仕事が覚えられないのはなぜ?原因や対処法、発達障害との関連性も解説

公開: 2024.11.18更新: 2025.8.19

「仕事を教えてもらってもすぐに忘れてしまう」「同じようなミスを繰り返してしまう」など、仕事がなかなか覚えられないことに悩んでいる方もいるでしょう。仕事を覚えられないと自身の評価が下がるほか、上司に叱責される、自己肯定感が下がるなど心身の負担にもつながりかねません。

いくら努力をしても業務に支障が出るほど仕事が覚えられない場合、その原因に発達障害*が隠れている可能性があります。この記事では、仕事が覚えられない原因や発達障害の特性に応じた対処法などを解説します。働きやすさを改善するためのポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

仕事が覚えられない代表的な原因

「仕事を覚えられない」といった悩みを解決するには、まず、その原因を把握することが大切です。原因を知ることで対処法を考えやすくなります。以下では、仕事が覚えられない代表的な原因について解説しますので、自分に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

仕事の量や難易度の問題

仕事が覚えられない原因としてよくあるのは、仕事の量や難易度の問題です。

仕事を覚えるには、手順や内容を振り返って整理し、記憶する時間が必要です。しかし、仕事の量が多すぎると、一つひとつの業務に充分な時間が割けず、業務を振り返って記憶を定着させる暇がありません。記憶が定着する前に、次から次へと仕事をこなさなければならないため、仕事が覚えられないといった状況に陥ります。

また、仕事が複雑だったり、求められる技術レベルが高かったりする場合も、業務を理解するのに時間がかかり、仕事を覚えにくい傾向があります。

体調やモチベーションの問題

仕事が覚えられない原因として、本人の体調やモチベーションが問題となるケースもあります。

たとえば、睡眠不足や疲労など、体調が万全でない場合には集中力や記憶力が低下します。結果として、仕事に身が入らず、仕事を覚えられないことがよくあります。

また、仕事に興味が持てない、不満があるなどといった仕事のモチベーションが低い場合も、なかなか仕事を覚えられないといった状況に陥りやすいといえるでしょう。

職場環境や人間関係の問題

職場環境や人間関係も、仕事が覚えられない原因としてよく挙げられます。

たとえば、教育体制が整っておらず、仕事を教えてくれる人や質問に答えてくれる人がいないといった職場環境では仕事を覚えづらいといえるでしょう。また、いじめや嫌がらせなどのハラスメントが横行している職場や職員の仲が悪い職場など、人間関係に問題がある場合も、仕事の相談がしにくく、仕事を覚えられないことがよくあります。

発達障害など個人の特性

仕事を覚えたいという意欲があり、仕事の量や職場環境にも問題がないのに、仕事が覚えられない場合は、発達障害の特性が影響している可能性があります。

発達障害の場合、生まれつきの脳機能のかたよりにより、マルチタスクが苦手だったり、うっかりミスが多かったりと、さまざまな特性が見られます。特性が仕事に対して良い方向に作用する場合もあれば、仕事が覚えられないといったようにマイナスに作用する場合も少なくありません。

大人の発達障害の特徴については以下で詳しく説明しているので、併せて参照してください。

大人の発達障害(神経発達症)とは?種類と症状、診断方法や相談先を解説

発達障害の人が仕事でよくある「覚えられない」に関する悩み

先述の通り、発達障害の特性が原因となって、仕事が覚えられないケースがあります。

大人の発達障害には、主に次の3つのタイプがあり、それぞれのタイプで特性が異なります。

  • ASD(自閉スペクトラム症)
  • ADHD(注意欠如多動症)
  • SLD(限局性学習症)

以下では、発達障害の人が仕事でよく抱えがちな「覚えられない」に関する悩みを、発達障害の特性に基づき解説します。

覚えてもうっかり忘れてしまう

仕事を教えてもらってもうっかり忘れてしまうという方は、ADHDの特性が関係しているかもしれません。ADHDの方は、うっかりの度合いが大きく、頻度も高い傾向があります。

これは、作業や情報を一時的に記憶するための能力であるワーキングメモリが弱いという特性が影響して起こります。

こだわりが強く自己流で進めてしまう

ASDの特徴の1つにこだわりの強さがあります。こだわりが強い方の場合、仕事を覚えられないのではなく、自分のルーティンやルールに従って仕事を進めてしまうケースが多いです。そのため、こだわりの薄い分野は疎かになってしまったり、業務の手順などが誤っていると指摘を受けても指示に従わなかったりするなど、業務に支障が出てしまう場合があります。

説明など違った解釈をしてしまう

上司などから業務に関する説明を受けた際に、異なった解釈をしてしまうのはASDの特徴が影響しています。ASDの方は全体を把握する能力である中枢性統合が弱い傾向があり、指示の理解や意図を読み取ることが苦手です。

また、心の理論の欠如により、相手の表情やしぐさから真意を読み取ることが困難なため、曖昧な指示を出されて場合に違った解釈をしてしまうことも多く見られます。こうした解釈違いが原因で、同僚や上司に「仕事が覚えられない」と評価されてしまうケースも少なくありません。

同時にいくつも覚えられない

複数の作業を一緒に行うマルチタスクが苦手で、並行した作業をする際にミスが増えてしまう方がいます。これは先に挙げた中枢性統合や、順序立てた行動をとるために必要な実行機能の弱さ、処理速度の遅さなどの特性が影響しているためです。この特性はADHDの方に多く見られます。

マニュアルを読むのが難しい

複雑なマニュアルなどに沿って仕事を進める際になかなか仕事が覚えられない場合は、そもそも文字を読むことが困難であるケースがあります。これはSLDの特徴であるディスレクシアによるもので、文字を読めない以外に読めても内容がわからない、文章を読むと疲れてしまうなどの症状も見られます。

仕事が覚えられないときの対処法

仕事が覚えられない理由が把握できたら、理由に応じて対処法を取ることが大切です。以下では、実際に仕事が覚えられない場合に、どのように対処すればいいのか解説します。

メモをとる

仕事の手順や内容、注意点などを忘れないように、メモを取るようにしましょう。メモを取っておくと、万が一、手順ややり方などを忘れてしまった場合に、見返せます。

ASDの方でこだわりや独自の解釈により指示からズレてしまい、仕事がスムーズに進められない場合は、正しい手順をメモに取り復唱しながら行うとよいでしょう。また、メモが取れないときは、写真やスクリーンショットの活用もおすすめです。

自分がミスしやすい場所を把握する

うっかりミスや抜け漏れが多い方の場合、まずは自分がどこでミスをしやすいのかを把握し、対策をとることが大切です。読み間違いが多い場合は文字を指でなぞって確認する、ミスの多い箇所のマニュアルを作成してチェックしながら作業するなど、工夫してみましょう。マニュアルの作成や作業の確認をする際は、上司にもチェックしてもらうと安心です。

タスクを整理する

タスクが複雑で、仕事が覚えられないケースもあるため、タスクを整理するようにしましょう。複数のタスクを同時進行させなければならない場合は、それぞれのタスクについての締め切りと、締め切りまでにやるべきことを明確にしましょう。

タスクの締め切りや重要度を明確にすると、仕事の優先順位をつけられます。優先順位の高いものから、進めていきましょう。たとえば、締め切りの早い順に進めて行くと確実です。やることや締め切りを忘れそうな場合は、付箋に書いて貼っておくほか、アラームやリマインダーなどのツールを利用するとよいでしょう。

振り返りや復習を行う

1日の業務の振り返りや復習を行うと、仕事の記憶が定着しやすくなります。その日にやった業務を書き出し、うまくいかなかった部分があれば、なぜうまくいかなかったか振り返ってみましょう。

対策が思いつけば、次の日から実行するようにし、思いつかない場合は、周囲の人に相談できるように質問の準備をしておくとよいでしょう。確認や復習を繰り返すと、覚えにくい仕事や新しい仕事でも、記憶に定着しやすくなります。

わからないことは質問する

業務を進めるうえで、わからないことがあれば、質問するようにしましょう。仕事内容やその目的などを正しく理解できていなければ、仕事を正しく覚えることもできません。仕事を的確に覚えて進めるためにも、疑問はそのままにせずに、その都度質問して解消することが大切です。

質問がしづらい雰囲気の職場では、質問をメモしておき、まとめて尋ねるのもよいでしょう。同じ質問を何度もすると、「学習していない」と思われるケースもあるため、質問した内容はメモしておき、同じ質問を繰り返さないようにするとよいでしょう。

仕事に関する知識を身につける

仕事に関する知識を身につけると、仕事をよく理解できるようになり、覚えやすくなります。

そもそも覚えるべき内容を理解するための前提知識が不足しているために、仕事を覚えられないといったケースも少なくありません。仕事にどういった知識が必要かを把握し、磨いていくようにしましょう。たとえば、仕事のできる人に話を聞いたり、仕事に役立つ資格の勉強をしてみたりするとよいでしょう。

十分な睡眠とバランスの良い食事を取る

十分な睡眠とバランスの良い食事を取るなどして、体調を整えておくことも大切です。睡眠不足や栄養不足が原因で頭がうまく働かなかったり、集中力が低下したりして、仕事を覚えられないケースは少なくありません。

業務にしっかりと集中できるように、規則正しい生活を送るなどして睡眠と栄養バランスに気を配りましょう。身体の調子がよくなると、効率的に仕事を進められ、仕事を覚えやすくなります。

環境を調整する

環境を調整することで、仕事に集中しやすく覚えやすくなる場合もあります。たとえば、マニュアルなどの文字を読んで仕事を進めるのが難しい場合は、読み上げ機能などを使って文字を読まずに仕事の内容を覚えるとよいでしょう。

文字は読めるものの時間がかかってしまう場合には、色付きシートのリーディングルーラーがおすすめです。不要な光の波長を遮断して読み飛ばしなどが防げるので、読字力向上につながります。また、集中して文章が読めない場合は、ホワイトノイズを流して集中力を高める方法も効果的です。

仕事が覚えられない悩みに関するよくある質問

仕事が覚えられない悩みに関する「よくある質問」について、Q&A形式で紹介します。

仕事が覚えられないのは甘え?

仕事が覚えられないのは甘えではありません。

仕事が覚えられない背景にはさまざまな理由が考えられます。本人に責任感や自己管理能力があっても、物理的に業務の量が多い場合や、難易度が高いなどの理由で、仕事が覚えられないことはよくあります。

仕事が覚えられない場合には、甘えと判断せずに、原因をしっかりと見極め、原因に応じた対策を取ることが大切です。

避けたほうが良い行動はある?

仕事が覚えられない場合に避けたほうが良い行動としては、「わかったふりをして進める」「周りに相談せず、自分ひとりで抱え込む」などが挙げられます。

仕事を覚えるためには、業務をしっかりと理解する必要がありますが、恥ずかしい、迷惑だと思って、質問や相談をせずに、わかったふりをして進める人も少なくありません。しかし、わからないまま進めても、仕事が覚えられないだけでなく、大きなミスにつながり、会社に損失を与える可能性もあります。

仕事をスムーズに進めるためにも、周りに質問したり、頼ったりすることが大切です。

発達障害の方が仕事を覚えるためにできること

発達障害の方が仕事を覚えるためには、自分一人だけでなんとかしようとせずに、周囲に相談したり配慮を求めたりすることも大切です。特性に合わせた対策を講じることと併せて、以下の方法も試してみましょう。

  • 医療機関を受診
  • 自分の得意不得意を整理
  • 会社の上司などに相談
  • 働き方の見直し
  • 支援機関の利用を検討

次項で詳しい内容について、それぞれ解説していきます。

医療機関を受診

仕事が覚えられない原因が発達障害にあるのか知るためにも、まずは医療機関を受診することをおすすめします。中には発達障害が原因でうつ病などの二次障害を発症している場合や、適応障害などで受診をしたら根本原因に発達障害が関係していたことがわかるなど、医療機関の受診により症状理解が深まるケースも少なくありません。

また、医師や心理士など専門知識を有する第三者からの客観的なアドバイスも参考になるため、仕事に関する悩みがある場合は相談してみるとよいでしょう。

自分の得意不得意を整理

仕事をなかなか覚えられない場合は、苦手なことや不得意な分野を整理するだけでなく、自分の得意なことを知ることも打開策につながります。苦手なことがわかっていれば対策もとりやすく、職場にどんな配慮を求めたら良いか明確になります。また、得意分野を知ることで活かせる能力や適職が見えてくるため、将来設計にも役立つでしょう。

こうした得意不得意を整理するには、自己理解が欠かせません。紙に得意不得意を書き出す、家族や医師、カウンセラーなど第三者に意見をもらうなど、自己理解は客観的な視点を持つことも大切です。

会社の上司などに相談

自分の障害特性や仕事上の困りごとなどを、上司など会社の人に相談しておくのも1つの手段です。現在は障害の特性に関する困りごとがある方へ、事業者は合理的配慮の提供が義務化されています。「業務指示を口頭から書面にしてもらう」「ボイスレコーダーの使用許可をもらう」など、会社に無理のない範囲で具体的に配慮してほしいことや理由を伝えると、上司からの理解も得やすくなるでしょう。

働き方の見直し

現在の働き方に負担がある場合は、働き方の見直しを検討するのも良いかもしれません。職場で集中力が続かない場合は、リモートワークに切り替えられないか相談してみましょう。

障害者手帳を取得している方は、転職して障害者雇用として働くことも可能です。障害者雇用の場合は、障害のある方の採用を前提としているため、特性に対する配慮や理解を得やすいメリットもあります。

無理して働き続けると二次障害などのリスクも高まるため、自分に合う働き方にシフトすることも大切です。

支援機関の利用を検討

就労に関する悩みがある方や転職を迷っている方は、支援機関を頼るのも有効です。発達障害などの障害がある方向けに、転職や就職をサポートしてくれる福祉サービスはたくさんあります。いずれも専門のスタッフが対応してくれるので、一人で悩まずに次で挙げる支援機関を有効活用しましょう。

発達障害の方の仕事の悩みに寄り添う支援機関

発達障害の方が仕事に関する相談ができる主な支援機関には、以下のようなものがあります。

就労移行支援

障害のある方の一般就労を目指してトータルサポートを行う。職業訓練や就活支援、定着支援などを通し、一貫した支援が受けられるのが特徴。

自立訓練(生活訓練)

障害のある方が自立した生活を送れるよう、知識やスキルの習得をサポート。各種プログラムを通じて生活能力やコミュニケーション能力の向上、メンタルのコントロール方法の習得などを目指す。

ハローワーク

障害の有無を問わず誰でも利用できるが、障害者雇用求人の紹介や障害に関する専門知識を有する職員が就職相談や就職支援を行ってくれる。

地域障害者職業センター

専門的な職業リハビリテーションを実施し、就職相談や職場復帰支援を実施。ハローワークとも密接に連携している。

障害者就業・生活支援センター

就職活動に関するサポートや職場実習のあっせんなどを行う。就職後の職場定着支援が手厚いのも特徴。

Kaienでも精神医学や発達心理学に基づいた就労支援を実施しています。就労移行支援では、100職種以上の職業訓練やスキルアップ講座などを通し、就労に必要なスキルを習得します。独自求人を含む求人の多さも特徴で、担当カウンセラーが二人三脚で行う手厚い就活支援や就職後の定着支援もKaienの強みです。

仕事が覚えられずに悩んでおり、一度将来を見直したい方や、働くことに自信が持てない方にはKaienの自立訓練(生活訓練)がおすすめです。障害特性や自身の得意不得意を見つめ直したり、生活リズムを整えたりするための実戦的なプログラムを通し、自立への一歩が踏み出せます。

いずれも無料で見学会や体験利用を行っておりますので、興味のある方はお気軽にご連絡ください。

発達障害があっても工夫次第で仕事は覚えられる

仕事が覚えられない原因はさまざまですが、何度も業務に支障が出るような失敗を繰り返してしまう場合は発達障害の特性が影響している可能性があります。しかし、医療機関の受診や自己理解を通して特性に合わせた対処法を行えば、業務内容を覚えて仕事をこなすことは十分可能です。

発達障害の方向けの支援機関を活用し、働き方などを工夫しながら仕事をしやすい環境を整えていきましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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