愛着障害とは、親などの養育者との愛着が何らかの理由でうまく形成されず、情緒や対人関係に問題が生じる状態をいいます。「自分はもしかして愛着障害では?」と悩む人が多い反面、実際の医療現場で愛着障害と診断されるケースはほとんどありません。思い悩む前に、まずは愛着障害とはどういうものか、正しく理解するのがよいでしょう。
本記事では、大人に見られる愛着障害の概要や種類、原因、治療法について解説します。発達障害*との関係やアダルトチルドレンとの違いについても補足しますので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
愛着障害とは?大人にもみられる?

愛着障害とは、何らかの理由で親などの養育者と愛着が形成できなかったために、情緒や対人関係に問題を抱える状態です。
愛着(アタッチメント)とは、特定の人との間で育まれる情緒的なきずな、心の結びつきです。特定の人とのきずなの形成により、ネガティブな感情から自分を守ったり、ポジティブな感情を生みだしたりするなど感情のコントロールができるようになります。
反対に、愛着形成がうまくいかないと、感情のコントロールや精神的な自立ができずに愛着障害を引き起こしてしまいます。
愛着障害では、他人を信頼できずに過剰に警戒したり、反対に構ってもらいたいという欲求から他人に過剰に甘えたりと、対人関係に問題を抱えるケースが少なくありません。また、自己肯定感が低く、アイデンティティの確立が困難であるほか、情緒に問題を抱えやすい傾向も見られます。
愛着障害は5歳以前に発症するとされていますが、発症した愛着障害が治療されないまま成人になると、大人になってからも愛着障害の症状が続く場合があります。
愛着(アタッチメント)が大切な理由
愛着(アタッチメント)は、心身の健全な成長のために必要なものです。
愛着は、その形成において、主に次の3つの機能が働き、感情のコントロールや精神的自立に役立つと考えられています。
- 安全基地:不安や危機、怒りや悲しみなどのネガティブな感情を持ったとき、特定の人に守ってもらえるという安全基地としての機能
- 安心基地:特定の人といると落ち着くなどのポジティブな感情を生みだす安心基地としての機能
- 探索基地:特定の人に自身の体験に共感してもらい受容してもらうことで、ポジティブな感情を増加させ、ネガティブな感情は減少できる機能
また、特定の人との間に形成される愛着には下記の4つのスタイルがあり、その後の人間関係に影響を与えると考えられています。
- 安定型:自分と他人をポジティブに捉え、他人と親密な関係を築ける
- 拒絶型:他人との親密な関係を避け、自立を望む。
- 不安型:見捨てられるとの不安が強く、他人を慕いつつもその反応に敏感である
- 恐れ方:傷つくことを恐れ、他人と親密になりたい気持ちと拒絶したい気持ちが混在する
愛着障害とアダルトチルドレンの違い
愛着障害とよく混同される言葉に「アダルトチルドレン」があります。愛着障害とアダルトチルドレンの違いは、愛着障害が病名・診断名であるのに対し、アダルトチルドレンは、特定の状態にある人を指す総称・概念である点です。
アダルトチルドレンとは、機能不全家庭で育ったことによるトラウマなどが原因で、成人してから生きづらさを抱えている人の総称です。
機能不全家庭とは、本来、家庭は、子どもが安心して成長できる機能を果たすべきにもかかわらず、その機能が果たされていない状態を意味します。例えば、親のアルコール依存症や虐待、過干渉などで機能不全となっている家庭が該当します。
愛着障害とアダルトチルドレンは、幼少期の親子関係の影響で成人してから問題を抱える点で共通しています。異なる概念ではあるものの、アダルトチルドレンである人の背景に、愛着障害が隠れているケースも少なくありません。
愛着障害の種類と診断
医療的な分類では、愛着障害は「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型愛着障害」の2タイプに分けられます。反応性アタッチメント障害では、人に過剰に警戒しやすいのに対し、脱抑制型愛着障害の場合は人に対して過度に馴れ馴れしい、という正反対な特徴が見られやすいという特徴があります。
ここでは、それぞれの特徴について説明します。
反応性愛着障害
「反応性愛着障害」は、人に対して過剰に警戒するタイプの愛着障害です。
反応性愛着障害に見られる主な特徴として、以下の点が挙げられます。
- 他人を過度に警戒し、頼れない
- 感情表現が苦手、感情の起伏が少ない
- 恐怖心や警戒心が強い
- ちょっとしたことですぐに傷つく、落ち込みやすい
- 謝れない
反応性愛着障害は、警戒心が強く、自己肯定感が低いことから、人に頼れず傷つきやすいなどの問題を抱える傾向があります。また、他者との交流が難しいといった発達障害*のASD(自閉スペクトラム症)と似た特徴も見られます。
反応性愛着障害の診断基準(ICD-10)は以下の通りです。
- 5歳以前に発症する
- いろいろな対人関係場面で、ひどく矛盾した、両価的な反応を相手に示す(しかし間柄しだいで反応は多様)
- 情緒障害が、情緒的な反応の欠如や人を避ける反応、自分自身や他人の悩みに対する攻撃的な反応、および(または)過度の警戒などにあらわれる
- 正常な成人とのやりとりで、社会的相互関係の能力と反応する能力はあると確認できる
- 広汎性発達障害の基準を満たさない
脱抑制型愛着障害
「脱抑制型愛着障害」は、人に対して過度に馴れ馴れしいタイプの愛着障害です。養育者との愛着形成がうまくいかなかったために、慰めてもらう相手を選ばない傾向が見られ、多くの人の注意を引く情動的行動をしがちです。
脱抑制型愛着障害の主な特徴には、以下のものがあります。
- 誰にでもかまわず馴れ馴れしくしやすい
- ボディタッチが多い
- 見慣れない場所や初対面の人に対するためらいがない
上記以外にも、協調性に欠けやすいなど、発達障害のADHD(注意欠如・多動症)に似た特性が見られる場合もあります。
脱抑制型愛着障害の診断基準(ICD-10)は以下の通りです。
- 広範囲な愛着が、5歳以前の持続的な特徴としてみられる(選択的な社会的愛着を十分に示せないことを意味する以下2つの確認が必要)
- 苦しいときに、他人から慰めてもらおうとするところは正常
- 慰めてもらう相手を選ばない(比較的に)というところは異常
- なじみのない人に対する社会的相互関係がうまく調節できない
- 次のうち1項目以上当てはまっていること
- 幼児期では、誰にでもしがみつく行動
- 小児期の初期または中期には、注意を引こうとしたり無差別に親しげにふるまう行動
- 上記の特徴について状況特異性のないことが明らかである
愛着障害の原因とは?

愛着障害の代表的な原因として以下が挙げられます。
- 養育者との離別、死別などで愛着形成の対象がいなくなってしまう
- 養育者によるネグレクト、無視、無関心による放任などがあった
- 養育者のような立場の大人が複数いる、もしくは頻繁に替わっていた
- 養育者による厳格なしつけや体罰、身体的虐待を受けて育った
- 兄弟など他の子どもと差別や優劣をつけられ、明らかに差別されていた
- 褒められることが極端に少ない環境で育った
愛着を形成するために必要な「安心していられる居場所」を獲得できず、愛着の形成が阻害されてしまいます。その結果、大人になり、社会に出てから対人関係や自己肯定感、気持ちの表現といった面で悩みやすくなります。
愛着障害と発達障害との関係性
愛着障害とよく混同されるものとして発達障害があります。愛着障害と発達障害は、併存する場合があるものの、原因が異なる別の障害です。
愛着障害は、幼少時の愛着形成に問題があって生じますが、発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって生じる障害です。
愛着障害と発達障害の症状には似た点があり、専門家でも見分けるのが難しいとされています。特に、発達障害のうち「注意欠如多動症」や「自閉スペクトラム症(ASD)」は、愛着障害と混同されるケースが少なくありません。
また、発達障害の人で、乳幼児期に適切に愛着形成がなされなかった場合、二次障害として愛着障害を併発するケースもあります。
愛着障害は他の疾患と併存する可能性がある
先述の通り、発達障害で愛着障害を併発するケースがあるなど、愛着障害は他の疾患と併存する可能性があります。
愛着障害と併発しやすい代表的な疾患は、下記の通りです。
- 注意欠如多動症
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- うつ病
- 心身症
- 不安障害
- 境界性パーソナリティー症 など
例えば、注意欠如多動症や自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害を持つ子どもは、育児の困難さからうまく愛着が形成できず、二次障害として愛着障害を生じるケースがあります。
また、愛着障害によって対人関係や情緒に問題を抱え、その二次障害としてうつ病や心身症などを発症するケースも少なくありません。
愛着障害と他の疾患・障害とが併存している場合、それぞれの症状や根本的な原因に合わせた適切な治療や支援が必要です。
大人の愛着障害とは?症状や特徴を紹介

愛着障害は一般的に子どもに付ける診断名であり、大人に愛着障害という診断をつけることはほとんどありません。ただ、乳幼児期の愛着障害がある子どもが大人になり、他人とのコミュニケーションがうまく取れない、自己肯定感が下がる、といった生活しづらさを感じる場合には、大人の愛着障害と呼ぶことがあります。
ここでは、大人の愛着障害によく見られる症状や特徴について解説します。
他者との適切な距離感を保つのが難しい
大人の愛着障害では、他人との適切な距離感を保つのが難しく感じられる場合が少なくありません。
愛着障害では、養育者から適切な愛情を受けていないために、養育者に対し反抗的な態度を取ったり、反対に従順すぎるほどの態度を取ったりします。
そのまま大人になり、社会に出ると、次のような形で困難を抱える傾向があります。
- 恋人やパートナーの愛し方がわからない
- 自分の子どもへの愛情の注ぎ方がわからない
- ネグレクト・虐待をしてしまう
- 他人に対し反抗的な態度をとる
- 他人の言いなりなる
- 職場での人間関係づくりがうまくできない
情緒面が不安定になりやすい
大人の愛着障害では、情緒面が不安定になりやすいという特徴もあります。
子どもの頃に養育者から愛情を充分に受けてこなかったため、情緒が安定せず、些細なことで落ち込んだり怒ったりと感情がうまくコントロールできない傾向が見られます。
日常生活においては、例えば下記のような困難を抱え、仕事や日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
- ささいなことで傷つく
- 融通が利かない
- 怒ると手に負えなくなる
- 感情的になるため、建設的な話し合いができない
- 「好き・嫌い」「ある・なし」など2択でしか考えられない
- 折り合いをつけて共存することができない
アイデンティティの確立が難しく自己肯定感が低い
大人の愛着障害の場合、アイデンティティの確立が難しく自己肯定感が低いといった問題も抱えやすいといえるでしょう。
愛着形成は、他人への信頼感を抱く基礎となるだけでなく、積極性を持ってポジティブに自立活動をするための基礎ともなるものです。その愛着形成がうまくできていないと、自分の意思で選択し行動するうえで、困難を抱える傾向があります。
抱えがちな困難の例は、以下の通りです。
- 自分は何が好きで、何が得意かといった判断ができない
- 進学や就職、結婚など人生における重要な決断がうまくできない
- 満足感の高い選択や決断ができない
- 自己肯定感が低い
大人の愛着障害の治療法と対処法
大人の愛着障害の克服法の一つとして、心の安全基地を補う方法があります。
心の安全基地を補うには、親や養育者でなくとも、恋人やパートナー、友人、教師などとの関係性ややり取りから補える可能性があります。お互いに安全基地となることを意識し、支えあう関係性を築くとよいでしょう。
ありのままの自分を受け入れてもらえる人、守られていると感じられる環境が身近に確保できると、感情的にならずに対人関係を構築できる可能性が高まります。
身近な人を頼るだけでなく、カウンセリングを受け、愛着障害に理解のあるカウンセラーに安全基地となってもらう方法もあります。さらに、発達障害やうつ病など、他の疾患の併存が疑われる場合などは、心療内科や精神科の医師の判断と適切な治療が必要となるため、医師に相談しましょう。
愛着障害を正しく理解することが改善へつながる
愛着障害は、何らかの原因で愛着形成がうまくいかず、さまざまな問題を抱えている状態を指します。子どもの頃に診断される場合が多いものの、治療されないまま放置され、大人になって症状を引きずっているケースも珍しくありません。
愛着障害の対処法としては、心の安全基地となる安心していられる居場所を構築する方法が考えられるでしょう。心の安全基地が確保できると、対人関係や自己肯定感の改善につながる可能性が高まります。
愛着障害は発達障害などの他の疾患と併存するケースも多いため、必要に応じて医療機関やカウンセリングなども活用して対処するようにしましょう。
Kaienでは、発達障害や精神障害のある方に向け、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)などの支援を行っています。発達障害で仕事や日常生活にお悩みを抱えている場合は、お気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
実は愛着障害と診断されることは滅多にありません。その意味で病名としての愛着障害はアダルトチルドレンやHSPに近い立ち位置ですが、違いはきちんとした病名もあるということでしょう。DSM-5では愛着障害として、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害が当てられていますが、いずれも被虐待者の中でもごく少数が生ずる障害という位置づけです。昨今、愛着障害は随分拡大されて大人で自認傾向が強い印象を持ちます。今現在の生きづらさの背景に、自分の育った養育環境とそれによってもたらされた「何か」の説明に愛着障害がぴったりくると感じることは理解できます。ただ、それがその人の今と未来の問題を解決するかは別問題です。自分は愛着障害かもと思った方が、記事にある通り、「安心していられる居場所を構築すること」が非常に大事なことはいうまでもありません。その上で、精神科/心療内科に罹るのであれば、何をすると今の生きづらさを解消する手立てになりうるのか、是非未来を見て効果的な方策を医師や心理士と共に考えてみることをお勧めします。

監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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