視覚と聴覚を補い合いながら掴んだ天職。データ分析と自己理解で進む、私らしいキャリアの描き方

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インフラ系事務でのマルチタスクに限界を感じ、休職・退職を経験したSさん。発達障害の検査で判明した「聴覚が苦手、視覚が得意」という、数値的にも凸凹が浮き彫りになったデータを自らの「取扱説明書」とし、就労移行支援で対策を重ねました。現在は自身の強みをフルに活かし、電気工事関連企業で念願の「データ分析職」として活躍するキャリアの軌跡に迫ります。 

(趣味のギターのレッスン風景エクストリームのモアザンワーズを練習中です )

▼Sさんの簡単なプロフィール


  • 年齢:30代
  • 診断名:双極性障害、ADHD/ASD
  • 苦手なこと:聴覚情報の処理(耳だけで聞いてメモを取ることなど)
  • 利用サービス:就労移行支援
  • 前職:インフラ系事務
  • 現在の就職先:データ分析・事務職


幼少期は「周りと同じ」だと思っていた。時折感じていた生きづらさの正体

――― 本日はよろしくお願いいたします。まずはSさんの幼少期について教えてください。

子供の頃は、特に自分が周りと大きく違っているとは意識していませんでした。「みんな自分と同じような感覚で生きているんだろう」と漠然と思っていたんです。ただ、振り返ってみると、時折集団行動の中で不思議な生きづらさや、特定のシチュエーションでの苦手さを感じることはありましたね。

――― ご自身の性格を一言で表現するとしたら、どういったタイプだと思いますか?

一言で言うなら「自分の世界をコツコツと設計していくタイプ」でしょうか。物事を論理的に順序立てて考えたり、仕組みを理解したりするのが昔から好きなんです。一方で、周囲の環境や人の感情を瞬時に察知して柔軟に立ち回るような器用さは、あまり持ち合わせていなかったように思います。

聴覚情報の処理に限界を感じて受診。「数値」で知った自分の得意と苦手

――― 大人になり、お仕事をされる中で、どのような「困難」や「悩み」に直面されたのでしょうか。

前職はインフラ系の会社で、土木・設備関連の事務や調整業務をしていました。その中で、どうしても「耳で聞いた指示をその場で理解し、同時にメモを取る」という作業がうまくできず、ミスが重なってしまったんです。マルチタスクや口頭での急な方針変更に対応しようとすると、頭の中がフリーズしてしまうような感覚がありました。

 体調を崩して休職を挟む中で、自分の生きづらさの原因を知りたいと思い、心療内科受診して双極性障害の診断を受け、その一年後にWAIS-IIIを受けて、ADHD及びASDの診断を受けました。

――― 診断や検査結果を聞いた時、どのように感じましたか。

結果の数値を見た時、驚くほど納得がいったんです。聴覚的な情報処理の数値が著しく低い反面、視覚的な情報処理の数値は非常に高いという、明確な凸凹がデータとして表れていました。「だから耳からの情報だけだとあんなにつらかったんだ」「逆に目で見る情報なら得意なんだ」と、自分の取扱説明書を手に入れたような気持ちになり、検査結果の数字が頭に焼き付くほど腑に落ちました。

退職を機に「あの時見た場所へ」Kaienの就労移行支援との出会い

――― Kaienの就労移行支援を利用しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

実は、以前働いていた職場のビルに就労移行支援事業所が入っていて、「こんな場所があるんだ」と初めて知ったんですよね。当時はまだ仕事を続けていましたが、「もし今の働き方が限界を迎えて退職することになったら、こういう専門的なサポートがある場所を頼ろう」と心に決めていました。その後、実際に退職することになり、就労移行支援事業所を探す中で、Kaienに相談へ行きました。

――― 実際に利用を始めてみて、ご自身の苦手に対してどのような対策に取り組みましたか?

一番の課題だった「聴覚情報の処理」に対するアプローチです。訓練中は、耳だけで聞いて無理にメモを取ろうとするのではなく、スタッフの方に「指示をテキストに残していただけますか」「マニュアルを見ながら進めても良いですか」と、視覚情報を補うための相談や環境調整を自ら発信する練習を重ねました。

(趣味のダーツ練習中に起きたミラクル・ロビンフッドショット。
嬉しいけれどダーツが傷むため、複雑な気持ちになるそうです)


模擬職場で見つけた「他者から学ぶ姿勢」

――― 訓練内容や、他の利用者さんとの関わりの中で、特に印象に残っていることはありますか?

店舗経営を模した『こしょこしょ*』というプログラムがとても印象に残っています。本のクリーニングや経理など様々な役割があるのですが、私は主にデータの管理や分析といった裏方の業務を担当しました。そこで、自分とは異なる特性を持った他の利用者さんたちが、それぞれの得意分野を活かして生き生きと働く姿を間近で見ることができたんです。「人はみんな違っていいし、お互いに補い合えば組織は回るんだ」と、身をもって学ぶことができました。

*こしょこしょ…Yahoo!オークションやAmazonで古本を販売し、梱包から発送までの一連の流れを経験できるプログラム。

――― 訓練を通じて、ご自身の中で変化はありましたか?

はい、自己理解がさらに深まりました。自分の特徴として物事をシステムとして捉え、長期的な視点で設計していくことが得意とわかって、「自分の得意なデータ分析や構造化を仕事に活かそう」と、進むべき道に自信が持てるようになりました。

10社の選考を経て掴んだ天職。業界の「つながり」を意識した就職活動

――― 就職活動はどのような軸で進められ、何社ほど応募されたのでしょうか。

自分の得意な「視覚的なデータ処理」や「コツコツとした事務・分析」が活かせる職種に絞り、トータルで10社ほど応募しました前職のインフラ系での経験も少しは活かしたいという思いもありました。

――― 就活の中で苦労したことや、工夫したことはありますか?

面接の際、想定外の質問に自分の言葉で即座に対応しなければならない時は、やはり苦手意識が出そうになりました。しかし、Kaienで学んだ「あらかじめ自分の特性や配慮事項を整理して伝える」という対策を行うことで、乗り切ることができました。

――― これから就職活動をする方に、おすすめしたい対策はありますか?

単に「その会社単体」を見るのではなく、「その会社が業界の中でどういう立ち位置にあり、他社とどう関わっているのか」という、業界全体の構造や繋がりを意識して企業研究をしておくと良いと思います。全体の仕組みが頭に入っていると、面接での受け答えにも深みが出ますし、入社後のミスマッチも減らせると実感しました。結果として、現在は電気工事関連の企業で、念願だったデータ分析や事務を任せてもらえる会社に就職が決まり、とても満足のいく就活ができました。

――― 最後に、今後の目標について教えてください。

まずは新しい職場で、自分の得意なデータ分析を活かして会社にしっかりと貢献していくことです。そして将来的には、自分がこれまでの経験やKaienで培った「自己理解のノウハウ」を活かして、同じように生きづらさや働きづらさを抱えている人たちに対して、何かしらの形でそっと手を差し伸べられるような、思いやりに溢れた人間になっていきたいですね。

(ダーツの練習風景。このあと友達にボロ負けしてしまったそうです)


付録:メンタルを研ぎ澄ますダーツと、耳を鍛えるギターの世界

―――Sさんの趣味について教えてください。

趣味は「ダーツ」と「ギター」です。特にダーツはかなり長く続けていて、実は地域の大会などにも出場しているんです。

――― 大会に出場されるほどとは凄いですね!ダーツのどういったところに魅力を感じますか?

ダーツって、実はものすごい「メンタルスポーツ」なんです。手の僅かな震えや、その日の心の乱れがそのままボードへの刺さり方に影響します。自分の精神状態をいかにコントロールして、常に一定のパフォーマンスを出すかというプロセスが、自己管理の面でも今の生活にとても活きていると感じます。

――― 他にも趣味はあるのですか?

ギターも趣味です。ギターの音の響きを身体で感じられるのが楽しくて始めました。私の弱点である「聴覚」を、音楽という楽しいアプローチを通じて、少しでも豊かに刺激できたら面白いなというちょっとした実験精神もあります(笑)。

――― 論理的で温かいお人柄が伝わる素晴らしいお話でした。本日はありがとうございました!

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