思春期と自閉症ー「性」と親子関係

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一般的な「思春期」とは?

思春期は、小学校の高学年、中学校ぐらいから成人までの時期をいいます。肉体的にも精神的にも大きな転換期で、多くの混乱を乗り越えて成長する大切な時期です。言い換えると、第二次性徴を迎え、体のエネルギーや性的エネルギーが増大していく時期ということです。このような、思春期ではどのようなことが大人になるために乗り越えなければいけない課題なのでしょうか。

1.友達仲間との関係をどのように発展させていくか、

2.肉体の変化をどのように受け止めるか、

3.親からの精神的な分離(世代間境界)と自立をどのように達成していくか、

4.自己意識(アイデンティティー)をいかに獲得していくか、

5.性的な成熟をどのように迎えるか。

この様に様々な課題が思春期に混乱を招く要因となります。では、自閉症にとってはどのようなことが問題になるのでしょうか。

自閉症における思春期の課題

自閉症は、様々な知覚認知面の障害や社会性の障害があるため、こうした発達課題を乗り越えていくことは容易なことではありません。次に自閉症としての問題点について整理してみましょう。

自閉症の課題は、主に「指示に従う」ということです。おまけに指示の内容や自分の思いについて、本人が自分の思いを伝える言葉を十分に持っていません。そのことが、思春期前後に、不安定でいろいろな問題が現れてくることと関係しています。この時期は、10歳から12歳頃と18歳から22歳頃までの二回あります。

10~12歳頃

まずは、10歳前後の時期のかんしゃく、他傷、器物破損などです。この時期は、まだ母親あるいは、教師等が体力もあり、家庭と学校で起こることが多く、何とか対応が可能であり、自然に落ち着いていくことが多いもの
です。

20歳前後

20歳前後の時期には、自発性と自主性がでてきていても、「自分でなにをしたいか考え、行動する力」が育っていないことが関係して、大人になっていく自分のからだと、突き上げるようなエネルギーを自分でも持て余してしまい、どこか自分の気持ちとしっかりいかないいらだたしさを表現できないまま、破壊的な行動をとってしまいます。このことを「アクティング・アウト」と表現します。本来心の「内側」に「体験として」「悩みとして」保持されるべき不安や緊張が「行動」として「外へ」発散されることをいいます。すなわち「体験」よりも「行動を」ということです。自傷、他傷、器物破損、不眠など深刻な事態になることも多いのですが、この時期には、押さえ込もうとしても、両親の体力を子どもの体力が上回っています。このような場合には、まずありあまるエネルギーを消費させる手段を考えること、荒れることが良くないことであることを判らせ、荒れた気持ちをフォローすることが大切であり、そのためには母子分離が出来ていることと、両親の夫婦関係がきちんとしていることが必要です。

自閉症児と仲間

前青年期に同世代間の仲間を持つことは、青年期を迎えるために不可欠ですが、母子交流の蓄積さえ不十分な彼らにとっては、同世代の仲間と交流を持つことは至難の業であり、様々な葛藤から逃れるために、ごく限られた興味の対象に没頭することによって自らの安定を保とうと努めることになります。

「性」の問題

青年期はそれぞれ、男らしさ、女らしさを身につける時期であり、異性を性愛対象として求めるようになる成長過程でもあります。すなわち、「性」が生物学的意味合いから次第に心理学的意味合いに変化していく過程といえます。自閉症児の青年期には、男であること、女であることによる役割の違いが、様々な問題が生じさせます。例えば、幼児期から男性におびえていた男児の場合には、女子生徒としか交際できず、女っぽい仕草をするようになり、孤立していったりしてしまいます。女児であっても、荒れた学校で乱暴なこどもは、乱暴なこどもの仕草を取り入れて適応状問題になることがあります。そして、性衝動が高まったり、異性への関心が強まると、大きな戸惑いを示してしまいます。母親拘束が強いこどもでは、自慰行為を母親に発見されたりすると、テレビの女性キャスターがでてくるだけで、音を小さくしたり、町中で女学生とすれ違うと不自然に顔をそむけたりしたり、女性に関連した文字があると、まるで生き物であるかのように扱ったりすることもあります。

第二次性徴の体の変化の出現

自閉症児は、第二次性徴の発現に伴い心因性反応を呈したりし、性を否認する行動をとることが多いものです。身体模倣が拙劣であり、発達早期から身体図式の獲得に著しい障害があるため、第二次性徴という身体像の変化を受け入れることは容易ではありません。男児では、恥毛の発現に動揺し、一本一本抜いてしまったり、女の子では初潮前後に急に不安定、被害的になることがあります。このようにして、身体的変化を拒絶したり否定したりして、身体的安定を図ろうとしているとしているのです。

母親との関係性

母親との心理的分離と自立が中心的な問題となりますが、自閉症児では母親との依存関係が幼児期に十分に深まることのないまま青年期にまで、その問題が持ち越されてしまいます。幼児期よりも母親への依存的態度がよりいっそう明瞭な形で現れやすく、母親の混乱を助長します。母親は、子供の示す依存的態度に対し、喜びたい心境になりますが、母親よりも大きくなった彼らが幼児のような依存的行動を示すことに対し拒否的な感情を伴う複雑な状態になります。そのため、母子関係は緊張をはらんだものになっていきます。

自立のカギは「自己意識」

自己意識の獲得は、自立のためにもっとも重要な課題です。自分と他者の違いを認識する自己の弁別能力に障害があるため、他者と比較しながらアイデンティティーを獲得することが困難です。そこで、自分にとって好ましいモデルを見いだし、真似して取り入れようとします。たとえば、親切な先輩であったり、親戚であったり、映画の主人公であったりするのですが、対象をパターン化して、どんな状況にもそれを実行しようとます。そのことは、対象の都合や状況に無関係に行われるため、理想が肥大化し、いかなる場面でも手抜きをしないために、過剰反応を起こしやすくなります。「福祉関係の人間は、常に高潔でなければならない。変な考えを持ったり、変な本を読むはずがない」「親切な心を理解してくれる人間は、いつもそうでなければならない」と考え、拒否されるとパニック状態になり、強迫症状としていつまでも続くということが起こってきます。

最も特徴的であるこだわりは、「ある考えが頭にこびりついて離れない」、「一つのことを気にするといつまでもそれが離れない」「完全でなければ気が済まない」などの脅迫的傾向が一貫して強く残存しています。この、脅迫性が明らかな精神疾患と間違われてしまうこともあります。

「学校」を卒業することへの混乱

学校を卒業後は、今まで慣れていた環境から新しい社会に踏み出すことになります。新しい社会に出たときの混乱は、それまでの長年の治療や訓練・教育の質や量(特異に小学校低学年の)によって決まってくる部分が少なくありません。就労挫折はよくみられるケースですが要因として、「適応過剰」による破綻、「社会的就労認識の欠落」に由来する挫折、「対人関係障害(対人的孤立)」により就労継続が不可能となることがあります。

思春期の問題行動と服薬

思春期に問題になりやすい行動としては、自傷、パニック、他害、執着傾向、脅迫症状、無気力(アパジー:思春期の退行)といわれる状態もあります。 興奮、不穏、不眠、こだわり、行動、多動、自傷、情動行動、パニックなどについては、環境調整や精神・心理療法をまず行いますが、反応しない場合には、種々の向精神薬を用いると有効なことが多々あります。最近では、行動の障害に対して「デパケン」、「リスパダール」、「インプロメン」などが、こだわりに対して「リスパダール」や抗うつ剤である「SSRI」が著効を示すことがあります。睡眠障害に対しても、睡眠薬ばかりでなく、ビタミンB12が有効なことがあります。

思春期の自閉症児に対しては、一般的な思春期の問題がどのような機序で起こっているのかを理解した上で彼ら特有の認知障害を考慮して対応しなければなりません。時には、薬物治療も必要になります。薬物治療は、薬漬けにすることでも考える能力を奪ってしまうことでもありません。こころの混乱を整理して、気持ちを楽にしてあげることにより自分を取り戻すことが薬物治療の基本です。困って、一人あるいは家族だけで悩む前に、早く専門家に相談してみましょう。自閉症の治療は、日進月歩で変わっています。


監修:宮尾益知(医学博士)
監修 : 宮尾 益知 (医学博士)

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