介護や営業事務を経験する中で、マルチタスクや電話対応の生きづらさに直面し、30代でADHD・ASDの診断を受けたSさん。自身の「石橋を叩いて渡る」慎重な性格を強みに変え、Kaienの訓練から導き出した「8つの鉄則」を記した自作ノートを武器に、未経験からシステムエンジニアへの転身を果たしました。年齢の壁や苦手を独自の戦略で乗り越え、自分に合った環境で確かなキャリアを歩む軌跡に迫ります。

▼Sさんの簡単なプロフィール
- 年齢: 40代
- 診断名: ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)
- 苦手なこと: コミュニケーション(感情的になってしまうこと)、マルチタスク、電話のメモ取り
- 利用サービス: 就労移行支援
- 就職先: IT業界(システムエンジニア)
目次
「慎重で臆病」だった幼少期と、成長の中で感じた周囲とのギャップ
―――まずはKaienを利用される前のことについて伺いたいのですが、幼少期はどのようなお子さんでしたか?
一言で言うと、「危ない橋を渡らない、慎重な子」でした。かなり臆病なところがあって、新しいことに挑戦する時は、怖がってうまく動けないような子供だったと記憶しています。
現在の自分の性格を一言で表すとしても「石橋を叩いて渡るような性格」になります。何か行動を起こす前には、とにかく徹底的に調べないと気が済まないんです。昔からの慎重な性格をそのまま引き継いでいるなと感じます。
――― 成長していく過程で、周りの人と「何か違うな」と生きづらさを感じることはありましたか?
周囲との出来ることと出来ないことの差は、ずっと感じていました。特に家族との何気ないやり取りの中で気づくことが多かったです。例えば、かかってきた電話のメモを素早く取ることができなかったり、複数の仕事を同時に並行して進めるマルチタスクが全くできなかったりして、次第に悩みが増えていきました。
30代での「発達障害」の指摘、そして理解のある環境を求めて
――― その後、障害の診断を受けることになったきっかけは何だったのでしょうか。
30代の頃、仕事の現場でうまくいかないことが増えていた時期に、周囲の人から「発達障害の特性があるのではないか」と指摘されたんです。それがきっかけで専門機関を勧められました。自分でも仕事中にメモを取るのが異常に苦手だと自覚していたので、実際に病院へ行って診断(ADHD・ASD)が出た時は、とても納得感がありました。
――― 診断を受けてから、Kaienの就労移行支援を利用しようと思った経緯を教えてください。
診断を受ける前は、職場での理解が得られず本当に辛い思いをしていました。マルチタスクや電話対応でミスをしてしまうと、上司や同僚から「一体何をしてるの?」「言い訳をしてるんじゃないの?」といった、厳しいリアクションをされることが多かったんです。そのため、自分の特性に「理解がある環境」へ転職したいと強く思うようになり、サポートを受けられるKaienに繋がりました。
2度の通所で徹底的に磨いたコミュニケーションと、独自の生存戦略
――― 過去2回にわたってKaienの就労移行支援を利用されていますよね。それぞれの通所でどのような目標を掲げていたのですか?
1回目の通所の時は、とにかく苦手なコミュニケーションを克服したいと考え、用意されているコミュニケーション系のプログラムを文字通り「全て」受講しました。実践的なプログラムが非常に勉強になりました。2回目の通所の時も、自分が希望するSE(システムエンジニア)職での内定を目指して訓練に励みました。
――― 訓練を通じて、ご自身の変化はありましたか?
コミュニケーションが劇的に上達したと感じています。以前は、職場で何か問題が起きると「あれこれ言いたくなってしまう」「つい関わりすぎてしまう」という癖があり、それが原因で周囲との関わりの中で感情的になってしまうことがありました。
訓練を経てからは、「人とのやり取りに無理に介入しない」「相手に任せるべきところは任せ、自分の仕事は全力で全うする」という適切な距離感を掴めるようになりました。業務上の確認作業が大変な時でも、一歩引いて冷静に対処するスキルが身についたと思います。
グループワークでの葛藤と、困難を乗り越えるために導き出した「8つの鉄則」
――― 訓練の中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
やはり、グループワークで本当に多様な人たちとやり取りをしたことです。意見がぶつかることもあり、決して楽な訓練ではありませんでした。しかし、その中で「自分と相手の意見をしっかりと照らし合わせる」というスタンスを徹底することで、徐々に対処できるようになりました。
――― 素晴らしいですね。その実践の中で、現在の仕事にも役立っている具体的な知識やスキルはありますか?
はい、日々の訓練から導き出した「8つの鉄則」があります。
- 思い込みをしないで、必ず質問して確認する
- 相手も自分とは違う人間であることを認識する
- 自分の意見を正確に伝える
- 相手の話の意図を正しく理解する
- 相手が言った事実をオウム返しして確認する
- 感情的な言動はしない、言わない
- 他人に任せられる部分は相手に任せる
- 少しでも違和感を覚えたら、一旦立ち止まって停止する
これらの学びを忘れないよう、すべて自作のノートに書き留めて、訓練中も今も常に持ち歩いて見返しています。
年齢の壁に直面した就職活動と、黙々と打ち込める「SE職」への転身
――― 就職活動について伺います。1回目と2回目で違いはありましたか?
1回目の時は半年ほどの活動期間でした。当時は介護や営業事務の経験しかなかったのですが、「プログラミングがやりたい」という強い軸があったため、未経験から自分で必死に勉強してSE職を目指しました。その時はご縁のあった1社からの紹介を受け、最初の面接でスムーズに決まりました。しかし、2回目の就職活動ではさらに視野を広げ、4社ほど応募して選考に進みました。
――― 営業事務や介護からシステムエンジニアへの転身は大きな挑戦だったと思いますが、実際に働いてみていかがですか?
自分で事前に勉強を重ねていたこともありますが、何より自分の特性にとても合っていると感じています。SEの仕事は一人で黙々と作業に没頭できる時間が長く、他職種に比べてコミュニケーションの目的が明確でシンプルなことが多いので、精神的にも非常に落ち着いてパフォーマンスを発揮できています。
――― 就職活動の中で、特に苦労した点や「もっとこうしておけば良かった」と思う対策はありますか?
一番苦労したのは、やはり「条件に合う求人を探すこと」でした。どうしても年齢の制限で書類選考から弾かれてしまうことが多く、そこは大きな壁でしたね。そのため、ネットの求人だけでなく就職説明会などに足を運んで、直接企業の方と出会える場を活用しました。
やっておいて良かったのは面接練習ですが、もう少し「志望動機」の深掘りやブラッシュアップを徹底的に対策しておけば、さらにスムーズだったなと感じています。
今後の目標:さらなる自己研鑽と、感情のコントロール
――― 今後の仕事や人生における目標を教えてください。
これからも「自分を磨き続けたい」という気持ちが強くあります。特に、昔から苦手意識のある「感情のコントロール」については、今後もさらに意識を高めて、より洗練させていきたいです。自作のノートと共に、一歩ずつ慎重に成長していければと思っています。

【付録】Sさんについて(食べ歩きと旅行)
――― 休日はどのような趣味を楽しまれているのですか?
趣味は「食べ歩き」と「旅行」ですね。休日はリフレッシュを兼ねて、色々な場所へ出かけています。よく有名な観光地を巡ることが多いです。自分のペースを保てる「電車で行ける範囲」のエリアを選んで、のんびりと旅を楽しんでいます。
――― 最近、何かプライベートで嬉しかったことや、楽しかったエピソードはありますか?
実は最近、自分で密かに設定していたプライベートの目標を、無事に達成することができたんです。
――― おめでとうございます!ちなみに、それはどのような目標だったのですか?
詳細な内容は秘密ですが(笑)、自分の中でいくつか細かく立てていた目標があって、それらを最後まで一つひとつ実行し、やり切ることができました。それが最近の中で一番嬉しかったことです。
――― 自分で決めた目標を最後までやり切るというのは、本当に素晴らしい強みだと思います。仕事もプライベートも、着実に目標をクリアしていく姿がとても印象的でした。本日は貴重なお話をありがとうございました!
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