ディスレクシアの症状とは?診断基準や検査方法、困りごとや対処法を解説

公開: 2024.10.21更新: 2025.5.14

「ディスレクシア(読字不全)」とは、発達障害*の一種である限局性学習症(SLD)の特性の1つで、知的な遅れや視覚障害がないものの、読字分野に困難が生じる状態を指します。学齢期から症状が顕著になるものの、適切な診断がされず大人になってから初めてディスレクシアだとわかるケースも珍しくありません。

この記事では、ディスレクシアの特徴や具体的な症状、診断方法を解説します。あわせてディスレクシアの方が利用できる相談先・支援機関も紹介するので、ディスレクシアでお悩みの方はぜひ参考にしてください。

「ディスレクシア(読字不全)」とは、発達障害*の一種である限局性学習症(SLD)の特性の1つで、知的な遅れや視覚障害がないものの、読字分野に困難が生じる状態を指します。学齢期から症状が顕著になるものの、適切な診断がされず大人になってから初めてディスレクシアだとわかるケースも珍しくありません。

この記事では、ディスレクシアの特徴や具体的な症状、診断方法を解説します。あわせてディスレクシアの方が利用できる相談先・支援機関も紹介するので、ディスレクシアでお悩みの方はぜひ参考にしてください。

ディスレクシア(読字不全)とは

「ディスレクシア(読字不全)」とは、限局性学習症(SLD)の1つです。SLDは発達障害の一種で、知的な遅れや視覚・聴覚の障害が伴わず、会話能力も問題がないにも関わらず、読み書きや計算といった特定分野の学習に大きな困難が生じている状態のことです。

ディスレクシアは知的な遅れや視覚障害がないものの、字をすらすら読むことができない、正確な読み方がわからない、読めたとしても内容を理解できないなど、読字分野に困難がある状態を指します。SLDの中でも特に多い症状で、同じくSLDの1つで文字を書くことが困難な「ディスグラフィア(書字表出不全)」を併存しているケースがほとんどです。

ディスレクシア(読字不全)の特徴と症状

ディスレクシアの特徴は、「読み(読字)」と「書き(書字)」の困難さです。ディスレクシアは厳密には読字障害を指しますが、書字障害も併発しやすいとされています。

読字障害は、文字を見てその音を結びつけるのが難しく、文字の形を正しく認識するのが苦手な特性が原因です。

一方、書字障害は、文字の形を再現する力や手の動きの調整が難しいのが主な原因です。また、音と文字の対応が不安定な場合もあり、読字障害と重なる場合もあります。

2つの特徴や症状について、具体例を挙げながら解説します。

読字障害

読字障害(ディスレクシア)とは、文字を正確かつスムーズに読むのが著しく困難な状態を指します。具体的には、以下のような症状となってあらわれます。

  • 一文字ずつ拾って読んでしまい、長文や複雑な文章の理解に時間がかかる
  • 単語や文章全体のイメージが浮かびにくく、一つ一つ確認しないと読めない
  • 行を飛ばして読んだり、順番を入れ替えて読んだりしてしまう
  • 黙読が苦手、またはできない

こうした認知の特性は、障害のない方にとって理解が難しい部分がありますが、一般的には以下のように説明されています。

  • 文字が二重に重なって見える
  • 文字が反転して鏡文字のように見える
  • 文章がねじれたり、歪んだりして見える

これらの困難さから、読字障害の方は誤読が多く、読解に時間がかかる悩みを抱えています。

書字障害

書字障害(ディスグラフィア)は、文字を書く際に、形や順序を正しく再現するのが難しい状態です。具体例を以下に示します。

  • 文字の形の認識が難しい

例:「わ」と「ね」、「め」と「ぬ」など似た形の文字を混同する

  • 音を正しい文字に結び付けられない

例:「わ」と「は」、「お」と「を」など同じ音の文字を書き間違える

  • 左右や上下の位置感覚が不安定

例:鏡文字のように文字が反転してしまう、順序が逆になる

  • 文字の配置や行間の調整が苦手

例:枠内に文字を収められなかったり、行間が不ぞろいになったりする

  • 筆記スピードが遅い

例:文字を書く際に過度に時間がかかる

これらの困難さから、書字障害の方は仕事や学業でストレスを抱えやすい傾向があります。

大人になってからディスレクシア(読字不全)になることはある?

ディスレクシアを含む発達障害は、生まれつきの脳の特性が原因といわれています。先天的なもののため、大人になってから後発的に発症するといったことはありません。

ディスレクシアは学齢期に気付くことが多いものの、知的な遅れがなく見た目でも分かりづらいことから、単なる学業不振で片付けられてしまうケースも少なくありません。そのため大人になるまで症状に苦しみながらも何とか過ごし、社会に出てから特性が原因で仕事に支障が出て、初めて診断を受ける方もいます。

もし後天的に読字分野に困難が出た場合は、発達障害ではなく視覚機能の問題や失読症などが原因である可能性が高いといわれています。後天的にディスレクシアの症状があらわれた際は、それぞれ専門の医療機関を受診しましょう。

読み書きに影響するその他の神経発達症(発達障害)

ディスレクシアを含むSLD(限局性学習症)以外に読み書きに影響する神経発達症(発達障害)として、「 ASD(自閉スペクトラム症)」や「ADHD(注意欠如多動症)」、「DCD(発達性協調運動症)」があります。

ASDの特性は、文字認識には直接影響しないという説が主流です。しかしASDの方は、社会的な情報への知識が必要となる文章の場合、知識や概念の理解が難しいことから読解力が低下する傾向にあります。また、ASDの方はDCDを併存するケースが多いです。

ADHDの特性は、必ずしも読み書きに影響するわけではありません。しかし、ADHDの特性である「不注意」が誤字脱字や読み飛ばしの原因になることもあるようです。また、ADHDとSLDが併存するケースは多いといわれています。

DCDは運動機能のコントロールが難しいため、手書き作業(筆記)に困難が生じます。DCDの場合、書くという動作に影響が出るものの、知識や文章の構成への理解力には問題がありません。

ディスレクシア(読字不全)の診断基準や検査方法をチェックリスト付きで解説

ディスレクシアの診断は、精神科や心療内科などの医療機関で受けられます。ただし、成人期のディスレクシア診断に対応している医療機関は限られているため、言語聴覚士や発達障害専門の医師が在籍する医療機関を探すとよいでしょう。

次項から、これらの医療機関で実施される診断の基準や検査方法について解説します。また、セルフチェックの方法についても紹介します。

ディスレクシア(読字不全)の診断基準

ディスレクシアの診断には、アメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM/最新版はDSM-5-TR)」や、WHO(世界保健機関)の「国際疾病分類(ICD/最新版はICD-11)」の診断基準が用いられます。医療機関では、DSM-5-TRを参照するケースが多いようです。

DSM-5-TRでは、SLDの診断基準が以下のように定められています。

  • 少なくとも6ヶ月以上、以下のいずれかの症状が存在し、適切な介入を行っても改善されない
  • 読字の不正確さ、またはゆっくりとした努力を要する読字
  • 読解の困難
  • 書字の表現の困難
  • スペリング
  • 数学的推論の困難
  • 学習困難が、知的能力障害や視力・聴力、他の精神疾患などでは説明できない

ディスレクシアの症状は、上記の「読字の不正確さ、またはゆっくりとした努力を要する読字」「読解の困難」に当てはまります。

ディスレクシア(読字不全)の診断・検査方法

ディスレクシアの診断は、問診の内容や検査結果を総合して行われます。ディスレクシアの検査では、成人期を対象とした読字・書字の速さ・正確さを測る「RaWF(ラーフ)」や、SLDの方の読み書き支援のニーズを尺度化する「RaWSN(ロースン)」などの検査が用いられます。また「WAIS-Ⅳ」など、成人用のウェクスラー式知能検査で知的な遅れがないことも同時に確認します。問診では、これまでの生育歴や既往歴も重要な診断指標となるため、聞き取りなどを行います。

ただし前述したように、成人を対象としたディスレクシアの検査方法は少ないため、大人の診断であっても、学齢期の子どもを対象とした読字・書字能力検査(STRAW-R)を実施することもあります。この検査で、平均的な子どもに比べて読字分野に困難が認められた場合、機能障害があるとして診断の参考にするケースも見られます。

ディスレクシア(読字不全)のセルフチェックリスト

「自分はディスレクシアではないか?」と感じた際には、医療機関や支援団体が作成したセルフチェックリストを利用できます。以下のような質問に答えると、ディスレクシアの疑いの度合いを確認できます。

【質問例】

  • 読むのに時間がかかり、読み返さないと内容を理解できない。
  • 長い単語や複雑な単語を読もうとすると混乱するときがある。
  • 文字を手書きで書く際に、誤字や抜けが頻発する。
  • 文字が反転したり、順序が入れ替わったりしてしまう。
  • 書類やメモを取るのに時間がかかり、指示を聞きながらメモを取るのが苦手。
  • 電話番号やメールアドレスを正確に書き写せないときがある。
  • 文章を書く際に、自分の考えを整理して伝えるのが難しい。

セルフチェックリストの結果はあくまで目安であり、正確な診断を得るためには医療機関を受診する必要があります。

大人のディスレクシア(読字不全)の方が抱えやすい悩みと対処法

大人のディスレクシアの方は、日常生活や仕事において特有の悩みや困難を抱える場合があります。その結果、周囲に迷惑をかけているのではないかと不安を感じたり、職場での評価が下がることに悩んだりするケースが少なくありません。

ここでは、ディスレクシアの代表的な悩みについて、具体例や対処法を交えながら解説します。

文章での指示を理解できずにミスを繰り返す

ディスレクシアの方は、文章の内容を正確に理解するのが難しい場合があります。例えば、指示メールの内容を部分的にしか読めず、期限や内容を誤解してしまう可能性があります。また、作業手順を順番通りに読めず、工程を抜かしたり順序を間違えたりするミスも起こりやすいです。

ミスを防ぐ対策としては、指示を受けた際、自分の理解が正しいかを口頭で上司や同僚に確認する方法が効果的です。また、文章での指示を口頭で伝えてもらったり、パソコンの音声読み上げ機能を活用して読字の負担を軽減したりする方法もあります。

障害がある場合には、合理的な配慮を職場に要請できます。特に障害者雇用枠での就労の場合、配慮を求めやすい環境が整っています。

メモを取るのが不得意

ディスレクシアの方は、メモを正確に素早く記録するのが難しい場合があります。例えば、会議や上司の指示を聞き取っても、内容をすぐに書き留められず、後で何を言われたか忘れてしまう場合があります。また、文章の構造を把握するのが苦手なため、手順や因果関係が逆になるミスも起こりやすいです。

対策としては、メモを取るのが苦手であると上司や同僚に伝え、許可を得てボイスレコーダーで録音したり、Web会議を録画したりする方法があります。症状がそれほど重くない場合には、「やるべき作業」「期日」といった項目を事前に区分けしておいたメモ帳を用意しておくといった工夫でカバーできる場合もあります。

特性に合ったアプローチを知りたい場合には、後述する就労支援機関などのスタッフに相談してもよいでしょう。

周囲の理解を得られない

ディスレクシアは外見からはわかりにくく、学習能力や知的発達に問題がないため、「怠けている」「注意力がない」などと誤解されやすい障害です。例えば職場では、「仕事が遅い」「指示が理解できていない」と評価される場合があり、困難さを抱えている状況を分かってもらいにくい面があります。

障害をオープンにしているのであれば合理的配慮を求めやすいですが、公表したくない場合は周囲に協力を求めにくい場合もあるでしょう。また、業務の性質上、書類の閲覧や作成など、ディスレクシアの困りごとが出やすい場合もあるかもしれません。

こうした際は、障害特性に合った職種や職場への転職を考えてみるのも選択肢です。後述する支援機関では、発達障害のある方に適した求人情報を紹介しているところもあります。

ディスレクシア(読字不全)の方が利用できる相談先や支援サービス

就職や転職、職場復帰をする際や、自立的な生活を取り戻したい際は、一般的な支援では不十分な場合があります。そこで、活用したいのが、専門的な知識や経験を持ったスタッフが在籍する相談先や支援サービスです。

ディスレクシアを専門に扱う支援先はないものの、SLDを含む発達障害の方をサポートする相談先や支援機関は複数あります。主な支援機関は以下の通りです。

  • 発達障害者支援センター
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 精神保健福祉センター
  • 就労移行支援事業所
  • ハローワーク

各支援機関について解説します。

ハローワーク

ハローワークは、全国各地に設置されている公共職業安定所で、職業紹介や雇用支援を行う機関です。障害者雇用に特化した専門窓口もあり、発達障害や精神障害などの特性に応じた支援を提供しています。

専任のスタッフが配置されているため、障害者雇用の求人や合理的配慮を行う職場の紹介を受けられる点が特徴です。さらに、就職活動のサポートや職場定着の支援も受けられます。

ハローワークを利用する際は、基本的に、住所を管轄するハローワークに出向きます。ただし、障害者専門窓口が設置されていない場合や特定の支援を希望する際には、近隣のハローワークや専門窓口を案内されることもあります。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害のある方が就職し、職場に定着するためのサポートを提供する機関です。単に就職を支援するだけでなく、生活面の安定も含めたサポートを行っている点が特徴です。

例えば、求職活動の支援や、就業後の困りごとの相談受付などに加え、生活面の安定を図るための生活訓練や金銭管理のアドバイスなど、包括的なサポートを受けられます。

障害者就業・生活支援センターを利用する際には、まず最寄りのセンターに連絡して予約を取りましょう。現在の状況や希望する支援内容を話し合う初回相談からスタートします。

関連記事:障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)とは?対象者や支援内容、利用の流れを解説

就労移行支援

就労移行支援は、発達障害や精神障害がある方が、自分の特性に合った職場で安定して働けるようにサポートするサービスです。

Kaienの就労移行支援では、専門スキルを活かせる職場から未経験歓迎の職種まで幅広い求人がそろっており、100種類以上の職業訓練プログラムを通じて事務作業やITスキルの習得など、さまざまな分野を体験できます。また、特性を理解するためのカウンセリングやキャリアプランニングも用意されているので、適職選びから始めたい方にもおすすめです。

さらに、就職後もSNSを活用したフォローアップや定期的なサポートが提供され、不安定な時期も安心して乗り越えられる体制が整っています。こうした包括的なサポートの結果、Kaienでは就職率が86%、半年間の職場定着率が95%と高い実績を誇っています。

就労移行支援は障害者手帳がなくても利用可能です。詳しくは以下のページをご覧ください。

自立訓練(生活訓練)プログラム

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、就労や自立的な生活の基盤を整えるための福祉支援プログラムです。Kaienでは、生活スキルやコミュニケーションの習得を目的とした100種類以上の講座を用意しています。

例えば、「睡眠リズムの整え方」「自分の特性を理解して将来を考える」「人と上手に話す練習」などのプログラムがあります。講座で学んだ内容を2~8週間の「マイ・プロジェクト」で実践し、日常生活への定着を目指すため、自力ではなかなか生活が整わない方に効果的なサービスです。

自立訓練(生活訓練)で就労準備ができた後、就労移行支援などを利用してもよいでしょう。詳しい利用方法や相談の申し込みは、以下のページをご覧ください。

自立訓練(生活訓練)プログラム

ディスレクシア(読字不全)で悩む方はKaienにご相談ください

ディスレクシア(読字不全)は、読み書きに困難さのある発達障害です。その他の活動には問題がないため、周囲の理解や協力を得にくく、日常生活や仕事で困りごとを抱えやすい傾向があります。一人で悩まず、専門機関や支援サービスに相談してみましょう。

Kaienでは、自分の特性に合った職場を見つけるための就労移行支援を提供しています。一般的な就職支援と異なり、発達障害に特化した手厚いサポートを受けられます。

また、就職前に生活の基盤を整えたい方には自立訓練(生活訓練)をご利用ください。課題に取り組むことで、短期間での生活習慣の改善が期待できます。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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