
ADHD(注意欠如多動症)は、集中が続かない、落ち着いていられないといった特性がみられる発達障害の一つです。
ADHD(注意欠如多動症)の特性は脳の働き方の違いによって起こるものであり、怠けや努力不足が原因ではありません。適切な対処法を知れば不安が和らぎ、生活もしやすくなるでしょう。
今回は、ADHD(注意欠如多動症)の特徴や診断基準、原因、対処法を解説します。ADHD(注意欠如多動症)の特性にお悩みの方は、ぜひチェックしてみてください。
目次
ADHD(注意欠如多動症)とは
ADHD(注意欠如多動症)は発達障害の一つで、不注意、多動性、衝動性といった特性がみられるのが特徴です。特性によって、学校や家庭、職場など、さまざまな場面で困難が生じます。
子どもの頃から特性がみられるケースが多いものの、大人になってから職場などで問題が顕在化する方も珍しくありません。成長とともに特性の表れ方が変化する場合があるため、年齢や環境に応じた理解と支援が重要とされています。
ADHD(注意欠如多動症)の分類
ADHD(注意欠如多動症)は、特性の現れ方によって以下の3つの型に分類されます。
| 不注意優勢型 | ・注意力・集中力が続かない・忘れ物やうっかりミスが多い |
| 多動・衝動優勢型 | ・落ち着きがない・後先を考えずに行動する |
| 混合型 | 不注意優勢型と多動・衝動優勢型の両方の特徴がみられる |
この分類は特性に対する理解を助けるためのものであり、どの型が良い・悪いというものではありません。複数の型の特徴が重なり合う場合や、年齢や環境によって目立つ特性が変わる場合もあります。
ADHD(注意欠如多動症)の診断基準と診断方法
医師が本人や家族の話を詳しく聞き、DSM-5と呼ばれる国際的な診断基準をもとに、生活全体の様子を総合的に見てADHD(注意欠如多動症)と診断します。
一般的な診断基準には、不注意・多動性・衝動性に関する設問の多くに当てはまる状態が6か月以上続く、特性によって社会生活や学校生活に支障が生じている、といったものがあります。その特性が、子どもの頃からみられていたかどうかも重要な判断材料です。
診断を行うのは、主に心療内科や精神科です。これまでの生活で生じた具体的な困りごとについて聞き取る問診を中心に、必要に応じて心理検査を行う場合もあります。
ADHD(注意欠如多動症)の主な症状と特徴
ADHD(注意欠如多動症)の症状は人によって異なり、特性の現れ方や困りごとの内容にも個人差があります。
ただし、共通してみられやすい特徴はいくつかあります。日常生活で現れやすい代表的な特性の例は、以下のとおりです。
- 注意散漫:注意がそれやすい、忘れ物や失くし物が多い
- 落ち着きがない:じっとしていられない
- 衝動性がある:思いついた行動を衝動的に実行する
注意散漫
ADHD(注意欠如多動症)の特性として、目の前の作業や人の話に意識を向け続けるのが難しい場合があります。
たとえば、話を聞いている途中で別のものごとが気になって内容を十分に理解できない、作業の手順を覚えられない、物を置いた場所を思い出せないといった特徴がみられます。
学校生活では先生の指示や友達との約束を忘れてしまう、大人になってからは仕事を最後まで遂行できない、会議の開始時間や締め切りを守れないといった困りごとが起こりやすくなるでしょう。
集中しようと努力していても無意識のうちに注意がそれてしまうため、不注意は本人の性格や努力の問題ではありません。しかし、周りからは「やる気がない」「真剣に取り組んでいない」と誤解されやすく、コミュニケーションに苦手意識を持つ原因となる場合もあります。
落ち着きがない
静かにじっとしているのが苦手なADHD(注意欠如多動症)の方もいます。
子どものうちは、学校の教室で座っていられずに歩き出してしまったり、授業や全校集会などの静かにしていなければならない場面でおしゃべりしてしまったりといった行動が現れやすくなります。
大人になると、立ち上がって動き回るといった目立つ行動は減る傾向があります。ただし、デスクの下でずっと手足を動かしている、会議中にそわそわして落ち着かないなど、子どもの頃よりも目立ちにくい形で特性が現れるケースは珍しくありません。
衝動性がある
衝動性があるのもADHD(注意欠如多動症)の特性の一つです。思いついたことを深く考える前に行動や発言に移してしまう場合があります。
たとえば、順番を待てずに割り込んでしまう、思ったことをすぐ口に出してしまう、「ほしい」と思ったものをよく考えずに買ってしまうといった行動が現れます。
子どもの場合は、周囲をよく確認せずに道路に飛び出してしまうなど、危険な行動につながる場合もあります。
大人になってからも、人の話を遮って話してしまったり、必要な確認を取らずに仕事を進めてしまったりと、本人は真面目に仕事をしようとしているのに「考えが浅い」「ルールを守れない」と受け取られてしまうケースもあるでしょう。
ADHD(注意欠如多動症)の原因や予防法
近年では、ADHD(注意欠如多動症)は脳の働き方の違いによって生じる発達障害であると判明してきました。中でも、目的や計画に沿った行動を取る「実行機能」や、欲求が満たされたときや目的を達成したときに喜びを感じる「報酬系」がうまく働いていないために、さまざまな特性につながると考えられています。
脳の機能がうまく働かなくなる背景には、遺伝的な要因が関係している可能性が指摘されているものの、まだはっきりとした原因や予防法はわかっていません。
ただし、育て方やしつけ、本人の努力不足がADHDの原因ではありません。生まれつきの特性を理解し、適切な支援によって生活しやすさを助けるのが重要です。
ADHD(注意欠如多動症)のセルフチェックリスト
ADHD(注意欠如多動症)かどうかを判断するためには、医師による診断が必要です。しかし、日常生活の中で現れやすい特徴はあります。
以下のセルフチェックリストを、受診のきっかけとなるポイントとしてチェックしてみるとよいでしょう。
- 人の話を聞いている途中で別のことを考える
- 忘れ物が多い
- 約束や予定を忘れてしまう
- 常に手足を動かしていないと落ち着かない
- 考える前に衝動的に行動する
- 課題や作業に最後まで取り組めない
- 質問を最後まで聞かずに答える
いくつかの項目に当てはまり、日常生活に困難を抱えているなら、精神科や心療内科の受診を検討しましょう。受診をすることで診断が受けられ、自分の発達特性を理解できます。

ADHD(注意欠如多動症)の特性の方が抱えやすい悩み
ADHD(注意欠如多動症)の特性はときに周囲からの誤解を生み、対人関係のトラブルにつながるケースがあります。小さな失敗体験が重なって「自分はだめな人間だ」と思い込んでしまう場合もあるでしょう。
この章では、以下のような悩みについて解説します。
- 気持ちが落ち込みやすくなる
- ほかの発達特性をあわせ持つことがある
- 人間関係のトラブルを抱えることもある
気持ちが落ち込みやすくなる
ADHD(注意欠如多動症)の特性により、忘れ物やミス、衝動的な発言などが重なると、周囲から注意を受ける機会が増加します。「また約束を忘れてしまった」「なぜあんな発言をしてしまったのか」と、自分を責めてしまう場合もあるでしょう。
このようなできごとが日々繰り返されると、どんどん気持ちが落ち込みやすくなってしまいます。強い不安や自信喪失につながり、うつ病などの精神的な病気を発症するケースも珍しくありません。
ほかの発達特性をあわせ持つことがある
ADHD(注意欠如多動症)とほかの発達特性や病気が併発する場合もあります。中でも代表的な発達特性や病気には、以下のようなものがあります。
自閉スペクトラム症(ASD):相手の考えていることを読み取るのが苦手、こだわりが強いといった特性が現れる
学習障害(LD):知的な発達に遅れはないものの、読み書きや計算など特定分野の学習に困難が生じる
チック症:まばたき、首振り、咳払いといった行動が突発的に出たり、突然声が出たりする
複数の特性が重なると、日常生活への支障がより大きくなる傾向があります。
たとえば、ADHD(注意欠如多動症)の特性である衝動性と、自閉スペクトラム症(ASD)の特性である人の気持ちの読み取りにくさが同時に現れた場合、本人にそのつもりがなくても、周りの人を不機嫌にさせる発言を衝動的にしてしまう頻度が高くなる場合もあるでしょう。
ADHD(注意欠如多動症)以外の発達障害・病気について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
大人のチック症とは?症状や対処法、トゥレット症との違いを解説
人間関係のトラブルを抱えることもある
ADHD(注意欠如多動症)の特性によって本人に悪気はないのに誤解される場合があり、人間関係のトラブルが起こりやすくなります。たとえば、会う約束を何回も忘れてしまったり遅刻が重なったりすると「大事な友人だと思われていない」と思われてしまう場合もあるでしょう。
忘れ物の多さや衝動的な発言から、学校や職場で「いい加減な人」「配慮が足りない人」といった評価を受けてしまうケースも珍しくありません。定型発達の兄弟姉妹と比較されたり、一緒に暮らす人に負担がかかったりと、家族関係の悪化につながる場合もあります。
多くの場合、こうした問題の背景には特性と環境のすれ違いがあります。周囲の人が特性についての正しい知識を身につけ、本人も特性を適切に認識して対策を講じるのが重要です。
ADHD(注意欠如多動症)の治療法
ADHD(注意欠如多動症)の治療では特性を消すのではなく、日常生活上の支障軽減を目指します。心理カウンセリングなどの非薬物療法と、補助的に用いる薬物療法があり、本人の状況に応じて組み合わせながら進めていきます。
非薬物療法
心理カウンセリングや環境調整など、薬を使用しない方法で特性による支障を軽減します。
心理カウンセリングは、カウンセラーと話しながら自分の特性を適切に理解する治療法です。失敗しやすい場面でどのように行動したらよいか、日常生活の中でできる工夫は何か、といった対処法を一緒に考えます。悩みを話すだけで、気持ちが楽になる場合もあるでしょう。
Kaienの自立訓練(生活訓練)では、自分の特性に合ったプログラムで自己理解を深め、自立した生活ができる状態を目指す訓練を行います。ご家族向けのプログラムである「ペアレント・トレーニング(ペアトレ)」も毎月開催しており、家庭で実践しやすい対策を学べるのも特徴です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)について詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
薬物療法
ADHD(注意欠如多動症)の薬物療法は、脳機能を調整して生活上の支障を和らげる目的で補助的に行われます。薬だけに頼るのではなく、非薬物療法を継続しながら服用するのが重要です。
ADHD(注意欠如多動症)の特性を抑える代表的な薬には、コンサータ、ストラテラ、インチュニブの3種類があり、集中力を高めたり衝動性を抑えたりする効果が期待できます。
医療機関では、症状や困りごと、年齢、生活スタイルなどに応じて、適した薬が処方されます。うつ病などの精神疾患を発症している場合は、抗うつ薬などの治療薬が処方される場合もあります。
ただし薬には副作用があるため、医師と相談の上で服用を進めましょう。
ADHD(注意欠如多動症)かもしれないと思ったときの対処法
ADHD(注意欠如多動症)かもしれないと感じたときは、一人で結論を出そうとせず医師や信頼できる人に相談してみましょう。具体的には、以下のような対処法が考えられます。
- 心療内科や精神科で相談する
- 家族や信頼できる人に悩みを共有する
- 公的機関や支援サービスの情報を調べる
ADHD(注意欠如多動症)を診断するには、心療内科や精神科への受診が必要です。受診したほうがよいかどうか決心がつかない場合は、家族や信頼できる人に相談して客観的な意見を聞いてみるのもよいでしょう。
発達障害の方や、診断はついていないものの困りごとを抱えているグレーゾーンの方向けに、支援を行う公的機関やサービスもあります。自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、職業リハビリテーションなど、さまざまなサービスの情報を調べてみるとよいでしょう。
ADHD(注意欠如多動症)に関するよくあるFAQ
ADHD(注意欠如多動症)について、診断、仕事、人への伝え方など、さまざまな疑問をお持ちの方も多いでしょう。
ここでは、当事者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
ADHD(注意欠如多動症)の診断を受けていない場合でも、職場で配慮を求めることはできますか?
診断を受けていない場合でも、職場で配慮を受けられる場合があります。体調や仕事のしづらさについて、上長や人事担当者などに相談してみましょう。
相談のときは「業務効率化のために配慮をお願いしたい」といった、ポジティブな伝え方を心がけましょう。「静かに集中できる作業環境をつくってほしい」「口頭だけでなく文面でも指示を伝えてほしい」など、具体的な配慮方法を伝えると齟齬が起きにくくなります。
転職する際、面接で自分の特性をどこまで伝えるべきでしょうか?
希望の働き方によって、クローズ(診断名を伝えない)にするかオープン(診断名を公開する)にするか選ぶとよいでしょう。障害者雇用を選ぶ場合は診断名を伝える必要がありますが、一般雇用の場合は必ずしも伝えなくても問題ありません。
特性を伝えない場合、苦手な業務に対してどのような工夫や対策を行っているのか説明すると、企業に安心感を持ってもらいやすくなります。
特性をオープンにする場合は、苦手だけでなく得意なことや配慮してほしいことをセットで伝えましょう。「特性に対する自己理解がしっかりしている」「自分に合う働き方を理解している」など、前向きな印象を与えやすくなります。
自分の特性が「強み」になる仕事を見つけるには、どう考えれば良いですか?
短所を無理に克服しようとするより、特性が長所として活かせる環境を探すとよいでしょう。
たとえば集中力が続きにくい場合、一つの作業に長時間取り組む仕事よりも、次々とアイディアを出す発想力が求められる職業や、未知の領域にどんどん挑戦していく職業の方が向いている可能性があります。
仕事内容だけでなく、職場見学などで雰囲気が自分に合いそうか確認しておくのも重要です。どのような職場が合っているのかわからない場合は、身近な人やカウンセラーに相談したり、支援サービスを活用したりするのもよいでしょう。
ADHD(注意欠如多動症)は発達障害の一つ|悩んだら専門機関へ相談を
ADHD(注意欠如多動症)は、集中力が続かない、衝動的な行動が多いといった特性がみられる発達障害の一つです。生まれつきの脳の働き方の違いが原因と考えられており、努力や精神力で解決できるものではありません。
悩みを抱えたまま無理を続けると、心身の不調につながる場合もあります。「生きづらい」「人と違う気がする」と少しでも感じたら、医療機関や支援機関に相談してみましょう。
支援機関では、発達障害に関する知識を持ったスタッフが悩みを聞き、自己理解を深めた上で適切な対処法を学べます。一人で抱え込まず、適切なサポートを受けて生活を整えていきましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
監修者コメント
大人のADHDは現在メンタルクリニックで大きな課題となっています。幼少期にはぼんやりしている人、落ち着かない人と言われていた人たちが成人になり、社会で働くようになって、自らをADHDではないかと疑って来院するケースが後をたちません。
中にはネットで見られるADHD判定ツールを用いて、自分はADHDだからすぐ治療してくださいとおっしゃる方もいらっしゃいます。
しかし、注意しなければならない点はADHDは12歳、つまり小学6年生までに診断を満たす症状が出揃っていることがキーポイントとなります。中学生になってからそそっかしくなる、大学生になってから物忘れが多くなる、社会人になってからミスが増えるなどの症状が、ADHDである可能性は低く、別の疾患を検討する必要があります。
実際、筆者が以前勤務していたクリニックで行った調査では、自らをADHDだってではないかと自己診断して来院された成人のうち37-57%程度しかADHDと診断されませんでした*1)。ここでは詳しい学術的なお話は割愛しますが、自らをADHDと決めずに受診して、よくお話をしていただくことが安易な診断や拙速な治療を防ぐと考えます。
1) 中川 潤、仮屋 暢聡:成人期ADHDを疑って来院した患者の診断の検討, 2021, 第117回日本精神神経学会学術総会.

監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。



