
▪年齢:30代前半 ▪診断名:アスペルガー症候群(2012年)、二次障害としてうつ・不安障害 ▪特性/苦手:過集中、気遣いにより疲労を溜めやすい傾向/タスクが重なると優先順位が分からなくなり、混乱してしまう ▪就職:事務職 |
幼稚園から始まっていた「ドロップアウト系」の兆候
―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?
幼稚園のとき、一人で排水溝をふさいで水遊びをしていたという話を親から聞いたことがあります。集団生活のなかで友達ができず、親が「今日幼稚園行く?」と尋ねると「幼稚園に行きたくない」と言って休んでいた日もあったと聞いています。
その後、高校では不登校を経験したこともあり、今思い返すと「幼稚園の頃からすでにそうだったんだな」と、自分ではちょっと面白く感じています。
―――ご自身の性格を一言で表すなら?
「優柔不断」です。何かを一つに絞りきれない場面が多くて、質問にも一つの答えを決めきれないところがあります。
―――周囲と自分の違いを感じたことはありますか?
高校の入学直後、クラスに馴染もうとしたものの「友達になれそうな人」が分からなくて、とても困った記憶があります。両親には「波長が合う人は自然と分かるよ」と言われたのですが、自分にはまったく分からず……。その後、登校できなくなりました。今思えば、人との距離感を掴むのが苦手だったのだと思います。
高校時代までは人と話すのが苦手でしたが、20歳を過ぎた頃から少しずつ自分から積極的に話しかけるようになりました。Kaienに通い始めた頃には、自然と周囲に声をかけられるようになっていたと思います。
―――ご自身の特性や苦手なことについて教えてください。
体力の管理が苦手で、気遣いや過集中による疲れに気づきにくいところがあります。外では緊張していても自覚がなく、帰宅して一気に疲れが出ることがよくあります。
現在の職場でも、面接の時点で「1時間ごとに5分間の休憩が必要」と伝えていて、実際にその働き方を取り入れています。

うつからの回復とKaienとの出会い
―――Kaienに通う前はどんなことをされていましたか?
職歴は学生アルバイトくらいです。5年遅れて大学に入って、卒業後、Kaienとは違う就労移行支援機関に通ったのですが、うつが再発してしまい、通うことができなくなりました。
ちょうどコロナ禍の時期でもあり、なかなか回復できず、ようやく動けるようになったのが32歳のときです。そのタイミングで、母がKaienを見つけてくれて、一緒に見学に行きました。
―――Kaienを選んだ決め手は何でしたか?
以前の支援先は、学校のような画一的なプログラムで柔軟性がなく、自分には合いませんでした。Kaienは、会社のような机の配置や講師の関わり方などが“本番”に近く、実践的だと感じました。
体験時に見た動画プログラムで「就活の進め方」を初めて理解できたことも大きかったです。「ここなら就職できるかもしれない」と思えました。
「ようこそ先輩」の言葉が希望の光に
―――訓練を始めた当初は、どんな気持ちでしたか?
うつからは回復していても、自尊心はまだ回復できていませんでした。Kaienなら就職できるかもという希望はあったものの、「本当に働けるのか」という不安はぬぐいきれてませんでした。
―――訓練の中で、苦手なことや特性をどのように把握していきましたか?
キャリアカウンセラー(CC)の方がじっくりと話を聞いてくださったおかげで、自分の状態や特性を素直に見つめ直せました。「疲れやすい」ということも、特性として受け止められるようになったことで、気持ちが少しずつ整理され、「これでいいんだ」と自信につながっていきました。
―――「ようこそ先輩」で実際に働く方の話を聞かれたとき、キャリアプランのイメージはどのように変わりましたか?
登壇されていた先輩の多くは、自分より若い時期に就職されていたので、「自分とは少し違うかも」と感じることもありました。でも、なかには私より年上で就職された方もいて、その方が「今の仕事は天職です」と生き生きと話されていたのが、とても印象に残っています。
その方は、最初リアルタイムの音声でやり取りをするコールセンターで働いていたそうですが、その後に文字でやり取りする部署へ異動されたそうです。音声よりも文字のほうが自分に合っていたと話していて、そうやって自分に合う働き方や居場所は後から見つけていけるんだな、と希望が持てました。
「今からでも遅くない」と思わせてくれた、大きなきっかけになったと思います。
―――訓練の中で特に印象に残っているエピソードを教えてください
訓練生同士で行う「公開面接」が印象的でした。緊張でうまく答えられない方の面接を見ていても、その人の誠実さがしっかりと伝わってくることに気付いたのです。完璧じゃなくても「伝わるものがある」と実感でき、自分の面接への不安も和らぎました。
―――最も長く所属していたコースでは、どんなことに取り組まれていましたか?
一番長くいたのはクリエイティブコースですが、実際にはパソコンを使った事務作業の実践訓練を多く行いました。
―――訓練中、苦手だったことやうまくいったことはありますか?
ガントチャートの作成がとても難しかったです。業務をどこまで細かく分解するかの判断がつかず、うまくまとめられずに苦戦しました。
一方で、グループワークの中ではファシリテーター役を担当することが多く、うまく場を回せた手応えがありました。話していない人に自然に声をかけたり、緊張を和らげたりする工夫ができたと思います。ただ、責任が重いと緊張するタイプなので、「副リーダー」くらいの立ち位置がちょうど良いことにも気付きました。
―――講師の方とのやり取りや面接練習で、特に役立ったことはありますか?
赤ペンや面接練習など、講師の方に1対1で指導してもらうプログラムがありました。たくさん話をする中で、「今の自分に必要なアドバイスをくれるのはこの人かも」というのがだんだん見えてきて、そのときの気持ちや目的に応じて講師の方を選ぶようにしていました。
たとえば、「今回はちょっと優しく背中を押してもらいたい」と思ったときは温かく寄り添ってくれる方にお願いして、「ここはしっかり対策したい」と思ったときは厳しめにフィードバックしてくれる方にお願いしていました。
特に面接の直前などは、安心感をもらえるような方を選んで練習してもらっていました。
―――訓練を通じて学んだこと、今後の仕事にも役立ちそうなスキルは何ですか?
たくさんの人に支えられていることを自覚し、そしてその支えに対して遠慮しすぎず、しっかり受け取って自分の力に変えていくことが大切だと学びました。
仕事は決して1人でできるものではないので、「頼ってもいい人」が周りにいることを意識しながら働くことが大事だと思っています。
具体的なスキルとしては、訓練でエクセルの関数をしっかり身につけられたことが、今の仕事にも活きています。
―――訓練を経て「自分が変わった」と感じることはありますか?
一番大きな変化は、自尊心を取り戻せたことです。
以前の支援先ではうつが再発してしまったのですが、Kaienでは、スタッフの方々が本当に私のことを見てくれて、褒め方や関わり方も形だけではなく、「ちゃんと能力を見てくれている」と感じられました。
キャリアカウンセラーの方の関わりが特に印象的で、「私の扱いが上手だったな」と思えるくらい、自分に合った接し方をしていただけたと感じています。

一社集中で臨んだ就職活動
―――就活は訓練開始からどのくらいで始められましたか?
5月に訓練が始まって、12月頃から本格的に就活に入りました。
―――何社に応募されましたか?
一社のみです。マルチタスクが苦手なので、CCの方と「一社ずつ丁寧に進めよう」と話し合って決め、最初の一社目で無事内定をいただけました。
―――就活の軸はありましたか?
週4勤務・時短勤務で体力に配慮した働き方ができることを重視していました。ただ、実際には通勤時間が長めだったのですが、「この人たちと働きたい」と強く思えた職場だったので、最終的にそこに決めました。
―――就活で苦労したことはありますか?
書類添削や面接練習を依頼するために、講師の方へ依頼メールを送る際、自分にとってハードルが高く、とても緊張しました。不安障害もあるので、文章に失礼がないか気になってしまって……。
乗り越えるために、別の講師の方に下書きを見てもらってから送るようにしていました。今も会社でメールを送るとき、近くの方に確認してもらうことがあります。
―――やっておいて良かったことはありますか?
想定問答集をしっかり作り込んだことです。丸暗記はせず、要点をおさえてズレても戻れるように工夫しました。体験実習中に急に質問されたときにも役立ちましたし、自分を見つめ直す機会にもなりました。
―――今の就職先を選んだ理由は?
マイナーリーグのオンライン説明会に参加したときに、人事の担当者の方々の雰囲気がすごく良くて、この人たちと働きたいって思ったのが決め手です。
入社して4か月ほど経ちますが、職場の雰囲気がとてもよく、面接や説明会の印象とまったくブレがありません。
やりがいって後から見つかるものだと思っています。そのやりがいが見つかるまでの間、どうモチベーションを保つかって考えたら、やっぱり良好な人間関係が一番大きいのかなと思います。
―――今後挑戦したいことや目標があれば教えてください
まずは、今任されている業務をきちんとやり遂げたいと思っています。本当は週5勤務を目指したい気持ちもありますが、焦らず、無理をしないことを一番の目標にしています。
付録 〜Kさんのこと〜

―――趣味や休日の過ごし方は?
体力的にまだ土日に丸一日出かけるのは難しいのですが、金曜日の夜、近くに住んでいる友人とご飯に行っています。土日は、もっぱら家でゲームをしています。
―――最近楽しかったこと、嬉しかったことは?
初任給で家族にプレゼントを買えたことが、すごく嬉しかったです。両親にはお箸、姉にはかわいい花瓶を贈りました。
家族の支えもあってここまでこれましたし、初任給でのプレゼントは一つの目標だったので、喜んでもらえてよかったです。
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