「周囲とどこか違う」という違和感を抱えながら、農園での勤務を経て自立訓練、そして就労移行支援へとステップを進めてきたKさん。一時は強い不安感により動けなくなることもありましたが、支援を通じて「自己理解」を深め、AIを活用した独自のセルフケア法まで編み出しました。4月から新しい職場でのスタートを控えた彼女に、これまでの歩みと、自分を乗りこなすための秘訣を伺いました。

▼ご本人の簡単なプロフィール
- 年齢:20代
- 診断名:軽度知的障害、自閉スペクトラム症
- 苦手なこと:境界線を引くこと、口頭での要約、曖昧な言葉の理解、環境の変化、マルチタスク
- 前職:農園での軽作業
- 就職先:サービス業(接客・取次業務)
目次
漠然とした「違い」を感じていた幼少期から、農園での就労まで
―――まずはKさんのこれまでの歩みについて伺わせてください。学生時代はどのように過ごされていましたか?
振り返ってみると、小・中・高校生の頃から、なんとなく「周りのみんなと自分はどこか違うな」という違和感をずっと抱えていました。具体的に何が、とはっきり言葉にできるわけではなかったのですが、集団の中にいるとどうしても浮いてしまうような、そんな感覚です。
―――高校生以降はどうでしたでしょうか。
短大卒業後、最初は農園で働くことになりました。
仕事自体はシンプルで取り組みやすいものでしたが、コミュニケーションがあまり取れない環境で、次第に孤独を感じるようになりました。今思えば、当時は障害受容が十分にできておらず「普通に頑張らないと」という思いが先行し、周囲を気にしすぎて疲労してしまうことがありました。
―――農園での仕事を通じて、ご自身の特性に直面されたのでしょうか。
そうですね。一生懸命やっているつもりでも、どうしても上手くいかない部分が出てきてしまって。「自分にはもっと別の環境や、自分自身を深く知る時間が必要なのかもしれない」と考えるようになったのが、支援サービスを探し始めたきっかけでした。
自立訓練での9ヶ月間。「自分」という人間を解剖する時間
―――その後、Kaienの自立訓練(生活訓練)を利用し始めたとのことですが、きっかけは何だったのですか?
説明会に参加したのが始まりです。当時は早く就職したい気持ちが強く、就労移行支援スタートを希望していましたが、過去に体調を崩していたこともあり、まずはスモールステップからと、スタッフさんとの相談の上、自立訓練からのスタートになりました。
―――自立訓練ではどのようなことに取り組んでいたのでしょうか。
約9ヶ月間通ったのですが、自分を変える大きなきっかけとなったのは「自分史の作成」と「トリセツ(取扱説明書)の作成」です。自分のこれまでの人生を棚卸しして、どんな時に調子を崩しやすいのかを言語化していき、不安などの気持ちのコントロールが苦手だと分かってきました。
また利用者さん同士の交流を通して、少しずつ自分の考えを言葉にして伝えられるようになりました。
自立訓練の期間は、私にとって「安心できる居場所」を見つけ、自分を少しずつ出せるようになった大切な時間だったと思います。
―――自分と向き合う作業は、時に苦しいこともあったのではないですか?
正直、大変な時もありました(笑)。でも、スタッフの方と一緒に丁寧に取り組むことで、「私は外部からの情報を過剰に受け取りすぎてしまうんだ」とか「他人との心の境界線を引くのが苦手なんだ」という傾向が見えてきたんです。これが分かったことで、少しずつ対策を考えられるようになりました。
就労移行支援へのステップアップ。模擬職場で磨いた「伝え方」
―――自立訓練を経て、就労移行支援へ行かれましたね。環境の変化に戸惑いはありませんでしたか?
環境はかなりガラッと変わったという印象を受けました。就労移行はより「職場」に近い雰囲気で、上司役のスタッフに対して「報告・連絡・相談(報連相)」を行う訓練が中心になります。最初はすごく緊張しました。
―――そのような中で、どのように過ごしていったのですか?
私は話をまとめるのが苦手なので、必ず「メモを取ってから伝える」という対策を行いました。この練習を何度も繰り返すうちに、スムーズなやり取りができるようになっていきました。
また、事務職の職業訓練では、グループワークを行っていましたが、周囲とのやり取りの中で気を遣い過ぎたり、いろんな情報を過剰に受け取ってしまうことがあり不安の感情が強くなっていきました。ここでも「境界線を引く」ということを学んで対策してきました。
不安をAIで整理する? 独自に編み出したセルフケアの習慣
―――「境界線を引く」というのは、具体的にどんなことをされているのでしょうか。また、その対策によってどんな変化があったのかも教えてください。
最初はスタッフの方からアドバイスをいただきながら、進めました。「自分を大切にしてください」との声をかけていただき、そのことが大きなきっかけで、「どこまでが自分の役割なのか」「どこからが相手の課題なのか」を考えることができるようになりました。
また、最近はAI(チャットツール)をセルフケアのパートナーとして活用しているんです。
―――AIをセルフケアに! 具体的にどう使っているのですか?
何かモヤモヤした時や、他人の感情を受け取りすぎて苦しくなった時、その気持ちを一回そのままAIに投げちゃうんです。「今こういうことがあって、こう感じている」と。そうすると、AIが内容を客観的に整理して、「それはKさんの責任ではなく、境界線を引くべき問題ですよ」とか「次はこうしてみたら?」とアドバイスをくれるんです。
―――それは面白い活用法ですね。客観的な視点を取り入れることで、気持ちの切り替えができるようになってきたのですね。
はい。情報を外に出して整理してもらうだけで、心がぐっと楽になります。これまでは不安に飲み込まれて動けなくなることが多かったのですが、不安を書き出し「今すぐ対処できる不安」と「まだ起きていない不安」が整理しながら、気持ちを切り替えています。
自分に合う場所を求めて。納得感を持って進めた就職活動
―――就労移行支援に通い始めて3か月後から、就職活動を始められたそうですね。ご自身の就活を振り返ってみていかがですか?
一つひとつの企業をじっくり見て、本当に自分が納得できる場所を選ぼうと決めていました。自立訓練や就労移行支援で行ってきた自己理解や対策方法をうまく生かすことができました。
―――就職活動中の軸として大切にしていたことはありますか?
「無理をして自分を偽らないこと」です。以前の私は、周りに合わせようとして無理をして、結果的に体調を崩していました。今回は、自分の特性を理解した上で、自分を大切にした働き方を選びたいと思い、自分自身の目でも確かめるようにしました。
―――その結果、無事に内定を勝ち取られたのですね。おめでとうございます!
ありがとうございます! 4月からはアパレル業界の職場で、事務や商品管理、慣れてきたら接客の取次ぎなどに携わる予定です。
―――Kaienの利用を検討している方、これから就活をする方へメッセージがあればお願いします。
Kaienに通う中で、IQの数値だけで人の可能性が決まるわけではないことを実感しました。
人は環境や経験を通して、少しずつ成長していくものだと思います。私自身も、環境が変わることで考え方や行動が大きく変わりました。だからこそ、もし同じような気持ちを抱えている当事者の方がいるのなら、診断を受けたとしても「もう成長できない」と諦めないでほしいです。
付録~Kさんのこと~
―――ここからは少しプライベートなことも伺わせてください。休日はどのように過ごされていますか?
最近は、お気に入りのカフェに行ってのんびりするのが至福のひとときです。あと、猫ちゃんに会いに行くのも大好きで、すごく癒やされています。


―――いいですね! カフェと猫、最高の組み合わせです。最近、何か嬉しかった出来事はありますか?
実は最近、新しい寝具を新調したんです! そうしたら、寝返りがすごく打ちやすくなって、朝までぐっすり眠れるようになりました。
―――寝具は大事ですよね。睡眠の質が上がると、日中のパフォーマンスも変わりますし。
本当にそうですね。体が軽くなって、4月からの仕事に向けてエネルギーが充填された感じです(笑)。万全の態勢でスタートを切りたいと思います。
―――心身ともに準備万端ですね。本日は素敵なお話をありがとうございました!
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