働くことが怖くなり、家から出られなくなってしまった時期を経て、Kaienの自立訓練(生活訓練)から一歩を踏み出したKさん。かつては「正社員でなければ意味がない」という白黒思考に苦しんでいた彼女が、どのようにして自分に合ったペースを見つけ、現在は就労移行支援で前向きに活動できるようになったのか。その心の変化のプロセスを伺いました。

▼Kさんの簡単なプロフィール
- 年齢: 20代
- 診断名: 気分変調症(適応障害、うつ病の診断歴もあり)
- 苦手なこと: マルチタスク、スピードを求められる業務、自分から声をかけること
- 就職先: 就労移行支援にて就職活動中
- 利用サービス: 自立訓練(生活訓練)を経て、現在は就労移行支援を利用中
目次
「真面目だけど疲れやすい」幼少期から感じていた周囲との違和感
――― 小さい頃はどのようなお子さんでしたか?
幼稚園の頃から、お友達の輪の中にどんどん入っていくよりは、先生のそばにいるようなタイプでした。周囲に数人しか友達がいないような感じで、人見知りで自分から声をかけるのが苦手なのは、幼少期からずっと変わらない私のベースなのだと思います。
周りからはよく「優しいね」と言われるのですが、自分としては真面目だけど、かなりのめんどくさがり屋だと思っています。
良くも悪くも周囲の状況をじっと観察しているタイプなので、細かい変化にはよく気がつく方かもしれません。自分から積極的に話しかけることはできなくても、相手の話をじっくり聞いたり、不思議と昔からアルバイト先などで「話しかけやすい雰囲気がある」と言われたりしていました。そういった部分が、周囲からは「優しい」と映っているのかもしれません。
学生時代は、勉強も特に困ることがなく、手先も器用な方でした。人並み以上に飲み込みが早かったこともあって、当時は自分はそれなりになんでもできる人間なんだと自信を持っていました。だからこそ、社会に出て働き始めてからつまずくとは、当時は想像もしていませんでした。
――― 働き始めてから、ご自身の中でどのような苦労があったのでしょうか。
仕事における自分の特性や限界に、社会に出てから強く気づかされました。私は物覚えや仕事の吸収力は良い方なのですが、その分、頼まれたことを100%の力で頑張りすぎてしまって、すぐに疲れてしまうところがありました。自分のキャパシティが分かっていないので、無理そうだと思っても断れずにすべて受け入れてしまい、結果的に潰れてしまう。学生時代まで順調だった分、働き始めてからの挫折には本当にショックを受けました。
マルチタスクの波に飲み込まれ、いつしか「働くこと」が恐怖に
――― どのようなお仕事をされていたのでしょうか。
医療事務の専門学校を出て、病院に就職しましたが、業務が大変でした。患者さんの対応をしながら、電話が鳴ったら出て、受付を行いつつ手が空いたら会計もする・・・と、常に状況を見て、現場で起きている複数のタスクをどんどん消化していかなければなりませんでした。スピード感を求められるマルチタスクな現場で、業務自体はできなくはないけれど、疲弊してしまいました。
当時はコロナ禍だったこともあり、職場自体も混乱していました。自分も疲れが限界まで溜まり、休みの日は寝ているだけになり、体調を崩して退職しました。最初は職場環境が良くなかっただけだと思っていたのですが、その後、転職しても同じように体調を崩してしまい、働くこと自体が怖くなってしまいました。
その後は半年ほどはほぼ引きこもりのような状態で家にいました。家にいること自体は嫌ではなかったのですが、将来への不安だけがずっと頭の中でぐるぐると回っていて、精神的にしんどかったです。
自分のペースでいい、渋々始めた「週5日」への挑戦
――― 自立訓練(生活訓練)を利用しようと思ったきっかけは何だったのですか。
カウンセリングを受けていた先生に、今の状態のまま急に働くことが不安であれば就労移行支援に行ってみたら、と勧められたのがきっかけです。ただ、最初に見学や体験に行った就労移行支援は「働くこと」という明確なゴールに向けて計画的に進んでいかなければならない雰囲気が強く、当時の私にはエネルギーがなくて耐えられませんでした。
その頃に、Kaienに「生活訓練」というステップがあることを初めて知りました。当時は働くことへの自信を完全に無くしていましたが、カウンセラーさんから「今はやりたいことがなくても、気持ちが回復した時に体力が落ちていたら動けないから、体力を維持するためにも通ってみたら」と言われて、それなら行ってみようかなと思ったことがきっかけです。
――― 当初からスムーズに通うことができたのでしょうか。
最初は、週3日で終日通うか、週5日で半日通うかでかなり悩みました。その時、担当のスタッフさんに「1日行って1日休む形にすると、次に行くことが億劫になるのであれば、まずは週5日午前中だけ来てみよう。難しかったら減らせば大丈夫」と後押ししていただきました。
最初は正直「渋々」スタートしました。でも、実際にやってみたら意外とできてしまって。1ヶ月ごとに少しずつ、時間を延ばしたりして、気づけば週5日で終日通えるようになっていました。仕事はフルタイムは絶対無理と思い込んでいた状態から、体調に合わせてスモールステップで進めたことは、自分の中で大きな自信になりました。

「悪くないな」と思える環境が、凍りついた心を溶かしてくれた
――― 自立訓練(生活訓練)の中で印象に残っていることはありますか。
ずっと自己理解に取り組んでいて、「なぜこれほど働くのが怖くなってしまったのか」という部分を掘り下げていました。ただ、一番印象に残っているのは、訓練の内容そのものよりも、スタッフさんとお話しすることが楽しいと思えるようになったことです。
私は自分から話しかけるのが苦手なのですが、スタッフさんが本当に優しく受け止めてくれる、安心できる環境でした。以前の職場では先輩や上司を信頼できず、思っていることを相談できずに一人で抱え込んでしんどくなっていたので、安心できる場所の大切さを身に染みて感じましたね。
以前は「働くなら正社員で、1人暮らしできるくらいお給料がなければ意味がない。それができないなら働かない方がマシ」という100%か0%かの白黒思考でした。でも、生活訓練に通ううちに「完璧を目指さなくても、自分のできる範囲で、しんどくならない程度にやれる仕事もあるのではないかな」と、考え方が柔軟になりました。
就労移行支援へのステップアップ。今の目標は「穏やかな日々」
――― 現在は就労移行支援に移られたそうですね。どのようなことを意識して過ごされていますか。
生活訓練で講座も一通り受けて、週5日安定して通えるようになって半年ほど経ったので、そろそろ次のステップだなと思って移籍しました。今は、特に「報告・連絡・相談」を意識して取り組んでいます。
やはり自分から講師やスタッフさんのところへ声をかけに行くのは恥ずかしくて勇気がいるので、毎回行くタイミングを考えたり、喋る内容を事前にメモにまとめてから行くようにしています。だらだら喋ってしまったり、話す内容を忘れたりしないように自分なりに対策を立てることで、一歩ずつ前に進めている感覚があります。
――― 今後は、どのような働き方を目指していきたいですか。
周りの友達と比較して焦ってしまうこともありますが、やはり「自分の体調を最優先」にしたいです。生活のために働くことは必要ですが、また体調を崩しては元も子もありません。自分の身の丈に合った、無理のない仕事を探して、日々を穏やかに過ごすこと。それが今の私にとって一番の目標です。
最初はモチベーションが高くなくても、渋々でも良いと思うんです。でも、家にいるとぐるぐる考えちゃうことも、外に出て何かに集中することで、そのしんどさが消えることもあります。自分のペースを尊重してくれて、「やってみよう」と引っ張ってくれる環境に身を置くことで、意外と大丈夫!と思える日が来るのだと実感しました。
付録:~Kさんについて~

――― 最近、趣味やプライベートで楽しんでいることはありますか?
一時期は体調を崩して、元々好きだった音楽や「推し活」が全然楽しめなくなっていたんです。でも、ここ半年くらいでようやくその感覚が戻ってきました。今は体力やお給料のことも考えて、家でYouTubeを見ながらのんびり楽しんでいます。
休日はたまに散歩に行ったり、日記を書いて1週間の振り返りをしたりしています。頭の中でぐるぐる考えちゃうことをそのまま書き出すと、気持ちの整理ができるんです。過去を振り返りたくなった時のために、今の気持ちを残しておくのが最近の習慣ですね。
――― 最近、特に嬉しかったことは何でしょう?
先日、Kaienの祝日イベントに参加した際、生活訓練の時にお世話になったスタッフさんに会ってお話しができたことがすごく楽しかったです。今でも就労移行で見かけると嬉しくなりますね。あと、私は普段からパソコンで気持ちの整理をしたりしているのですが、母が新しいパソコンを買ってくれたので嬉しかったです。
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