障害福祉サービスの報酬改定問題と「就労選択支援事業」の今 — 福祉の現場で何が起きているか(YouTubeライブ配信「お悩み解決ルーム」2025年12月25日配信より)

本記事は、Kaien公式YouTubeにて、Kaien代表取締役:鈴木慶太が毎週配信しているライブ配信番組「お悩み解決ルーム」2025年12月25日配信分より再構成したニュース記事です。

元NHKアナウンサー。自身の長男が発達障害の診断を受けたことをきっかけに、米国留学(MBA取得)を経て株式会社Kaienを設立。 「数的な凸凹があっても、強みを活かして働ける社会」を目指し、大人向けの就労支援から子ども向けの学習支援(TEENS)まで幅広く事業を展開している。 経営者として、また一人の親としての視点を交えた発信は、多くの当事者・家族から支持を得ている。

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記事の概要

2025年末、障害福祉をめぐる制度が大きく揺れ動いています。新規事業所への報酬引き下げ案に東京都が異議を唱えた件、そして2025年10月に始まった「就労選択支援事業」の実態——今回は、現場の支援者・事業者として注目すべき2つのトピックをまとめました。


東京都が国に「正論パンチ」——障害福祉サービス報酬改定への緊急提案

何が起きたか

2025年12月23日、東京都福祉局が国に対して「障害福祉サービス等報酬の見直しに関する緊急提案」を行いました。

背景にあるのは、国の障害福祉サービス等報酬改定検討チームが示した案です。令和8年度(2026年4月)から、一部サービスにおいて新規事業所の基本報酬を引き下げるという内容が含まれていました。対象は主に放課後等デイサービスと就労継続支援B型です。

なぜ引き下げるのか

近年、放課後等デイサービスやB型事業所が急増し、支援の質の低下が懸念されています。国はその抑制策として「新規事業所だけ基本報酬を下げる」という方針を打ち出しました。

しかし、この措置には大きな問題があります。質が低下している原因は既存事業所の問題であるにもかかわらず、新規参入者にだけペナルティを課すという構造になっているからです。

東京都の主な反論

東京都は次の3点を国に提案しています。

まず、新規事業所への基本報酬引き下げは事実上の参入規制であり、地域によってサービスの充足状況に差がある中、全国一律に行う必要はないという点です。次に、報酬が引き下がればスタッフの人件費削減などにつながり、サービスの質がかえって低下する恐れがあります。そして、東京都は現在、令和6〜8年度の計画期間中に地域生活基盤の整備目標を設定して取り組んでいるため、計画期間中の方針変更は整備計画に支障をきたすということです。

本質的な問題は何か

障害福祉サービスの質の評価は、本来、非常に難しい課題です。スタッフの勤続年数や資格の有無など、いくつかの指標で報酬に差をつける仕組みはすでに存在しますが、それだけでは支援の質を正確に測ることはできません。

本来であれば、問題のある既存事業所をきちんと取り締まることが筋であり、新規参入を萎縮させることは根本的な解決策にはなりません。また、福祉制度に内在する「制度ハック(制度の抜け穴を利用した不適切な運営)」の問題は、事業所の数を制限するだけでは解消されないのが現実です。


「就労選択支援事業」が始まった——営利企業が最多、その実態と課題

制度の概要

2025年10月、就労選択支援事業が新たに始まりました。これは、就労継続支援A型・B型などの福祉サービスから一般就労への移行を促進するために設けられた制度で、本人に合った就労先の選択を支援するためのアセスメント(評価・判定)を行うものです。

厚生労働省が10月・11月に認可した事業所のリストが公開されており、現在全国で588拠点が指定されています。

法人種別の内訳

注目すべきは、運営主体の内訳です。

法人種別割合
株式会社(営利法人)約46%(最多)
社会福祉法人約25%
その他
NPO法人、医療法人など

全体の約半数を営利企業が占めるという結果は、多くの関係者にとって意外な数字かもしれません。事業所数のランキングでは、ウェルビー(20拠点)、リタリコ、ココルポート、クラ・ゼミなどの上場企業・大手福祉事業者が上位を占めています。

なぜ営利企業が参入するのか

就労選択支援事業は、中立的な立場から「A型がいいか、B型がいいか、一般就労がいいか」を判断する高い公共性をもった業務です。自社サービスに誘導せず、客観的に判定することが求められます。

この性質から、当初は「報酬単価が低く、営利企業には旨みが少ない」と見られていました。しかし蓋を開ければ、大手事業者が積極的に参入していました。この背景については、運営体力のある大手が安定的なサービス提供を担うという合理性がある一方、中立性をどう担保するかという課題も浮かび上がっています。

制度の本来の目的

就労選択支援事業が生まれた最大の背景の一つが「直B(直接B型)問題」です。特別支援学校を卒業した若者が、就労の可能性や本人の意向を十分に確認されないまま、そのままB型事業所に通い続けるケースが少なくないとされています。

本来であれば、学校在籍中(高等部3年生など)にアセスメントを行い、適切な進路を一緒に考えるべきです。しかし就労選択支援事業では、そのアセスメントをわずか1ヶ月で行うことになっています。「どういう人生を歩みたいか」「将来どう変わるか」を見据えたキャリア選択は、本来なら年単位で考えるべきものです。時間と報酬の両面で、制度の実効性への懸念が残ります。

地域格差の問題

営利企業が参入する拠点は、静岡市・広島市など地方の中核都市に集中する傾向があります。人口が多く、B型事業所も多いため採算が取りやすい地域です。一方、人口が少ない地域や過疎地では、社会福祉法人などが担うことになり、サービスが届かない地域が出てくる懸念もあります。


B型問題の根本——制度全体を見直さないと解決しない

B型事業所に「働ける人が留まり続ける」問題の背景には、就労継続支援の報酬設計だけではなく、生活保護・障害年金・税制といった制度全体の構造が絡んでいます。

一般就労で一生懸命働いても、生活保護を受給しながらB型に通う場合と経済的な差が小さいとすれば、「ならばB型のほうが気楽」という選択が生まれやすくなります。B型の報酬単価を調整するだけでなく、働いた場合のインセンティブが実感できる制度設計が必要です。

この問題は、福祉制度の枠を超えた政治的・政策的な議論が必要な領域です。


まとめ

トピックポイント
報酬改定問題新規事業所だけの引き下げは問題。東京都が国に緊急提案
就労選択支援事業全国588拠点、約46%を営利企業が占める
直B問題特支卒業後そのままB型へ。1ヶ月という短い期間でのアセスメント実施は懸念点
地域格差大手は中核都市に集中。過疎地へのサービス提供に課題
B型問題の根本生活保護・障害年金・税制の構造改革が不可欠

障害福祉の制度は、現場の実態と乖離した設計になりやすい側面があります。「誰のための制度か」という問いを常に持ちながら、制度の変化を見守ることが重要です。


参考資料

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