就活は誰にとっても大きな挑戦です。発達障害のグレーゾーンの方にとっても、さまざまな不安や困難があるでしょう。
本記事では、グレーゾーンの方が抱えやすい就活の悩みや不安を取り上げ、その解決策や進め方のコツ、利用できる支援サービスについて解説します。自分に合った職場が見つかるよう、焦らずじっくりと軸を持って就活に臨みましょう。
グレーゾーンとは
まずはグレーゾーンについて認識を深めるため、グレーゾーンとは何か、発達障害の種類にも触れながら解説します。
発達障害の診断基準を満たさない『グレーゾーン』
発達障害と診断されるためには、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の基準を満たす必要があります。たとえ発達障害の特性が一部あっても、診断基準をすべて満たさなければ発達障害として診断されません。
このように発達障害の傾向があるものの診断に至らない方が「グレーゾーン」です。ただしグレーゾーンは医学的な正式名称ではなく、一般的な表現として使用されています。
グレーゾーンの方は特性によって日常生活や仕事上の困りごとを抱えやすい反面、正式な診断がないため、行政や医療の支援・配慮を受けにくい状況に陥りがちです。
しかし、診断がないからといって、困難さが軽度であるわけではありません。むしろ、支援を得にくいことで孤立感や無理解に直面する場面もあり、精神的な負担が増すケースもあります。グレーゾーンの方が不安やうつなどの併存障害を生じやすいという事実もあり、注意が必要です。
3種類の発達障害
発達障害はさまざまな種類のものがありますが、主だった3つの診断名は、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、限局性学習症(SLD)の3種類です。どれか1種類の特性のみが現れる方もいれば、複数の発達障害の特徴を併せ持つ方もいます。ここでは主に注目されやすい3種類の発達障害について解説します。
注意欠如・多動症(ADHD)
集中力が続かない、不注意によるミスが多い、衝動的に行動するなどの特徴が見られます。じっとしていることや段取りよく物事を進めることも苦手な傾向があるため、学業や仕事に影響が出ることもあります。
自閉スペクトラム症(ASD)
コミュニケーションの困難さや特定の物事に対する強いこだわりが特徴です。対人関係の築き方で苦労することが多く、空気を読んだり状況に応じた行動を取ることが苦手な傾向があります。感覚の過敏さがある方も少なくありません。
限局性学習症(SLD)
特定の学習分野が極端に苦手な発達障害です。全般的な知的能力には問題がないため、知的障害とは異なります。苦手な分野の例には、読み、書き、計算、推論などがあり、学業や就職に影響が出る場合があります。
また、現在は限局性学習症(SLD)という名称ですが、以前の診断名は学習障害(LD)とされていました。今も法律や行政、広く一般的にも学習障害(LD)が使われています。
グレーゾーンの人が就活で抱えやすい不安や悩み
グレーゾーンの方が就活を進める際、個人差はあるもののいくつかの共通した不安や悩みを抱えやすい傾向があります。いわゆる障害特性が自分にも周囲にも分かりづらく、過剰に適応しようとして体力的・精神的に疲弊してしまったり、周囲に困りごとが理解されず頑張るよう強要されたりするケースもあるでしょう。
ここでは、グレーゾーンの方が就活において特に抱きやすい不安や悩みを解説します。
就職先を決められない
グレーゾーンの方が就活を始める際、まず「何をやりたいのか」「どのような企業で働きたいのか」を決める段階で困難を感じるケースが少なくありません。特性や得意・不得意などの自己理解が十分にできておらず、就活の軸を定めるのが苦手な傾向があります。
自分が得意なことや苦手なこと、働きたい環境を分析できていないと、求人情報を見ても働くイメージがつかず、どの業界・職種が自分に合っているのか判断が難しいです。
自己理解を深めるためにはこれまでの経験を一から振り返り、自分の性格や特性を正しく把握するのが先決です。
周囲と比較して自己肯定感が下がりやすい
就活では、集団面接やグループワークなど、他の就活生と自分を比較してしまいやすい場面が多く発生します。グレーゾーンの方がこれまでの経験から、自分に自信を持てずにいる場合「同年代の就活生と比べて自分は能力が足りない」「ディスカッションで思ったような発言ができなかった」と、周囲と比較して劣等感を感じてしまい自己肯定感が下がってしまうのです。
また、就活では自分に合った企業を選ぶのが重要なので、内定が早ければよいというわけではありません。しかし周りの就活生に内定が出始めると気持ちが焦り、内定が出ていないこと自体に落ち込んでしまう場合もあるでしょう。
苦い経験が重なると就活に対するモチベーションの維持が難しくなり、不安や焦りが強まる原因にもなります。
失敗することへの恐怖感や不安が強い
幼い頃から成功体験を積めていれば、何か失敗しても極端に落ち込みすぎず次のチャレンジに進めます。
しかし今までの成功体験が少ない場合、就活で失敗することへの恐怖や不安を感じやすくなります。過去の経験から「また失敗したらどうしよう」と考えやすく、就活がうまくいかない可能性を過剰に不安視してしまう場合もあるでしょう。
恐怖感が強いと、面接でうまく話せなくなるケースもあります。恐怖感や緊張のために面接がうまくいかず選考から外れてしまうと失敗体験として積み重なり、さらにストレスを抱えて失敗を繰り返す悪循環に陥る可能性もあるでしょう。
また、「自分にはできない」と思い込み、挑戦する前から諦めてしまうなど応募そのものに消極的になるケースもあります。
グレーゾーンの方の就活の進め方やコツ
グレーゾーンだからといって、就職ができないわけではありません。自分に合った職場を見つけ、生き生きと働いているグレーゾーンの方や発達障害の方も多くいます。
自分の特性に合わせた就活の進め方やコツを知れば、就活をよりスムーズに進められるでしょう。ここでは、グレーゾーンの方が就活を乗り越えるためのポイントを解説します。
周囲の人の協力を得る
一人で頑張りすぎず、周囲の人の協力を得るのが重要です。家族や友人、学校の教員など、特性について理解してもらえる信頼できる人に相談してみましょう。
困ったときには自分とは違った観点からの助言を受ければ、解決の糸口が見える場合もあります。また、ただ話を聞いてもらうだけでも考えを整理できたり、精神的に楽になったりするでしょう。
もし気軽に頼れる人が周囲で見つからないなら、就労移行支援など発達障害の方の就労を支援する機関に相談してみるのもよいでしょう。グレーゾーンの方の特性について知識を持った専門家から、状況に応じたアドバイスを受けられます。
自分の特性を客観的に理解する
就活の準備として、まず自分の特性を客観的に理解するのが重要です。自己分析を通じて自分の得意なことや苦手なことを把握すれば重視したいポイントが明確になり、次第にやりたいことが見つかる場合もあります。
自己理解を深める手段としては、適職診断や自己分析シートの活用が挙げられます。キャリアセンターや支援機関でのカウンセリングを受ければ、自分だけでは気づかなかった一面が見つかるなど、より客観的な視点で自分を見つめ直せるでしょう。
自分の特性を理解した上でどのように働きたいかを考えれば就活の軸が定まり、無理なく就活を進めやすくなります。
自分の特性に合った働き方を探す
自己分析を通して自分の特性を理解したら、その特性に合った働き方を探すのが大切です。
たとえば人とのコミュニケーションが苦手なら、営業や販売よりもエンジニアやデザイナーなどの職種が向いているでしょう。作業の質が求められる職業であれば、こだわりの強さを長所として活かせるかもしれません。また、集中力や注意力に課題を感じているなら、ミスの許されない経理などの仕事よりも、行動力を活かせる営業や記者などの仕事が適しているといえます。
職種だけでなく、職場の環境や特性への理解、サポート体制の充実度もポイントです。自分自身の興味や得意なこと・苦手なことを踏まえて、無理なく活躍できる働き方を探しましょう。
障害者雇用も含めて検討する
グレーゾーンの方の就活では、「一般雇用」と「障害者雇用」のどちらで応募するか悩む方も少なくありません。
発達障害の診断書や障害者手帳がないと障害者雇用への応募はできませんが、初めて診察を受けたときから診断が変わる場合もあるため、主治医に相談してみるのも良いでしょう。
また、一般雇用であっても合理的配慮の提供が義務化されているため、まったくサポートがないというわけではありません。「一般雇用」「障害雇用」という枠組みに縛られすぎず、働きやすいサポートを受けられそうな企業を幅広く探してみましょう。
特性や配慮してもらいたい点を相談しておけば、勤務形態や業務内容を柔軟に調整できる場合もあります。適切な配慮を受ければ自分も周囲も働きやすくなるため、適切な理解のある職場を探すと良いでしょう。
就活のゴールは就職だけではなく『自分らしく働き続けること』と認識する
就活は勝ち負けや優劣を決めるものではなく、内定を早く得られれば優秀というわけでもありません。就活の真のゴールは就職ではなく、就職後に『自分らしく働き続けること』です。
就活のゴールを就職だけに設定してしまうと、採用されなかったときの落ち込みが強くなってしまいます。内定を得ることだけがすべてではないため、じっくりと自分のペースで就活を進めましょう。
焦って自分に合わない企業に入社してしまうと、就職後に環境が合わずストレスから体調を崩したり、早期の離職につながったりするケースもあります。長く働けるかどうかを重視し、自分の特性に合った職場を見つけましょう。
グレーゾーンの方が就職のために利用できる支援サービス
発達障害グレーゾーンの方など、診断書や障害者手帳がなくても利用できる支援サービスがあります。主な支援サービスは、以下のとおりです。
・労働局の職業訓練
・大学のキャリアセンター
・自立訓練(生活訓練)
・就労移行支援
発達障害の特性を理解している支援機関でサポートを受ければ、悩みを都度解消しながら就活を進められるでしょう。ここからは、グレーゾーンの方が就職のために利用できる支援サービスについて詳しく解説します。
労働局の職業訓練
労働局の職業訓練では、就活に役立つ実践的な知識やスキルを学べます。一般の求職者・離職者から発達障害の方まで利用可能なので、グレーゾーンの方が就活におけるスキル不足を感じているなら検討してみましょう。
訓練の内容は多岐にわたり、一般事務や医療事務、電気設備技術、IT関係スキルなど、さまざまなカリキュラムが用意されています。ただし、受けられるプログラムは地域や機関によって異なるため、気になる方は該当の自治体へ問い合わせてみましょう。
また労働局の職業訓練を受講するためには、ハローワークを通じて申し込む必要があります。各都道府県の労働局ホームページやハローワーク窓口で詳細を確認し、自分に合ったコースを見つけましょう。
職業訓練について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
職業訓練とは?種類やコース、受講のメリットから申し込みの流れまで解説
大学のキャリアセンター
大学のキャリアセンターは、その大学の学生や卒業生の就活を支援してくれる機関です。企業の求人情報の提供やインターンシップの案内など、就活に関する様々なサポートを受けられます。また、履歴書やエントリーシートの添削、面接対策のワークショップ、自己分析やキャリアプランの作成など、個別の支援も充実しています。
近年では、キャリアコンサルタントなどの資格を持つ職員が相談に乗ってくれる大学も増えています。グレーゾーンの方の特性や不安を打ち明ければ、自分に合った職種や企業選びについて一緒に考え、適切なアドバイスを受けられるでしょう。
中には、企業が地域や大学を限定してキャリアセンターに求人票を出しているケースもあるため、まずはキャリアセンターを訪ねてみるのがおすすめです。卒業後も利用可能な場合が多いので、積極的に活用しましょう。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、日常生活や社会生活のスキルを高めるための支援サービスです。就活だけではなく就職後に働き続けるために、必要な生活基盤を整える支援に特化しており、生活リズムが乱れている方やフルタイムで働く体力に自信がない方にもおすすめです。
Kaienの自立訓練(生活訓練)では、自己理解の促進や適切なコミュニケーションの取り方など、就職に役立つスキルを学べます。スケジューリングやマルチタスクが苦手な人でも、特性に応じた効果的な管理方法が身につけられるでしょう。
主に何らかの障害のある方を対象としていますが、グレーゾーンの方など発達障害の診断がなくても利用できる場合があるため、まずは相談してみるとよいでしょう。
Kaienの自立訓練(生活訓練)について詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
就労移行支援
就労移行支援は、障害や特性、精神的な疾患により就労に困難を抱える方を支援するサービスです。自立訓練(生活訓練)と同様に、診断書や障害者手帳がなくても利用できるケースがあります。
自立訓練(生活訓練)とは異なり、就労移行支援ではより就職に直結しやすい実践的なスキルを学ぶプログラムが中心です。
Kaienの就労移行支援では、ビジネスマナーや仕事の進め方といった基本的なスキルはもちろん、プログラミング、デザイン、などの専門的なスキルを学べるプログラムもあり、MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)などの資格取得も目指せます。履歴書や職務経歴書の書き方指導、面接練習など、就活に役立つサポートも受けられるため、グレーゾーンの方の苦手を乗り越えることにもつながるでしょう。
就労移行支援についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
就労移行支援とは?受けられる支援や利用方法をわかりやすく解説
グレーゾーンの方で就活が不安な方は支援サービスの利用を検討してみて
発達障害の特性が見られても、診断基準をすべて満たさない方は診断がつきません。このようなグレーゾーンの方にとっては、障害者手帳がないために支援を得にくい、周囲から理解されにくいなど、就活でも困難が生じます。なかなか選考が通らず、大きな不安を抱えるケースも少なくないでしょう。
特性をよく理解した上で自分に合った働き方を見つけるためにも、無理に一人で解決しようとせず周囲の人や支援機関の助けを得ることが重要です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)と就労移行支援は、発達障害の診断がないグレーゾーンの方もご相談いただけます。一人ひとりに丁寧にヒアリングした上でプログラムを作成し、キャリアカウンセラーによる面談でお悩みの相談も可能です。就活だけでなく、就職後の定着に向けたフォローにも対応しています。
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