衝動買い・浪費を断ち切る!「意思の力」に頼らないお金の管理術

公開: 2025.12.8

「なぜかお金が貯まらない」「気づいたらクレジットカードの引き落としに怯えている」—もしあなたがそう感じているなら、それはあなたの「努力不足」だけが原因ではないかもしれません。

衝動性や計画性の困難といった発達障害(ADHDなど)の特性は、金銭管理と非常に相性が悪く、浪費や買い物依存に繋がりやすいことが指摘されています。

2023年11月15日にKaienが開催した特別セミナーでは、発達障害当事者でお金のプロである岩切健一郎先生をお招きし、買い物依存や浪費で苦しむ当事者やご家族、支援者向けにお話しいただきました。

本記事では、特性を踏まえた上で「意思の力」に頼らないお金の管理術を解説します。

※本記事は、2023年11月15日に行われたKaien特別セミナーを分かりやすく編集した記事です。より詳細な内容は、ぜひ以下のウェビナー動画をご覧ください。

発達障害当事者の“お金のプロ”が教える「買い物依存/浪費対策」 イイもの依存になっている?ADHDのあなたが向き合うべき部分と仕組化に頼るべき部分を解説

講師:岩切健一郎先生(合同会社ひなた 代表社員・FP1/CFP®)

聞き手:鈴木慶太(当社代表取締役)

「発達特性とお金」の危険な関係

突然ですが、以下のチェックリストの中で当てはまる項目はいくつあるでしょうか?

  • オフ自宅の片付けが苦手
  • オフ物欲が抑えられず、クレカの引き落とし日に困る
  • オフ計画を立てるのが苦手
  • オフうっかりお金の支払いを忘れることがある
  • オフどちらかと言えば思い込みが激しい
  • オフ免許証の再発行を何度かしている

皆さんはこの内いくつの項目が当てはまったでしょうか?そしてこのチェックリストは何のチェックリストなのでしょうか?

一見ADHDの特徴にも見えるのですが、実はこれは多重債務者になった方の特徴をチェックリスト化したものなのです。

多重債務者のチェックリストの項目は、発達障害(ADHD)の特性と驚くほど似ているのです。自宅の片付けが苦手、物欲が抑えられずにクレカの引き落としに困る、計画を立てるのが苦手、支払いをうっかり忘れる、といった項目は、まさにADHDの特性そのものと言えます。この事実は、発達障害の特性とお金の管理の相性が非常に悪いことを明確に示しています。

また、買い物依存症の特徴とされる以下の点も、ADHDの特性である衝動性や計画の困難さと合致している部分があります。

買いたい気持ちを抑えられず、借金も厭わない

必要性に関わらず買ってしまう

買い物中に時間の感覚が麻痺する

常に欲しいものを探している(AmazonやInstagramなど)

衝動買いも多い

家族の忠告に聞く耳を持たない(要注意項目)

買い物依存を改善しようというのが今回の大きなテーマですが、買い物依存はなぜ改善する必要があるのでしょうか?

買い物依存を改善すべき最大の理由は、「誰かに迷惑をかける可能性」を断つためです。これは、家族や友人のみならず、「未来の自分に大きな負債を残してしまう」ことを意味します。

ADHDの特性と特に相性が悪いのが、「リボ払い」です。

リボ払いとは…クレジットカードの利用金額や利用件数に関わらず、あらかじめ設定した一定の金額を月々支払う方式。どれだけ使っても返済金額は一定

似たようなものとして分割払いがありますが、リボ払いとは以下の違いがあります。

支払方法返済の特徴
リボ払いどれだけ使っても返済金額は一定
分割払い使った分返済金額が大きくなる

リボ払いをすると月々の返済額が変わらないため金銭感覚が麻痺し、気づいた時には利用残高の利息ばかりを払う「蟻地獄」に嵌ってしまうのです。また、リボ払いは金利が高く将来の足かせになるため、すぐにやめるべきです。

趣味と依存症の境目、依存症とADHDの相関関係

どこからが趣味としての買い物でどこからが買い物依存症になるのでしょうか?その境目は下記の通りになります。

  • 趣味・好み…リフレッシュになる。生活に影響はなく、「健康的状態」を保てる。
  • 依存症予備軍…買いたいものが頻繁に頭をよぎり、たまに生活に支障をきたす状態
  • 依存症…自分で制御ができない、生活に支障が出る、金銭や時間を浪費する状態

また、ADHDと依存症には強い相関関係が認められています。

・ADHDの約15%が物質関連障害(薬物依存)を合併・ギャンブル依存症で医療機関を受診する人のうち25%がADHD

これは、ADHDの人が持つ、元気ややる気を感じさせる「報酬系」の神経ネットワークの弱さが原因であると考えられます。満足感を得づらいため、より強い刺激を求める傾向(買い物、ギャンブル、不倫など)に走り、これが「目の前の楽しいこと」を優先し、「本当に必要なこと」を後回しにする行動に繋がってしまうのです。

また、興味深い実験として「ネズミの楽園の実験」があります。自由で快適な環境(楽園ネズミ)と、檻に閉じ込められた環境(植民地ネズミ)のネズミにモルヒネ入りの水を飲ませたところ、植民地ネズミの方がモルヒネ水を多く飲みました。

これは、ストレスフルな環境ほど依存に走りやすい、つまり環境の影響が大きいことを示唆しています。また、植民地ネズミを楽園ネズミの環境に移すと、ほとんどがモルヒネを飲むのをやめたという後日談もあり、環境の重要性が示されています。

依存を加速させる「イイもの依存」

買い物依存に陥らないために必要なことは、お金の管理が苦手であるという自分の特性を自覚することが非常に大切です。自分の特性を自覚することで失敗を減らすための行動を取ることができる可能性が高まります。

また、買い物依存の根本にあるのは、単なる衝動性だけではありません。「イイもの依存」という独自の概念が提唱されています。

・「良いものを買わないと自分の生活は豊かではない」

・「節約は恥ずかしい、情けない」

高級な調味料、最新のiPhone、ステータスのための年会費の高いカードなど、特にこだわりはないのに、なんとなく良いものを選んでしまう。この思い込みこそが、借金を抱えながらも高級イタリアンに寄ってしまうような浪費を生み出してしまうのです。

 浪費を断ち切る「仕組み化」戦略

浪費を断ち切るためにはまず自分と向き合うことが大切です。自分と向き合うことができれば方法は後からでも調べて実践できます。

自分と向き合うためにまずは、

  • なぜ買い物をしてしまうのか
  • なぜお金が足りないと分かっているのに買ってしまうのか
  • なぜ衝動を抑えられないのか

といった問いを自分に投げかけてみてください。ここから対策のための糸口が見えてくるかもしれません。

また、自分の価値観を変えていくことも大切です。

買えないことや節約することは虚しいことや恥ずかしいこと」という価値観

                ↓

誰にも迷惑をかけずに自分の責任で人生を全うすることこそがかっこいい」という価値観

へとアップデートしていくことで無理な出費を減らしていくことができるかもしれません。

次に特性と向き合うことも対策の一つとなります。特性について自覚した上で理解を深めていくことが大切です。

「誰かに相談しましょう」や「仕組みで解決しましょう」といったアドバイスを受けても、特性の自覚や理解が不十分な状態で自分は大丈夫と思っていると効果はありません。

自力で解決しようと思っても解決できないのが特性です。「出来ないことは悪い」という価値観を外して、上手くやる方法を考えようと考え方をシフトしていくことが重要です。

では、具体的にどう進めていけばよいのでしょうか?下記の2つがポイントとなります。

一人でやらない

仕組み作り

①一人でやらない

一人でやらないというのは、相談できる人を作るということです。失敗を人に話すのは情けないと感じがちですが、隠すと事態は必ず悪化します。人によっては勇気が必要な行動かもしれませんが、むしろ等身大の自分を受け入れられることは非常に素晴らしいことです。「自分でどうにかできる」という過信を捨て、専門家や家族に頼りましょう。

  • 家族に頼る: 通帳管理やお小遣い制など、強制力を働かせて物理的に管理してもらう
  • 自助グループに繋がる:自分の経験を話したり相談する
  • 専門家に頼る: 当事者の事情が分かるFPに相談する。(有料)

強制力が働いてもなお、隠れてやってしまう場合には医療機関を受診することが推奨されます。

②仕組み作り

発達障害の特性を持つ人にとっては、「家計簿をつける」といった一般的なアドバイスでは長続きしないことが多いです。できないことは努力で乗り越えるのではなく、「仕組み」を作って解決することが重要です。

具体的な例として、発達障害の診断を受けている方であれば 社会福祉協議会による日常生活自立支援事業を利用することができます。ここでは、費用はかかりますが預金通帳の管理や現金の出し入れをサポートしてもらえるサービスが受けられます。

また、継続が苦手な特性には、家計簿より「先取り貯金」が有効です。貯金しなければならない金額を算出して、先取り貯金の仕組みを作るのです。

※先取り貯金とは…給料が入ったら生活費より先に貯金する方法

ただし、先取り貯金の口座を作ればお金が貯まるかといえば、それだけでは十分でない可能性があります。別口座を作っても衝動的に手をつけてしまうリスクがあるのです。

よって最も重要な対策は、「貯金やカード、口座を自分で動かせないところに置いておく」ことです。一手間、二手間を加えて衝動買いする際に「手間」がかかる状態を意図的に作り出すようにするのです。

自分を強制的に制約できる環境に身を置くことが、脱却への大きな助けとなります。

そして、一般的なものではなく、その当事者の状況に合わせた独自の仕組み・対策を考えていくことが重要なのです。

苦しい状況にあっても必ず光はある

衝動的に使ってしまうのは特性でも、借金に対して『気楽に考える』態度は性格や価値観の部分となります。よって、全て特性のせいだという見方をするのではなく、特性と価値観を分けて向き合うことが大切です。

ちゃんとやればどうにかなる。必ず光がある。

現在苦しい状況にある方も、今日から「イイもの依存」を捨て、「仕組み化」に頼る一歩を踏み出してみませんか。

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