障害者手帳とは?取得するメリットや申請方法、受けられる支援などを解説

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障害者手帳を取得すると様々な控除や割引などが受けられるものです。しかし、デメリットや複雑な手続きに対して障害者手帳の取得を迷っている人もいるのではないでしょうか。実際は、正しい知識を身に着ければ金銭面のメリット以外にも、障害者雇用や就労移行支援など就職しやすい環境を手に入れることも可能です。

本記事では障害者手帳の種類や取得方法、メリット・デメリットなどを詳しく紹介していきます。また、障害者雇用で就職を考えている人向けに、就労支援サービスについても解説しているので、参考にしてください。

障害者手帳とは

障害者手帳とは、障害があることを証明する公的な手帳です。種類は、「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」があり、それぞれ根拠、交付主体、障害分類が異なります。

  • 身体障害者手帳の障害区分:視覚障害・聴覚・平衡機能障害・心臓機能障害など
  • 精神障害者保健福祉手帳の障害区分:統合失調症・てんかん・うつ病などの気分障害・発達障害*¹など
  • 療育手帳の障害区分は:知的障害

障害年金や自立支援医療受給者証、障害福祉サービス受給者証などと障害者手帳は違う制度ですが、障害福祉サービス受給者証などを申請する際は障害者手帳があると役立ちます。障害を証明するものは複数存在しますが、日本で障害を証明する最もポピュラーなものが障害者手帳なのです。

障害者手帳の等級と対象者

ここからは、障害者手帳の種類と等級、対象者についてそれぞれ詳しく解説していきます。

等級や対象者は障害のレベルによって異なり、場合によっては複数の手帳を取得することも可能です。例えば、発達障害であれば精神障害者保健福祉手帳と療育手帳が取得対象になります。上記のように、障害に対して取得できる手帳は一つとは限らないため、自分がどの障害手帳の対象者になるのか知識を身につけておくことが大切です。

身体障害者手帳

身体障害者手帳は身体障害者福祉法に定められた身体上の障害がある人が対象です。しかし、7級の障害区分に該当する場合、7級のみでの障害では交付対象にならないため注意が必要です。

厚生労働省の身体障害者障害程度等級表では、等級は1〜7級に区分されており、1級が最も重度で7級になるほど低度となります。なお視覚障害や聴覚障害には7級はなく、6級からの申請が可能です。肢体不自由の場合は、7級に当てはまる障害が2つ以上ある場合は6級に上がります。また、障害が2つ以上重複する場合は、障害の程度によって等級が変動するのも特徴です。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、精神障害や発達障害によって日常生活や社会生活の制約がある人を対象に交付されます。主に、精神障害はうつ病・不安障害・統合失調症・高次脳機能障害・ その他の精神疾患など、発達障害は自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)・学習障害*²(LD)などです。

等級は1〜3級に区分され、1級が自立での生活が困難な人(重度)、2級が日常生活が困難な状態だが自立は可能な人(中度)、3級は日常生活や社会生活において何らかの制限を受けている人(軽度)となります。

療育手帳

療育手帳は児童相談所や知的障害者更生相談所から、知的障害であると判定された人が対象です。主に18歳未満だと児童相談所、18歳以上では知的障害者更生相談所で判定を受ける仕組みで、年齢によって判定場所が変わります。

等級は知能指数(IQ)と生活への支障の程度によって判定されます。厚生労働省の判定区分ではA判定とB判定があり、A判定が重度でB判定が中度です。ただし、自治体によってはB1は中度、B2は軽度のように、判定区分が細分化されるケースもあるため、詳しい判定基準は住んでいる自治体の窓口に確認してみましょう。

障害者手帳を取得する4つのメリット

障害者手帳を取得すると「障害者雇用での就職」「障害者控除」「医療費の助成」「公共交通機関などの料金の割引」などのメリットがあります。メリットを活用すると生活する上で必要な支出を抑えることも可能です。

しかし、障害者手帳を持っていても、各メリットの内容を理解していないと助成や割引の受け方や、相談する場所がわからず困ってしまうかもしれません。そのため、ここでしっかりと各メリットの内容を把握していきましょう。

障害者雇用での就職も可能になる

障害者手帳を取得することで、障害者雇用で企業に就職することが可能になります。障害者雇用とは、企業側が一般枠とは別に障害のある人を雇用するために設けたものです。採用後も障害の区分によって、仕事の内容を考えてもらえるのが一般枠との違いでもあります。

ただ、障害者雇用で求人を応募する場合にも履歴書や面接が必要となってきます。専門的な知識が必要となる障害者雇用の場合、家族内で悩むのではなく就労支援サービスの利用がおすすめです。Kaienでは障害者向けの就労サポートを行っており、就職実績も豊富なので、ぜひ相談してください。

障害者控除で税金が安くなる

確定申告の際に、障害者障害者手帳があると障害者控除を受けられるのもメリットの一つです。障害者控除は区分や条件によって、一定金額の所得税や住民税の控除を受けられます。具体的な控除金額は以下の通りです。

区分所得税控除額住民税控除額
障害者27万円26万円
特別障害者40万円30万円
同居特別障害者(注)75万円53万円

(注)同居特別障害者とは、特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族で、納税者自身、配偶者、その納税者と生計を一にする親族のいずれかとの同居を常況としている人です。

出典:国税庁|No.1160 障害者控除

出典:財務所|所得控除に関する資料

医療費の助成などの申請がしやすくなる

障害者手帳を取得すると自立支援医療費制度や、重度障害者・高齢重度障害者医療費の助成の申請がしやすくなります。中でも自立支援医療費制度は、特定の医療において医療費の負担額を少なくできるものです。所得によって負担額は変動しますが、1割の支払いで済むケースもあります。

他にも自治体によっては、医療費の助成や補助がプラスで行われている場合もありますが、名称や詳細が少しずつ異なるため、詳しくはお住まいの自治体やかかりつけの病院に相談してみましょう。

公共交通機関などの料金が割引になる

障害者手帳を持つことで、公共交通機関などの料金が割引になります。例えば、NHK放送受信料が全額又は半額免除をはじめ、他にも複数の割引制度があるので、以下を参考にしてください。

  • 公共交通機関の運賃
  • 上下水道料金
  • 携帯電話料金
  • 公共施設の入館料など

公共交通機関の割引が受けられるサービス内容を確認したい場合は、各自治体のホームページなどがおすすめです。

障害者手帳のデメリットと注意点

メリットの多い障害者手帳ですが、もちろん取得のデメリットも存在します。

まず、障害者手帳を取得するためには、公的な書類や証明写真などを用意する必要があります。必要書類のひとつには医師の診断書もあり、診断書を発行するために診察料とは別に費用が必要です。また、障害者手帳は一度取得すれば終わりではなく、有効期限が定められています。有効期限が近づくと再申請をする必要があり、再申請にも時間がかかるのも事実です。

続いて、生命保険の加入は障害者手帳の申告が必要となり、保険会社にもよりますが障害者手帳を持っていない人に比べて、加入が難しくなります。加入できる場合でも、保険料が通常よりも高くなる可能性もあるので留意しておきましょう。

最後に、心理的抵抗も大きなデメリットです。障害者手帳を持つことで、周囲からの目が気になり始めることもあるので、よく考えて障害者手帳の取得を検討してください。

種類別 障害者手帳の取得方法

ここでは、障害者手帳の取得方法を種類別に詳しく解説していきます。障害者手帳の取得には複数のステップがあり、事前に手続きの流れを理解しておくだけで、実際に行う際も手続きがスムーズです。

また、ここで紹介する取得方法はあくまでも一般的な流れであり、実際に障害者手帳を取得する際は各都道府県によって、必要書類や手続き内容が異なる場合もあるので注意して見ていきましょう。なお、いずれの手帳も各市町村によって必要書類や申請方法は若干異なります。

身体障害者手帳

身体障害者手帳取得の流れは以下の通りです。

①必要書類の準備 住んでいる市区町村の窓口にて、「申請書」「指定の診断書書式」を受け取る
②診断書作成 都道府県が指定した指定医に診断書を作成してもらう。
③申請 市区町村の窓口に「申請書・診断書・証明写真」などの必要書類を提出する。
④判定と交付 都道府県で判定後、市区町村の窓口で手帳を受け取り、手続き完了。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳取得の流れは以下の通りです。

①精神科受診 初診から6ヶ月後に手帳申請が可能。ここで精神障害者保健福祉手帳を取得したいと主治医に伝えておく。
②診断書作成 住んでいる市区町村の窓口にて、「申請書」「指定の診断書書式」を受け取った後、主治医に診断書を作成してもらう。
③申請 市区町村の窓口に「申請書・診断書・証明写真・官製はがき」などの必要書類を提出する。
④審査 申請後、約2~3ヶ月で審査結果の通知がくる。
⑤交付 市区町村の窓口で手帳を受け取って手続き完了。

療育手帳

療育手帳取得の流れは以下の通りです。

①申請 市区町村の窓口や障害福祉センター、などで療育手帳の申請をする。
②判定 障害福祉センターや児童相談所(18歳未満)にて、「IQテスト・問診・面接」をする。
③審査 判定から約1~2か月で結果の通知がくる。
④交付 市町村の窓口や郵送などで療育手帳を受け取り、手続き完了。

障害者手帳の取得と共に利用されることの多い就労支援サービス

障害者雇用での就労に不安がある場合には就労支援サービスの利用がおすすめです。就労支援サービスを行う施設には、「就労移行支援所」「ハローワーク」「地域障害者職業センター」「障害者就業・生活支援センター」があるので、ここではそれぞれの特徴や支援内容を解説していきます。

これらのサービスはすべて障害者手帳がなくても受けられますが、手帳の取得と共に利用されることが多いです。各支援サービスの特徴を理解して、自分に合いそうな支援サービスを選びましょう。

就労移行支援所

就労移行支援所は、障害のある人が就職に向けて知識や経験を積むためのサポートをする支援機関です。主に、職業訓練や講座の受講などを通じて自分に合った仕事探しや就活支援、就職後の問題ケアまでサポートします。

具体的には、Kaienを例に挙げると、経理・人事・伝統工芸など100種類以上の職業訓練や、スキルアップ、就活対策など50種類以上の講座が受けられます。また、200社以上の企業と連携した圧倒的な求人取扱い数と、約2,000人(過去10年)を超える就職実績が強みです。就職率が86%に比べ、1年後の離職率が9%と低く、就職後のサポートが充実していることにも定評があります。

また、Kaienを始めとする就労移行支援所では、障害者手帳がなくても障害福祉サービス受給者証を取得することで利用可能な場合もあります。障害者手帳の有無だけでなく、取り扱うサービス内容も各就労移行支援所で異なるため、特徴の違いを理解し自分に合った支援所を探してみましょう。

ハローワーク

ハローワーク(公共職業安定所)は、厚生労働省が運営する総合的雇用サービス機関です。求職者や求職事業主を対象に、無料で職業の相談や紹介を行います。

障害のある人への就職活動のサポートも充実しており、専門知識のある職員や相談員が障害者専門の支援体制を整えているのも特徴です。サポートはハローワーク内だけではなく、採用面接への同行や就職面接会の開催など幅広く実施しています。こちらも障害者手帳がなくても利用可能です。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が運営する、障害のある人を対象にした職業リハビリテーションを提供する施設です。施設は全国47都道府県にあり、ハローワーク(公共職業安定所)と連携しています。

主に、障害のある人の就職や職場復帰、就職後のサポートなどの支援を実施しており、職業リハビリテーション計画を作成し、作業体験や職業準備講習なども行っているのが特徴です。障害者手帳がなくても利用が可能なので、安心して相談してみましょう。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害のある人が自立・安定した職業生活の実現を目指す支援機構です。2023年4月1日時点で全国に337の拠点があり、ハローワークや地域障害者職業センターなどと連携して就業支援を実施しています。

また、福祉事業所や就労移行支援事業所と連携し、日常生活や地域生活での助言をするなど、生活支援にも関わっているのが特徴です。保健所や医療機関とも連携しているため、障害者就業・生活支援センターを通じて様々な機関と繋がれる仕組みづくりをする場所でもあります。

障害者手帳の取得で就労の幅を広げよう!

障害者手帳を取得することで、「障害者雇用枠での就職」「障害者控除」「医療費の助成」「公共交通機関などの料金の割引」など様々なメリットがあります。ただし、障害の区分ごとに手帳の種類や手続き内容は異なり、手続きには時間がかかるなどのデメリットも理解しておかなければなりません。

障害者手帳を取得した後は、障害者雇用を活用して働く場を探してみるのもおすすめです。就労支援サービスには、就労移行支援所、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどがあり、サポート体制も充実しています。

障害者手帳がなくても支援サービス自体は利用できるので、障害者手帳の有無に限らず就職を希望する人は安心して就労支援サービスに相談してみてはいかがでしょうか。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます


監修者コメント

2024年4月から民間企業の障害者法定雇用率が2.5%に引き上げられました。今後も段階的に引き上げられるということですから、障害者の社会参画が求められていると理解して良さそうです。個人的には1980年代からオランダで始まったワークシェアリングが、性別・世代・人種・障害の有無を越えて日本にも定着すると、多様な社会が作れるのではないかと感じます。

精神障害者保健福祉手帳はコラム本文にありましたように、初診から半年以上継続して通院していて、今後も通院が必要な方に、診断書を自治体に提出することで取得できます。手帳診断書には自立支援医療診断書も付いていますので、もし自立支援を受けていない方は、手帳診断書の提出の際に同時申請してください。金銭面でのメリットもあります。最後に、障害者手帳は2年ごとに更新(新たな診断書)が必要ですから、お忘れないようご注意を。


監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。