弱みを受け入れ、得意を伸ばす。ITスキルと対話で掴んだ新しい一歩

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今回お話を伺ったのは、就労移行支援事業所「Kaien池袋」を利用し、Web関連の経験を生かしながら見事内定を獲得されたSさんです。幼少期からの生きづらさや過度な気遣い、適応障害や気分変調症といった困難を乗り越え、ご自身の特性を客観的に理解し、得意分野を活かした就職活動に結びつけたプロセスについて、じっくりとお話をお聞きしました。

▼Sさんの簡単なプロフィール


  • 年齢:30代
  • 診断名:気分変調症(当初適応障害と診断、後に変更)
  • 苦手なこと:聴覚情報の処理(ワーキングメモリーの弱さ)、口頭のみの指示、スピードと正確性を同時に求められるマルチタスク
  • 前職:Webディレクター。過去には飲食店、テレビ小道具、新聞配達なども経験
  • 就職先:IT/情報通信系 (総務アシスタント/社内DXツール運用業務など)

相手の顔色を窺い続けた少年時代と、大人になって気づいた生きづらさの正体

―――まずは、Sさんの幼少期について教えていただけますか?

運動も勉強もごく平均的な子どもでした。当時流行っていたNintendo 64やゲームキューブ、ゲームボーイアドバンスで遊んだり、友達と近くの公園でケードロをしたり、カードゲームを楽しんだりと、一般的な子供時代を過ごしていたと思います。

―――ご自身の性格については、当時どのように捉えていましたか?

当時から責任感が強く、周囲に気を使いすぎる性格だったと感じています。実は、私の育った家庭環境が少し複雑で、母親は耳と目が不自由で、父親は職を転々とするような環境でした。一般的な家庭のように親に無邪気に甘えたり頼ったりすることが難しい環境だったため、無意識のうちに「周囲の顔色を窺う」「気を使いすぎる」という思考の癖が身についていったのだと思います。

―――周囲との違いや生きづらさを意識し始めたのはいつ頃でしょうか?

大人になってから、その思考の癖が「生きづらさ」として明確にのしかかるようになりました。20代に入ってからアダルトチルドレンや機能不全家族といった言葉を知り、30代で適応障害になって退職したことをきっかけに「自分のネガティブ思考や認知の偏りは、育ってきた環境に起因していたのかもしれない」と自覚し、自分自身の内面や思考の癖に向き合い始めました。

マルチタスクと口頭指示に苦しんだ過去の職場での経験

―――お仕事の場面では、具体的にどのような作業に困難を感じることが多かったですか?

ワーキングメモリーに弱さがあり、特に聴覚情報の処理が苦手なんです。そのため、口頭のみでの長文指示や、スピード感を求められる複雑なマルチタスク、手順が曖昧な業務では頭の中の処理が追いつかず、混乱してしまう傾向がありました。

―――特に印象に残っている苦労したエピソードはありますか?

20代前半で経験したテレビの大道具の現場では、不規則な勤務体制に加え、口頭指示・マルチタスク・スピードが求められる環境で処理と体力が追いつかず、 上司や先輩に頻繁に叱られてしまい長続きしなかった経験があります。 また、前職のWebディレクター業務では、大手広告代理店の下請けとして案件を担当していたのですが、案件定義や手順の変更が頻繁に発生していました。曖昧な指示のもとでスピード感を求められる業務が多く、うまく処理しきれないまま常態的な過重労働に陥ってしまうことがありました。

―――その後、メンタル面での不調から診断を受けることになったのですね。

はい。前職のWebディレクターの過重労働に加え、同時期に生じた家庭内の複合的なトラブルによるストレスが重なり、2024年8月に体調を崩してメンタルクリニックを受診し、最初は「適応障害」と診断されました。その後、休職し同年10月に退職。通院やデイケアでの対話を通じて、ストレス反応の背景には長期的な思考の癖や養育環境の影響があることが明確になり、Kaienに通所していた2025年9月に診断名が「気分変調症」へと変更になりました。

「自分に合った環境でやり直したい」Kaien池袋での訓練スタート

―――就労移行支援であるKaienを知り、利用を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

適応障害で休んでいた時期に通っていたデイケアで「就労移行支援」という福祉サービスがあることを教えてもらいました。それから複数の事業所に体験見学へ行きました。

―――複数の事業所の中で、Kaienを選んだ決め手は何でしたか?

魅力に感じたポイントは3つあります。1つ目は実践的なITスキルの訓練を受けられること、2つ目は自己理解やメンタルケアに関するプログラムが充実していること、そして3つ目は通いやすさです。自分の生きづらさの原因を客観的に整理し、これまでの経験を活かして再出発するには、Kaienが一番適していると感じて利用を決めました。

ITスキル向上と「人に頼る」姿勢で得た心理的安全性と自己理解

―――Kaienでの訓練を通じて、具体的にどのようなスキルアップに取り組まれましたか?

初期はExcelのVBAマクロやIT・デザインの基礎を広く学びました。その中で自身の適性を見極め、前職のWebディレクター経験を活かしたいと考え、クリエイティブコースを選択しました。

―――クリエイティブコースではどのような実践課題を行いましたか?

Adobeのソフト操作習得に加え、生成AI(ChatGPTやなど)を活用した業務効率化やタスク構造化の学習に取り組みました。ポートフォリオ制作として、企業向けのセキュリティソフトのバナーや携帯キャリアのキャンペーンバナーなど、実務を想定した広告物を作成しました。特に、生成AIを活用して構成を整理し制作したKaienのサービス紹介ショート動画は、思い入れの強い成果物になりました。

(掲載している動画はSさんがKaien利用中に作成したものです)

―――技術面だけでなく、ご自身の特性に対する変化や気づきはありましたか?

非常に大きな変化がありました。通所し始めた頃は自分の苦手さや特性を完全に把握しきれておらず、「自分で何とかしなければ」と思い詰める傾向がありました。しかし、訓練やスタッフさんとの相談、WAIS検査などを通じて自分の長所と短所を客観的に捉えられるようになりました。

―――具体的にはどのような対策が身につきましたか?

口頭での指示はメモに残してもらうかテキストで提示してもらうよう調整したり、生成AIを使って頭の中を構造化・整理したりする習慣がつきました。そして何より、困ったときに「一人で抱え込まず、講師やスタッフ、適切なツールに頼る」という姿勢が身についたことです。それにより精神的な安心感を得られるようになり、自己管理能力が大きく向上しました。

厳しい適性検査とデザイン業界の壁、周囲との連携で乗り越えた就職活動

―――就職活動はいつ頃から開始され、どのような軸で臨まれましたか?

通所6ヶ月目にあたる2026年1月から本格的に始めました。軸として掲げたのは、「長期的かつ安定して働ける環境」「自分のこれまでの経歴やスキルが生かせる仕事」「正社員登用制度があること」の3点です。

―――実際の就職活動では、どのような苦労がありましたか?

合計14社に応募したのですが、障害者雇用枠での就職活動は初めてだったため、最初はなかなか書類選考が通りませんでした。特にデザイン系の求人は倍率が非常に高く、求められるスキルのハードルも高いため、厳しさを痛感しました。

―――適性検査でもかなり苦戦されたとお聞きしました。

はい。Webデザイナーやテスターの求人などで求められる独自の高難度の適性検査に苦しみました。時間制限の中でスピードと正確性の両立や、論理的思考力を試される試験に対し、プレッシャーや焦りから本来の力が発揮できず、思うような結果に繋がらない日々が続きました。 

―――不採用が続くとメンタル維持も大変だったかと思いますが、どのように乗り越えたのでしょうか?

一人で抱え込まず、拠点のスタッフや講師、クリエイティブスタッフの方々に随時相談しました。応募書類の作成においては、自分一人では気づけなかった「面接官目線で調整すること」や「情報のノイズを減らすこと」というアドバイスをいただきました。具体的には、「職歴を降順に整理する」「応募先に関連する記述を強化し、不要な職歴(学生時代のアルバイトなど)は削る」などのアドバイスをいただいたことで、読み手にとって格段に伝わりやすい構成へと改善できました。

面接対策では、自分では意識できていなかった話し方の癖や体の動きに気づくことができました。いただいたアドバイスをもとに想定問答集をブラッシュアップしたことで、本番での質疑応答の精度も高まり、就活全体のクオリティや説得力を大きく上げることができました。

また、生成AIを活用して企業分析や気持ちの整理を行いました。常に周りに相談できる環境があったおかげで、折れることなく安定した状態で活動を継続できました。

―――見事に内定を獲得された企業について、入社の決め手を教えてください!

決め手となったのは、自社アプリを活用して社内コミュニケーションを活性化させたり、エンゲージメントを高めたりする施策にとても力を入れている点でした。社員同士のすれ違いやミスを防ぐ工夫が徹底されており、社員を大切にする企業姿勢に魅力を感じました。面接でお話しした際も肌感覚がとても合い、安心感を持てたことが大きかったです。

―――新しい職場での抱負をお願いします。

新しい職場では総務アシスタントとして、総務・庶務全般や社内DXツールの運用などの業務を行う予定です。一日も早く業務内容を覚えてチームや会社に貢献できるよう、日々精進していきたいと考えております。

【付録】舞台鑑賞と推し活でリフレッシュ!Sさんのプライベートに迫る

―――ここからは少し肩の力を抜いて、K.Sさんのプライベートな一面についてお伺いします!趣味や休日の過ごし方は何ですか?

趣味は舞台鑑賞です!年に数回、「劇団☆新感線」や「NODA MAP」などの公演を見に行きます。劇作家の宮藤官九郎さんや松尾スズキさん、中島かずきさんの作品が好きで、阿部サダヲさんや荒川良々さんが出演される舞台によく足を運んでいます。公演がない休日は、家でジャンプ系の漫画を読んだり動画配信サービスを見たりしてリフレッシュしています。

―――素敵な趣味ですね!最近楽しかったことや嬉しかった出来事はありますか?

妹の影響で「ちいかわ」が好きになりまして(笑)。池袋のショップによく行くのですが、推しキャラクターである「栗まんじゅう」と「シーサー」の映画コラボキーホルダーがどうしても欲しくて、無事にゲットできたことが最近一番嬉しかったことです!

―――本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!

(Sさんの好きな劇団の演劇『髑髏城の七人』花鳥風月極のBlu-rayBOXです。)
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