デザイン職から事務職へ。自分を知り、苦手と向き合って見つけた働き方

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▪年齢:30代前半
▪診断名:双極性障害(2014)専門学校時代、ADHD・ASD(2024)前職退職後、小脳梗塞(2023)
▪特性/苦手:曖昧な作業、数字で誤りや抜け漏れ、見通しを立てることは苦手
▪就職:情報通信ITの事務職


作品づくりに夢中だった幼少期

ーーー幼い頃はどんなお子さんでしたか?

言葉を話し始めるのがすごく遅かったそうです。なかなか話さない子どもだったと聞いています。

小学校に上がってからは一転して、落ち着きがなく、家族や周囲にはたくさん迷惑をかけました。

一方、手先は器用で、裁縫をしたり紙で帽子を作ったりするのが好きでした。特に夢中になったのは消しゴムはんこで、教室に持ち込んで授業中に彫ったりしていました。集中して手先を動かすのが得意なタイプでしたね。

ーーーご自身の性格を一言で表すなら?

最近になってやっと自覚し始めたのですが「論理的な感覚派」です。

ADHDとASD両方の特性があって、一つのことを毎日していると思ったら、パッと飽きてしまうなど、両方の特性や性質がまだらにある感じだなと思います。

ーーーご自身の特性や苦手なことについて教えてください

時間の概念を把握するのは苦手です。例えば、カレンダー上では「今日は10月31日までか」と数字のって認識はできていても、「10月31日」イコール「もう10月が終わる」という自覚がないまま過ごすなどして、気づいたら数日経っているような感じで、時間に関する苦労は多かったです。

また、耳からの情報が頭に定着しにくいので、付箋を使ってタスク管理を徹底しています。

自分と向き合うきっかけをくれたKaienとの出会い

(落ち込んだ時や癒されたい時に一気に登録しているというSさんの「読んでみたい本リスト」)

ーーーKaienに通う前はどんなことをされていましたか?

東京のデザイン系専門学校に通っていた際に、卒業制作の見通しが立たず眠れなくなったのがきっかけで、発達障害*の診断を受けました。

専門学校を卒業後は地元でチラシや冊子を作る正社員のDTPデザイナーとして、2年8ヶ月ほど働いていました。

ーーーKaienを知ったきっかけと、利用を決めた理由は?

正社員で働いていたものの、一般雇用は苦しいなと感じていました。思い切って仕事を辞める決意をした際に、福祉やサポートしてくれるサービスを初めて調べました。そのときKaienが検索でヒットしたんです。

Kaienを選んだのは、クリエイティブ系のコースが豊富だったからです。当時は自分の特性に合う職場やデザインの仕事があったらいいなと思っていたので、それが決め手でした。

ーーー勤怠の安定に苦労されていたと聞いていますが、どのような工夫や支援が効果的でしたか?

Kaienのスタッフさんが、私をずっと信じてくれたことが、すごく支えになりました。

通所当初は自分に関心がなく、自己肯定感が低かったので、「私が行ったところで……」と、生きる意味を見いだせないような状態でした。目標もなかったので、そんな自問自答をしてしまうと起き上がれなくて、ずっと布団の中でもぞもぞしてしまう日もありました。

通所しているうちに「意外とできるじゃん、自分」「やってみようかな」という気持ちが出てきたのです。

ーーー通所中に「気分の落ち込み」や「パニック」と向き合う中で、どのようにコントロールしていましたか?

Kaienの空気や環境を乱さないよう、急に大声を出したりしないように、とにかく雰囲気を守ろうと意識していました。

あとは、スタッフさんや通っている心療内科の先生に相談しました。最近ではChatGPTに壁打ちをして、感情の整理もしています。

ーーー訓練を通じて学んだ、仕事に役立っているスキルは何ですか?

一番は「誰かに相談する力」です。

以前は、「私の質問で相手の時間を無駄にするのでは?」と、行き過ぎた謙遜から質問をためらってしまっていました。でも、結局それは誰にとっても良くないことだとわかり、今では小さなことでも上司に聞けるようになりました。

また、Kaienで学んだ「ガントチャートを使った計画の立て方」も現在の仕事に活かせています。

ーーー訓練を経て「自分が変わった」と感じることは?

自分自身に興味が出たことは大きな変化です。「自分を変えられるのは自分だけなんだ」という根本的なことがわかるようになりました。

また、トラブルに対処できる数が増えたことも大きな変化です。以前はパニックになって何も見えなくなることがありましたが、「いや待って、あの人に言えばいいんじゃないか」とか「自分でこうできるんじゃないか」といった心の声が挟まって、対応できるようになりました。

当たり前ですが、規則正しい生活ができるようになったことも変化の1つです。

デザインから事務職へ。方向転換の背景

(3年ぶりに靴を新調!「いろんなところを歩いてみたいです」と語るSさん)

ーーー訓練開始からどのくらいで就職活動を始められましたか?

通所して3〜4ヶ月後くらいだったと思います。

ーーーデザイン系での就職を目指していたそうですが、最終的に事務職へと進路変更された理由を教えてください。

一番の理由は、障害者枠でデザイナーの求人がほとんどなかったからです。一般枠ではありましたが、障害者枠で働きたい気持ちがあったので、選択肢が限られました。

また、前職で通販の発送や伝票作業など事務的な業務もやっていたので、その経験も活かせるなと、途中で方向転換をしました。

ーーー方向転換に迷いはありましたか?その中でどう折り合いをつけましたか?

迷いはありました。今までやってきたことが無駄になったような気がして、1週間ほど日記に落ち込みを書き綴っていました。でも、Kaienスタッフさんとの面談やChatGPTでの壁打ちで、「それだけが唯一の道じゃない」と思えるようになり、ゆっくり消化していきました。

ーーー面接練習を重ねていく中で、どんな変化がありましたか?

話すのが本当に苦手なんだな、とわかりました。質問されたとき、頭の中ではたくさんの言葉が浮かぶのに、出口が小さくて出てこられない感じです。想定問答を事前に用意しておくことが対策になりました。

ーーー就活では何社くらい応募されましたか?また、印象的だった就活エピソードはありますか?

5社くらい応募しましたが、対面での2次面接まで進めたのは、今の会社だけです。

面接で印象的だったのは、会場に早く着きすぎてビルのエントランスから出てしまい、再入場できなくなってしまったことです。

以前の自分だったら完全にパニックになっていたと思います。でもその時は、冷静に何ができるか考え、Kaienの担当者さんに電話し、採用担当さんの電話番号を読み上げてもらいました。

なんとか5分遅れで面接会場にたどり着くことができ、Kaienのおかげで最善の対処ができたと思っています。

ーーー就活の軸はありましたか?

障害者枠での雇用を希望していたので、通勤で苦労しないことや、毎日通っても自分が不快にならない場所であることも大切にしていました。

「最高!」とは思わなくていいけど、不快に感じるのは避けたかったからです。

現在の仕事とチャレンジしたいこと

ーーー現在の仕事には慣れましたか?

5月に入社したばかりですが、おかげさまでずいぶん慣れてきました。

在宅勤務と出社がありますが、いずれも、朝礼、進捗報告、終礼など1日のうちで5回も進捗状況を確認する時間があるので、非常に助かっています。

社内の事務処理や資料作成、そして会議設定の代行業務が主な業務内容です。定例会議のTeams設定や変更・キャンセル対応など、計画的に作業を進められています。

ーーー苦手だったタスク管理にはどう対応していますか?

MicrosoftのToDoやOneNoteなどを使いながら、付箋も併用して「忘れる前提」で管理しています。

付箋にやることを書いて手帳にたくさん貼って、終わったら隣のページに移すという原始的な方法です。自分が忘れることを自覚しているので、「忘れる、忘れる、忘れそう」と声に出して、会議の予定や締め切りなどをすべて手帳に貼りつけて、見える化しています。

このやり方をするたびに、映画化もされた小説『博士の愛した数式』の博士を思い出します。Kaienで自己理解が深まったおかげで「自分の特性がわかっていると適切な対策をしやすいんだな」と思えるようになりました。

ーーー今後チャレンジしてみたいことは?

今チャレンジしているのは、業務マニュアルのリニューアルです。

会社のマニュアルは、Excel、PowerPoint、OneNoteの3種類で作られているため、一つのフォーマットに読みやすく書き換える作業をチームで進めています。マニュアル作りの本を参考にしながら、案を出し合って改善していくのが楽しいです。

付録 〜Sさんのこと〜

(「たまに電車で出かけて散歩をします」とSさん)

ーーー趣味や休日の過ごし方は?

住んでいる地区に図書館が多いので、バスに乗って図書館めぐりをし、本を読んだり借りたりしています。

また、入社してすぐに目標管理でTOEIC600点以上を目指す、という目標を立てました。必須ではないですが、社内にも英語を話す人が多いので、私も話せたらいいなと思って勉強しています。

ーーー最近楽しかったこと、嬉しかったことは?

東京に遊びに来た知人を、Googleマイマップを使って案内したことです。ルート計画や観光のスケジューリングまで自分で行い、ほぼ予定通りに行動できたことが大きな成功体験になりました。


*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。

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