「自分を知る」旅路の果てに見つけた、長く働くためのヒント

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▪年齢:20代
▪診断名:ADHD、不安神経症
▪苦手なこと:優先順位付け、突発業務への対応、責任感の強さからくる抱え込み
▪就職先:事務職(障害者枠)


周囲とのズレ、特性の自覚

――― 幼い頃はどのようなお子さんでしたか?

あまり話さない、大人しい子だったらしいです。普通だと2〜3歳くらいで話し始めることが多いと思うのですが、私は4〜5歳になるまでほとんど喋りませんでした。親も心配して役所に相談に行くほどだったそうです。

――― その頃から何か特性が見られたのでしょうか?

その時は特に「問題なし」と診断されたそうですが、小学校に入る頃から急に色々と喋るようになって、一転して賑やかな感じになりました。逆に、秘密にしてと言われたことをペラペラ話してしまい、家族に怒られる、なんてこともありましたね。

――― 周囲と自分は何か違うと感じたことはありますか?それはどのような時に感じられましたか?

本当にたくさんあるのですが、一番ショックだったのは、「みんな自然と常識や普通を分かっている」という感覚です。

年を重ねるにつれて、自分の知らない常識を、周りのみんなが平然と知っているという状況に直面しました。例えば「いつ頃からメイクを始めるか」といったことです。私は大学生くらいからかなと思っていたのですが、周りは高校生の頃から当たり前のようにメイクの話をしていて……。自分だけ世間知らずだと感じて、少し怖くなった時期もありました。

――― 診断名と苦手なことを教えてください。

診断名は、ADHD(注意欠如・多動症)と、不安神経症です。

苦手なこととして、1番は優先順位付けです。特に緊急性の高い業務が入ってくると、そちらに気が取られてしまい、元々やるべきだったことが後回しになったり、忘れてしまったりすることが多々ありました。

あとは、責任感の強すぎる部分です。「何でも自分でやらなきゃ」と抱え込みがちで、それで体調を崩すこともありました。振り返れば大したことではないのに、その時はすごく重く考えてしまう。楽観的な思考ができないのが、私の苦手なところだと感じています。この特性は、学生時代より仕事をし始めてからより強く自覚するようになりました。

訓練を通じて「自分」を再構築する

(休職中、気分転換に行った旅行先で撮った海。「海を見ると落ち着きます。」とTさん)

――― 就労移行支援事業所Kaienで訓練を始めようと思ったきっかけは何ですか?

以前の職場で体調を崩し、休職したことがきっかけです。自分にADHDの傾向があることは以前から分かっていたのですが、その特性に対する理解が不十分でした。仕事がうまくいかない原因が、障害のせいなのか、それとも自分の怠けや至らなさなのかが分からなくなり、体調が悪くなる一方という悪循環に陥っていました。

この状況を打破するため、「障害についてちゃんと自分自身で理解すること」と、「PCスキルなどのハードスキルを身につけ、今度こそ長く働ける職場に就きたい」という思いから、会社を退職し、Kaienの利用を決めました。

――― 訓練を通じて達成したかったことと、その実現度はいかがでしたか?

達成したかったことは主に2点です。一つはPCスキルを身につけること。事務職に興味があったのですが、実務経験がなかったので、基礎的なスキルを最低限習得したいと考えていました。

もう一つは、自分の得意なこと・苦手なことを言語化できるレベルまで理解することです。なんとなくの感覚ではなく、相手にしっかりと伝えられるようになりたいと思っていました。

結果として、この2つは両方とも達成できたと感じています。

――― 苦手な特性に対して、何か対策を見つけることはできましたか?

はい。グループワークや模擬業務(事務系訓練)の中で、作業計画を立て、期日までに何をすべきかを確認する「優先順位の整理」を意識して行いました。そのおかげで、余裕を持ったスケジュールの作り方や優先順位の付け方がだいぶできるようになりました。これが苦手な部分の克服に繋がったと思っています。

――― 訓練の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

初めてグループワークでリーダーになった時のことです。最初は「リーダーだから全部まとめて、指示を出さなければならない」と考えて、一人で抱え込み、ストレスで体調を崩してしまいました。

しかし、スタッフさんと相談し、休みを取りながら進める中で、「自分が何もしなくても、メンバーはすべきことをちゃんとやってくれる」ということを理解できたんです。自分が無駄に頑張りすぎていただけだったんだと分かって、すごく楽になりました。

それ以降は、会議の進行などは行いつつも、メンバーにそれぞれの業務を任せるというスタイルで訓練を進められるようになりました。抱え込みがちな性格が、少しクリアになったと感じています。

――― 訓練を通して、今後働く上で役立つと感じる知識やスキルは何でしょうか?

PCスキルはもちろんですが、「作業ペースの把握」が大きな学びでした。以前は、集中する時は集中するけれど、その後疲れが出て動けなくなるということが起こりがちでした。

訓練を通じて、「どのくらいやったら休憩を入れた方がいいか」「こういう症状が出たら一度休むべき」といった、自分なりの作業ペースや疲労のサインを具体的に把握できるようになりました。

今まで漠然としていた自分の傾向が言語化できるようになり、「なんでこうなるんだろう?」という疑問に自分で答えられるようになったのは、非常に大きな変化ですね。

長く働くための就職活動

――― 就職活動は訓練開始からどのくらいで始められましたか?

入所して、大体3、4ヶ月目くらいです。支援員の方と相談しながら始めました。

――― 就職活動の軸は何でしたか?

主に3点ありました。

  1. 仕事を通じて、誰かの課題を解決すること。
  2. 自分の向上心や学習意欲が活かせそうなところ。
  3. 長く働けそうな雰囲気があるか。無理のない環境で、かつチャレンジしたい時に成長できる場がある環境が一番良いと考えていました。

――― 就職活動で苦労したことがあれば教えてください。

障害特性に関する自分の理解と、それを相手に伝える方法が一番苦労しました。一般就労の転職活動の癖で、ネガティブな面を出さないように、良いことばかり並べようとしていたんです。

ですが、面接練習の際に「隠していると逆に不信感を与える」「障害者雇用では素直に伝えるべき」というアドバイスを受け、意識を変えました。

苦手なことは正直に伝えた上で、「自分なりにこういうカバーをしています」という対策をセットで伝えるようにしたことで、面接でも自信を持って障害特性を伝えられるようになりました。

――― ご自身の就職活動を振り返って、やっておいてよかったことはありますか?

MOS(Microsoft Office Specialist)を取っておいてよかったです。事務経験がほとんどなかったため、MOSの資格は「スキルに対する知識はあります」とアピールするのに役立ちました。また、やりたいことに対して学習意欲があるという向上心を示すことにも繋がったと思います。

――― 逆に、もう少し対策しておけばよかったと思うことはありますか?

業界・企業研究が不十分だったことです。業界のことは色々調べていたのですが、個々の企業に対する掘り下げが足りませんでした。その会社がどういうことに取り組んでいて、それが自分の強みとどう合致するのか、ということをもう少し深く掘り下げておくべきでした。

会社に対する知識をしっかりと入れて、自分がどう貢献できるかを具体的に言えるようになるまで勉強しておけばよかったと反省しています。

引っ越しの夢を叶えるため、まずは安定して働くことを目標に

(近所で見つけたアジサイの花。「季節を感じる心の余裕も得たい」と語るTさん)

――― 今後、挑戦したいことや目標があれば教えてください。

目標はまず、安定して働くことです。体調を維持して毎日出社できる、健康的な生活基盤を築きたいと考えています。

仕事面では、PCスキルをさらに磨き、もっと効率よく仕事ができるようになりたいです。プライベートでは、もう少し広い家に引っ越しをしたいという夢があります。そのためにも、新しい職場でしっかりと頑張っていきたいです。

付録~Tさんについて

――― 趣味や休日の過ごし方を教えてください。

最近は、YouTubeで料理や音楽、ペットなどの動画を見るのが好きです。自分は料理が得意でなかったり、ペットが飼えなかったりするので、動画で見て憧れを満たしています。

天気が良ければ、散歩がてらショッピングをしたり、良さそうなカフェに立ち寄ったりすることもあります。

(Tさんが散歩中に立ち寄ったカフェで飲んだコーヒー。「マイルドで美味しかったです。」とのこと)

――― ここ最近で楽しかったことや嬉しかったことは何ですか?

高校時代から仲の良い友人にゲームを教えてもらい、一緒に攻略法などを話す中で、より活発にコミュニケーションを取れるようになったことが嬉しかったです。ゲームを通じて、会話のきっかけが増えたのが良かったですね。

あとは、最近買った「シーズニングソルトセット」にはまっています。3種類くらいのセットだったのですが、特に「ピリ辛にんにく塩」が気に入っていて、ファストフード店の塩なしポテトに振りかけて食べるのが最近の楽しみです(笑)。ちょっとジャンクな感じになって美味しいんです。

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