セルフ・コンパッションとは?「自己肯定」でも「自己批判」でもない第三の道

公開: 2026.1.14

皆さんはセルフ・コンパッションという言葉を聞いたことがあるでしょうか?

自己批判や自己肯定とはどう異なるのでしょうか?そしてそれを実践することによってどのような効果が得られるのでしょうか?

2023年7月12日にKaienが開催した特別セミナーでは若杉忠弘先生をお招きし、セルフ・コンパッションとその実践方法についてお話しいただきました。

本記事では、セルフ・コンパッションの概要や実践の方法や効果について研究の知見を交えて解説します。

※本記事は、2023年7月12日に行われたKaien特別セミナーを分かりやすく編集した記事です。より詳細な内容は、ぜひ以下のウェビナー動画をご覧ください。

自己批判でも自己肯定でもない第三の道 自己批判から抜け出す『セルフ・コンパッション』 Kaien特別セミナー 講師:若杉忠弘先生(グロービス経営大学院教員/経営学博士)

講師:若杉忠弘先生(グロービス経営大学院教員/経営学博士)

聞き手:鈴木慶太(Kaien代表取締役)


自己批判と自己肯定の落とし穴:なぜどちらも健全ではないのか?

私たちは、つらい状況に直面したとき、下記の2つの反応のどちらかに陥りがちです。しかし、実はそのどちらもが、長期的には私たちの心を蝕むリスクを孕んでいるのです。

①自己批判

まず一つ目は、「自分はなんてダメなんだ」と責める「自己批判」のパターンです。これは自信の低下抑うつ症状につながりやすく、特に日本人は世界的に見てもこの傾向が強いことが指摘されています。

②自己肯定

二つ目は、「自分は悪くない、周りが悪い」と開き直る自己肯定のパターンです。これは一時的に自分を傷つけずに済みますが、本当に自分に非がある場合の改善意欲や学習機会を失ってしまう可能性があります。さらに、わがままや自己中心的なエゴの強い人間になってしまう危険性も秘めています。

よって自己批判も自己肯定も、つらい感情への対応としてはいずれも不健全なのです。では、私たちはどうすればよいのでしょうか? その行き詰まりを打破する「健全な対応策」こそが、今回取り上げるセルフ・コンパッションです。

セルフ・コンパッションとは自分を卑下することでもなく、過剰に正当化することでもなく

自己批判でも、自己肯定でもなく大切な友人に思いやりを持って接するように自分自身に思いやりをもって接すること 

なのだと先生は話しています。


例えから学ぶ!セルフ・コンパッションの核心と3要素

セルフ・コンパッションの本質を理解するために、日常で起こりうる「ガラスで指を怪我をしてしまった」という状況から考えてみましょう。

指を怪我してしまったとき、最も健全な対応は何でしょうか? それは「割れたガラスを置いたままにした誰かのせいだ!」と怒ること(環境や他人のせいにする、過度な自己肯定)でも、「なんて自分は不注意でダメなんだ」と悔やむこと(自己批判)でもありません。

正解は、ただちに「傷口を手当する」ことです。 

セルフ・コンパッションとは、まさにこの「手当てをする」という行為そのものなのです。

いま感じている「痛み」をそのまま受け入れ、大切な友人が傷ついているときと同じように、自分自身にも温かな手当てを施してあげる。これこそが、自分を大切にするための最も本質的なアプローチなのです。

このセルフ・コンパッションは、以下の3つの構成要素から成り立っています。

マインドフルネス
良し悪しの判断をせず、今この瞬間の体験(「指を怪我して痛い」という事実)をありのままに認め、受け入れることです。

共通の人間性
辛い体験は自分だけでなく、人間であれば誰もが経験することだと知ることです。この認識を持つことで、「自分だけが辛い」という孤独感の幻想から解放され、人との繋がりを取り戻せます。

自己への優しさ
失敗した友人に声をかけるように、「頑張ったね」「つらかったね」といった思いやりと励ましの言葉や姿勢を、自分自身にかけることです。


今日からできる!実践ミニ演習とメリット

先述した3つの構成要素をもとに、実際にセルフ・コンパッションの練習をしてみましょう。この練習は頭の中で出来るのでどこでも可能です。

初めに、過去のつらい出来事を思い出します。ただし、練習なのであまりつらい出来事は避けましょう。

①マインドフルネス:その出来事について判断せずに、湧いてきた感情や考えを認めてあげます。

②共通の人間性:この辛さは自分だけではなく人間なら誰でも経験することだということを思い起こします。

自分へのやさしさ:大切な友人に伝えるように、自分自身をいたわる言葉をかけてあげます。

この3つのポイントを踏まえることがセルフ・コンパッションの実践になります。


セルフ・コンパッションの実践をすることで人生への満足感が得られたり、自信が芽生えるなど自己肯定感を向上させることができます。また、抑うつ症状、不安、失敗への恐れやストレスといったネガティブな感情を軽減させることができます。

一方で、セルフ・コンパッションを行うことは自分にとってメリットはあるが、周囲の人にとってはどうなのという疑問が出てきます。自分を思いやることで「わがままになるのでは?」「怠け者になるのでは?」というネガティブな信念は根強くあります。しかし、これらの信念は心理学のデータによって明確に否定されています。

ネガティブな信念データに基づく事実
わがままになる自分も周りも大事にでき、人間関係がうまくいくようになります。
弱虫になる健全な強さが育まれ、逆境から力強く回復できるようになります。
怠け者になる弱点を認識し受け入れられるため、改善努力をしっかりとするようになります。

セルフ・コンパッションで自己犠牲の連鎖を断ち切る

更にセルフ・コンパッションは、他者を支援する立場の方(ケアギバー)が自分自身を守りながら活動を続けるために非常に有効です。

1.「親の心の安定」が子どもへ伝播する

親が自分のネガティブな感情をしっかりと受け止められるようになると、後悔、イライラ、自己批判、孤独感が緩和され、子どものネガティブな感情も受け止められるようになります。

また、親の心が落ち着くことで、子どもの心も安定するというポジティブな連鎖が生まれます。特に、発達障害の子どもを持つ親は、セルフ・コンパッションを実践することで、悩みが減り、幸せを感じ、人生に満足し、親としての役割に自信を持つことができるようになります。

2.「共感疲労」を乗り越え、助ける喜びを取り戻す

「共感疲労」とは他人の苦難や困難に対して共感や思いやりを持つことによって、心理的な疲労やストレスが引き起こされる現象のことです。セルフ・コンパッションの実践によりクライアントや子どもに寄り添うことで生じる共感疲労が減り、相手を助ける喜びが増します。

3.  自己犠牲ではない「自分と相手の共存」へ

「自分を犠牲にして尽くさねば」という自己犠牲の考え方は、最終的に自身を疲弊させ、支援の継続を困難にしてしまいます。セルフ・コンパッションは、周りを助けるためにもまず自分を大事にするという健全な考え方を実践するのに役立ちます。これは、自己中心でも自己犠牲でもない、自分と相手の利益を両立させる道です。


セルフ・コンパッションを高める2つのアプローチ

では、実際にセルフ・コンパッションをどう高めていけばよいのでしょうか?セルフ・コンパッションを高めていくには2つの方法があります。

信念変更: 自分への「許可」を出す

セルフ・コンパッションに対して懐疑的な見方をするのではなく、セルフ・コンパッションは良いものだと、信念を変えることです。元々、私たちはセルフ・コンパッションという技術を「標準装備」で持っているため、この信念を変更し、自分に許可を出すだけで、セルフ・コンパッションのレベルは自動的に高まります。

練習: 心の筋トレを繰り返す

セルフ・コンパッションは技術であり、筋トレと同じように繰り返すことで効果が出ます。上記で紹介した3つのポイントである「マインドフルネス」「共通の人間性」「自己への優しさ」の3つのポイントを繰り返し練習することで、スキルとして高まっていきます。


セルフ・コンパッションについてのQ&A

Q. 自分のセルフ・コンパッションのレベルを計測するにはどうすれば良い?

✅ セルフ・コンパッションの度合いを計測するアンケートがあり、自分のセルフコンパッションスコアを測定することができます。アンケートはワークブックやネットで検索することで見つけることができます。

Q. マインドフルネスに関心を持っていない人にどう関心を持ってもらうのか?

✅ セルフ・コンパッションに関心を持っていない人に、その実践を勧めるのは難しく、またその信念を強制的に書き換えることは困難です。そのため最も効果的な方法は、自分自身がセルフ・コンパッションを実践し、それを体現して見せることに尽きます。特に親子関係の場合には、親が体現することで子供がそれをしてよいのだという風に取り込んでくれる可能性があります。

Q. 実践にあたってのおすすめの取り組み方は?

✅ まずは実践へのハードルを高くしないようにすることが大事です。また、時間帯はいつでも大丈夫ですが、朝に取り組むことがおすすめです。セルフ・コンパッションは意図を持つことが非常に重要です。過去の自分のセルフ・コンパッションの経験(自分のことを考えて敢えて休息を取ったなど)を少し思い返した上で、今日もセルフ・コンパッションを実践しようという意図を設定することで、精神状態がプラスに働きます。

Q. 思いやりの対象を向ける人が思い当たらない場合はどうすれば良いか?

✅ 思いやりの対象は人に限る必要はありません。自分の好きなキャラクターや飼っているペットでも大丈夫です。自分が大切にやさしく出来そうな対象をきっかけにして始めていきましょう。


セルフ・コンパッションで本来の自己肯定感を得る

セルフ・コンパッションは、自分を思いやる技術を磨くことで、自分も周りの大切な人も大事にできる、素敵な生き方を開いてくれる方法です。

また、セルフ・コンパッションは、本来的な意味での「自分の存在をそのまますべて承認する」という真の自己肯定感を得るための道標(アプローチ)として機能します。

セルフ・コンパッションを実践するにあたっては何か特別な準備をする必要もなく、頭の中でどこでもすぐにでも短時間からでも実践することができます。

皆さんもこれを機に自分を大切にするため、また周りの人を大切にするためにセルフ・コンパッションを始めてみませんか?

サービスについて詳しく知りたい方はこちら
就職を目指す方
就労移行支援
自立を目指す方
自立訓練(生活訓練)
復職を目指す方
リワーク(復職支援)
学生向けの就活サークル
ガクプロ(学生向け)