今回お話を伺ったのは、Kaien秋葉原を利用し、オフィス清掃と事務業務を担う企業へ就職されたTさんです。新卒で入社した会社での人間関係や業務での挫折、過去のトラウマを抱えながらも、Kaienでの訓練を通じて「自分の得意・不得意」と丁寧に向き合われたTさん。自分に合った環境と働き方に辿り着くまでの道のりや、自己理解を深めたプロセスについて詳しくお話を伺いました。

▼Tさんの簡単なプロフィール
- 年齢:20代
- 障害種別・診断名:広汎性発達障害/自閉症スペクトラム(大学生の時に診断)
- 得意なこと・好きなこと:体を動かす作業、決まった手順で進める業務、英語の勉強・イラストを描くこと
- 苦手なこと:口頭指示を素早く理解すること、何度も過度に確認してしまうこと、過度なデスクワーク(長時間の座り作業)
- 現在の就職先:オフィス清掃・事務業務(軽作業と事務の併用職種)
周囲とのギャップに戸惑った幼少期と、社会に出て直面した人間関係の挫折
――― 幼少期はどのようなお子さんでしたか?
普段はおとなしいと言われることが多い一方で、時には突発的に動いてしまうような一面もある子どもでした。自分から周囲に積極的に話しかけるタイプではなく、静かに過ごすことが多かったのですが、家族とショッピングモールへ出かけた際など、ふと一人の世界に入って突発的に動きたくなってしまうことがありましたね。
――― 当時、周りとの違いを感じたり、生きづらさを意識したりする瞬間はありましたか?
小学生の時の出来事が強く記憶に残っています。ある日、クラスの男の子が友達に向かって「今何時?」と聞いていたんです。親切のつもりで私が代わりに「今何時だよ」と答えたら、「あなたに聞いてないんだけど」と冷たく返されてしまって……。その時に、「あ、自分だけ間違った受け答えをしてしまったんだ」「私は周りと何かが違うのかもしれない」と強く感じました。そこから空気が読めない自分を恐れるようになり、自分の行動を強く抑え込んで、自分の殻に閉じこもるようになっていきました。
――― その後、大学時代に発達障害の診断を受け、新卒で物流会社に就職されたのですね。そこではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
新卒の就職活動時期がちょうどコロナ禍の初期と重なってしまい、なかなか希望する求人に出会えず苦戦していました。そんな中で縁があったのが物流関係の会社でした。「生活に不可欠なインフラを支える仕事」という点に強く共感して入社したのですが、実際の現場は想像以上にハードでした。
社会人経験もない中で残業や土曜出勤が重なり、体力的に追いつかなくなってしまいました。さらに、現場特有の体育会系な空気感や独特の人間関係になじめず、そこに上司からの厳しい暴言なども重なって、人間関係に対する強いストレスとトラウマを抱えるようになってしまったんです。
家族の助言と「過去のトラウマを克服したい」という想いをきっかけにスタートしたKaienでの訓練
――― 前職を退職された後、どのようなきっかけでKaienに通うことを決められたのですか?
在職中に足をケガしてしまい、治療と静養のために退職を決意しました。自分のキャリアを改めて見つめ直そうと最初は自宅近くの就労移行支援に通っていたのですが、家族から「こんなしっかりした就労移行支援もあるよ」とKaienの存在を教えてもらったのがきっかけです。
前職で年上の上司から暴言を受けた体験がトラウマになっていて、目上の人や年上の人と接することに対して強い恐怖心や苦手意識がありました。Kaienには「上司役」のスタッフがいて実践的なオフィス環境で訓練ができると知り、「ここなら過去のトラウマを克服して、もう一度社会に出ていけるかもしれない」と感じて利用を決めました。
――― 実際に訓練を開始してみて、最初はいかがでしたか?
最初の頃は、上司役のスタッフや他の利用者とコミュニケーションを取るだけでも手が震えてしまうほど緊張していました。働く上で必要なほうれんそう(報告・連絡・相談)に関しても、タイミングが掴めずに全く相談ができなかったり、逆に不安になりすぎて「自分で考えれば分かること」まで何度も質問してしまったりと加減が分かりませんでした。
――― その苦手意識をどのようにして乗り越えていかれたのでしょうか。
他の訓練生や講師の方々の様子をじっくり観察し、見よう見まねで試していくことから始めました。例えば、話しかける際や質問をする際の「お決まりの型(テンプレート)」を自分の中に作るようにしました。
また、「優先順位のつけ方」や「報告のタイミング」の講座を受ける中で、まずは自分で資料や状況を確認し、一定の手順を踏んだ上で相談するという流れを学びました。勝手に進めすぎて迷惑をかけるのを恐れるあまり過剰に相談していたのですが、根拠を持って行動できるようになり、徐々にコミュニケーションへの不安が和らいでいきました。

実践的な店舗運営と自分自身の「適正」の発見
――― Kaienでの訓練を通して、ご自身の中で大きな発見や変化はありましたか?
最も大きかったのは、自分の本当の「適性」を客観的に理解できたことです。Kaienに入る前は、自分の障害特性や向き・不向きについて、言葉でうまく説明することができませんでした。
訓練ではパソコン入力や資格取得(MOS)に向けた勉強、オンライン店舗※の運営など様々な業務を経験しました。私は店舗運営で店長役を務めたり、ミーティングのファシリテーター(進行役)を担当したりしたのですが、その中で「自分は一日中じっと座って事務作業をするよりも、適度に体を動かす作業の方が集中力を保ちやすく、適性がある」ということに気づけたんです。
※オンライン店舗とは…AmazonやYahoo!オークションにて、古本を販売する業務を体験できるプログラム
――― 客観的なフィードバックを受けることで、自己理解が深まったのですね。
はい。スタッフや他の利用者から「同僚」として客観的なフィードバックをいただいたことで、自分の得意・不得意が初めて言語化できるようになりました。周囲から認められる体験を重ねたことが、大きな自信につながりました。
また、前職から続いていた「鍵をかけたか何度も確認してしまう」といった過度な確認癖についても、あらかじめ「確認は3回まで」と自分でルールを設定するなどの対処法を確立することができました。
条件を柔軟に広げ、理想の働き方にマッチした企業との出会い
――― 就職活動はどのようなプロセスで進められましたか?
通所を始めて半年ほど経過した頃から本格的に就職活動をスタートし、最終的に7〜8社に応募しました。最初は足のケガのこともあり、「座ってできるデスクワーク中心の事務職」を探していたんです。ですが、長時間座り続けると集中力が続かなかったり、パソコンスキルが企業の求める基準に届いていなかったりと、不採用が続いてしまいました。
――― そこからどのようにして方向転換をされたのでしょうか?
なかなか自分の適性に合う求人が見つからず悩んでいた時に、軽作業が含まれる事務求人に視野を広げてみることにしました。そんな折、Kaienが運営しているマイナーリーグという求人サイトを通じて、オフィス清掃と事務業務が合わさった求人に出会ったんです。
「体を動かす軽作業」と「デスクでの事務」のバランスが自分の適性にぴったり合致しており、「ここなら無理なく自分の力を発揮できる」と確信して応募しました。結果として見事採用していただくことができ、就活期間は約半年ほどで実を結びました。
――― 就活を進めるうえで、意識されていたことはありますか?
実習や面接で失敗しても、「訓練や選考の段階での失敗は成長のための練習だから許される。まずはチャレンジしてみよう」と前向きに捉えるようにしていました。また、就労後のフルタイム勤務に備えて、訓練が終わった後に費用をかけずにカフェで過ごすなど、終業時間まで集中力を維持する体力を養う練習も行いました。そうした事前の準備が、本番での安心感にしっかり繋がったと感じています。
信頼できるモデルと共に。自分らしいスピードで目指すステップアップ
――― 現在のお仕事内容と、今後の目標について教えてください。
現在はオフィスの清掃業務と、各種事務作業を担当しています。立ち仕事での軽作業とデスクワークのバランスが非常に良く、自分の特性に合った環境で落ち着いて業務に取り組めています。
これからの目標は、経験を積み重ねて正社員登用を目指すことです。私は大勢を率いるリーダータイプではありませんが、目の前の業務に責任を持ち、自分自身の判断に自信を持ってテキパキと作業を進められるようになりたいと思っています。職場には直接的でわかりやすい指示をくださる頼もしいリーダーの先輩がいるので、その先輩をモデルにしながら、ひとつずつできることを増やしていきたいです。
付録:プライベートと息抜き
――― ここからはプライベートについてもお伺いします。休日はどのように過ごされていますか?
実は以前はこれといった趣味がなく、落ち込んだ時に自分を元気づける手段を持っていませんでした。ですが最近は、休日にウィンドウショッピングを楽しんだり、散歩をしたり、好きなイラストを描いたりして気分転換をしています。疲れた時には大好きな抹茶アイスを食べるのも楽しみの一つです。

――― 英語の勉強もされているとお聞きしました。
はい!職場や街中で英語を使う機会があるため、「スムーズに英語でコミュニケーションが取れたらカッコいいな」と思い、日常的に英語のラジオを聞いて勉強しています。英語を勉強している時間そのものが自分磨きにもなっていますし、趣味や学びを通じて自分の心を満たす時間が、お仕事を長く続けていくための良いエネルギーになっています。
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