
▪年齢:30代前半 ▪診断名:ADHD、自閉症スペクトラム ▪仕事における苦手なこと:優先順位の設定や時間管理、一度に多くの情報を処理すること ▪就職した職種:専門職(医療・福祉) |
言動の誤解されやすさが悩み
―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?
ごっこ遊びや、小石などの収集が好きでした。家ではひょうきんにしていても外では大人しく、幼稚園に通っていた頃から集団に入るのは苦手でしたね。
初めて周りの子との違いを感じたのは、幼稚園のお遊戯会のとき。踊りが覚えられず、一人だけ立ち尽くしてしまいました。小学校に入ってからの勉強でも、周りと比べて習得に時間がかかりがちでした。
―――診断名と苦手なことを教えてください。
成人してから、ADHDと自閉症スペクトラムと診断されました。優先順位の設定や時間管理、一度に多くの情報を処理することが苦手です。
言葉の意図が誤解されやすいことにも困っています。また、空気を読めないときもあれば、何を求められているのか考えすぎてしまうときもあります。
そんなつもりはないのに「やる気がない」「怠けている」と言われてしまうことも多くありました。発達障害とわかるまでは、なぜそんなに言動を誤解されてしまうのか分からず必要以上に自分を責めていたこともありました。
―――Kaienにつながる前はどんなことをしていましたか?
人の役に立ちたい思いがあり、最初は農業関連の仕事をしていました。しかし、それだけでは経済的に不安定で、看護師資格を取ることにしました。
資格取得後に病院で働き始めましたが、作業で人よりも時間がかかったり、同僚や上司と衝突したりすることもあり、持病の影響もあって体調を崩してしまいました。
訓練生や講師との関わりが特性を受け入れるきっかけに

(「美術館巡り、日常にある美しい風景も好きです」とAさん)
―――Kaienで訓練を始めようと思ったきっかけがあれば教えてください。
病院勤務の間に休職しており、安定就労を目指すために就労移行支援の利用を決めました。Kaienは訓練の時間帯が一般企業に近いため生活リズムを整えやすく、発達障害に対する知識もしっかりしていると感じます。修了生が残してくれた「修了体験記」には、本当に知りたかった情報が充実しており、安心して訓練を受けられました。
―――訓練では主にどんなことをしましたか?
重点的に取り組んだのは、2週間ごとに個人ワークやグループワークでさまざまな業務を経験する「週替り業務」です。当時は看護師として復職するのか別の職種を目指すのか迷っていたため、どのような仕事が自分に合っているのか知りたかったのです。
グループワークを通して、仕事仲間と折り合いをつけて働くための糸口を見つけられたと思います。以前は人と関係性を築くことに不安を持っていましたが、ある訓練生の方がワーク中に衝突した後も変わらず接してくださり、私も気持ちを切り替えて訓練を続けることができました。「一度ぶつかっても人間関係を続けていけることもある」と思えた経験でした。
―――訓練を通して学んだことはありますか?
自分だけが不幸なのではなく、人それぞれ違う悩みを持って生きていると学びました。
訓練を始める前までは、嫌なことが起こると社会や育ってきた環境への怒りが湧き、発達障害の受容も難しく感じていました。しかし、ほかの訓練生との関わりを通して、たとえ診断名が同じでも人それぞれ異なる困りごとがあると気づきました。講師やスタッフの方と話すうちに、徐々に社会の仕組みや特性についても受け入れられるようになりましたね。
今、発達障害で悩んでいる方には、ぜひよい情報に触れて自分に合うコミュニティに参加してほしいと思います。人それぞれ家庭環境や社会的な状況が違っても、居場所を見つけること、自身でつくっていくことが重要だと思います。
―――訓練開始前に比べてご自身が変わったと思うことはありますか?
必要以上に自分を責めなくなり、失敗があっても「次はどうしようか」と考えられるようになりました。
以前は、意見をはっきり言う性格を短所だと思っており「なぜ自分はこうなのか」と悩んでいました。しかし、講師の方から意見を主張できるのは強みだと言っていただき、自分を客観的に捉えられるようになりましたね。自信がついて、メンタルの回復も早くなりました。
合理的配慮を受け、転職を選ぶ

(Aさんが訪れた京都での「秋の紅葉狩り」)
―――就活を始めた時期と、現在の職種を教えてください。
訓練開始から1ヶ月ほどで、転職・復職に向けた活動を始めました。勤務先への復職と別の職場への転職のどちらも検討していましたが最終的には転職を選び、現在は訪問看護ステーションで勤務しています。訪問先で温かい言葉をかけていただくなど、人とのつながりに日々救われています。
―――就活の際に検討していた就労先の候補を教えてください。
「元の病院に復職する」「別の病院に転職する」以外に、「看護以外の仕事に転職する」という選択肢も検討していました。また、当時は障害をオープンにすることに抵抗があったため、一般枠か障害枠かも迷っていましたね。
―――障害を開示して就職すると決めたきっかけを教えてください。
Kaienの講座を通して、合理的配慮に対するイメージが変わったのがきっかけです。
講座を受けるまでは、過去に十分な配慮を受けられなかった経験から、障害を明かすと偏見を持たれるのではないかと思っていました。しかし、合理的配慮の成り立ちや目的を学び、適切な配慮を受けることで自分の培ってきたものを活かし、社会に貢献できるのだと思えるようになったのです。まだ葛藤はありますが、現在の職場では障害をオープンにして勤務しています。
―――さまざまな選択肢から、現在の職場を選んだ理由は何ですか?
看護職を選んだのは、訓練を通して他職種の模擬体験をして、改めて「看護師としてまだできることがある」と感じたためです。
就活を始めたときは「もう失敗できない」と、自分を追い詰めていた頃もありました。しかし、講師の方から「もし次の職場が合わなくても、帰る場所がある」と言っていただけたおかげで気持ちが楽になり、転職に踏み切れました。
―――就活の際にしておいて良かった対策を教えてください。
Kaienを修了して就労している先輩など、多くの人の話を聞いたのが良かったと思います。
月に一度、訓練生と卒業生が集まるサロンがあり、現在働いている先輩たちも悩みながら仕事を続けていると知りました。就職はゴールではなくスタートなのだと実感し、視野が広がりましたね。
―――就活で苦労したことはありますか?
優先順位をつけるのが苦手で、就活中に訓練を優先していたことがありました。しかし、講師の方から「就活に集中するべき時期なら、必ずしも訓練に来なくてもいいのでは」とアドバイスしてもらい、軸をぶらさずに就活を続けられました。課題を書き出してキャリアカウンセラーの方と一緒に整理し、適切な優先順位をつけられたのも大きかったと思います。
付録 ~Aさんのこと~

(Aさんが1番お気に入りのカフェ)
休日はカフェ巡りをしたり、演劇サークルで活動をしたりしています。表現活動が好きなので、仕事を続けながら自分に向いていることを探していきたいですね。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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