「自閉症」の始まりとは
いまから10年ちょっと前の話ですが、教育現場で、行動や考え方が理解されない子供達がいました。
精神科との症例検討会といった専門的な場でも、「精神疾患としても説明不能」な難治症例として紹介されていました。このような子どもや大人達について、これらの症状が「自閉スペクトラム症」と考えると理解できる、という考えが共有できるようになったのは、つい最近のことなのです。ですから、最も理解されていない人たちだと言えるかもしれません。
自閉症は、1943年オーストラリア系アメリカ人の児童精神科医カナーによって「情緒的交流の自閉症的障害」、つまり、早期発症型の統合失調症として、提唱された概念です。
翌年、オーストラリアの小児科医アスペルガー(米国ではアスバーガー)により、「自閉的精神病質」として報告されました。ところが、戦時中のため、その論文は戦勝国側では報告されませんでした。
カナー型自閉症とは
カナーの自閉症は、
○対人相互反応の障害
○意志伝達の著しい異常またはその発達の障害
○活動と興味の発達の著しい限局
を特徴とし、大多数が知的障害があったため、カナーの自閉症は知的障害があり、知的障害のない場合はまれであると考えられていました。この後もしばらく、アスペルガーの報告は、幻の疾患だとされていたのです。
アスペルガー症候群の再評価
ところが、1981年 イギリスの医師ローナウイングにより、アスペルガーの論文が再評価され、知的障害を伴わないが興味・コミュニケーションに特異性が認められる「自閉スペクトラム症」の一種として評価されるようになりました。このような子供達について、当時、我が国においては依然、診断名はなく、診断のつかない「グレーゾーン」とされていました。
このころ、ウイングの論文が我々に与えた驚きは大きく、「よく分かっていなかった子供達」が、どこに属するのか理解できるようになり、知的障害のない自閉症(高機能自閉症)、特にアスペルガー症候群についての興味が強くなっていきました。
このころ自閉症は、ずっと、「知的障害のある言葉で表現できない人たち」である、と考えられていました。
『自閉症だったわたしへ』の出版
1963年にオーストリアで生まれたドナ・ウイリアムズは、架空の人物と暮らしながら様々な困難に耐え、7歳の頃に出会った、精神科医のメアリーとセッションを重ねていき、自分と架空の人物との思いを書き連ねていきました。彼女が26歳になった頃、メアリーのすすめで、ドイツ語ではありましたが、Nobody Nowhere: The Remarkable Autobiography of an Autistic Girl 、邦題として『自閉症だったわたしへ』として出版され、世界的なベストセラーとなりました。
自閉症の人たちの言葉
こうして、自分では語ることができなかった「自閉症」の人たちの心が語られはじめたのでした。その後も同様の本が何冊か出版されました。私たちも、自閉症の人たちの心を知りたいと思い、哲学者、精神科医、臨床心理士などと共に、彼らのこころを探る旅に出ることにしました。2003年から、6年間の思春期から成人期のアスペルガー症候群の人たちの行動原理、考え方などをまとめ、2009年に『アスペルガー症候群治療の現場から』にまとめることができました。

◆参考文献
『アスペルガー症候群治療の現場から』
どんぐり発達クリニック宮尾益知監修
(出版館ブック・クラブ)

監修 : 宮尾 益知 (医学博士)
東京生まれ。徳島大学医学部卒業、東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にどんぐり発達クリニックを開院。
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