「貫く」姿勢で掴み取った内定。AI活用と継続力で切り拓いた30代の再出発

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就労移行支援事業所を利用し、自らの特性と向き合いながら一般企業への就職を果たした方々へのインタビュー。今回は、2022年から約1年8ヶ月にわたりKaienを利用し、物流関連企業の事務職として新たな一歩を踏み出した「Oさん」にお話を伺いました。

30代後半という節目で、こだわりや人間関係の課題にどう折り合いをつけ、納得のいく就職活動を展開したのか。その軌跡を辿ります。

Oさんの愛用のサングラス

▼Oさんの簡単なプロフィール


  • 年齢:39歳
  • 診断名:自閉症スペクトラム(ASD)
  • 苦手なこと:マルチタスク、大人数での会合、急な予定変更
  • 就職先:物流関連企業(事務補助・PCキッティングなど)
  • 利用サービス:就労移行支援


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「大人びた子ども」が育んだ、独自の視点とこだわり

―――まずは子どもの頃のお話から伺えますか。ご自身ではどのようなお子さんだったと感じていますか。

親戚からはよく「大人っぽい子どもだ」と言われていました。私は言葉が出るまでに4年ほどかかったのですが、その間、周囲の大人の言葉をじっと聞いていたんですね。身近な30歳以上年上の人たちの言葉をインプットして育ったので、いざ喋り始めたら同年代の子とは言葉遣いが全く違っていました。理屈っぽく話すような子どもだったので、悪い意味で目立っていたかもしれません。

―――周囲との違いを感じる場面は多かったのでしょうか。

そうですね。特に流行に関しては、我が家の教育方針もあって全く追わなかったんです。みんなが最新のゲームやカルチャーの話をしていても、自分は一切入らない。逆に、自分が気に入ったものはとことん追求するタイプだったので、親の影響で好きになった古い歌手の曲名を答えて、友達から「何その歌?」とからかわれることもありました。

中高一貫校では鉄道部に所属しており、そこでいくつか伝説を残しました(笑)。文化祭の研究誌で、周りが3、4枚書くところを、私は手書きで29枚、文字数にして1万字以上を書き上げたんです。後輩たちが「Oさんのような人が出ないように」と、次から枚数制限を作ったほどでした。また、引退する新幹線の撮影中にドアが閉まってしまい、東京から名古屋まで図らずも移動してしまったこともありましたね。とにかくやる事が突飛で、周囲からは強烈な印象を持たれていたようです。

―――ご自身の性格を一言で表すと?

漢字一文字で「貫」ですね。自分の意見をはっきり言いますし、人の意見を聞きつつも、最終的には自分の考えをきちんと通す。昔からその姿勢は変わっていないと思います。

教育実習での挫折、そして診断へ

―――大学時代に大きな転機があったと伺いました。

大学4年生の時、教育実習と就職活動が重なり、そのストレスで入院することになったんです。実習でも指導案の作成で自分のこだわりが強く出すぎてしまい、何度もダメ出しをされました。入院先での精密検査の結果、当時の呼称で「アスペルガー症候群」という診断を受けたんです。

―――卒業後はどのように過ごされたのですか。

リーマンショックの直後で就職状況も厳しく、父が見つけてくれたフリースクールに2年ほど通いました。そこでSST(ソーシャルスキルトレーニング)や事務スキルを学び、その後は最初の就労移行支援事業所を経て、特例子会社に就職しました。ただ、そこでは「会社が想定する障害者像」と自分の能力やプライドにギャップを感じ、やり方に対して不満をはっきり言いすぎてしまったこともあって、なかなか馴染めませんでした。その後、別の会社にも勤めましたが、体調を崩して休職を繰り返し、契約満了となったタイミングでKaienへの通所を決めました。

自室に飾られている趣味の鉄道の絵だそう。


納得感を求めて。Kaienでの訓練と立ちはだかる「選考の壁」

―――多くの支援機関がある中で、なぜKaienを選ばれたのでしょうか。

主治医がKaienのシステムを高く評価していたことが大きかったです。最大手であるという安心感もありました。

―――Kaienではどのような訓練に取り組まれましたか。

:午後は「古書・古本(こしょこしょ*)」の作業をやっていました。本を綺麗にして梱包し、Amazonに出品する。手間暇かけて商品が届く工程を学べたのは良かったですね。ただ、管理方法を巡ってスタッフと意見が食い違い、不機嫌になって無視をしてしまったこともありました。その時、スタッフから「それは一番まずいことだ」と厳しく指導を受けたことは、今でも記憶に残っています。

*こしょこしょ…AmazonやYahoo!オークションに古本を出品し、注文が入ったら梱包、発送手配までを体験するプログラム

―――スキル面で特に力を入れたことはありますか?

タイピングとExcelです。タイピングは2022年の8月から毎日欠かさず記録をつけ、2,400回を超えました。5級から始めて、今は2級合格を目指しています。Excelもプロフェッショナルからエキスパートへと進み、VLOOKUPやXLOOKUPなどの関数を習得しました。主治医から「デジタル対応できる資格は持っておいた方がいい」と言われたこともモチベーションになりました。

―――就職活動は順調に進みましたか。

いえ、それが本当に大変で……。20社ほど応募しましたが、書類で落とされることがほとんどでした。面接に進んでも「こだわりが強すぎて人間関係に支障が出るのでは」とフィードバックを受けたり、理由もわからず不合格になったり。「なぜなんだ」と頭の中でずっとぐるぐる考えて、納得できずに苦しむ時期が続きました。

AIという「最強の相棒」と掴んだ内定

―――その苦しい時期をどう乗り越えたのですか。

初めはスタッフの方と相談しながら進めていたのですが、途中から弟のアドバイスでAIは壁打ち相手にうってつけだと知り、本格的に活用し始めたんです。志望動機や配慮事項をAIに見せ、客観的で的確な修正案をもらう。AIは反応が早いですし、「ここを直せ」と明確に言ってくれる。自分のこだわりを客観視するツールとして、私には非常に合っていました。

―――現在の内定先との出会いを教えてください。

昨年(2025年)の11月に応募した物流関連の会社です。12月と1月に2回に分けて実習を行いました。業務内容は40年ほど前の古い稟議書のデジタル化(スキャン)作業。手書きの文字を解読する作業は、自分には楽しめる内容でした。

―――結果が出るまでは不安でしたか。

実習後、なかなか連絡が来なくてヤキモキしましたが、2月の面接の翌日に「採用」のメールが届いた時は、やっと肩の荷が降りました。これまでベストを尽くしても報われないことが多かったのですが、今回は自分の「やっておいて良かったこと」が全て実を結んだと感じています。

訓練をともにした腕時計。祖父の愛用していた時計なのだとOさんが教えてくださいました。


「自立の第一歩」を、丁寧な暮らしと共に

―――いよいよ新しい職場での生活が始まりますね。

まずは朝9時の始業に慣れること。これまでの職場より早い時間なので緊張感はあります。通勤時間は丁度混雑する時間帯なので、人混みを含めて克服していきたいです。自分の仕事をきちんとこなして、お金を稼ぐ。それが自立への第一歩だと思ってます。

―――これからの目標はありますか。

プライベートでは、築40年になる自宅の建て替えや、遠方にあるお墓を都内に移すことを考えています。両親も高齢になり、母は関節を痛めていたりもするので、家族が無理なく暮らせる環境を整えたい。そのためにも、今回いただいた仕事で長く安定して働いていくことが、今の最大の目標です。

付録~Oさんについて~

―――お写真で拝見したサングラス、素敵ですね。

ありがとうございます。24年前、高校生でアメリカに行った時に買ったレイバンです。父が同じものをかけていて、その姿がかっこよくて憧れて買ったんですよ。度が入っていないので裸眼での使用になりますが、今でも大切にしています。

Oさんが毎日欠かさず記録したという日記の束

―――日記もすごいボリュームですね!

2011年から毎日欠かさず書いていて、もう20冊を超えました。お気に入りの「ツバメノート」を買い溜めて使っています。決めたことを継続するのは、自分の性分に合っているのかもしれません。

―――毎週土曜日のルーティンもあるとか。

はい。5年前から、同じ眼鏡屋さんに毎週通ってメガネの点検とクリーニングをしてもらっています。もし土曜日に行けない場合は予定を繰り上げるほど、自分にとっては欠かせない習慣なんです。新しい仕事が始まっても、こうした自分のリズムを大切にしながら、一歩ずつ進んでいきたいですね。

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