隠していた特性と向き合い、相談できる自分へ。自己理解で見つけた「頼る力」

▪年齢:28歳
▪診断名:ADHD、うつ病
▪特性/苦手:他者の気持ちを想像するのがやや苦手、物忘れが多い、先延ばし癖がある
▪就職:事務職


幼少期の自分〜変わっているかも?という感覚とともに〜

ーーー幼い頃はどんなお子さんでしたか?

「落ち着きがなく、癇癪を起こしがちな子どもだった」と親から聞いています。友達はそれなりにいたと思いますが、いつも「まわりにどう見られているか」が気になっていました。

ーーーご自身の性格を一言で表すなら?

今も昔も「臆病」だと感じます。

ーーー周囲と自分は何か違うと感じたことは?

いわゆる「みんなが好きなこと」には全く興味が持てなかったです。芸能人とか流行りの音楽よりも魚とか釣りとか、自分の好きなことに没頭するタイプでした。

逆に、苦手なことや興味のないことは見えなくなります。例えば、美術の課題や嫌いな先生の宿題などは提出しなければいけないのに全然出せなかったこともあります。

なんとなく「自分、ちょっと普通と違うかもな」と思い始めたのは、小学校の高学年か中学に入ったころだったと思います。

ーーー大学ではどんなことに力を入れていましたか?

卒業研究です。メタンガスについて研究しました。メタン菌に、どんなエサを与えると効率的にエネルギーを生み出せるか、というテーマで行い、学部内の発表で賞を貰うことができました。今にして思うと楽しんで取り組めていたからこその結果だと思います。

Kaienに通う前〜「周囲の目」を気にしすぎていた日々〜

ーーー大学卒業後、最初の仕事ではどんなことをしていましたか?

上下水道の計画・設計に関わる仕事をしていました。大学時代の研究テーマとも関連があり、水に関わる仕事に就きたいと思っていたので、自分の興味に合っていたと思います。

ーーー退職に至った経緯は?

業務量の多さや特性による物忘れ、イライラなどが重なり、仕事がうまくいかなくなっていきました。

また、「発達障害*かもしれない」と思いながら、それを周囲に知られないようにと自分を強く抑えていたことも、精神的に大きな負担でした。結果として体調を崩し、休職を経て退職しました。

ーーー再就職後も、うまくいかなかったのでしょうか?

空調設備関連の会社に再就職しましたが、うつ症状が再発し、動悸が続くなど心身に不調が現れました。「働くことにトラウマがあるのでは」と思うようになり、自己理解を深める時間をとりたいと考え、退職を決意しました。

自立訓練で整えた「自分の土台」

ーーーKaienで訓練を始めようと思ったきっかけは?

1社目の会社で休職したときに、発達障害とうつの診断はすでに出ていたんですが、どこかで「見ないふり」をしていたんだと思います。

2社目の会社でしんどくなったとき、自分は致命的に能力が欠けている訳ではないと思っていました。でもなぜか働きづらさがあって、未来に希望が持てなくて。そのことがとても怖くなりました。ただ、これから先の人生を前向きなものに変えたいと思ったときに、「ちゃんと自分を見つめ直す機会が必要だ」と思いました。

それで就労移行や生活訓練について調べ、発達障害を専門的に見ている機関として信頼できそうだと感じたKaienを選びました。説明会で対応してくださったスタッフの方がとても信頼できる印象だったことも、決め手の一つです。

ーーー自立訓練では、どのようなことに取り組まれましたか?

取り組んだことはいくつかあったのですが、中でも「自己理解」にいちばん時間を割いていました。加えて、生活リズムの改善や、金銭管理、時間の見積もり、片づけといった日常生活を整えることにも取り組みました。

ーーー自己理解を深めるなかで、どんな気づきがありましたか?

自分は、焦りや不安がないと動けないタイプだと思い込んでいたことに気づきました。これまで「やらなきゃ」と自分を追い立てることで行動していたのですが、それだと短期的には何とかなりますが、長期的にはしんどくなってしまうんです。

訓練を通じて「不安からではなく、やりたいから動く。自分の中のプラスのエネルギーを意識的に使うほうが、長く続けられるし楽しい」ということを実感しました。

ーーー発表の機会などもあったのですか?

Kaienの自立訓練では、毎週金曜日に希望者が自由にプレゼンできる場がありました。午前中の座学で受けた刺激や、自分で取り組んだことをPowerPointにまとめて、みんなの前で発表するのです。

もともと人前で話すのは苦手ではなかったので、積極的に発表していました。発表や感想を聞く場があったおかげで他の人の意見も参考にしつつ、自己理解を深めていけたかなと思っています。

ーーー生活リズムの見直しにも取り組まれたのですか?

仕事を辞めてからKaienに通い始めるまでの間、昼夜逆転の生活が続いてしまっていました。

ゲームなどに熱中して気づいたら朝、ということもあったのですが、訓練に通うようになって、規則正しい生活を取り戻すことができました。

ーーーグループワークの企画にも関わったと伺いました

2回ほど、外に出るタイプのグループワークを企画しました。

「オフィスカジュアルを学ぶ」をテーマに、みんなで事前に調べた内容を持ち寄ってユニクロに行くことと、「自分で目的を立てて外で何かを体験し、それをみんなに発表する」という、少し自由度の高い内容でした。

どちらも、自発的に動くことをテーマとし、共感してくれた方と一緒に取り組めたのはいい経験になりました。

就労移行訓練で育てた「実践力と相談力」

ーーー自立訓練から就労移行に移る際、気持ちの変化はありましたか?

生活訓練では、「他人に言われたからでなく、自分のやりたいことを行うことで前向きに挑戦できる」と気づくことができて、自発的に動く感覚を大事にするようになれました。就労移行では仕事に近い環境になったものの、「楽しさや好奇心を大事にしつつ、でも真面目に。その両立を目指して訓練をしよう」という気持ちを持つことを意識していました。

ーーー印象に残っている訓練には、どのようなものがありますか?

オンライン店舗の立ち上げです。

Kaienには訓練生やスタッフから寄付してもらった古本を清掃し、実際にオンラインで販売するという訓練があるのですが、自分が所属していた拠点ではまだ導入されていなかったので、立ち上げから携わることになりました。

「どうやって寄付を集めるか」「出品の流れをどうつくるか」といったことを、スタッフや他の訓練生と一緒に考えながら進めていきました。

目の前のことを必死で取り組んでいくうち、気づけば1つの仕組みができあがっていたという達成感がとてもプラスの印象として残っています。

マイナスの印象が残っているのは、ある企業の実習先で、少し厳しめのフィードバックを受けたことです。僕は人の言葉を真に受けすぎやすいところがあるので、結構ダメージが大きくて……。自信とプライドがかなり削られてしまった感覚がありましたが、訓練中に大きな落ち込みを経験できたことは良かったと思っています。

ーーーご自身の苦手なことに対して、就労移行ではどんな工夫をされていましたか?

一番は、人に相談することを意識したことです。以前は、「自分でやった方が早い」「言語化するのが苦手なので、うまくまとめられないし伝わらない」といった理由で、人に頼ったり相談したりすることを避けていました。

でも、訓練を通じて「相談することで状況が改善する」成功体験を重ねられたことで、少しずつ、相談できる自分になっていったと思います。

ーーー同時に就職活動も始められていたんですよね?

オンライン店舗の運営をリードしながら、就活も始めていたので正直かなり大変でした。でも「シングルフォーカス(一つのことに集中する)」なタイプの自分にとっては、同時並行で何かを進めること自体が訓練になると考えて、あえて両立に挑戦しました。

ーーー就労移行を通して、自分が変わったと感じることはありますか?

「苦手なことは、誰かに任せてもいい」と思えるようになったのが大きな変化です。

就職活動と、いまの働き方について

ーーー企業選びでは何を重視しましたか?

「成長を期待してくれそうな会社かどうか」ということです。

毎日同じ作業をただ繰り返すのではなく、少しずつでも成長を求めてくれるような会社がいいなと思っていました。

ーーーいま働いている職場では、どんな仕事をされていますか?

事務職として、書類整理やデータ入力などの業務をしています。Excelを使う機会も多く、自分の得意分野を活かせています。

ーーー得意なこと・苦手なことの使い分けはできていますか?

かなり意識するようになりました。たとえば、視覚的な処理の正確さが求められる作業や、文章を丁寧にまとめるような仕事は、自分がやるとミスが出やすいので、得意な方にお願いするようにしています。

Excelでの集計作業やマクロ、関数の活用などは昔から好きで得意だったので、積極的に担当しています。

ーーー訓練での経験が活きていると感じる場面はありますか?

「苦手なことは相談して任せる」「得意なことは自信を持って取り組む」というスタンスは、就労移行で身につけた考え方です。

以前は、「全部自分でやらなきゃ」と思っていた自分が、今では「お願いする」ことにも抵抗なく向き合えるようになったのは、すごく大きな変化だと思っています。

今後のこと〜Mさんのこれから〜

ーーー今後、挑戦してみたいことや目標はありますか?

いずれは一般雇用にも挑戦してみたいです。今は障害者雇用枠で働いていますが、正社員になりたい気持ちもあります。いまの職場でも他部署に異動する可能性があるなど、選択肢があるのでチャレンジしていきたいです。

ただ、今は焦らず目の前にある仕事をきちんとこなすことを大事にしています。その先で、もっと自分の可能性が広がるなら挑戦したいです。

また、将来的には一人暮らしにもチャレンジしたいと考えています。金銭管理や生活リズムといった基本的な生活の部分も、訓練で整えてきたことなので、少しずつ準備をしていきたいです。

ーーー最近うれしかったことは?

仕事面で、任される作業の範囲が広がったことです。「期待されているのかもしれない」と感じられて、少し自信にもつながりました。

付録 〜Mさんのこと〜

(Mさんが釣った魚)

ーーー趣味や休日の過ごし方は?

釣り、ドライブ、ゲーム、温泉巡りが好きです。特に釣りが好きで、釣った魚を自分でさばいて食べることもあります。

先日、友人と旅行に行って温泉や釣り、お寿司などを楽しんできました。好きなことを思いっきり楽しめる時間は、気持ちのリセットにもなっています。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。

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