聴覚情報処理障害(LiD/APD)の人が働きやすくなる工夫と向いている仕事|困りごとの対策と支援サービスも紹介

公開: 2024.5.10更新: 2026.5.20

聴覚情報処理障害(LiD/APD)は、近年ようやく認知度が高まりつつありますが、周囲の理解が得られず悩んでいる方は少なくありません。中には、仕事で十分な成果を発揮できず、転職を検討している方もいるでしょう。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)があっても無理なく働くためには、その特性への深い理解が必要です。この記事では、聴覚情報処理障害(LiD/APD)の症状や、働きやすくするための工夫、向いている仕事、困りごとへの対処法、支援サービスなどについて解説します。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)とは

聴覚情報処理障害(LiD/APD)とは、一般的な純音聴力検査では正常な聴力が確認されるにもかかわらず、雑音のある環境などでは音声の聞き取りが難しくなる障害です。

静かな場所ではほぼ問題なく聞き取れるものの、複雑な聴取環境では音の情報をうまく処理できず、理解に支障をきたすのが特徴です。

聴力そのものに異常はないと診断される一方で、耳から入った音の情報を脳で処理・理解する過程に、なんらかの障害があると考えられています。その背景には、発達障害*やその他の精神疾患、心理的要員、性格特性、聴取環境が複雑に関係している可能性があるとされています。

参考:小渕千絵(2015)「聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorders, APD)の評価」第59回日本音声言語医学会シンポジウム

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の症状

聴覚情報処理障害(LiD/APD)にはまだ明確な定義がありませんが、2024年3月に日本医療研究開発機構(AMED)が公表した「LiD/APD診断と支援の手引き」によると、以下の定義が示されています。

  • 聞き取り困難の自覚症状を持っている
  • 末梢性の聴覚障害を認めない
  • 聞き取り困難の訴えを自覚
  • 音聴力検査が正常、両耳の語音明瞭度が正常範囲のもの

主な症状としては、聞き間違いや聞き返しが多い、グループでの会話を聞き取るのが困難、ザワザワしたところで声が聞き取りづらいなどが挙げられます。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)と難聴(聴覚障害)の違い

聴覚情報処理障害(LiD/APD)と難聴(聴覚障害)の大きな違いは、聴力異常の有無です。聴覚情報処理障害(LiD/APD)が脳や神経の障害であるのに対して、難聴は耳の機能に何らかの障害があり、音が聞きづらくなる障害です。

なお、難聴には外耳や中耳に障害が認められる「伝音性難聴」と内耳や聴神経に問題が認められる「感音性難聴」、これらの両症状が組み合わさった「混合性難聴」の3種類に分けられます。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)と発達障害の関係

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の原因はさまざまですが、最も多いのは発達障害であると考えられています。「LiD/APD診断と支援の手引き」によると、小児を対象とした167例のうち、聴覚情報処理障害(LiD/APD)の疑いがある101例においては、約半数が神経発達症(発達障害)を合併していると報告されています。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)と発達障害の具体的な関連性は分かっていませんが、発達障害の方は聴覚にも問題を抱えている傾向があり、同手引きによれば自閉スペクトラム症(ASD)の感覚過敏やフィルタリング機能の異常なども一因になっているのではないかと推測されています。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方の仕事での困りごとと対策

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方は、「聞き取りが苦手」という特性から、日常生活や仕事におけるコミュニケーションで、困難を抱えるケースが少なくありません。特に以下のような、よくあるお悩みについて、対策を紹介します。

  • 電話の聞き取りが難しい
  • 会議で話の内容が把握しづらい
  • 雑音や周囲の声で集中しづらい
  • 周囲の理解と協力を得にくい

電話の聞き取りが難しい

聴覚情報処理障害(LiD/APD)のある方は、耳だけでの指示や伝達を理解するのが難しいという特性から、電話での聞き取りに困難を感じるケースがよくあります。

電話での聞き取りの困難さに対しては、以下の対処法が考えられます。

  • 静かな環境で通話できるよう、職場や周囲の協力を得る
  • ノイズ低減機能付きのイヤホンやヘッドホンを使用する
  • 通話内容をリアルタイムで文字に変換する音声認識アプリを補助的に使う
  • 会話内容を後で確認できるよう、許可を得てボイスレコーダーを使用する
  • メールやチャットなど、文字でのやり取りに切り替えてもらう

これらの対策を実施するためには、職場や通話相手の理解と協力が欠かせません。必要に応じて、丁寧に協力をお願いするようにしましょう。

会議で話の内容が把握しづらい

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方は、複数人との会話に難しさを抱える特性があります。会議では、会話のテンポや重なりが理解を難しくし、「誰が話しているか分からず、聞き取れない」「話しの流れや切り替えがつかめない」といった状況に陥りがちです。

こうした会議での聞き取りの困難さに対しては、次の対処法が考えられます。

  • 発言者が一人ずつ話すように配慮してもらう
  • 話し手の顔や口の動きが見える位置に座る
  • 議事録や要点メモを共有してもらう
  • メインスピーカーの声が聴きやすい席に座る
  • 後から聞き直せるよう、許可を得た上で会議内容を録音する
  • 音声をリアルタイムで文字に変換する音声認識アプリを活用する

これらの工夫を取り入れることで、会議での情報把握がしやすくなり、内容理解の負担を軽減できます。周囲の理解と協力を得ながら、自分に合った方法で対処していきましょう。

雑音や周囲の声で集中しづらい

聴覚情報処理障害(LiD/APD)のある方は、背景音を無意識に遮断することが難しく、周囲の話し声や物音が気になって集中が途切れやすいという特性があります。そのため、聞き返しや聞き誤りが多くなる傾向も見られます。

雑音や周囲の声で集中しづらい場合の対処法は、下記の通りです。

  • 静かな席を確保する
  • デスクにパーティションを設置する
  • 在宅勤務を取り入れる
  • ノイズキャンセリング機能付きイヤホンやヘッドホンを使用する
  • 音量調整付き耳栓などを活用する

集中力を保つためには、まずは静かに作業ができる環境の確保が大切です。周囲の協力が得られにくい場合でも、耳栓やノイズキャンセリング機器などを活用することで、ある程度の雑音を軽減できます。自分に合った方法を見つけ、安心して作業に取り組める環境を整えましょう。

周囲の理解と協力を得にくい

聴覚情報処理障害(LiD/APD)は外見から分かりにくく、「話しを聞いていない」「集中していない」と誤解されやすい特性があります。そのため、職場で孤立感を抱いたり、強いストレスを感じたりするケースも少なくありません。

周囲の理解と協力を得るためには、以下のような対策が考えられます。

  • 上司や同僚に、本人が抱えている困りごとを具体的に伝える
  • 聴覚情報処理障害(LiD/APD)の特性を分かりやすく説明する
  • 社内研修や説明資料などを活用し、聴覚情報処理障害(LiD/APD)への理解を深めてもらう
  • 身近な人に理解してもらい、精神的なサポートを受ける
  • 耳鼻咽喉科や心療内科など、聴覚情報処理障害(LiD/APD)に詳しい専門医に相談する

こうした取り組みを通じて、職場や周囲の人々との相互理解が進み、安心して働ける環境づくりにつながります。チーム全体で支え合える関係性を築くことが、本人の負担軽減にも重要です。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方に向いている仕事|聴覚情報に頼らない仕事はある?

聴覚情報処理障害(LiD/APD)のある方は、静かな環境で働ける職場や、文字による情報のやり取りが中心となるなど、聴覚情報にあまり頼らずに業務ができる職種が向いています。

では、実際に聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方が快適に働ける仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、具体的な職種や働き方の例をご紹介します。

聞き取り作業が比較的少ない職種や働き方

  • ライター
  • データアナリスト
  • イラストレーター
  • プログラマー
  • デザイナー
  • 電話対応の少ない事務職
  • フルリモートでの働き方

上記職種は、一人での作業が中心で、聞き取り業務が完全にゼロではないものの、比較的少ない傾向があります。業務の多くが文書やデジタルツールを通じて進められるため、聴覚情報への依存度が低く、安心して取り組みやすい環境といえるでしょう。

また、働き方としては、在宅ワークが特に適しています。仕事の連絡もチャットツールやメールを使うことが多く、口頭でのやり取りが減るため、聞き漏れの不安も軽減できます。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方が仕事をするのに活用できる支援制度・サービス

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方が仕事を探す際や、働きやすい環境を整えるためには、福祉支援制度や各種サービスの活用が有効です。これらの制度は、就労に関する困難を軽減し、安心して働ける環境づくりをサポートしてくれます。

障害者手帳の取得

現在、聴覚情報処理障害(LiD/APD)は障害者手帳の交付対象になっていませんが、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などの発達障害がある場合には取得が認められるケースがあります。発達障害の場合、一定の条件を満たすことで「精神障害者保健福祉手帳」と「療育手帳」の取得が可能です。

障害者手帳が交付されれば、各種福祉サービスを受けられるほか、障害者雇用として働くこともできるようになるため、職業選択の幅が広がります。

障害者手帳の取得方法やそれにより利用できる支援制度について詳しくは、下記の記事も参考にしてください。

関連記事:精神障害者保健福祉手帳のメリットとは?取得方法や利用できる支援制度を解説

Kaienのリワーク

Kaienでは、メンタルヘルスの不調により休職中の方を対象とした復職支援施設「こころのリワークセンター」を開設しています。本サービスでは、YouTuberでもあり精神科医でもある益田祐介医師の監修のもと、医学的な知見と連携しながら、セルフケアの方法やコミュニケーション力、ビジネススキルを身につけられます。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)や発達障害などの特性にも理解がある、精神医学や復職・就職支援の知見を持つ専門スタッフがサポートを担当しています。そうした支援を受けながら、生活リズムの調整、ストレスへの対処法、コミュニケーション力の向上など、多彩なプログラムを通じて、復職や転職の準備ができます。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるよう、生活上のスキルの維持・向上を目的とした訓練を行う障害福祉サービスです。

直接的な就労支援ではなく、生活の基盤を整えるための支援であり、生活能力の維持・向上に向けたさまざまな講習や訓練を受けられます。聴覚情報処理障害(LiD/APD)や、その背景にある発達障害などで、日常生活に困難を感じている方にとって、困難の軽減や解消につながる支援です。

たとえば、Kaienの自立訓練(生活訓練)では、自分の特性を理解し、対処法を学ぶ「自己理解・障害理解のトレーニング」や対人関係を円滑にする「ソーシャルスキルトレーニング」などを提供しています。就労の土台となる日常生活に不安がある場合に、安心して頼れる支援サービスです。

Kaienの自立訓練(生活訓練)について詳しくは、下記の記事も参考にしてください。

関連記事:自立訓練(生活訓練)とは?対象者と利用期間、事業所の種類やカリキュラムを解説

Kaienの就労移行支援

就労移行支援とは、障害のある方が一般就労を目指すために利用できる福祉サービスです。支援内容は就労に必要な知識やスキルの習得、求職活動のサポート、就職後の定着支援など多岐に渡ります。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)や発達障害などへの理解がある専門スタッフが、就労環境の調整や困りごとへの対策などをトータルで支援してくれます。障害の説明が苦手な方や、就労に不安を感じている方にとっても、心強い味方となるでしょう。

Kaienの就労移行支援では、充実した職業訓練と豊富なカリキュラムを通じて、自分の特性に合った職業探しから、目的に応じたスキルの向上、独自求人の提供までを一貫して支援しています。

これまでに約2,000人以上の就職を支援しており、就職率は86%を誇ります。また、1年後の離職率は9%と低く、利用のしやすさにも定評があります。

Kaienの就労移行支援について詳しくは、下記の記事も参考にしてください。

関連記事:就労移行支援

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方がKaienのサービスを活用して就労をした際の訓練内容

聴覚情報処理障害(LiD/APD)のある方が、Kaienのサービスを活用して就労を目指す際に受けられる訓練内容の一例をご紹介します。

図解のあるマニュアルの使用

Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)では、聴覚情報処理障害(LiD/APD)のある方でも安心して利用できる支援環境が整っています。

たとえば、生活スキルやビジネススキルの向上を目的とした支援プログラムでは、図解付きのマニュアルを使用することで、音声情報だけに頼らず、視覚的に内容を理解できるよう工夫されています。

図やイラストを交えた説明は、手順やルールの把握を助け、聞き漏れや誤解を防ぐ効果があります。安心して学びながら、スキルを身につけることが可能です。

パーテーション設置やイヤーマフでの集中力担保環境の調整

Kaienの支援プログラムでは、聴覚情報処理障害(LiD/APD)のある方が集中しやすい環境づくりにも力を入れています。たとえば、周囲の視線や音を遮るためのパーテーションの設置や、雑音を軽減するイヤーマフの使用が可能です。

こうした環境調整により、外部の刺激に左右されにくくなり、自分のペースで安心して作業や学習に取り組むことができます。集中力を保ちやすい工夫が、日々の訓練の質を高めています。

就活時に、訓練内で試した環境の中で自分が働きやすいと思える環境調整の提示

Kaienの就労移行支援では、訓練の中で実際に試した環境調整の方法をもとに、自分にとって働きやすい環境を整理し、就職活動時に企業へ具体的に伝えるサポートを行っています。

たとえば、パーテーションの使用やイヤーマフの活用など、集中しやすい工夫を実践しながら、自分に合った働き方を見つけていきます。そして、就活時に、こうした環境調整の希望を就職先に明確に伝えるサポートをします。

環境調整は、安心して働ける職場づくりに欠かせない要素です。Kaienでは、就活時だけでなく、就職後の定着支援においても、本人と職場の間で環境調整を進めながら、長く働き続けられるようサポートしています。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の特性に悩む方はKaienへご相談を

聴覚情報処理障害(LiD/APD)の方は、「聞き取りが苦手」という特性から、日常生活や仕事におけるコミュニケーションで困難を抱えるケースが少なくありません。快適に仕事を進めるためには、静かな環境の確保や、音声認識アプリ、ノイズキャンセリング機器などの補助ツールの活用といった工夫が必要です。また、そのためには周囲の理解と協力も欠かせません。

仕事のしやすい環境を整えるには、各種支援サービスの活用も有効です。リワークや自立訓練(生活訓練)、就労移行支援などをうまく活用しましょう。

Kaienでは、豊富な経験と実績に基づく自立訓練(生活訓練)、就労移行支援を提供しています。聴覚情報処理障害(LiD/APD)でお悩みを抱えている場合は、どうぞお気軽にご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

聴覚情報処理障害(APD)に関して、私自身は専門的にコメントできる立場ではありません。また、現状ではまだ独立した診断として扱われるべきか、世界的にも論議があります。とはいえ、聴覚情報を的確に処理することが難しい方がいる、のは確かであり、そこには聴覚情報を処理する脳内のプロセスが何かしらの形で関係していることも確実でしょう。

外来では、ADHD特性のある方に多い、ワーキングメモリの障害(低さ)との区別が正直難しいときが多いと感じます。誤解されている方も多いですが、ワーキングメモリの障害とAPDとはそのメカニズムに違いがあり、重なって持っている方もおられますが、基本的には別物です。ただ、APDがあると、ワーキングメモリにも影響したり、その発達が阻害されてしまうということもあるでしょう。現状ではその診断や社会的支援の不足がありますので、APDの問題を抱える方は、ご自身の持つ困難さが何であるのかを理解ある耳鼻科や言語聴覚士さん、難聴の専門家の協力を得て、何が助けになるか一緒に考えてもらうのが良いでしょう。APD当事者会に出て、それぞれの方の工夫や役立ったことを聞いてみるのも良さそうです。精神科医が役立てるとすれば、他の発達障害特性や、精神疾患と併存しているときです。そのような時には、直接ではなくても、間接的にAPDを持った生活の中で改善できる部分を作れるはずです。今後の研究の進展によって、より良く理解が進んでくるのを期待します。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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