
| ▪年齢:30代 ▪診断名:うつ ▪苦手なこと:大人数でのコミュニケーション、雑談、文章言語化 ▪就職先:コンサルティング会社(IT事務サポート職) ▪利用サービス:就労移行支援 |
防衛省・航空自衛隊での勤務を経て、約6年間に及ぶひきこもり生活を経験したTさん。社会復帰への強い焦りと、それ以上に大きな「働くことへの恐怖」を抱えていた彼が、いかにして大手コンサルティング会社の内定を勝ち取ったのでしょうか。
18回におよぶ面接練習や、苦手な言語化を補うための生成AI活用など、弱点をテクノロジーと努力でカバーした「自分らしい再起の道のり」を伺いました。
目次
「よく寝る子」だった幼少期と、こだわりが強すぎたプラモデル作り
―――まずは、Tさんの幼少期について教えてください。どんなお子さんでしたか?
一番古い記憶というか、親から言われていたのは「本当によく寝る子だった」ということです。1〜2歳の頃から、電車での移動中もすぐに寝てしまうような子どもだったみたいですね。
―――大人しいタイプだったのでしょうか。
いえ、小学生くらいまでは結構やんちゃだったと思います。中学生くらいから少しずつ落ち着いて、大人しくなっていきましたね。
―――ご自身の性格を一言で表すと?
「凝り性」ですね。何かを作り始めると、一部の細かいところにこだわりすぎてしまって、結局最後まで完成しない……なんてことがよくありました。
―――何か具体的なエピソードはありますか。
昔、プラモデルを作っていた時期があるんです。自分で色を塗るほど本格的にやっていたのですが、ある一部分の仕上がりに納得がいかなくてそこばかりに凝ってしまい、全体を完成させられなかったことが何度もありました。一つのことに集中しすぎると、周りが見えなくなってしまう性質があるのだと思います。
「社会常識のズレ」への違和感と、6年間に及んだひきこもり生活
―――これまでの生活の中で、周囲との「違い」を感じることはありましたか。
「社会常識が欠けている」というか、周りとのズレのようなものを感じることはありました。自分が「良かれ」と思ってやったことが、実は独りよがりで空回りしてしまっていた、という経験が何度かありました。
―――そのズレはご自身で気づかれるのですか。
大抵は、時間が経ってから自分で気づきます。「あ、あの時の自分の振る舞いは違ったな」と。過去の失敗を振り返って後悔することは多いですね。今でも恥ずかしくなるような「黒歴史」がたくさんあります。
―――前職は防衛省・航空自衛隊という非常に特殊な環境だったと伺いました。
元々、安全保障や軍事に関する分野に興味があったので入隊しました。部署にもよりますが、数年おきに異動があり、勤務が非常に厳しい時期もありました。そこで心身のバランスを崩し、うつ病と診断されて退職することになったんです。
―――退職されてから、就労移行支援に繋がるまではどのような生活をしていましたか?
約6年間、無職の状態で半分ひきこもりのような生活を送っていました。ずっと「いつかは働かなきゃいけない」という焦りはありましたが、なかなか一歩が踏み出せずにいたんです。
そんな時、知人から就労移行支援というサービスがあることを教えてもらい、いくつかの事業所を見学した中で、IT訓練が充実していた事業所に通うことを決めました。
働くことへの「恐怖」が「意欲」へと変わった訓練の日々

―――訓練を始めた当初、どのような目標を持っていましたか。
一番は「働く意欲を取り戻すこと」でした。長期間社会から離れていたので、働くことに対して漠然とした恐怖や恐れがあったんです。訓練を通じて、もう一度一歩を踏み出すための勇気を養いたいと思っていました。
―――実際に通い始めて、その恐怖心に変化はありましたか。
はい。少しずつ「自分も働いてもいいんだ」という前向きな気持ちに変わっていきました。同じように悩みながらも頑張っている仲間の姿を見たことが、大きな刺激になったと思います。
―――苦手だというコミュニケーション面については、何か対策をされましたか。
雑談などのコミュニケーションは今でも苦手意識がありますが、訓練の一環である「グループワーク」では、あえて積極的にリーダー役に立候補するようにしていました。
―――リーダーを務めるのは大変だったのではないですか。
本当に難しかったです(苦笑)。特に最初の頃は、メンバーとの意思疎通がうまくいかず、どうリードすればいいのか分からなくて……。でも、背景や能力が異なる多様な方々と情報を共有し、認識を合わせていくプロセスは、非常に勉強になりました。
生成AIを駆使し、自分の弱点をテクノロジーで補完する
―――訓練の中で特に印象に残っていることは何ですか。
「週替(しゅうがわり)」という実務に近い事務系の訓練の中で、生成AI(ChatGPTなど)を活用することに注力したことです。実は、私は自分の考えを言語化したり、文章にしたりするのが苦手なんです。
―――それをAIで補完されたのですね。
はい。報告資料のスライドに使う言葉や、発表の際のセリフをAIに提案してもらうようにしました。Kaienに来るまではAIを触ったことがなかったのですが、「これは自分の弱点を補ってくれる強力なツールになる」と手応えを感じました。
―――ITスキルの面でも収穫はありましたか。
IT専門コースでインフラエンジニアの講座を受けたのですが、これが自分には非常に難しくて(笑)。でも、そのおかげで「自分にできること」と「できないこと」が明確になりました。この自己理解があったからこそ、納得感のある企業選びができたと思っています。
18回の面接練習を経て、コンサルティング会社への切符を掴む
―――就職活動は、訓練開始から2ヶ月弱とかなり早い段階でスタートされていますね。
特に急いでいたわけではないのですが、たまたま自分の興味のある求人の締め切りが早かったんです。これまでの事務経験を活かせる仕事を軸に、3社受けて3社目で内定をいただきました。
―――就活で一番苦労したことは何ですか?
面接です。本当に苦手で……。想定問答集を作ったのですが、暗記も得意ではないので、何度も口に出して練習しました。最終的に、スタッフの方との面接練習は合計で18回も受けました。
―――18回! それはすごい回数ですね。
練習を重ねるたびに、少しずつ良くなっていく感覚がありました。また、内定をいただいた企業では3日間のフルリモート実習があったのですが、実際の業務イメージが掴めたことで、安心感を持って入社を決められました。
―――今、入社を控えてどんなお気持ちですか。また、今後の目標についても教えてください。
正直なところ、ワクワクよりも不安の方が大きいです。でも、12月から始まる6ヶ月の契約期間を全うし、次の更新をいただけるように、まずは目の前の仕事に丁寧に取り組んでいきたいです。
付録~Tさんについて

―――休みの日は何をすることが多いですか?
漫画を読んだり、アニメを見たりすることが多いですね。最近はAmazonやNetflixで、王道のジャンプ作品から少しマニアックな作品まで幅広く楽しんでいます。
最近だと、『瑠璃の宝石』という作品が面白かったです。休日はなるべくストレスを溜めないよう、インドアでゆっくり過ごすのが自分には合っているみたいです。
―――最後に、Tさんの「意外な一面」を教えてください。
実は、かなりの「めんどくさがり屋」なんです(笑)。何でもきっちりこなしているように見られがちなのですが、実際は書類の準備なども「めんどくさいなぁ」と思いながら、自分のお尻を叩いて必死にやっていました。
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