害であるかどうかにかかわらず、高い学業成績や特定の領域で傑出した能力があるといった特徴がある人はギフテッドに該当し、そのなかで発達障害を持つ人は2Eにも該当するということです。

ただし、ギフテッドと同じく2Eにも公式な定義はありません。

ギフテッドと発達障害はどう違う?類似性と違いを解説

ギフテッドの特徴に、以下の「過度激動の5つのタイプ」があります。

精神運動性過度激動・積極性や行動力などが見られる・好奇心旺盛で思いついたことを片っ端から行動に移す
感覚性過度激動・視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚に対して過敏で避ける・もしくは特定の感覚を好む
想像性過度激動・想像力や連想が豊かで創造的な活動を好む・空想に没入するあまり、ぼーっとして見えることがある
知性過度激動・知識を積極的に獲得しようとする・知的・言語能力が早熟・合理的で理屈っぽく、納得できないものには取り組まない
情動性過度激動・感情の起伏が大きく調整が難しい・特定の人や物に対する愛着が強い・自分や他人の感情に敏感で疲れやすい

これら5つのタイプは発達障害の特徴と似ていて、混同されることがあります。ここでは、ギフテッドと発達障害の似ている点・異なる点をそれぞれ見ていきましょう。

ギフテッドと発達障害の類似性

ギフテッドの特徴である過度激動の5つのタイプは、それぞれ発達障害の特徴と類似性があります。

例えば精神運動性過度激動の積極性や行動力は、自閉スペクトラム症の感覚過敏・感覚探求や、ADHDの多動・衝動性とよく似ています。特定の感覚に過敏になる感覚性過度激動は、自閉スペクトラム症の感覚過敏・感覚探求に類似しています。

想像性過度激動に見られる「ぼーっとして見える」という特徴はADHDの不注意と間違われてしまいますし、知性過度激動は自閉スペクトラム症のこだわりと特徴が類似しています。

最後の情動性過度激動は、「感情の調整が難しい」「他人の感情に敏感」といった部分が感覚過敏・感覚探求や多動・衝動性の類似点です。

「ギフテッドと発達障害は一時点の行動だけを見ると非常に見分けるのが難しい」と片桐先生はいいます。このように両者には多くの類似点があるため、混同されてしまうケースも少なくありません。

ギフテッドと発達障害の違い

ギフテッドと発達障害には類似する行動や特徴が多く見られますが、片桐先生は「おそらく行動に至るまでのメカニズムは大きく異なるのではないか」と解説しています。「おそらく」というのは、ギフテッドの研究は特に神経科学的な側面ではまだ知見が揃っていないところがあるためです。

片桐先生の見解では、例えば感情制御の問題でいうとADHDは実行機能の不全であるのに対して、ギフテッドは感情閾値の問題と捉えています。過度激動の特徴が強く出てきた場合に、このようなメカニズムの違いを含めて考えなければ支援の内容を間違ってしまう可能性があると片桐先生はいいます。

そのほか、こだわりの強さでいうとASDの場合は切り替えが難しいのに対して、ギフテッドはある程度の切り替えが可能です。多動・衝動性についても、ギフテッドの場合は場面に応じて制御ができます。このように、特性に対してある程度の制御ができるかどうかもギフテッドと発達障害の違いのひとつです。

ギフテッドと発達障害は分けて考えたほうが良い?

片桐先生の解説では、「前提として、ギフテッドと発達障害は分けて考える必要がある」としています。2Eのようにギフテッドと発達障害が重複している場合もある一方で、発達障害には該当しないギフテッドも実際には多くいるのではと片桐先生は考えられています。

「発達障害とギフテッドは同じ」「ギフテッドは発達障害ではない」のように関連性を持たせて考えるのではなく、「発達障害とギフテッドが併存している人もいれば、どちらかの特性しか持たない人もいる」と独立した特性として分けて考えることが大切です。

発達障害とギフテッドが混同されやすいのは、まだ定義が曖昧な段階だからです。現時点で明確な定義がないギフテッドも発達障害と区別されないケースが見られます。

「発達障害とギフテッドを本当に分けて考える必要があるのか」という意見もありますが、なにかしらのカテゴリーに当てはまらないと支援や配慮を受けられないケースは実際にあって、それを避けるためにギフテッドという言葉を片桐先生はあえて使っています。何より重要なのは、発達障害の特性ばかりに目を向けることで、ギフテッドの特性に対する配慮や支援が行われない、逆にギフテッドの特性ばかりに目を向けることで発達障害を見落とし、発達障害に対する配慮や支援が行われない、ということがあってはなりません。それ故に、それぞれの特性を見逃さないために、一緒くたにせずに分けて考える必要があります。

知的能力が高い人がほかの人に合わせて難易度の低い授業しか受けられないのは、本当に教育といえるのでしょうか。本来は個別最適化された学習が行われるのが理想ですが、日本ではまだ実現できていないのが現状です。そのため、能力を最大限に活かしながら適切な支援を受けられるようにギフテッドというラベリングを必要に応じて使っていく、というのが片桐先生の考え方です。

ギフテッドの支援はどこで受けられる?

大人であれば、就労移行支援などでギフテッドの支援が受けられるケースはあります。実際に就労移行支援を利用する人のなかには、ギフテッドだと思われる人もいると片桐先生はいいます。

一方、小中学生については現状ほとんど支援を受けられる機会はありません。本来であれば学校教育の現場でギフテッドの支援ができれば良いのですが、実際にはギフテッドについてあまり知られておらず、発達障害だと判断されるケースもあります。

ギフテッドにはどのような支援をすべき?

ギフテッドへの支援について、片桐先生は「支援というよりも、本人が安全で安心していられる環境を整えた上で見守ってあげることが大切」だと考えています。ギフテッドの人が興味を持っていることについて支援する側も関心を持ち、好きなことができる環境を提供してあげることが重要という考え方です。

居場所を提供してあげることで、自然と本人の能力が伸びていくと考えられます。反対に、支援者側が「能力を伸ばしてあげよう」といった姿勢で関わりすぎると、本人がしんどさを感じてしまうかもしれませんし、支援者側もしんどくなります。

そのため、本人がやりたいと思うことを周囲が邪魔せず見守ることが重要です。

アンダーアチーバーにならないためにできることはある?

アンダーアチーバーとは、知的能力から想定される学業成績よりも低かったり、能力をうまく出せずに学業成績が振るわない場合に用いる用語で、ギフテッドの子どもでは良く見られます。

典型的なギフテッドのケースでは、ウェクスラー式知能検査における知覚推理や言語理解は非常に高いのですが、処理速度やワーキングメモリの指標が落ちる傾向にあると片桐先生はいいます。

これらの指標が落ちるといっても平均よりも高い場合が多いのですが、知覚推理や言語理解が非常に高いため、ディスクレパンシー(乖離)が生じている状態です。

処理速度は作業スピードに影響するものであり、学習にも影響するものです。例えば、テストは時間制限があるため、作業スピードが遅いと時間内に解ききれず、テストの点数が伸びないといった結果につながります。

こういった状況の子どもに対し、ギフテッドプログラムを行うことで、処理速度に改善が見られるケースも出てきており、アンダーアチーバーにならないための対策になりえます。ただし、本人が望んで取り組まない限り、ギフテッドプログラムを行なっても改善は難しいと片桐先生は指摘します。

ギフテッドプログラムの一つとして、全校拡充モデル(Schoolwide Enrichment Model:SEM)があります。

1人ひとりにあった適切な支援が重要となる

ギフテッドとは、一般的に「高い学業成績」「高IQ」「特定の領域での才能」が認められる際に呼ばれることがあります。ギフテッドと発達障害をあわせ持つ2Eといわれる人がいることや、ギフテッドと発達障害の特徴に類似性が多くあることから、混同されるケースも少なくありません。

しかし、ギフテッドと発達障害は特性のメカニズムが異なるため、適切な支援を行うには両者を分けて考えることが大切だと片桐先生はいいます。

その一方で、「支援につなげる」という意味では、ギフテッドであっても発達障害としての支援を受けることは必ずしも悪いことではありません。支援を受ける段階になってから特性や状態を丁寧に見極めて、それぞれの人に最適な支援を行うというのが、片桐先生の考え方です。

また、近年は「脳は1人ひとり違うもの」と捉える「ニューロダイバーシティ」という考えが広がっています。このようなニューロダイバーシティの観点は、「個々の特性や状態に最適な支援を行う」というギフテッドの支援のあり方を考えるうえでも重要です。

今回の記事では紹介しきれなかった、貴重なお話や具体的な質問にも答えていただいているのでぜひ動画も併せてご確認ください。

2022年10月20日開催のオンラインセミナー専門家に聞く【発達障害とギフテッド】(講師:北海道教育大学旭川校教授 片桐正敏先生)の本編動画はこちら

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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