「自分の気持ちがわからない」「気持ちを言葉で伝えられない」と悩む方は、決して珍しくありません。
しかし、AIの進歩にともない、頭のなかのモヤモヤを言語化できるツールが少しずつ増えてきています。こうした状況では、AIの知識のある方とそうでない方とで、日々の仕事や就職活動の進めやすさに差が出てきてしまうかもしれません。
そこでこの記事では、自分の感情をつかんで言葉にするのが苦手な方に向けて、AIの最新ニュースや技術の課題、今日から気軽に試せるAIアプリなどをわかりやすく紹介します。
目次
AI最新ニュース第2弾!今回取り上げるテーマと前回までの流れ
第一弾の記事(※)では、AI普及による就労や就職活動の変化を大きな流れから解説しました。
重要ポイントを振り返ると、次のとおりです。
- AI活用が進むアメリカに比べると、日本企業はやや慎重な傾向がある
- しかし日本でも、AIは業務や就活に着実に普及しつつある
- だからこそ、AIを活用した就活や職業能力を身に付けておくと心強い
今回は第2弾として、自分の気持ちや状態をうまく言葉にできない方がAIをどう活用できるのか、というテーマで解説します。
本サイトを運営しているKaienは、発達障害*や精神疾患などがある方の就職・転職・復職を支援しており、そのサービスの一環でAIスキルを習得する職業訓練やAIを活用した就活講座などを提供している会社です。AIについての知識が就職や仕事で役立つことを現場感覚で知っています。
この機会に、ぜひ自分ごととしてAIの最新ニュースをフォローしてみてはいかがでしょうか。
※関連記事:AIの最新ニュースから読み解く!就労・支援分野の課題と対策を体験談付きで紹介
失感情症傾向とは?「自分の気持ちがわからない」生きづらさ
AIの最新ニュースを紹介する前に、「自分の気持ちが自分でよくわからない」という状態を表す「失感情症傾向」について解説します。失感情症傾向の特徴を知っておくと、AIの効果的な活用方法についても理解が進みやすくなるからです。
ここでは、失感情症傾向の特徴とそれによって生じる困りごとを解説した後、AI活用の大きな方向性を解説します。
失感情症傾向の特徴
失感情症(アレキシサイミア)傾向は、自分の感情をつかんで言葉にするのが苦手になりやすい状態を指す概念とされています。感情が消えるというより、喜怒哀楽にうまく名前を付けられないというイメージです。
具体例を幾つか挙げます。
- 嬉しいはずなのに実感がわかない
- 怒っていい場面なのに、「なんか変」といったあいまいな感情しか起こらない
- 体調の変化があるが、ストレスと結びつかない
上記をみてもわかるように、失感情症傾向の状態にはあいまいな部分があります。
ですので、人によっては、「疲れているだけかも」と思ったり、「性格の問題ではないか」などと悩んだりするかもしれません。しかし、失感情症傾向はそれほど珍しいものではなく、10~17%くらいの方がこの傾向を持つという調査結果(※)もあります。
仕事や人間関係で起きやすい困りごと
失感情症傾向が続くと、日常生活や社会生活で以下のような困りごとが出てきます。
- 「配慮がほしい」と職場に伝えたいが、理由を説明できない
- 休職理由を伝える文面が作れない
- 自分のストレス耐性がわからず無理をしてしまう
上記のような困りごとは、周囲にはなかなか理解されないため、「怠けている」「わがまま」などと誤解されやすいといえるでしょう。しかし、失感情症傾向は本人の努力や性格とは無関係ですので、あまりご自身を責めないようにしてください。
AIが失感情症傾向の方の助けになりやすい?
失感情症傾向の困りごとを減らすためのハードルとなりやすいのが、困っているのに説明できない=支援を受けられないという点です。そこで、自分でうまく言葉にできない部分を補う翻訳機としてAIを活用できます。
活用の方法・流れは、
- 体調・出来事・身体反応などの情報を記録
- アプリや生成AIに情報を入力
- AIが要約・分類・分析 する
- 何がつらいのかについてAIが候補を提示するので参考にする
というイメージです。
例えば、「この場面でモヤモヤする」「最近眠れない」など、日々の体調や感情をメモしてAIに整理してもらいます。自分でまとめたり分析したりしようとせず、思いついた順に記録するのがポイントです。失感情症傾向が苦手な言語化作業の一部は、AIが代わりに行ってくれます。
【AI最新ニュース】NTTの「マインド・キャプショニング」とは?
「AIに自分の気持ちなどわかるわけがない」などと、AIに懐疑的な方もいらっしゃるでしょう。しかし、AIの活用領域は驚くほど広がっています。
ここからは、NTTが開発した「マインド・キャプショニング」という最新技術を取り上げ、何ができるのか、なぜ話題となっているのかを解説します。
脳の活動から「見ているもの・思い浮かべているもの」を文章化する技術
マインド・キャプショニングとは、頭の中で思い浮かぶ映像に、AIが字幕を付けるような技術です。脳の活動による血流や酸素の変化をfMRIという装置で計測して、そのデータをAIが解析し文章にします。
なぜこのような機能を実現できるかというと、AIが脳情報を「パターン」として学習しているからです。
【AIの学習手順】
- 人に動画を見てもらい、そのときの脳の反応パターンを記録
- その動画を人が言葉で説明(例「犬が走る」「車が曲がる」など)
- 同じ参加者に複数の動画で1、2を繰り返す
- AIが「この脳の活動のときは、『走る』『犬』『公園』みたいな説明が出やすい」などとパターンを学習する
- 新しく計測したデータからAIが意味を推定し文章化する
これにより、「脳活動の情報 → 意味情報 → 文章生成」という流れで文章を作るのがマインド・キャプショニングです。
「マインド・キャプショニング」にできることと限界
マインド・キャプショニングは「なんでも心を読める」というものではなく、現時点では課題もあります。
【課題】
- MRI装置を用いた大がかりな計測が必要
- 1人あたり延べ17時間の計測を複数日行わないと高い精度を得にくい
- 学習していない映像パターンでは精度が下がる可能性がある
公開情報によると、結果は参加者6名の平均とされており、現状は少人数・研究室レベルの検証にとどまります。今のところ、病院やリハビリ施設などで使える段階ではありません。
しかし、方向性としては、人の脳活動のような複雑で膨大なデータも、AIで解析して言葉に整える研究が進みつつあります。
倫理やプライバシーへの課題感
マインド・キャプショニングの実用化にあたっては、倫理やプライバシーの問題もあります。つまり、「人の心を勝手にのぞいていいのか?」という問題です。
仮に失感情症傾向の方の治療や支援の一つとして、マインド・キャプショニングが活用されたとしましょう。この場合、もちろん本人の同意を取るでしょうが、「治療を受けてください」などと半ば強制的になる可能性があるのです。
さらに、病院や支援機関で集めたデータが情報漏えいすれば、プライバシーを侵害します。また、人の評価や選別に転用されれば、思想の検閲・統制につながると指摘する専門家もいます。
「マインド・キャプショニング」は言葉が出ないときの新しい支援ツールになりうる?
マインド・キャプショニングには課題もありますが、将来的に失感情症傾向のある方の助けになる可能性もあります。
例えば、医療機関では、つらい気持ちを説明する代わりに、その場面を「頭の中で再生」します。この脳内映像をマインド・キャプショニングで言語化できれば、医師がその文章を診察に活かせるでしょう。
また、職場に配慮を要請する際にも活用が考えられます。例えば、従業員が面談前に困りやすい場面を頭の中で再生し、マインド・キャプショニングで文章化してみます。すると、「この状況だと混乱しやすい」といった自分の特性を客観的に把握できるかもしれません。それによって、合理的配慮を求めやすくなります。
いまから使える「気持ちを見える化する」AIツールを紹介
マインド・キャプショニングの実用化はまだ先になりそうですが、もっと簡易的なAIツールも登場しています。具体的なアプリと、自分の気持ちを表現するのが苦手な傾向がある方におすすめの利用方法を解説します。
感情ログ・気分記録アプリの種類
気持ちの見える化アプリとしては、以下のようなものがあります。
- 自由記述の日記を記録すると、思考や感情を整理したフィードバックが届く
- 週次・月次単位で振り返りができる
【Awarefy(アウェアファイ):Android/iOS】
- 心理に詳しいAIにチャット形式で相談できる
- 会話データが溜まると、思考パターンやストレス要因などを分析できる
使い方は比較的簡単ですので、思考の壁打ち相手としてAIを気軽に活用してみてはいかがでしょうか。
発達障害特性と相性の良い使い方とは
発達障害の方は、自分の気持ちや意見を他者に伝えるのが苦手な傾向があります。そこで、発達障害の方にも先述したAIアプリが役立ちます。
発達障害は生まれつきの特性でもあるため、何かを改善しようとするよりも、特性と上手に付き合うためのツールとして、気軽に取り入れるとよいでしょう。例えば、毎日記録を付けるのではなく、空白の日があっても良いルールで使ったり、不安や疲労などが起きたときだけAIに相談してみたりするなどです。
発達障害の方のなかには、視覚・聴覚の刺激に過敏な方、文字情報が苦手な方などもいて、疲れやすさにつながることもあります。シンプルなUIのアプリを選び、効果音や通知もうるさすぎないように調整して、負担がかからない形で利用しましょう。
【AI最新ニュース】AIにも苦手はある?なぞなぞ・時計から見る「AIの限界」
AIの最新ニュースをみると「人間の仕事がなくなるのでは?」などと不安になる方もいるでしょうが、AIは万能ではありません。ここからはAIの苦手分野がわかるニュースを2つ紹介した後、人間主体でAIを活用する大切さを解説します。
AIが毎分時計を描くとどうなる?「AI World Clocks」が教えてくれること
「AI World Clocks」は、9つのAIモデルに全く同じ指示でアナログ時計を作らせ、その結果を毎分更新して公開している実験サイトです。以下のサイトにアクセスすると、リアルタイムで結果を閲覧できます。
AIが作成したアナログ時計のなかには、時計に見えないようなレベルの間違いが混じっています。実はAIは、それらしい答えを即興で生成する作業は得意ですが、厳密な構造が必要なタスク(コード、表、レイアウト、帳票など)が苦手です。
数字が飛び出ていたり、針と数字のバランスがおかしかったりするのは、厳密な記述が必要なHTML/CSSコードにおいて、AIが「タグの閉じ忘れ」「位置指定のズレ」といったミスをしやすいからです。
「AI World Clocks」は、AIだからといって完璧な出力ができるわけではないという現状を教えてくれます。
日本語なぞなぞで試すと多くのAIは人間よりだいぶ弱い
JAISTの研究チームが開発した「なぞなぞベンチマーク」は、38種類のLLM(大規模言語モデル)と成人126人に同じなぞなぞを出題し、その成績を比較するテストです。その結果、人間の平均正答率が約52.9%であるのに対し、LLMは18.88%台にとどまりました。
AIの成績が伸びにくい背景としては、発想転換が必要な点や、人間のアハ体験にあたる確信が弱く、正しい回答を選び切れない性質などが関係していると指摘されています。
このニュースを見る限り、ひらめきや微妙なニュアンス、言葉遊びなどが必要な場面では、人間に軍配が上がるようです。
出典:Cornell University「The Nazonazo Benchmark: A Cost-Effective and Extensible Test of Insight-Based Reasoning in LLMs」
AIが全部わかってくれるわけではないという前提で使うのが大切
ここまでの2つのニュースからわかるのは、次の事実です。
- AIには苦手分野がある
- 苦手分野では、誤った出力が増える可能性がある
これらを踏まえると、次の点が大切になります。
- AIを便利な道具として適材適所で使い分ける必要がある
- AIの出力は「たたき台」として受け取り、最終的な判断は人間(自分)が行う
したがって、「AIが自分の気持ちを完全に理解してくれる」などと過信するのはリスクが高いといえます。AIに頼るのではなく、一緒に考えてくれるメモ帳・聞き役のような補助的なツールとして、使いましょう。
KaienのAI活用プログラムで「気持ちの言語化」と就労スキルを練習する選択肢も
AIを使いこなすには、知識の習得と練習が欠かせません。しかし、独学でAIスキルを身に付けるのは難しそうだと感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで、スキル習得を支援している例として、「Kaien」のAI活用プログラムをご紹介します。Kaienは、精神障害や発達障害のある方向けの就労移行支援、自立支援(生活訓練)、リワーク(復職支援)に強みを持っています。失感情症傾向や発達障害などの特性に応じたサポートも可能です。
AIと一緒に「自分の気持ち」を整理する練習
Kaienの生成AI講座・職業訓練は、生成AIの活用を通じて、仕事や就職活動に生かす方法を学べるプログラムです。生成AIとは、入力した文章を要約したり、言い回しを提案したり、文章を整えたりしてくれるAIで、ChatGPTやCopilot、Geminiなどが代表的です。
例えば、不安やしんどさを、しゃべり言葉で書き出して、AIに「要点を整理して」「短くまとめて」などと頼むプロンプト(AIへの指示文)を学べます。あいまいな気持ちをAIが言語化してくれるため、出力と調整を繰り返すうちに、本人の実感とすり合わせていけるでしょう。
また、「自分の強みは?」「配慮してほしい点は?」など、面接で聞かれそうな質問への回答を、AIと一緒に考える方法も学べます。さまざまな回答例を出力してくれるので、しっくりする答えを探しやすくなるでしょう。
Kaienでは、支援者が隣でサポートしながら学んでいくため、AIをはじめて扱う方でも安心です。
AI面接や職場を想定したトレーニングとの組み合わせ
第一弾の記事(※)では、AIが面接官役となる「AI面接」や、AIを活用した業務が広がりつつある現状を紹介しました。Kaienでは、こうした最新動向に対応したプログラムを提供しています。
AI面接対策では、実際にAI面接アプリや生成AIを活用して訓練を行います。失感情症傾向があり、気持ちを言葉にするのが難しいと感じる方は、あいまいな表現になりがちです。練習を繰り返しておくと、結論→理由→具体例のように筋道立てて話す手法や、言葉に詰まったときの答え方のコツなどが身に付きます。
また、職業訓練では、AIを使った資料作り・議事録要約などのさまざまなワークを行うのが特徴です。実際の業務に近い形式で訓練するため、近年企業からの需要が高いAIスキルを身に付けられます。
※関連記事:AIの最新ニュースから読み解く!就労・支援分野の課題と対策を体験談付きで紹介
AI最新ニュースを知り、特性に合わせて利用する支援と働き方を選ぼう
AIが急速に社会に普及するなか、働く方にとっても、AIの最新動向を知る重要性が高まっています。自分の気持ちを整理できるAIや、採用面接の練習に使えるAIアプリなども出てきているため、AIについて学んでいくと社会生活で役立つ場面が増えるでしょう。
しかし、AIはまだ新しい技術であり、一人では学びにくい環境にあります。Kaienなら、AI面接対策の講座や、AIスキルを身に付ける職業訓練などを提供しています。失感情症傾向や発達障害といった特性によって、日々の業務や就職、復職に難しさを抱えている場合には、ぜひお気軽にご相談ください。
Kaienのサービスについては以下の記事が参考になります。
関連記事:就労移行支援とは?対象者や受けられる支援、利用方法をわかりやすく解説
関連記事:障害福祉サービスとは?種類や利用の流れ、受給者証について解説
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

監修 : 鈴木 慶太(株式会社Kaien 代表取締役)
元NHKアナウンサー。自身の長男が発達障害の診断を受けたことをきっかけに、米国留学(MBA取得)を経て株式会社Kaienを設立。 「数的な凸凹があっても、強みを活かして働ける社会」を目指し、大人向けの就労支援から子ども向けの学習支援(TEENS)まで幅広く事業を展開している。 経営者として、また一人の親としての視点を交えた発信は、多くの当事者・家族から支持を得ている。
▼ 代表・鈴木に直接質問できるライブ配信も開催中。毎週開催の「Kaienお悩み解決ルーム」ほか、就職や生活に役立つ情報を配信しています。
