幼少期から数字や鉄道に深い愛着を持ち、特定のフォントや配列に「強み」の芽を隠し持っていたKさん。社会人になり、特性ゆえの困難から一度は立ち止まりましたが、就労移行支援での経験を通じて「速さと正確性の両立」という真の武器を再発見します。
こだわりを妥協のない仕事への誇りに変え、IT事務職として再スタートを切るまでの軌跡。趣味の鉄道のように、自らの「安定したレール」を敷き直した方の挑戦の記録です。

▼Kさんの簡単なプロフィール
| ▪年齢:20代 ▪診断名:うつ、ASD ▪苦手なこと:コミュニケーション、過集中 ▪就職先:IT系企業(プログラマー) ▪利用サービス:就労移行支援 |
目次
「4」への強いこだわりと鉄道・カレンダーへの愛

――― Kさんが幼い頃、どんなお子さんでしたか?ご自身で覚えていることや、ご家族から言われたエピソードがあれば教えてください。
少し変わったエピソードかもしれませんが、3歳から6歳くらいの間は、とにかく「数字」が好きでした。特に「4」という数字には強いこだわりを持っていました。なぜそこまで好きだったのか理由は自分でもわかりませんが、幼い頃から、飲食店などでは必ず4番目のテーブルに座りたがって、家族を困らせたこともあったようです。
―――他にも何か好きだったものやこだわりがあったものはありますか?幼稚園の年長くらいからは鉄道が好きになり、それは今でも続いています。JRの「〇番線」といった表示のフォント(文字の形)がとても好きで、それがきっかけで鉄道全体に興味が派生したのかな、と思っています。
あとは、数字がたくさん書いてあるカレンダーも好きでした。ただ、数字は好きでも、この頃は数学の成績はあまり良くなかったんです。数値そのものよりは、フォントや配列といった視覚的なものが好きなのかもしれませんね。
仕事での認識のズレと休職、そして発達障害の告知
――― 前職は具体的にどのようなお仕事をされていましたか?
IT系のソフトウェア開発会社のプログラマーとして、開発工程の全般に携わっていました。客先常駐という形で、大手のお客様のところで作業を行うという形でした。
――― どのようなことがきっかけで就労移行支援サービスの利用を考えるようになったのでしょうか。
前職で、仕事における認識のズレや、業務の抜け漏れについて会社から指摘を受け、「今後どのように改善していくのか」を真剣に問われました。両親に相談したところ、私が2歳の時に発達障害の診断を受けていたことを初めて知らされました。
その後、会社や客先に障害についてオープンにしたのですが、業務の性質上、配慮をいただくことは難しく、相談できる相手もいなくなってしまいました。そのことで精神的に落ち込んでうつ状態になってしまい、仕事の区切りが良いタイミングで休職することを選びました。
――― 数ある事業所の中から、Kaienを選ばれた決め手は何だったのでしょうか。
休職中に障害者手帳を取得すれば障害者枠で就職できることを知り、就労移行支援を探し始めました。Kaienは発達障害に特化していて、歴史と実績もあるため、きっと私に合ったプログラムがあるのではないかと思ったのが決め手です。両親にも相談し、就職に向けて一歩踏み出すことにしました。
特性への対策と「速さと正確性」という強みの発見

――― Kaienでのトレーニングで、一番長く取り組んだのはどんな業務でしたか?
将来の選択肢を広げるために、さまざまな事務系の仕事を体験できる週替(しゅうがわり)
業務に携わりました。障がい者枠の求人は事務系の仕事が多いので、事務系の仕事は障がい者枠での求人が多いので、個人的に体験出来て良かったと思っています。
――― プログラムを実施した中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
まず、グループワークでは「営業ゲーム」が一番印象に残っています。これは週替業務の集大成のような位置づけで、勝ち負けがある対抗戦です。競争相手がいるため思い通りにいかない場面も多く、チームで工夫しました。
その中でも目星をつけていた第1希望の安い取引先から商品を買うことができなかった時は非常に悩みました。ですが、「買えなかったことは仕方がないので、今取れる最善の策を取ろう」と気持ちを切り替え、残りの選択肢から購入する方針に転換しました。結果、期間内に目標を達成できたので良かったです。
個人ワークでは、一番最後に取り組んだ「顧客伝票修正」というプログラムが特に印象に残っています。多くの方は速さか正確性のどちらかに偏りがちだったようですが、私の場合はどちらもバランスが取れており、ミスも一度もなかったとスタッフの方から評価していただきました。
そこで「速さと正確性を両立できる」という、自分の新しい強みに気づくことができたのが大きな収穫でした。
――― Kaienでの経験を通じて、ご自身が変わったなと思うことはありますか。
たくさんありますが、特に過集中への対策としてこまめに休憩を取れるようになったことや、報連相の重要性を実感できたことは、今後も役に立つと感じています。他にもメモ取りやタスクをリスト化することで、作業状況を定期的に振り返って対策を取れるようになりました。
皆勤賞と安定した生活リズムで掴んだ「妥協なし」の再就職

――― 就職活動についても伺いたいです。
私はKaien利用開始から6か月後の2025年4月から就職活動を本格的に始めました。4月に1社目、5・6月に2社目、7・8月に3社目、9・10月に4社目に応募しました。
1社目から書類審査は通過していたものの、なかなかご縁に恵まれませんでした。最終面接まで進んで、結果不採用になったときにはさすがに精神的に落ち込みましたが、あきらめずに応募を続け、4社目で内定をいただけました。
ーーーどのような条件で仕事を探していたのですか。
まずは前職でも働いていたIT企業が希望で、フルタイム・残業なし・週休2日で探していました。今度は安心して長く働きたいという思いと、Kaienでも評価されていた「正確性」と「集中力」を活かして働きたいという希望がありました。そうした条件のもと、就職活動をしていましたが、途中からはIT系だけでなく事務職にも視野を広げたことで縁が結びつき、結果的にIT系の事務職という自分でも納得感が持てる職での内定をいただけました。就活期間の半年間、自分自身が磨かれていったと思います。
ーーー就職活動で精神的に落ち込んだ時にどのように立ち直ったのでしょうか。
講師やスタッフと話す中で、就活はマッチングで合う合わないはあるということと、次の会社を目指すことで落ち込みを忘れるようにしました。
その結果、精神的に落ち込んでも3日で切り替えられ、周りからも切り替えの早さを評価されました。あとは内定がもらえないからと焦って早く進めるより、自分のパフォーマンスが落ちないよう自分のペースで進めることを心がけました。
ーーー就職活動を振り返って、これはやっておいて良かった、ということがあれば教えてください。
まず、皆勤賞を取ったことです。勤怠の安定は企業からも高く評価されるので、アピールポイントになりました。また、22時台に寝て6時台に起きるという規則正しい生活リズムを続けたことも、安定感につながったと思います。
今後の目標:勤怠安定と正社員登用を目指して
――― では最後に、今後お仕事をする上での目標を教えてください。
仕事面での一番の目標は、Kaienで学んだ勤怠の安定と報連相を継続することです。そして、再離職にならないように、就職先で長く働くことです。
今の会社は契約社員としてのスタートなので、まずは正社員登用を目指したいです。大きな問題がなければ6ヶ月後には登用の可能性が高いと聞いていますので、そこを当面の目標として頑張っていきたいです。
付録~Kさんについて

―――休日はどのように過ごされているのでしょうか。
休日は鉄道に関連した活動をすることが多く、その活動を通してウォーキングや旅行も楽しんでいます。鉄道は車両目当てで乗ることも、目的地への移動手段として利用することもありますね。仕事が始まっても、休日を利用して趣味の活動を両立したいと思っています。
――― 最近、特に楽しかったエピソードがあれば教えてください。
内定が出た後に、福島県いわき市へ1泊2日の旅行に行ったことが楽しかったです。その旅行では、JRの「駅からハイキング」というウォーキングイベントに参加しました。ホテルの朝食では、東北各地の名物をバイキング形式で楽しめたのも良い思い出です。
また、この旅行で利用したキャンペーンが長期開催なので、今後も何回かに分けて参加したいです。あと、最近ではりんかい線の新型車両に乗れたことも嬉しかったです。
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