
本記事は2026年11月4日時点の情報をもとにしています。
「発達障害は、身体・知的・精神の障害を合わせたよりも大きな概念に膨らんでいる」。2026年10月13日、発達障害者支援法の改正に向けて国会内で開かれたヒアリングで、Kaien代表の鈴木はこう述べました。そのうえで、支援を「障害」の枠の中だけで考えるのではなく、一般枠の職場や“普通”とされる場にいる人への支援から考えるべきだと指摘しています。
超党派の国会議員でつくる「発達障害の支援を考える議員連盟」は、2016年以来となる発達障害者支援法の改正に向けて議論を本格化させています。目指しているのは、2027年の通常国会での法案提出です。法律が変わると聞くと、「今受けている支援はどうなるのか」「診断名の扱いが変わるのか」と不安になる方もいるかもしれません。ただ、改正の中身は現時点では検討段階で、まだ決まったことはありません。
≪用語解説:発達障害者支援法≫
発達障害者支援法とは、発達障害のある人への支援について、早期の発見、切れ目のない支援、国や自治体の責務などを定めた法律です。発達障害のある人が社会参加の機会を確保され、地域でほかの人々と共生できる社会の実現をめざしています。
この記事では、ヒアリングに出席した立場から、何が始まったのか、法律がこれまでどう変わってきたのか、そして現場からどんな論点が示されたのかを、順を追って整理します。ご自身やご家族にとって何が関係しそうか、今からできることは何かも、あわせてお伝えします。
動画では、ヒアリング当日の様子も含めて、鈴木がさらに詳しく解説しています。
この記事で分かること
- 何が始まったのか:超党派の「発達障害の支援を考える議員連盟」が、2026年10月13日に発達障害者支援法の改正に向けたヒアリングを始めました。2027年の通常国会で改正案を提出することを目指しています。
- 改正で何が論点になっているのか:グレーゾーンを含めた支援対象の広げ方、発達障害者支援センターの地域差、法律の名称や用語の見直しなどが挙がっています。
- ヒアリングで現場から何が訴えられたのか:出席したKaien代表の視点から、「障害」の枠の外にいる人をどう支えるかという問題提起を紹介します。
- 今受けている支援はどうなるのか:改正内容はまだ決まっておらず、今利用している福祉サービスや障害者手帳がすぐに変わるわけではありません。
- 今からできることは何か:立場ごとに注目したい論点と、制度が変わるのを待たずに相談できる窓口をお伝えします。
超党派議連は何を始めた?2027年の改正案提出に向けたヒアリング
超党派の「発達障害の支援を考える議員連盟」は2026年10月13日、国会内で総会を開き、発達障害者支援法の改正に向けて有識者らへのヒアリングを始めました。報道によると、議連は現行法では対応が不十分とされる分野の拡充などの課題を整理し、2027年の通常国会で議員立法による改正案の提出を目指しています。
議連の会長は野田聖子元総務相で、衆参あわせて167名の国会議員が参加しています。初回のヒアリングには、発達障害のある人の生活・就労・学習などを支援する企業として、LITALICO、Kaien、ミライロの経営層が出席しました。報道によると、野田会長は冒頭で、現場で働く人たちから見た現状について率直な意見を求めました。
≪用語解説:議員立法≫
議員立法とは、内閣(政府)ではなく国会議員が法律案を作成し、国会に提出する立法の方法です。発達障害者支援法も、超党派の議員の取り組みによる議員立法として成立した法律です。
議連は医療や福祉の専門家などからも意見を聞き、関係省庁と調整しながら改正案をまとめる方針です。ヒアリングは10月13日の初回以降も続いています。2回目には医療・研究分野の有識者として辻井正次中京大学教授と岡田俊奈良県立医科大学教授が意見を述べ、11月には3回目のヒアリングも行われました。支援団体からは、高齢の発達障害者への支援の強化などを求める声も上がっています。
議連会長の野田聖子衆議院議員とは、ヒアリングに先立つ2026年9月29日に、Kaienの公式YouTubeチャンネルで対談を収録しています。対談では、人口減少が進む中での障害福祉のあり方をテーマに、障害者手帳を持たない人へ支援の対象をどう広げるか、支援の地域差をどう解消するかといった論点を取り上げており、発達障害者支援法にも触れています。今回の改正論議の背景にある問題意識を知る手がかりとして、あわせてご覧ください。
では、今回の改正は、法律のどこを見直そうとしているのでしょうか。それを考えるために、まずはこの法律がたどってきた経緯を振り返ります。
発達障害者支援法はこれまでどう変わってきた?2004年の制定と2016年の改正
発達障害者支援法は2004年に成立し、2005年に施行されました。 その後、2016年に初めて改正されています。今回の改正が実現すれば、約10年ぶり、2回目の改正になります。
2016年の改正では、法律の目的に、切れ目なく支援を行うことの重要性が盛り込まれました。あわせて「発達障害者」の定義が、「発達障害があり、発達障害と社会的障壁によって日常生活や社会生活に制限を受ける人」へと改められました。
≪用語解説:社会的障壁≫
社会的障壁とは、障害のある人にとって、日常生活や社会生活を送るうえで障壁となる社会の事物・制度・慣行・観念などのことです。2016年の改正で、発達障害者支援法の定義に取り入れられました。
動画の中で鈴木は、2016年の改正について、必要なものではあったものの、劇的な変更ではなかったと振り返っています。最も大きな変化は障害の捉え方にあり、障害を本人の「皮膚の中にあるもの」と考える見方から、社会との相互作用によって生まれるものと考える見方へ移った点だといいます。そのうえで、全体としては国や自治体の責務や支援を一歩踏み込んで拡充する方向の改正だったと見ています。
| 時期 | 出来事 |
| 2004年 | 発達障害者支援法が成立(2005年に施行) |
| 2016年 | 初の改正。社会的障壁の考え方を定義に反映 |
| 2026年10月 | 議連が改正に向けたヒアリングを開始 |
| 2027年 | 通常国会での改正案提出を目指す |
報道によると、発達性協調運動症など、現在は政令や省令に委ねられている発達障害の扱いを法律に明記するよう求める声もあります。「誰を発達障害として支援の対象にするのか」という問いは、今回のヒアリングで現場から示された論点とも重なっています。
現場は何を訴えた?「障害」の枠の外にいる人をどう支えるか
初回のヒアリングでKaienが示した中心的な論点は、「誰が支援されるべきか」「どこで支援されるべきか」を、「障害」という枠の外まで広げて考え直す必要がある、という問題提起でした。冒頭で紹介した「発達障害は他の障害を合わせたよりも大きい」という現状認識は、まさにこの問いにつながっています。
発表ではこのほかに、3つの提案も行われました。1つ目は、発達障害者支援センターの配置の偏りを是正することです。センターはすべての都道府県と政令指定都市に設置されていますが、県内に1か所しかないところもあり、人口や地域の広さに対して数に大きな差があります。2つ目は、本人への支援だけでなく、職場や家庭など周辺の環境へ働きかける仕組みを充実させることです。3つ目は、現行の条文に残る「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」など、今の診断ではあまり使われなくなった用語を見直すことです。
≪用語解説:発達障害者支援センター≫
発達障害者支援センターとは、発達障害のある人やその家族からの相談に応じ、助言や情報提供、関係機関との連携などを行う専門機関です。都道府県や政令指定都市が、直接運営するか社会福祉法人などに委託して設置しています。
発表後の質疑や会合後の意見交換で議員の関心が特に集まったのは、いわゆるグレーゾーンにまで支援をどう広げるか、という点でした。現行法は発達障害者を支援の対象として定めていますが、発達障害の特性はスペクトラム(連続体)で、はっきりした境界線はありません。動画内では、法律である以上は対象を定める必要があるとしても、法技術的に何か工夫できないか、という意見が複数の議員から出ていたことにふれています。
鈴木は、この点が進めば非常に大きな変化になると指摘しています。発達障害の特性は多くの人に当てはまり得るもので、その人たちをどう支えるかを定め直すことは、「小さな法律だが、大きな意味を持つ定義の拡充」になり得るという見立てです。
動画では、ヒアリングでの発表内容や議員とのやりとりを、さらに詳しく解説しています。
誰を対象にするかという議論は、法律の名前や用語をどうするかという議論にもつながっています。
「発達障害」という呼び方は変わる?神経発達症への見直しと残された論点
法律の名称や用語を変えるかどうかは、現時点では検討段階です。動画によると、ヒアリングの場では議員から、国際的な分類であるICD-11で使われる「神経発達症」に合わせて「神経発達症支援法」のような名称にするのか、あるいは別の言葉を工夫できないのか、といった意見が出ていたといいます。
≪用語解説:ICD-11≫
ICD-11とは、世界保健機関(WHO)が定める、病気や障害の国際的な分類の第11版です。この分類では、発達障害にあたる領域は「神経発達症」としてまとめられています。日本の行政統計などでもICDが用いられています。
日本では、統計法に基づく「疾病、傷害及び死因の統計分類」がICDに準拠して定められています。ICD-11に準拠した新しい分類は、2026年1月に総務省が告示し、2027年1月1日から施行される予定です。動画では、行政は医療の分類の中でもICDに沿う傾向があるため、この切り替えに合わせて法律の用語をどうするかが論点になっていると説明されています。
一方で、鈴木は「発達障害」という言葉が果たしてきた役割も評価しています。英語圏ではASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などが個別に語られ、それらをまとめて呼ぶ言葉があまりありませんでした。その役割を「ニューロダイバーシティ」が担うようになったのは2010年代以降だと見ています。これに対して日本では、2004〜2005年の段階から「発達障害」というゆるやかな概念でまとめてきました。このことを「すごく上手な発明」と表現し、それが支援の広がりにつながったと話しています。
ただ、グレーゾーンまで含めると対象がさらに広がる中で、「障害」という言葉のままでよいのか、別の言葉が必要ではないか、という意見もヒアリングで出ていたといいます。動画の中でも、言葉の見直しは今回の改正で注目したい焦点の一つだと語られています。
では、こうした議論は、当事者や家族、支援者、企業にとって具体的にどんな意味を持つのでしょうか。
当事者・家族・企業には何が関係する?今からできること
発達障害者支援法の改正内容は現時点では決まっておらず、今受けている支援や手続きがすぐに変わるわけではありません。改正による具体的な影響は、改正案の内容が固まった段階で確認する必要があります。そのうえで、立場ごとに注目しておきたい論点は次のとおりです。
| 立場 | 注目したい論点 |
| 当事者 | 診断の有無にかかわらず支援を受けられる範囲が広がるか。法律上の用語や名称がどう変わるか |
| 家族 | 家庭など周辺環境への支援がどう位置づけられるか。成人期・高齢期まで支援が続くか |
| 支援機関・事業所 | 発達障害者支援センターの地域差がどう是正されるか。職場や家庭への働きかけがどう扱われるか |
| 企業 | 一般枠で働く、特性のある社員への支援や環境調整のあり方 |
ご家族にとって特に気になるのは、子どもが大人になった後の支援ではないでしょうか。動画では、成人期の生活支援が十分に検討されていないという視聴者の声が取り上げられました。これに対して、18歳を境に医療機関での受け入れが難しくなるケースが支援者向けの講座でも話題になっていたことを紹介しています。そのうえで、法律だけで変わるものではないとしつつも、子どもから大人への移行期(トランジション)の支援は重要だと応じています。報道されている「高齢期まで切れ目なく支える」という改正の方向性とも重なる論点です。
制度の議論が進む間にも、今からできることがあります。
- 報道や議連・関係団体の発信をチェックし、改正の議論がどこまで進んでいるかを確認する
- 診断の有無にかかわらず、困りごとがあれば地域の発達障害者支援センターや自治体の相談窓口に相談する
- 働くことに不安がある方は、就労支援機関に早めに相談し、一般枠・障害者雇用の両方を視野に入れて働き方を考える
- 学生の方は、在学中から使える支援がないかを、学校の相談窓口や外部の支援機関で調べておく
働き方を一緒に考えたい方には就労移行支援、大学や専門学校に在学中の方にはガクプロ、生活リズムや暮らしの土台を整えたい方には自立訓練(生活訓練)という選択肢もあります。
発達障害者支援法の改正に関するよくある質問(FAQ)
改正されると、今使っている福祉サービスや障害者手帳はどうなりますか?
現時点で、今利用している福祉サービスや障害者手帳の扱いが変わると決まったことはありません。障害福祉サービスの多くは障害者総合支援法など別の法律に基づいています。改正案の内容が固まった段階で、自治体や利用中の事業所に影響を確認すると確実です。
改正法はいつから施行されますか?
施行時期はまだ決まっていません。議連は2027年の通常国会での改正案提出を目指していると報じられていますが、提出や成立の時期、施行日は今後の国会審議しだいです。成立後は、厚生労働省やこども家庭庁などの発表で施行日を確認できます。
診断を受けていなくても、今相談できる場所はありますか?
はい、診断がなくても相談できる場所はあります。地域の発達障害者支援センターの中には、診断の有無を問わず相談を受け付けているところもあります。対応はセンターによって異なるため、国立障害者リハビリテーションセンターが公開している全国一覧で、お住まいの地域の窓口を確認してみてください。
まとめ:発達障害者支援法の改正は「誰を、どこで支えるか」を問い直す議論
発達障害者支援法の改正に向けた議論は、2026年10月13日のヒアリングで本格的に動き出しました。2016年の改正は、障害の捉え方を社会との関係へと広げるものでした。これに対して今回は、診断の枠に収まらない人も含めて「誰を、どこで支えるか」が問われています。現場からは、一般枠や“普通”の場にいる人への支援、グレーゾーンへの対象の広げ方、法律の言葉の見直しといった論点が示されました。
改正案は2027年の通常国会への提出が目指されていますが、内容はまだ検討段階です。議論の行方を見守りながら、困りごとがある場合は、制度の変化を待たずに相談につなげることが大切です。
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参考資料
- 発達障害者支援法の改正へ「現場の声を」…超党派議連が始動、2027年に法案提出目指す|東京新聞デジタル|https://www.tokyo-np.co.jp/article/521365
- 高齢期まで「自分らしく」…発達障害者支援法、11年ぶり改正へ 超党派議連が検討本格化|東京新聞デジタル|https://www.tokyo-np.co.jp/article/520994
- 発達障害者支援法の一部を改正する法律案(衆第三六号)要旨|参議院|https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/190/meisai/m19005190036.htm
- 疾病、傷害及び死因の統計分類(ICD-11準拠)|厚生労働省|https://www.mhlw.go.jp/stf/toukei/goriyou/sippei.html
- 発達障害者支援法|e-Gov法令検索|https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC1000000167



