特例子会社と”普通”の障害者雇用の違いは?

動画で解説 今どきの特例子会社

特例子会社制度が生まれた背景

 特例子会社は、身体障害者の障害者雇用ですら進まなかった昭和の時代(1976年)に考え出された仕組みです。他の人たちに混ざって障害のある人が働く環境を目指す企業が多かったものの、実際に”普通”の職場に入ってもらうには設備や理解の面で様々な課題があり、雇用率がなかなか向上しない時代がありました。

 そこで、別の特別な会社を立ち上げることで、障害のある人に配慮した職場を専用に作り出そうという仕組みとして考え出されたのが特例子会社です。わざわざ会社を立ち上げなくても良いじゃないか、別の職場(例えば新しい部署やオフィス)を作るだけで良いじゃないか、と思われる方もいるかもしれません。しかし別会社にすることで、障害特性にあった就業規則が作れたり、他に流用される心配なく障害のある人の受け入れに特化した助成金が出せたり、そして何よりも親会社だけではなくグループ会社全体の障害者雇用率に換算することが許されたり(障害者雇用は会社単位なので本来は親会社にすら障害者雇用として換算されませんが、特例子会社に限ってはグループ全体にすら適用することが可能です)などの利点から別会社化する仕組みとなっています。

【参考】コトバンク「特例子会社」
【参考】厚労省「特例子会社」制度の概要

 実際、上のリンクでの情報を見ていただければ分かる通り、特例子会社は障害者雇用の起爆剤になりました。”普通”の職場はそのままに、障害のある人に向いた職場を新たに作れ、かつ助成金もふんだんに投入されたからです。まずは重度の身体障害や知的障害の雇用が拡大し、ここ10年ほどは精神障害や発達障害の大きな雇用の受け皿になりつつあります。

”普通”の障害者雇用と同じ部分は?

 そもそも”普通”の障害者雇用と言っても様々あります。障害をどの程度まで伝えているかによって分けてみましょう。

  1. 人事と直属の上長しか障害者雇用であることを知らない
  2. 人事と同じグループの人(10人程度)しか障害者雇用であることを知らない
  3. 人事に加えて、同じ部門や同じフロア(数十人単位)は障害者雇用であることを知っている
  4. そもそも特例子会社ではないが別のフロアやオフィスなので、そこで働く人が障害者雇用であることは明らかである

 4の状態は、配慮の状況や仕事内容はほとんど特例子会社と変わりません。働いている実感としてもほとんど変わらないでしょう。つまり、

  • ”普通”の障害者雇用も、”特例子会社”の障害者雇用も、基本的には一緒
  • ”普通”の障害者雇用の中には、ほとんど”特例子会社”の雰囲気や状況と一緒のところすらある
  • 制度としては企業が雇いやすいという雇用主目線が強い

ということとなります。

特例子会社同士のネットワークも強く、雇用管理の方法や運営上の課題を共有する動きが見られる。写真は当社で行ったセミナーの様子。

特例子会社で働くメリット

 ただし特例子会社で仕事をするメリットは確かにいくつかあります。いくつか代表的なものを見ていきましょう。

配慮が手厚い可能性が高い

 特例子会社は一般の企業と違い、「障害者を雇うために特例で設立された子会社」ですので、設備や環境・体制・規則などで配慮が手厚いことが期待されます。細部まで決められているわけではないですが、雇用される障害のある当事者に合わせて、バリアフリーになったり、指導員が多く配置されたり、業務内容も障害にフィットしたものにすることが期待されています。

上司・業務・環境が変わりづらい

 つまり変化が少ないということです。”普通”の職場でしたら上司はどんどん変わりますし、仕事も部署全体の状況によって変化が激しいでしょう。部署自体の編成が変わるときもあって、その際に障害者雇用の人でも大きな影響を受けます。発達障害の傾向がある人は、変化を苦手としがちの人がほとんどですので、特例子会社の雰囲気はフィットする可能性が高いと言えるでしょう。

発達障害に特化したKaienの3つのプログラム

当社が設立に関わったグリービジネスオペレーションズ社。グリー社の特例子会社として横浜等に拠点を構えている。

特例子会社で働くデメリット

 一方で発達障害の当事者にとってデメリットも無くはありません。

一般枠に転職しようとする時

 特例子会社で働いている人は指導員など障害者雇用ではない人も含まれます。しかしほとんどが障害者雇用の人であることは外部の人からも想像がつきやすいでしょう。例えば、障害者雇用を経て自信をつけた方が一般枠に転職しようとする時。履歴書に特例子会社の名前を書くと、障害者雇用であることが暗示されてしまうのではないかという心配を抱かれることもあるでしょう。実際はそこまで会社名や業務内容を新しい雇用主に調べられることはないかもしれませんが、発達障害の人は一般枠と障害者雇用を行き来するケースが今後大いに予想されます。デメリットといいますか、前もって受け止めておいたほうが良い情報の一つであることは間違いないでしょう。

仕事が簡単過ぎる、変わらなすぎる

 配慮をされすぎてしまったり、仕事があまりにも単調である可能性はゼロではありません。そもそも特例子会社は知的障害を受け入れていた企業が多く、今でも多くは知的障害を雇うことをミッションにおいている会社といっても過言ではありません。2010年を過ぎたあたりから、精神・発達などの障害特性の受入企業が増えてきましたが、まだ知的障害者にあった業務内容だったり、勤務ルールだったりするため、物足りなさを覚える人も多いでしょう。

 最後に。特例子会社以外を選んで入ったものの、途中で部署自体が特例子会社として別法人化するというケースは当社では幾例も見ています。特例子会社かどうかが志望理由に大きく影響する際は、現在特例子会社かどうかだけではなく、今後特例子会社化される計画があるかを、採用担当者に聞くのも必要でしょう。

当社の修了生が多く働くサザビーリーグHR社。もともとは”普通”の障害者雇用で働いていた人が、途中で特例子会社に転籍したケースもある。