自閉スペクトラム症(ASD)と思春期問題
2012年の文科省の調査では、ASDを持つ児童・生徒の38.6%は個別指導などの支援を受けておらず、『支援が必要』とされているのに支援を受けていない児童・生徒が6%もいます。適切な支援を受けずに放置されていると、その後うつ病、不安障害、過食症、チック、強迫障害、自傷などの2次障害が現れ社会生活上大きな障害になることは、「自閉スペクトラム症(ASD)と子どもたち」の記事でも紹介しました。
問題山積のように感じる自閉スペクトラム症(ASD)の子どもでも、早期に発見して適切な支援をすれば、適応して生活できるようになる場合が多いのです。幼児期から専門的な関わりが行われることが予後をよくするためには大事なことです。3歳以前の目あわせ、相手を意識した指さし、同時に同じ物をみる共同注意、相手の動作を自主的にまねする模倣などができることが重要だと言われています。赤ちゃんはミルクを飲みながらお母さんをじっと見て、同じリズムで刺激し合って、お互いが安定した関係(愛着関係)を築いていきます。10か月頃になるとお母さんの視線を追うように(共同注意)なり、人見知りをするようになり、指さしでの要求と共感から、言葉を通してのコミュニケーションが育っていきます。しかし、ASDの子どもは、このようなコミュニケーションができていかないのです。

相手の立場や気持ちがわからない(こころの理論)
1歳前の時については先ほど紹介しました。その後の重要なことは、相手の立場や気持ちがわからない(こころの理論)ということです。健常であれば、3-5歳で相手の気持ちがわかるようになってくるといわれています。その後の発達には、大変な時間がかかります。ここで、その後の子どもの発達に関してどのようなことに気をつければ良いのか、小学校高学年までたどってみましょう。
3歳
3歳くらいになると自分の足でどこにでも出かけるようになり、言葉で自分の意思を伝えられるようになります。
4歳
4歳くらいになると、自我を抑えて、集団の中でどのようにふるまえばいいかある程度わかるようになります。このころの社会性の形成には、父親の存在がとても大事だと言われています。
5~6歳
小学校に入る頃には、就学に向けて座る、聞く、覚える、書くなどの学習するための準備(学習レディネス)が形成されていなければなりません。
7歳以降
小学校3、4年生の頃は学校生活に慣れ親も初期の緊張から抜け出します。しかし、この時期は思春期から成人に至る時期に起こってくるさまざまな症状の潜伏期あるいは前兆期でもあります。この時期は、暗示にかかりやすい時期でもあり、チックや抜け毛などの症状がさまざまなストレスに関連して起こってきます。このころ大事になってくるのが、褒めるタイミングと褒め方です。できたことを褒めるのであって、すごくできたときだけ褒めるのでは子どものチャレンジする気持ちは育ちません。発達の過程から見ると、10歳頃の子どもは自分の将来像(自画像)を作り上げる時期でもあります。自分のより良い将来像を作るには、できるだけ多くの成功体験をし、周囲の大人(特に教師)からみんなの前でほめられ、失敗体験をできるだけ少なくすることが必要です。その頃の子どもの将来のモデルとして身近な大人である親がとても重要になりますし、教師の存在もとても大事です。
たとえば女の子が、自分の将来モデルである母親から拒否されたり、父親が母親のことを悪く言ったりすれば自分の将来の姿が傷ついたものになります。男の子にとっても同様です。この頃には、頭の中だけで思考ができるようになり、抽象的な考え方ができるようになりますから学校教育での学習のレベルも上がります。発達の面でも学習の面でも大人の入口と言え、この時期を『9歳の壁』と言ったりします。
最大のキーエイジ、激動の『思春期』
思春期は、身体もこころも急速に大人に向けて変化していきます。そうして、周囲の目を過剰に意識し、劣等感や自己嫌悪感をもちやすくなります。この時期には自分への関心とともに社会にも関心を持ち始め、自分なりの価値観や倫理観を形作っていきます。一方、家族への反発などから学校の友人などと仲間を作って外出しがちになり生活も不規則に成り、家で家族と過ごす時間が減っていきます。このような思春期こそが「健常な大人となっていくために必要である」事がもっと理解されなくてはいけません。
この時期に4歳の時に続いての父親の出番です。細かいことを言わない、成長を見守る。アドバイサーとしての立場をキープするなどが重要です。母親から独立していって母親と疎遠になる子どもに、父親が遠くから見守ってあげなくては、ひとりぼっちになってしまいます。ASDの子どもの場合、家族から離れたところで同年代の子どもと仲間を作り様々な経験を通して成長していくことが難しく、親とともに家庭の中で引きこもりがちになります。親から独立していく気持ちもできてきますから、家庭の中で様々な問題が起こって行きがちです。自分から離れていけない子供達です。親から子どもとの距離を取っていくことがこの時期の課題です。そうしなければ、時に暴力的な行動や反社会的な行動、引きこもりなどの症状が現れることがあります。
思春期に適切に対応することの大切さ
発達障害の第一人者である宮尾益知先生が、ある高機能自閉症の患者さんの例を紹介しています。
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この患者さんは、乳児期から目が合いにくく、言葉を発したのも2歳半と遅い傾向にありました。3歳で自閉症と診断され『治療法はないので療育センターに通うように』と勧められましたが、その療育センターでは、『どうせ治らないから』と特別な療育をせずに過ごしていました。
小学校では勉強は普通にできたそうです。しかし、周囲とのコミュニケーションがうまくできず、ひどいいじめにあうようになり、中学生からは引きこもり状態になりました。その後上記のようなこころの変化が起こり、両親に暴力をふるうようになり、両親が私のところへ相談にいらっしゃいました。しかし、向精神薬を服用させようにも服用させることができず、家族で対応することは不可能となり、強制入院となりました。もっと早い時期に対応していれば、そこまでひどくならなかったかもしれませんね。
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思春期に突然そうなる、ということは少なく、ごく幼いうちから対人関係、社会性、こだわり、感覚過敏などのサインは発せられている場合が多いのです。だからこそ、各キーエイジにおける子どものこころの変化に沿ったアドバイスができる専門家が必要なのです。このような専門家の立場で子どもと接していると、思春期には子どもから相談するようになってくる、と宮尾先生はいいます。乳幼児期からの適切な通院、主治医を持つことが非常に重要です。少しでも不安があれば、早いうちから相談できる場所を探してみましょう。

監修 : 宮尾 益知 (医学博士)
東京生まれ。徳島大学医学部卒業、東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にどんぐり発達クリニックを開院。
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