大学卒業後、損害保険代理店に就職するも、自身の「先延ばし癖」により業務に支障をきたし、大きなトラブルになる前に自ら退職を選択したYさん。その後、発達障害の診断を受け、まずは生活の基礎から立て直すために自立訓練(生活訓練)を利用しました。現在は就労移行支援へとステップアップし、再就職に向けて着実に歩みを進めています。Yさんがご自身の特性とどのように向き合い、変化を遂げたのか、詳しくお話を伺いました。

▼Yさんの簡単なプロフィール
- 年齢:20代
- 診断名:発達障害(ASD、ADHD傾向)、適応障害
- 苦手なこと:タスクの先延ばし、スケジュール管理、整理整頓
- 利用サービス:自立訓練(生活訓練)→ 就労移行支援
内向的だった性格が、一つのモノマネを機に明るく一変
―――小さい頃はどのようなお子さんでしたか?
一番最初の記憶を振り返ると、幼稚園の頃はすごく内向的でした。自信がなくてかなり消極的で、お昼の時間が終わった後にみんなが遊んでいる中で、僕だけお弁当を食べきることができずに残っていることもありました。お母さんと離れるのも嫌だったので、大泣きしながら幼稚園に入っていくような子でした。
ただ、幼稚園の年中か年長の時に、前日に見た「クレヨンしんちゃん」が面白かったので、急に「しんちゃん」のモノマネをやりたくなって、帰りのバスを待っている時間にみんなの前でモノマネを披露したら、それが大ウケしたことがありました。
そこから「いかにみんなの前に出て笑わせるか」みたいなことばかり考えるようになりました。バスが来るまでの時間に「僕の定番コーナー」みたいなものができたくらいです。
そこから急に殻を破ったというか、明るい性格に変わっていきましたね。中学・高校時代も、基本的には友だちと楽しく過ごしていましたし、学校の授業にもついていけていたので、特に自分の特性に違和感を覚えることはありませんでした。
自由度が増した大学時代と就職先で気づいた周囲との「差」
―――ご自身の困難を感じ始めたのはいつ頃からですか?
大学に入った頃です。みんなが当たり前のようにやっている履修登録のような、自分でスケジュールを組み立てることが僕には難しかったんです。単位の申請も直前で友だちに教えてもらい、周りに引っ張られる形で何とか出来たという状況でした。
就職活動を始めるタイミングでも、周りは大学3年生の半ばからインターンに行ったり、早々に就職先を決めていたりする中で、僕は意欲が湧かなくて何もやっていませんでした。
僕より不真面目に見える友だちでさえ、自分の将来に関わる就活はきっちり進めている。「なぜみんな当たり前のようにできるんだろう?」と、自分との乖離に気づき始めました。さらに、コロナ禍で引きこもる生活が始まり、大学時代の後半は1人でいることに安心感を覚えるようにもなっていました。
―――大学卒業後は、どのような進路を歩まれたのでしょうか。
新卒では就職せず、友だちとネット通販のようなビジネスを立ち上げようとしていたのですが、結局うまくいかずにフェードアウトしてしまいました。その後、両親から「さすがに働きなさい」と言われ、地元の若者就職サポートセンターの紹介で、損害保険代理店の研修生として就職しました。
―――実際に働き始めてみて、いかがでしたか?
一般枠で就職し、最初は順調だったのですが、任される業務が増えていくと、徐々にタスクを先延ばしするという特性が出てしまいました。やるべきことをギリギリまで後回しにしてしまい、その結果大きな案件が流れてしまったということがありました。
このまま先延ばしを続けていたら、いずれ更新手続きなどを忘れて、最悪の場合お客様に訴えられるような事態になりかねないと思いました。損害保険ですから、僕のせいで自動車保険の契約が切れて事故の補償ができないなんてことになったらと考えると、責任が取れません。
それで、会社に大きな迷惑をかける前に自分でブレーキをかけ、休職をした後に退職を選びました。
診断を経て気づいた生活習慣の乱れと、自立訓練を選んだ理由
―――退職後はどうされていたのですか?
周りとの違いに違和感を抱いたことで、父親に「自分は発達障害 があるのではないか」と相談しました。その後、クリニックで検査を受けた結果、発達障害と軽度の適応障害という診断が下りました。
当時は先生からASDの傾向が強いと言われましたが、自分としてはADHDの「先延ばし癖」や「不注意」といった特性の方が強く出ていると感じています。
―――自立訓練(生活訓練)を始めたのはなぜですか?
自分自身に生活の基礎ができていないという自覚があったからです。仕事でつまずいたのも事実ですが、例えば家を出る時に忘れ物をしたり、鍵を閉めたか不安になったり、ちょっとしたことで意見が食い違うと落ち込んだり。そういった生活全般の乱れや不安定さを、無理やり健常者に合わせてごまかして生きているような感覚がありました。
掃除や洗濯といった身の回りのことも全然できていなかったので、「ここから直さないと、いざ就職してもまた同じように生活が崩れて、業務に支障が出る」と考えました。
就職のための準備をするのではなく、まずは自分の部屋の片付けや出かける前の準備など、「基礎の基礎」レベルからやり直さなければいけないと思ったことが生活訓練を選んだ理由です。
基礎の基礎から見直し、習慣化の力を身につけた訓練期間
―――自立訓練(生活訓練)では、具体的にどのようなプログラムに取り組まれましたか?
一番最初は、自分の部屋の写真を撮って、片付けた後の写真をスタッフの方に見せるというプログラムでした。足の踏み場もないくらいごちゃごちゃだったんです。それから、朝起きてから家を出るまでの準備や、夜ご飯を食べてから寝るまでの行動を、何時に何をするか細かく書き出して可視化する取り組みもしました。
―――可視化してみて、何か変化はありましたか?
劇的に変わりました。以前は、お風呂から出た後も1時間くらい髪を自然乾燥させながらぼーっとしたり、スマホをいじってダラダラしたりして、無駄な時間を過ごしていました。それを紙に書き出してみて「おかしいな」と気づき、お風呂から出たらすぐスキンケアをして、髪を乾かすようにしたら、あっという間に10分で終わるようになりました。これだけで一気に時間が短縮されました。
―――訓練を通じて得られた一番の学びは何でしょうか。
身の回りの整理整頓や生活リズムの「習慣化」ができたことです。プログラムをただ1回やるだけでなく、数ヶ月かけて毎日繰り返すことで、自分の中に馴染んでいきました。この生活リズムがきっちりしていれば、将来働いて疲れて帰ってきた後でも、生活が崩れずに一定のパフォーマンスを保てるだろうという自信に繋がりました。約半年ほど生活訓練に通いましたが、本当に通ってよかったと思っています。
将来の危機感を見据え、自分のペースで社会復帰の道へ
―――生活訓練を経て、現在は就労移行支援に通われているのですね。
生活訓練で基礎ができたので、半年ほど経ったタイミングで就労移行支援にステップアップしました。ただ、就労移行支援を利用するにあたっては正直かなり不安でした。自分が働くということにリアリティを持てていなくて、自己分析もまだ完了していない状態で、「このまま行ってもつまずくだろうな」という不安がありました。
―――そこからどのように気持ちを切り替えたのでしょうか。
周りの利用者さんが懸命に訓練に取り組まれている姿を見て感化された部分もありますが、やはり年齢的な焦りもありました。「人生の計画として、足踏みしている時間はあまり残されていないな」と客観的に思い直したことで、むしろ焦りが前に進むための原動力に切り替わりました。
―――今後の目標や、こんな風に働きたいといったイメージはありますか?
大きな目標や強い意欲は今のところあまりないです。ただ、最近はインフレなど経済的なニュースも多いので、「何か大きな危機が起きる前に、ちゃんと働いて稼げるようになっておかないとまずい」という危機感を強く持っています。
今はもう先送りをせずに、自分のできるペースで就職に向けて進んでいきたいと思っています。
付録:~Yさんについて~
―――休日はどんな風に過ごされていますか?
最近は音楽をよく聴いています。70年代から80年代くらいのシティポップを中心に掘り下げています。
いつも通っている美容院の担当の方が、音楽に詳しく、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の話をしたら、昔の絶版になった本や雑誌などを貸してくださって、そこからどんどん興味が広がっていきました。その方は50代なのですが、今では世代を超えた友だちのような関係です。
―――とても素敵なご縁ですね。他にもハマっていることや、最近嬉しかったことはありますか?
ちょっと言いづらいのですが……競馬です。最近、自分の予想がピタッと当たりました。
ボートレースなども試してみたのですが、競馬は数千メートルを走る中で、後から一気に順位が入れ替わることがあり、展開の多様さがあります。
どの馬がどういうコース取りをするのか、予想の組み合わせを考えるのがすごく面白いです。もちろん負けることもありますが、トータルで勝てるように緻密にデータを追って勉強中です。お昼休みにライブ配信を見るのもいい気分転換になっています。
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