前職はマーケティング調査会社でマルチタスクの波に飲まれ、限界を感じて退職したNさん。診断を受けて自分自身の特性を理解し、Kaienでの訓練を通じて、どのように「等身大の自分」を受け入れられるようになったのでしょうか。内定を獲得し、新たなスタートを切る直前のNさんに、これまでの歩みを振り返っていただきました。

▼Nさんの簡単なプロフィール
- 年齢:20代
- 診断名:自閉スペクトラム症(ASD)
- 苦手なこと:環境の変化、完璧主義的な傾向、マルチタスク、大人数での集団行動
- 就職先:製造業(一般事務職)
目次
周囲のスピードに圧倒された幼少期と、限界を迎えた前職
――― 小さい頃はどのようなお子さんだったのでしょうか。
昔からマイペースな子どもでした。絵を描いたり、一人で好きなことに集中したりする時間が好きでしたね。運動はあまり得意ではなかったので、みんなとワイワイ走り回るよりは、一人の時間を過ごすタイプでした。ただ、食べることに関しては好き嫌いがなくて、何でもおいしく食べていました。
――― 自分の「周りとの違い」を意識し始めたのはいつ頃ですか?
保育園の頃の記憶が強いです。集団生活の中で、みんなが一斉に走り回って遊んでいるパワーに圧倒されてしまって。その輪に自分も楽しく混じっていくというのが、難しかったんです。周りのスピード感についていけないもどかしさを、幼いながらに感じていたのを覚えています。
――― その後の社会人生活ではいかがでしたか?
前職はマーケティング調査会社で働いていました。規模の小さい会社だったので、電話対応をしながら別の作業を進めるといった「マルチタスク」が日常茶飯事でした。常に電話が鳴り響く環境で、求められる仕事のスピードや量にどうしてもついていけなくなってしまって……。最終的には体調を崩し、離職することを選びました。
鈴木社長の本がきっかけで訪れたKaien
――― Kaienのサービスを知ったきっかけを教えてください。
母がきっかけです。私が退職して「次はどうしようか」と悩んでいた時期に、母が鈴木社長(Kaienの代表)の本をどこかで読んだらしく、「こういう場所があるよ」と教えてくれました。それまで「就労移行支援」という存在も詳しく知らなかったのですが、母の勧めで見学に行ってみようと思ったのが始まりです。
――― 他の拠点も見学されたそうですが、最終的に池袋を選んだ決め手は何でしたか?
いくつかの拠点を体験させていただきましたが、池袋は自分にとって一番通いやすく、何より雰囲気がしっくりきたのが大きかったです。当時は「ただ家にいるだけでは生活リズムが崩れてしまう」という不安もあったので、訓練を通じてリズムを整え、次の就職に向けた準備をしたいという思いで通い始めました。
自己理解を深め、理想と現実の「ギャップ」を解消する

――― 訓練を通じて、一番得られたと感じることは何ですか?
「自己理解」が深まったことです。実は、Kaienに通い始めてからASDという診断がついたんです。自分の特性を客観的に知り、どう対処すればいいのかを、就職活動を始める前に時間をかけて考えられたのは本当に良かったです。
以前は「こうしなきゃいけない」という理想のラインが自分の中に高くあって、それができない現実とのギャップに苦しんでいました。でも、スタッフの方との対話を通じて「今できていることに目を向けよう」と思えるようになったんです。「今の自分はここまでできているから、次はこうしてみよう」と、自分を責めるのではなく調整していく。この考え方の変化が、一番大きな収穫だったと感じています。
――― そのような柔軟な考え方が身についたことで、実際の訓練での立ち振る舞いも変わったものはありますか?
はい、「人に確認する」ことへのハードルが下がりました。以前は分からないことがあっても、自分一人で長く悩み続けて状況を悪化させてしまうことが多かったんです。でも訓練の中で、「早めに共有して理解してもらうことが、結果的に仕事がスムーズに進む」と実感しました。それからは、迷ったらすぐに周囲に相談するマインドセットができるようになりましたね。
資料作成での自信と、新たなリーダー像の発見
――― 訓練中、特に印象に残っているプログラムはありますか?
「週替業務(事務系のプログラム)」に所属していたのですが、2週間かけて一つのまとめ資料を作成し、パワーポイントで発表する時間がありました。その際、講師の方から「要点がひと目でわかる素晴らしい資料ですね」と褒めていただけて。自分の得意なことが可視化された瞬間で、大きな自信に繋がりました。
――― 逆に、難しさを感じた場面は?
膨大なデータを扱うような作業は、少し苦手意識がありました。チェックする範囲が広すぎると、どこまで正しいのか不安になってしまうんです。自分の目が届く範囲で、一つひとつ丁寧に進められる仕事が自分には合っているんだな、と再確認できました。
――― 訓練ではリーダーも経験されたそうですね。
はい、2回ほどリーダーを務めさせていただきました。元々は「自分はリーダータイプではない」と思っていたんです。でも、スタッフの方から「みんなの同意を得ながら進めるリーダーシップもあるんだよ」と言っていただけて。ぐいぐい引っ張るだけがリーダーじゃない、自分なりの支え方があるんだと気づけたのは、新しい発見でした。
「家では休む」という切り替えが、就活の支えになった
――― 就職活動はどのようなペースで進められましたか?
入所して5ヶ月目くらいから本格的に始めました。あまり無理はせず、自分のペースを守りながら計4社ほど受けました。
――― 就活中に特に意識していたことはありますか?
何よりも「睡眠と体調管理」です。複数の企業の面接や準備が重なると、どうしても負荷がかかります。だからこそ、Kaienにいる時間は就活に集中し、家に帰ったらあえて何もしない。以前の私なら家でも練習を詰め込んでしまったかもしれませんが、それをすると切り替えができずに疲弊してしまう。スタッフの方とも相談して、「家は休む場所」と決めてメリハリをつけたおかげで、最後まで体調を崩さずに走り抜けられました。
――― 事前の準備で役立ったことは?
夏頃に、自己理解ツールなどを使って自分の障害特性を徹底的に言語化しておいたことです。そのおかげで、面接の際も自分の強みや必要な配慮を、自分の言葉でしっかりと企業側に伝えることができました。
―――今後の目標を教えてください。
新しい職場では製造業の一般事務を担当します。まずは仕事に慣れることが第一ですが、プライベートでは資格取得に挑戦したいです。学生時代から韓国語を勉強しているので、TOPIK(韓国語能力試験)などを受けて、自分のスキルを形にしていけたらいいなと思っています。
付録~Nさんについて~

――― お休みの日はどのように過ごされていますか?
友達とお茶をしたり、ご飯を食べに行ったりすることが多いです。あとは読書ですね。
――― 最近、嬉しかった出来事はありますか?
先日、中学時代の友人たち6人くらいで集まったんです。クラスが違った子もいたのですが、部活動などで繋がりがあって。地元を離れている子もいたけれど、久しぶりに会ったらみんな変わっていなくて。それぞれ今の場所で頑張っているんだなと感じられて、すごく安心しました。
――― 素敵なご友人ですね。就職後も、応援しています。
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