「興味があることへの没頭力」という強みを持つ一方で、環境の変化や対人不安から体調を崩す経験をされたKさん。就労移行支援事業所でのプログラムを通じ、ITスキルだけでなく、働く上で不可欠な「課題解決力」や「自己管理術」を磨き上げました。
最終的に4社から内定を得たKさんが、なぜあえてITエンジニアではなくメーカーでの専門職を選んだのか。自分自身の特性を数値化して管理する独自のライフハックや、未経験から就職を勝ち取るための思考法について、詳しくお話を伺いました。

▼Kさんの簡単なプロフィール
- 年齢:20代
- 診断名:社会不安症、自閉スペクトラム症(ASD)
- 苦手なこと:対人不安、環境の変化
- 就職先:大手製造メーカー(事務・専門職)
- 利用サービス:就労移行支援
目次
幼少期の没頭力と、海外生活で感じた孤独のギャップ
――― まずは、Kさんの幼少期や学生時代について教えていただけますか?
小さい頃は外で遊ぶのが好きな明るい子どもだった記憶がありますが、小学生の頃からは、一つのことに長時間集中する傾向が強くなりました。小説や歴史の本を読み始めると、数時間同じ姿勢で没頭してしまったり、レゴで複雑なものを作ったり。自分の興味があることに対する集中力は、当時からかなり高かったと思います。
――― その集中力は素晴らしい強みですね。学生時代もずっとそのスタイルで過ごされたのでしょうか。
いえ、小学校6年生から中学校の3年間、親の仕事の関係でアメリカで過ごしたのですが、そこが大きな転換点でした。言語の壁や文化の違い、差別的な経験もあり、強い孤独感と疎外感を抱くようになったんです。それ以来、性格がかなり内向的になりました。
――― 多感な時期に海外での孤独を経験されたのは、大変な衝撃だったでしょうね。
はい。日本に帰国して高校・大学と進む中で、自由な校風に助けられてテニスを楽しんだりもしましたが、心のどこかで常に「周囲との違い」を感じていました。物事への「正しさ」に対する感覚が人一倍強いことなど、自分の特性を意識せざるを得ない場面が増えていきました。
「体調と闘いながらの就活」で見つけた、自分に合う環境
――― 大学卒業を控えた時期に、Kaien(就労移行支援)を利用しようと思ったきっかけは何だったのですか?
実は新卒での就職活動中に体調を崩してしまい、一度立ち止まる必要がありました。自分一人で体調管理と就活を両立させるのは難しいと感じ、「体調に配慮しながら就職準備ができる場所」を自分で探しました。いくつかの事業所を見学しましたが、Kaienは「厳しすぎず、かつ職場に近いちょうどいい緊張感」があり、ここなら自分を整えられると感じて利用を決めました。
――― 「ちょうどいい緊張感」というのは、Kさんにとって大切なポイントだったのですね。
そうですね。緩すぎると成長できませんし、厳しすぎると体調を崩してしまう。Kaienの、上司役のスタッフがいて業務を模した練習を行うスタイルが、自分には合っていると思いました。
プログラムで得たのは、技術以上に「働くためのソフトスキル」
――― Kaienでは具体的にどのようなプログラムに取り組まれましたか?
主に「週替わり業務(擬似オフィスワーク)」と「クリエイティブコース(ITプログラム)」の2つです。まず「IT登竜門」というプログラムで自分の適性を確認したところ、プログラミングやインフラの課題で良い評価をいただき、自分自身も「面白い!」と没頭できたので、クリエイティブ中心のプログラムにシフトしました。
――― ITスキルを身につける中で、特に学びになったことはありますか?
技術的なこともそうですが、一番の収穫は「進捗管理」と「課題解決力」です。ITの課題をやっていると必ずエラーや仕様の壁にぶつかります。そこでパニックにならず、冷静に原因を分析して対策を立てる経験を繰り返しました。また、限られた時間内で成果物を出すための管理能力も身につきました。
――― プログラミングそのものよりも、働く上での土台となるスキルを重視されたのですね。
はい。コードを書くスキルは家でも学べますが、スタッフの方と相談しながら進める「課題解決のプロセス」や、チームで動くための「ソフトスキル」は事業所だからこそ学べることだと思って取り組んでいました。
不安を「行動」で上書きし、コミュニケーションの壁を越える

――― Kaienを通じて、ご自身の中で変化を感じた部分はありますか?
コミュニケーションに対する恐怖心が和らぎました。以前は「相手にどう思われているか」が怖くて、1分間に一言話すのが精一杯という状態でした。でも、Kaienの実践的なプログラムでスタッフや他の利用者の方と話すうちに、「自分が不安に思っているほど、相手は悪意を持っていないし、実際は大丈夫なんだ」という成功体験が積み重なったんです。
――― 思考だけでなく、実際の「行動」を通じて不安を解消していったのですね。
はい。今でも不安がゼロになったわけではありませんが、「不安はあるけれど、動いてみれば何とかなる」と思えるようになったのは、自分にとって大きな進歩です。
「脳の負荷率」を数値化。独自の体調管理システム
――― 秋頃から本格的に就職活動を始められたとのことですが、苦労した点はありましたか?
一番の課題は「体調の維持」でした。私はネガティブに考えがちな性格なので、面接で評価されるストレスがダイレクトに体調に響くんです。そこで、自分の中に「脳の負荷率」というシステムを作って管理することにしました。
――― 脳の負荷率、ですか? 詳しく教えてください。
自分のキャパシティを100%として、その日の活動を数値化するんです。「プログラム20%」「就活40%」「勉強10%」という風に。もし就活が忙しくなって負荷が上がったら、その分、プログラムをセーブしたり勉強を休んだりして、トータルの負荷を70%以下に抑えるよう毎日振り返りを行いました。
――― まさにエンジニア的な視点での自己管理ですね。
客観的に自分を見るためのツールですね。この「見える化」のおかげで、大きく崩れることなく就活を走りきることができました。
内定4社。あえて「エンジニア」を選ばなかった理由
――― 最終的に3社から内定をいただいたと伺いました。素晴らしい結果ですが、どのような軸で選ばれたのでしょうか。
実は内定をいただいた4社のうち3社はITエンジニア職でした。でも、最終的に選んだのはメーカーの業務(一般枠)です。
――― それは意外な選択ですね! あれほどITプログラムに力を入れていたのに。
理由は2つあります。一つは「好きを趣味として残したかった」こと。仕事にして高いストレスがかかるよりも、趣味として楽しむ方が自分らしいと考えました。もう一つは、自分がエンジニアに興味を持った理由が「仕組みづくり」や「課題解決」だったからです。これらはエンジニア職でなくても、メーカーの業務改善などでも活かせるはずだと確信しました。
――― 自分の「興味の根源」を言語化できていたからこそ、職種に縛られない選択ができたのですね。
はい。「長く働き続け、無理なく成長できること」が私の最優先事項だったので、納得して決めることができました。
付録~Kさんについて~

――― ここからは少しプライベートなことも伺わせてください。最近のブームはありますか?
ガンプラ作りですね。ガンダムや戦車などのメカが好きで、休日は没頭して作っています。あとは「工場を作るゲーム」にもハマっています。資源の搬送を自動化したり、ラインを最適化したり……。
――― それ、まさにプログラミングや課題解決の思考そのものですね。
そうかもしれません。結局、公私ともに「効率化」や「仕組み」を考えるのが好きなんだと思います。あとは、内定をいただいた時に家族がとても喜んでくれたのが、最近で一番嬉しかったことですね。
――― ご家族もKさんの努力をずっと見てこられたのでしょうね。新しい職場でも、Kさんらしいペースで歩んでいかれることを応援しています!
ありがとうございます。まずは安定して働くことを目標に、少しずつ頑張ります。
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