本記事は、Kaien公式YouTubeにて、Kaien代表取締役:鈴木慶太が毎週配信しているライブ配信番組「お悩み解決ルーム」2026年3月26日配信分より再構成したニュース記事です。

元NHKアナウンサー。自身の長男が発達障害の診断を受けたことをきっかけに、米国留学(MBA取得)を経て株式会社Kaienを設立。 「数的な凸凹があっても、強みを活かして働ける社会」を目指し、大人向けの就労支援から子ども向けの学習支援(TEENS)まで幅広く事業を展開している。 経営者として、また一人の親としての視点を交えた発信は、多くの当事者・家族から支持を得ている。
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目次
記事の概要
連日のように報じられている、就労継続支援A型事業所を運営する「絆ホールディングス」による給付金の不正受給問題。大阪市が同社傘下の4事業所に対して行政処分を下し、返還請求額が100数十億円にのぼるという衝撃的なニュースが飛び込んできました。
当初の報道では「数十億円」とされていましたが、蓋を開けてみればその規模は倍増。一企業の不祥事という枠を超え、障害福祉制度の根幹を揺るがす事態へと発展しています。
【制度の背景】「グレー」が「ブラック」へ変わる瞬間
今回の問題の核心は、A型事業所の「利用者」を半年ごとに「運営スタッフ」へと切り替え、再び「利用者」に戻すという手法にあります。これにより、企業側は「新たに障害者を雇用した」際に出る助成金や加算を、いわば「身内」で回すことで繰り返し受給していました。
実はこの手法、数年前までは「ルールの隙間」をついたグレーゾーンとして、一部の事業所で行われていたものです。しかし、厚生労働省もこの事態を重く受け止め、2024年4月の制度改正で明確にこの「穴」を塞ぎました。
今回の行政処分は、制度が厳格化された後も、同社が「以前から行っていたケースは適用外のはずだ」といった独自の解釈で受給を継続していたことに対し、行政側が「悪意ある不正」と断罪した形です。
【現場のリアルと懸念】「高賃金」という甘い罠の代償
現場を預かる身として、私が最も胸を痛めているのは、そこで働いていた「人」への影響です。
絆ホールディングスは、一般的な福祉事業所に比べて給与水準が高いことで知られていました。実際、当社に採用面接に来られる元同社スタッフの方々の条件を見ても、その高さは際立っていました。しかし、その原資がもし不適切な受給に基づいたものだったとしたら、どうでしょうか。
- 利用者の心理的ダメージ: 自分が受け取っていた給与が「不正なスキーム」の一部だったと知った時の、言いようのない気持ち悪さ。
- キャリアの断絶: 100数十億円という返還請求は、一事業所の存続を事実上不可能にします。突然、働く場を奪われる利用者の不安は計り知れません。
- 業界へのとばっちり: こうした問題が起きるたびに、真面目に運営している事業所に対しても、行政の締め付け(実地指導の厳格化など)が強まり、結果として支援の柔軟性が失われるという悪循環が生まれます。
「給料が高いから良い事業所だ」というシンプルな基準が、実は砂上の楼閣であったという現実は、当事者やご家族にとってあまりに酷な仕打ちです。
【代表の視点・哲学】雇用率は「目的」ではなく「手段」である
私は、障害者雇用において「数」を追うこと自体は否定しません。しかし、雇用率の達成だけを目的にし、AIで数秒で終わる作業をあえて手作業でさせて時間を稼いだり、今回のように助成金目当てで人を回したりする行為は、もはや「支援」ではありません。それは、人間を「数字」や「換金アイテム」として扱っていることに等しいからです。
福祉には、ビジネスの論理だけでは測れない「体温」が必要です。一方で、感情論だけで突き進めば、経営は立ち行かなくなります。 今回の事件は、「持続可能なビジネス」と「誠実な支援」が両立しない場所には、必ず歪みが生まれるという教訓を、最悪の形で露呈させました。
私たちは「障害を直さないと働けない」という不安を煽ることも、「発達障害は皆天才だ」という無責任な楽観主義もとりません。現実を直視し、社会のルールの中で、いかに当事者が誇りを持って働ける「質の高い雇用」を創り出せるか。その一点に、改めて集中しなければならないと感じています。
おわりに
制度の矛盾や一部の事業所の不祥事に、皆さんが振り回される必要はありません。しかし、「自分を守るためのアンテナ」は持っておく必要があります。
今、このニュースを見て不安を感じている方、あるいはこれから就職先を選ぼうとしている方は、以下の具体的なアクションを検討してみてください。
- 事業所の「収益構造」に疑問を持つ: 極端に高い賃金や、仕事内容が不明確な場合は、その原資がどこから来ているのか、支援員に率直に尋ねてみてください。
- 自分の支援プランを再確認する: 今の場所がなくなったとしても、自分には「どんなスキルがあり」「どんな配慮が必要か」を言語化し、整理しておきましょう。
- 相談先を複数持っておく: 一つの事業所だけでなく、自治体の障害福祉窓口や、他の就労支援機関との繋がりを持っておくことで、いざという時の選択肢を確保してください。
社会は少しずつですが、雇用率という「数」から、働きがいのという「質」の議論へとシフトし始めています。私たちも、その流れをより確かなものにするために、現場から発信を続けていきます。

