
*【制度ハック】…支援の質ではなく、報酬制度の仕組みを突いて収益を最大化する行為
「障害のある人の支援のために使われているはずの税金が、適切に届いていないかもしれない」——そう感じたことはないでしょうか。 障害福祉サービスの予算はこの20年弱で約4倍に拡大し、2兆円を超えました 。
しかし、就労継続支援B型の現場では、予算が大幅に増えた一方で、利用者1人あたりの工賃はここ数年で月額1000円程度しか上がっていないという現実があります。お金の流れと利用者への還元が、なぜこれほどまでに一致しないのか。
本記事では、Kaien代表の鈴木慶太が司会を務め、日本財団シニアオフィサーの竹村利道氏と株式会社パパゲーノ代表取締役の田中安正氏と共に、障害福祉の「構造的な歪み」を徹底討論した内容を解説しています。
「制度ハック」と呼ばれる不適切な事業運営の実態から、B型事業所の構造的課題、支援者の専門性問題まで、現場の知見をもとに幅広く議論されました。障害福祉に関わるすべての方——当事者・家族・支援者・企業人事——にぜひご覧いただきたい内容です。
Kaien特別セミナー「徹底討論 障害者総合支援法改革案 その福祉は本当に必要か」
登壇者:日本財団シニアオフィサー・竹村利道氏、株式会社パパゲーノ代表取締役・田中安正氏
動画公開日時:2026年4月7日
目次
国の予算は4倍に。では、利用者の生活は4倍豊かになったか
まず示されたのは、厚生労働省が公表した障害福祉費の推移です。障害福祉サービス全体の予算は、この20年弱で約4倍に拡大し、2兆円を超えています。就労継続支援B型だけでも、前年度比で1000億円増の約6279億円に達しています。

竹村氏はこの数字を受け、「予算が増えた一方で、B型利用者1人あたりの工賃は数年で月額1000円しか上がっていない」と指摘しました。お金の流れと利用者への還元が一致していないことへの疑問です。
田中氏も「義務的経費である以上、国は支出し続けるしかない構造になっている。その市場を狙って、福祉に縁のなかった経営者が参入してくることが問題の温床だ」と述べました。
「税金で運営されているサービスである以上、使っていない国民も含めた理解が得られるかどうかが極めて重要だ」という田中氏の発言は、福祉事業の本質的な在り方を問うものでした。
「エース問題」──利用者を手放せない事業者の現実
セミナーで印象的だったのが、竹村氏が語った「エース問題」です。B型事業所を視察した際、職員から「彼がこの職場のエースなんですよ」と紹介された利用者がいたといいます。
竹村氏は「心の中で『就職させろよ』と思った」と述べました。利用者が事業所の運営を支えるほどの能力を持ちながら、一般就労への移行が促されない。この構造が、B型からの移行率がわずか1.4%にとどまっている一因ではないかという指摘です。
田中氏は「モラルでは追いつかない。ルールで明確にする必要がある」と応じました。利用者を「手放す」ことを事業者に促す仕組みがなければ、いくら支援の理念を掲げても変わらないという見立てです。

竹村氏はこの問題への対策として、車椅子バスケットボールの「持ち点制度」を応用し、区分なしの利用者が増えれば自動的に一般就労へ移行する仕組みを提案しました。「B型に誰でもいつまでも通っていいという状態を変えるために、循環の仕組みが必要だ」というものです。
自分が通う事業所が「本当に自分の可能性を広げようとしているか」を問い直すことは、利用者本人にとっても重要な視点かもしれません。
支援者が「ノー」と言えない構造──専門職の地位と倫理
絆ホールディングスの不正問題が長期間続いた背景として、田中氏は「支援者が経営者に対してノーと言えない構造」を挙げました。
税理士や社会保険労務士であれば、経営者から不正を求められても専門職としての倫理規定に基づき拒否できます。しかし社会福祉の現場では、職業上の業務独占がなく、専門職としての地位が相対的に低い。その結果、経営判断に逆らえない支援者が「不正の片棒を担がされる」構造になりやすいと指摘しました。

当社鈴木は「就労支援士などの資格研修では、支援のやり方は教えるが職業倫理や内部告発のルールはほぼゼロだった」と述べました。医師や看護師には倫理教育が組み込まれているのに対し、福祉現場の支援者にはその仕組みが十分でないという問題提起です。
竹村氏は解決策として、全ての支援者に対し「向こう3年間に必須研修を受けなければ指定取り消し」とする制度設計を厚労省に提言する構想を明かしました。
現場で働く支援者にとって、「自分はどこまで経営判断に関与せず、利用者のために動けるか」を問い続けることが、健全な支援の基盤になるのかもしれません。
【補足解説】知っておきたいキーワード
就労継続支援A型・B型とは
障害のある方が一般就労に向けて訓練・就労体験を行う福祉サービスです。
就労継続支援A型は、基本的に雇用契約を結び最低賃金が保障されます。一方、就労継続支援B型は雇用契約なしで、「工賃」が支払われます。工賃は事業所により大きく差があり、全国平均は月額約1万7000円前後です。
義務的経費とは
予算の上限が設定されず、自治体が支給決定をした場合、国・都道府県が法律に基づき費用の一部を負担し続ける仕組みです。障害福祉サービスが義務的経費化されたことで、「予算がないから使えません」という状況がなくなった一方、支出が青天井になりやすいという課題も生まれました。
就労選択支援とは
2024年度から始まった新サービスです。障害のある方が就労系サービス(A型・B型・就労移行支援など)の中から自分に合ったものを選べるよう、中立的な立場から相談支援を行います。囲い込みを防ぐことが制度の趣旨ですが、セミナーでは「囲い込みをやめましょうという制度なのに、囲い込みをしている事業者が選択支援事業者になっているケースがある」との指摘もされました。
自立支援協議会とは
障害者総合支援法に基づき、各自治体が設置を義務付けられている地域協議会です。支援関係者や当事者が集まり、地域の課題を話し合う場とされていますが、形骸化している自治体も多いとされています。竹村氏はこの場を活性化し、事業所の審査機能を持たせることを提言しました。
福祉の未来を「循環」させるために
今回の討論で浮き彫りになったのは、膨らむ予算の裏側で、本来の目的である「利用者の自立と豊かな生活」が置き去りになりかねない危うい構造です。
「エース問題」に象徴される囲い込みや、専門職の倫理を揺るがす制度の穴。これらを放置せず、いかに健全な「循環」を生み出していくか。竹村氏、田中氏の両名からは、ルールによる強制力や支援者の質向上など、極めて具体的かつ抜本的な提言がなされました。
障害福祉制度が、真に「自分らしく生きる」ためのインフラとして機能し続けるために。私たちKaienも、現場の支援と並行して、こうした制度の健全化に向けた情報発信を続けてまいります。

