
突然ですが、こころの健康とは何でしょう?何がどうなれば心の健康は回復し、周囲はどうすればそれを支えられるのでしょうか?
薬を飲むこと?認知の修正?問題解決?自助グループへの参加?
いずれも非常に役立つスキルばかりですが、目指すべきゴールそのものとは異なります。それでは一体目指すべきゴールとは何なのでしょう?
2025年8月29日にKaienが開催した特別セミナーでは、東京歯科大学精神科准教授の宗未来先生をお招きし、医学的な『正しい心の使い方』について 「心の病気の治癒とは何がどうなることなのか」といったテーマで、実践的な知識とヒントをお話しいただきました。
この記事を読むことであなたの心の健康を回復するヒントが見つかるかもしれません。
本記事では、心の治癒で目指すべきゴールについて研究や現場の知見を交えて解説します。
※本記事は、2025年8月29日に行われたKaien特別セミナーを分かりやすく編集した記事です。より詳細な内容は、ぜひ以下のウェビナー動画をご覧ください。
もう悩まない!「一次感情」と「傾聴」で人生を生きやすくするヒント Kaien特別セミナー 医師が語る『結局、心の治癒で目指すべきゴールは、たったひとつ』#認知行動療法 #対人関係療法 #宗未来
講師:宗未来医師 東京歯科大学 精神科 准教授 (東京歯科大学市川総合病院精神科部長)
司会:鈴木慶太(株式会社Kaien 代表取締役)
目次
すべての原因は「一次感情不全」
こころの問題とは何なのでしょうか?こころの問題とはずばり「一次感情不全」なのです。
一次感情…喜怒哀楽といった、最も原始的で本能的な感情、つまり「本音の感情」です。ピークを迎えれば必ず和らいでいく性質を持ちます。
一次感情不全…一次感情の感じ方(感度)が病的に鈍くなっている状態を指します。
一次感情を感じられない状態、つまり一次感情不全が続くと、その辛さを「ごまかす」ために、怒り、不安、幻聴、依存症、身体の異常など、さまざまな問題症状が噴出します。
うつ病の気持ちの落ち込みやパニック障害の不安も、コアにある辛すぎる一次感情を避けようとする結果として生じていると考えられています。しかし、このコアにある一次感情を「強烈に深く感じる」ことができれば、これらの症状は消えていくことが分かっているのです。(長年病気を抱えていると治りにくくなります)
つまり、こころの治療のゴールとは
「一次感情」をありのままに感じられるようになること
なのです。
一次感情と「二次感情=偽装の感情」を区別する
一次感情をありのままに感じると言ってもどのようにすればよいのでしょうか。この問題を理解する鍵は、感情を「一次感情」と「二次感情」に分けることです。
| 特徴 | 具体例 | |
| 一次感情(本音) | ・初めに湧き出る本能的な感情・誰にでも理解できる | ・喜怒哀楽 |
| 二次感情(偽装) | ・後半に連鎖的に出てくる人工的な感情反応・他人にも理解しづらい | ・罪悪感、虚無感、自己嫌悪、劣等感など・膨れ上がった一次感情 |
膨れ上がった一次感情とは、例えば駅で肩がぶつかった際、いきなり切れて殴りかかるような怒りの感情です。イライラする程度であれば他人にも理解できる感情ですが、ここまでになると他人にも理解しづらいものとなります。
また、辛い一次感情から目を背け、回避すると、一瞬は楽になりますが、人工的な二次感情が徐々に出てきて、消えなくなってしまうのです。
そしてその二次感情を消すためには、その奥にある一次感情を満たすことが必要なのです。
例えば「私と仕事、どっちが大事なの?」と怒る人も、その激しい怒り(二次感情)は、本当の「愛されているのか?」「悲しい」「寂しい」といった一次感情を蓋をするためのダミーです。怒りの奥にある一次感情が、優しくハグされるなどして満たされれば、怒りは消えるのです。

「傾聴」が心の治癒の命綱に
苦痛な一次感情を感じ切ることは、一人では非常に困難です。また、悲しい感情も、共感があることによって深く悲しむことができます。
認知行動療法など、様々な心理的介入の共通点は、苦痛な一次感情を感じ切ることで、偽装の感情や二次感情を無意味化することを目指しています。つまり傾聴の目的とは、この一次感情の感度を高めることなのです。
傾聴する際は、相手の偽装の感情に振り回されず、その背後にある一次感情を丁寧に感じ取ることが重要です。
傾聴する際の危険な行為として、「会話のハイジャック」が挙げられます。これは、アドバイスしたくなったり、最後まで話を聞かずに口を挟んだりすることです。コミュニケーションを「信号」に例えると。
・赤信号: 相手がまだ話し終わっておらず、抵抗感や不満がある状態
(「いや、でも」「そうは言うけど」といった逆説、または無言の抵抗)
・青信号: 相手が気持ちを満たされ、聞く準備ができた状態
(「はい、そうなんです」「分かってくれますか」といったイエス)
ポイントは青信号になるまで、ひたすら傾聴・共感することなのです。
「傾聴しすぎると甘やかしになるのではないか」という懸念がありますが、傾聴は徹底的にするべきです。心の底から一次感情が満たされたら、人は「飽きる」のです。そして満たされない状態を解消すれば、健全な方向に注意がそれていくのです。
また、当事者同士のピア効果も非常に重要です。同じ体験をした、繊細な人でなければ、完全な共感は難しい側面があり、当事者同士のネットワークは、一次感情が満たされる上で大きな役割を果たします。

今すぐできる心のセルフケア術
健康度が高い人や回復に向かう人は、自分一人でできるセルフケアも有効です。
①瞑想・マインドフルネス: 言語化して考えすぎるのではなく、一次感情や身体感覚を感じることに焦点を当てます。感情を感じ切ることで脳のノイズが消え、ストレスフリーの覚醒状態を目指します。
②筆記の活用(日記): 書くという行為は、特にワーキングメモリーに負担がかかりやすい人にとって非常に有効です。紙に書くことで記憶を委ね、一次感情を感じたり、一歩引いて自分を客観視したりといった「マルチタスク」を効率的に行うことができます。
③俯瞰の目(脱中心化): 激しく燃える感情から距離を取り、辛い現実が変わらなくても、苦悩を半減させる客観視の目を養います。これは練習すれば習得可能な方法です。
心の治癒の本当のゴール:「絶望の先に得られる受容」
心の治癒のゴールは、一時的な感情の快復ではなく、一次感情を感じ切ることで得られる変容と受容です。
人生の絶望的な状況に直面したとき、人間はまず、絶望や悲しみから目を背け、抵抗を起こします。しかし、望む解決が得られない状況を、しっかりと感じ切ることで、必ず感情は和らぎ、健全な諦め(受容)へと移行します。苦痛の一次感情を感じ切ることは、受容を促進するのです。
健康な状態とは、動物のように悲しめる状態です。深い悲しみを逃げずに経験し、心から泣くことができたとき、長年苦しんでいた心の傷が癒され、深い安らぎと、当たり前の日常が輝いて見えるような本質的な幸福感が得られるでしょう。
ゴールはシンプルですが、その達成は容易ではありません。しかし、諦めずにそのゴールを目指していくことで、必ず今より良い状態になっていくのです。
あなたも心の健康のために一次感情をより深く感じるための一歩を踏み出してみませんか?

