「自分の得意なことには没頭できるけれど、周囲とのコミュニケーションや些細なミスで躓いてしまう」。そんな葛藤を抱えながら、専門性の高い研究職の道を歩んできたYさん。
大学院での挫折と発達障害の診断を経て、彼女が再起の場に選んだのはKaienのリワークセンターでした。持ち前の高いハードスキルに加え、リワークで「アサーティブな伝え方」という武器を手に入れた彼女が、未経験からデータ分析職の内定を勝ち取るまでの軌跡を伺いました。

▼Yさんの簡単なプロフィール
- 年齢: 30代
- 診断名: 発達障害(ASD/ADHD)
- 苦手なこと: 相談のタイミング、完璧主義
- これまでの仕事: 医療関係職、郵便局窓口、研究職
- 現在の就職先: 食品メーカー(データ分析・デジタル推進)
目次
興味があることには寝食を忘れて没頭した幼少期
――― まずは子供時代について教えてください。どんなお子さんでしたか?
振り返ると、かなり「多動」が目立つタイプだったと思います。小学校低学年の頃はバス通学だったのですが、何度も定期券や家の鍵をなくしては、親に叱られていました。書道教室でも、納得がいくまで書き続けてしまって時間がかかったり、チャイムが鳴っても気づかずに遊び続けてしまったり。こだわりが強く、常に落ち着きがない印象だったかもしれません。
―――好きなことに対しては、没頭する力が強かったのでしょうか。
そうですね。自分の興味がある分野には驚くほど集中しました。小学校入学前には図書館で見つけた世界の国旗をすべて暗記したり、間違い探しや絵探しに熱中したりしていました。また、数字や規則性にも興味があり、並びやパターンを見つけることが好きだった記憶があります。自由研究で賞をいただくこともありましたが、それは努力というより、純粋に好きなことを突き詰めた結果でした。
――― その「没頭する力」は、その後の進路にも繋がっていったのですね。
はい。就職時は糖尿病の治療薬を研究し、その後は大学院にて分子生物学を専攻しました。ただ、当時から「周りと少し捉え方が違うな」と感じることは多かったです。自分の説明が独特で意図がうまく伝わりにくかったり、相談することの難しさを感じたりしていました。自己肯定感の低さも相まって、人間関係の難しさに悩まされていました。
「スキルがあるから大丈夫」という言葉に感じた孤独感
――― 研究職を経て、Kaienを利用しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
研究職の後に大学院へ行ったのですが、そこで教授とのコミュニケーションや相談に困難を感じ、限界を迎えてしまったんです。病院を受診して発達障害の診断が下りたことに加え、修論提出のタイミングで家庭の事情により、大学院の継続が難しくなったため中退することになりました。
――― 大きな転換点だったのですね。
障害者雇用での再就職を考え始めたのですが、他の支援機関を見学した際、スタッフの方から「発達障害で研究職をやってきた方なら、就活は余裕ですよ」とスキル面を強く評価していただく場面がありました。私にとっては、社会生活がうまくいかないことこそが「生きづらさ」に繋がっていました。そこを理解してもらえないギャップが辛かったんです。Kaienのスタッフさんは「一人ひとり特性は違う」ということを前提に、事実に基づいたフラットな支援をしてくれました。「みんなが天才ではない」という視点を持ちつつ、私の困りごとに寄り添ってくれたことが、利用を決めた理由でした。
相手も自分も大切にする「伝え方」の技術
――― 就労移行支援ではなく、あえてリワークセンターを選んだ理由はありますか?
当時、就労移行が満席だったこともあるのですが、スタッフさんに「ソフトスキルをより深く学びたい」と相談したところ、リワークの方が自由度が高く、ITスキル以外も学べると勧めていただいたんです。実際、約10ヶ月の利用期間で、想像以上にソフトスキルもハードスキルも多くのことを吸収できました。
――― 具体的に、どのようなプログラムが役に立ちましたか?
特に大きかったのは「アサーション(自分も相手も大切にする自己主張)」と「情報共有(自分の知識や持っている情報を皆にプレゼンする)」の講座です。これまでの私は、言いたいことを押し殺して無理をしてしまうことが多く、自分の中で抱え込んでしまうコミュニケーションの取り方をしていました。アサーションを学んだことで、相手を不快にさせずに自分の意見を伝える方法を知り、無理をしすぎずに関わることができるようになったと感じています。
――― 「情報共有」のプログラムも、Yさんにとっては単なる発表の場ではなかったようですね。
そうなんです。自分が発表する時は「どうすれば相手に伝わりやすいか」を考え、他の方の発表を聞く時は「傾聴の姿勢」を学びました。「この人の頷き方は心地いいな」という気づきを自分の面接に活かしたり。一つの講座から、就活や実務に直結する視点をたくさん得ることができました。
独学のハードスキルを、誰かのための「形」に変えていく
――― リワークではITスキルの習得にも力を入れていたと伺いました。
以前から趣味で自作パソコンを組んだり、統計ソフトのRやPythonを少し触ったりしていたんです。無機質なコードの羅列が、意味のある形として出力される過程が面白くて。リワークでは「IT登竜門*」に参加し、自分の適性を客観的に評価してもらいました。
*IT登竜門…20日間の中でプログラマ、Webデザイナ、インフラエンジニア、DXエンジニアの4職種を体験し、自身の適職を探ることのできるプログラム。
――― そのスキルを、リワーク内のプロジェクトでも活かされたそうですね。
他の利用者向けのワーク作成をプロジェクトとして担当し、Google Apps Script(GAS)を使って自動入力機能を実装したりしました。学んだ技術を使って「相手にとって使いやすいツール」を作る。そこで得られた「できた!」という手応えと、周囲からの感謝の声は、私の大きな自信になりました。
「成長したい」という意欲を隠さない就職活動
――― 就職活動において、大切にしていた軸を教えてください。
「強みを活かせること」「成長できる環境」、そして「障害者雇用」の3点です。特に「成長」については、障害者雇用だと「安定して、ほどほどに頑張ってほしい」と言われることが多いのですが、私は、自分でできることは自分で取り組み、対策できることは工夫しながら、苦手な部分も強みでカバーしていきたいと考えていました。そうした中で、常に成長していける環境であることを大切にして就職活動を進めていました。
――― 未経験職種への挑戦には、苦労もありましたか?
かなり苦戦しました。実務未経験のため選考通過しづらかったり、事務職でITスキルを生かせる求人に応募すると「スキルが高すぎて持て余す」と評価されたり。そのミスマッチを埋めるのが大変でした。
――― その壁をどう乗り越えたのでしょうか。
自分で求人を抱え込んで動けなくなっていた時、スタッフさんに「まずは受けてみたら?」と背中を押してもらったのが大きかったです。合同説明会に足を運び、企業と対話する中で、企業の求められている人物像と自分の就活軸が合っているかを確認しながら、就職活動を進めることができました。最終的には、希望していたデータ分析に関わる企業から内定をいただくことができました。
完璧でなくても、諦めずにチャレンジし続けること
――― これから就職を目指す方へ、メッセージをお願いします。
内定という結果だけを見るとキラキラして見えるかもしれませんが、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。でも、しんどい時に「しんどい」と伝え、周囲の支えを借りながら諦めずに動けば、誰かが必ず見ていてくれます。自分一人で決められない時は、意見をもらいながら一歩ずつ進んでみてください。
――― 今後の目標は何ですか?
入社後はデータ分析の業務に就きます。私はリーダーとして引っ張るタイプではありませんが、「データを活用したいけれど、ツールの使い方がわからない」という方々を支えるサポーターになりたいです。それぞれの専門の部署の方が使いやすい形にデータを落とし込む。そんな役割を全うし、会社に貢献していきたいです。
付録~Yさんについて~
――― Yさんは非常に多趣味だそうですね!
はい、編み物をしたりイラストはアナログでもデジタルでも描きますし、イベントに参加することもあります。

写真のうさぎのぬいぐるみは、やわらかい触り心地により、心が落ち着きやすくなることを意識して制作しました。また、制作中は作業に集中することで、マインドフルネスのような役割を果たしています。

個人ワークとして、色鉛筆や透明水彩によるイラスト制作や、講座でのコラージュ制作に取り組みました。
制作に集中することで気持ちを安定させたり切り替えたりする時間として活用するとともに、好きなモチーフを形にすることを大切にしていました。
――― 本当に器用ですね。最近、何か嬉しかったことはありましたか?
内定先の企業さんに、入社までの過ごし方を相談したら「やりたいことを残り期間でやってみてはどうでしょうか?」と言っていただいたんです。それで今は、ずっと行きたかった京都や動物園など、自分の「やりたいことリスト」を一つずつ消化しています。この自由な時間を思い切り楽しんでから、新しい仕事に向き合いたいと思います。
――― 素敵なリフレッシュ期間になりそうですね。本日はありがとうございました。
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