感覚が過敏で生きづらさを感じている人の中には、自分はHSP(エイチエスピー)かもしれないと思いつつも、HSPとは一体何か、正確にはよく知らないといった人もいるでしょう。
HSPは医学用語ではなく、気質や特性を表す心理学的な概念であり、医学的な診断や治療といったものは存在しません。HSPかもしれないと悩んでいる場合は、このHSPという概念について正しく理解を深めることが、状況の改善には必要となってくるでしょう。
本記事では、断りのない限りは医療や教育で定義をされたわけではない一般的にいわれるHSP(エイチエスピー)をこの記事なりに定義して解説しています。
HSPは、本人の生きづらさや自分探しにかこつけ、ビジネスなどに悪用されてしまうケースもあります。さらにはHSPに気を取られるうちに、本来目を向けるべき問題や疾患を見落としてしまうケースも少なくありません。
後半では、そうしたHSPの問題点や課題について補足しますので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
HSP(エイチエスピー)とは
HSP(エイチエスピー)とは、「Highly Sensitive Person」の頭文字を取って付けられた言葉で、「感覚処理感受性」と呼ばれる心理概念がベースになっています。感覚処理感受性とは、生まれつきと言えるような形で、感覚が過敏で、環境の刺激に影響されやすい人のことを指します。
感覚処理感受性は、鈍感な人がいれば鈍感ではない人もいるため、環境の刺激に影響されやすい人もいればされにくい人もいる、というのが実際の状況です。
特定の範囲全体における人数の割合を、正規分布と言いますが、テストの点数分布のように、正規分布は通常は平均が最も多く、端に行くほど少なくなるものです。感受性も同様に、平均的な人が最も多く、鋭い人もいれば鈍い人もいる、ということが言えます。
精神医学の概念でもある特徴において際立った上位1%は障害として認められやすく、中間はグレーゾーンや境界型などと呼ばれます。
HSP(エイチエスピー)は医学用語ではない
HSP(エイチエスピー)という言葉は正しくは医学用語ではなく、心理学的な概念のことです。昨今、HSPという言葉は「繊細さん」と呼ばれるように、感覚や感受性が高い人を指す言葉として使われる機会が増えており、急速に浸透しています。
しかし、精神医学の場合は、感覚過敏には別の原因があると考え、感覚処理感受性が高い可能性がある人たちをより細かく分類して診断します。例えば、うつ病や社交不安障害、回避性パーソナリティ障害、ASDやADHDといった発達障害などです。
うつ病や不安が強いときには、周囲の刺激に敏感になっている場合がよくあります。また、社交不安障害や回避性パーソナリティ障害では、他人と一緒にいるときに緊張する、失敗を過度に恐れる、人前に立つことが苦手といったパターンも見られます。
このように、臨床上は感覚の過敏さは、他の疾患に付随して生じる症状の1つとして考えられており、独立して捉えられてはいないため、HSPという言葉は精神医学的な概念とはまったく異なるものといえます。
HSP(エイチエスピー)はいつから注目されるようになった?
HSP(エイチエスピー)が広く注目されるようになったのは、テレビなどのマスメディアでHSPが取り上げられるようになったことがきっかけといえるでしょう。
2020年4月頃にある人気番組でHSPが取り上げられ、一躍話題となりました。マスメディアで取り上げられたことをきっかけに、SNSでHSPという言葉がトレンド入りしたり、芸能人が自身がHSPであると発言したりするなどして、一気にブームに火がつきました。
テレビで放送される以前からHSPに関連する書籍が発売されるなどの動きはあったものの、このテレビ放送をきっかけに、HSPの注目度が一気に高まったといえるでしょう。
HSP(エイチエスピー)ブームが起きた理由
HSP(エイチエスピー)がブームとなった背景には、次のような事情があると考えられています。
一つは、HSPが「生きづらさ」を抱える多くの人に、「生きづらいが、繊細であるがゆえにさまざまなことに気付ける」というポジティブなストーリーを与えたことです。肯定的な側面が与えられたことにより、人々は勇気づけられ、HSPという言葉が広く受け入れられたといえるでしょう。
また、HSPは5人に1人の割合でいるとされており、「マイノリティではあるものの、つらいのは自分だけではない」と思える絶妙な割合が、受け入れられやすい要因だともいわれています。
さらに、言葉にしがたい「生きづらさ」に名前を与えてもらえたことや、HSPは気質を示すもので「障害ではない」と捉えることができ、安心感があることも、広く受け入れられた理由といえるでしょう。
世間一般で語られるHSP(エイチスピー)の特徴
HSP(エイチエスピー)の特徴としては、HSPの提唱者である臨床心理学者のエイレン・アーロン博士が挙げる「DOES(ダズ)」がよく知られています。
DOES(ダズ)とは、以下の4つの気質を指します。
- D(Depth of processing):物事について深くじっくりと考えるなど、情報処理能力が深い
- O(Overstimulation):外部の刺激に対し非常に敏感
- E(Empathy and emotional responsiveness):共感力が高いなど感情反応が強い
- S(Sensitivity to subtleties):細かいことによく気が付き、影響されやすい
また、上記4つの気質が特徴として見られるHSPは、世間一般で下記の種類のタイプに分けられるといわれています。
- 内向型HSP(HSP):内向的で深くじっくり考えるタイプ
- 外交型HSP(HSE):外交的で人と関わるのが好きなタイプ
- HSS型HSP:刺激を追求し活動的だが疲れやすい内向的HSPタイプ
- HSS型HSE:刺激を追求し活動的だが疲れやすい外交的HSPタイプ
HSPの気質を持つ子どもとして「HSC(ハイリーセンシティブチャイルド)」という言葉も広がっています。
HSPには医学的な定義や科学的根拠があるわけではないものの、世間一般で語られるものとしては、上記のような気質やタイプに分けられるとされています
発達障害とHSP(エイチエスピー)の違い
HSP(エイチエスピー)は、発達障害と似ているといわれることがあります。しかし、HSPが医学的な診断名ではなく気質を示す概念であるのに対し、発達障害は医学的な診断名である点で大きく異なります。
発達障害は、脳機能の発達に関係する障害です。発達障害と一口にいっても「注意欠如多動症(ADHD )」や「自閉スペクトラム症(ASD)」、「限局性学習症」など種類はさまざまです。
それらのうち、例えば、衝動性と多動性が特徴の「注意欠如多動症(ADHD )」と、活動的で刺激を求めるHSS型のHSPの方は、似ているといわれることも少なくありません。
また、感覚が過敏で対人関係が苦手な「自閉スペクトラム症(ASD)」と、敏感で対人関係に疲れやすいHSPが似ているといわれることもあります。
特徴が似ているとはいえ、HSPは、あくまでその人の気質や性質を表す言葉で、HSPに分類されるのに第三者の診断を必要としません。一方の注意欠如多動症(ADHD )や自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害は、医師の診断とされます。
両者は特性に似ている部分があっても、あくまで異なる分類の言葉です。
HSP(エイチエスピー)の問題点
世間からの注目度が高いHSP(エイチエスピー)ですが、注意点もいくつかあります。HSPは、医学的な定義や支援といった枠組みがないために、本人の生きづらさにつけこんだビジネスなどに悪用されてしまうといったケースも少なくありません。
以下では、注意したい問題や課題について解説します。
HSP資格ビジネスの増加
HSP(エイチエスピー)を専門に扱う資格といったものは存在しませんが、HSPカウンセラーやHSPアドバイザーといった資格が得られるとうたう「HSP資格ビジネス」が増えています。
注意したい点は、そうした資格ビジネス講座には、「HSPは才能」と扱うなど、学術的な見解とは乖離するHSP理解に基づいて行われているものが少なくないことです。
わざわざHSPという文言をつける必要のない講座も散見されるなど、ビジネスという目的のために、本来のHSPの意味や定義から離れてしまっている講座が乱立しています。
数時間のオンライン講座で、医学的根拠・専門性がないままに心の問題を扱うカウンセラーになれるとする講座もありますが、心の問題は命にも直結する問題です。専門性がない素人のカウンセラーが心の問題を扱うことは、誤った方向に導く可能性もあり、危険性をはらむといえるでしょう。
偏見や誤解、差別の助長
HSP(エイチエスピー)では偏見や誤解、差別の助長を招きやすいといった問題点もあります。
例えば、先述の通りHSPは、医学的な診断名ではないものの、障害や病気であると誤解されるケースも多いでしょう。
反対に、HSPが障害や病気でないことから、HSPを自認する人に対し「HSPは甘えだ」と第三者が差別的発言をすることもあります。
また、HSPを自認する人が「HSPは才能であり特別だ」とする一方で「HSPでない人は無神経だ」と、非HSPの人に対して優越思想や無意識の偏見を持つことも少なくありません。
さらに、HSPを自認する人が「自分(自分の子ども)はHSPであって、障害者ではない」と、障害や障害を持つ方を忌み嫌い、障害を持つ人に無意識の差別をしている場合もあります。
この障害を忌み嫌うという点で特に注意したいのは、発達障害が疑われる場合でも、「自分はHSPだから(自分の子どもはHSCだから)」と主張し、検査を受けようとしないケースです。発達障害の診断を受け、支援を受けるのが適切な場合でも、HSPだと思い込むことで、診断や治療の機会を逃してしまうことがあります。
科学的根拠のない「医療」を提供するクリニック
HSP(エイチエスピー)に、医療的な定義や支援のしっかりとした仕組みがないことを逆手に取った医療ビジネスが増えているという問題もあります。
HSPは医学的な診断でラベリングされるものではありませんが、「HSPと診断されたい」という人は多いでしょう。そうした気持ちにつけこみ、自由診療として高額なHSP検査・診断・治療をするとうたう医療クリニックが存在しています。
HSPは心理学に基づく概念であり、診断や治療といったものは存在しません。それにもかかわらず「HSPを脳波で診断する」「HSPを副作用の少ない経頭蓋磁気刺激(TMS療法)で治療する」と科学的根拠のない「医療」を提供するクリニックがあるため注意しましょう。
カルト団体やマルチ商法への勧誘やHSCラベルの乱用
HSP(エイチエスピー)の交流会でカルト団体やマルチ商法への勧誘を受けたというケースも見られます。
HSPの人は生きづらさを抱えているという認識が広がり、カルト団体やマルチ商法から勧誘しやすいとターゲットにされることもあるため、注意しましょう。
また、学校教育の現場で、「あの子はHSCではないか」「HSPは不登校になりやすい」などと、生徒指導や不登校支援の文脈でHSCやHSPが用いられているケースもあります。
「HSCだから」とラベルを貼って原因を帰属させることで、理解した気になってしまうと、視野を狭めて問題解決から遠ざかってしまうことも少なくありません。安易にHSPあるいはHSCとラベルを貼らないで、慎重に対処する必要があります。
HSP(エイチエスピー)かもしれないと悩んだら医療機関の受診も検討してみよう
HSP(エイチエスピー)は、「感覚処理感受性」と呼ばれる心理概念がベースになった状態のことで、精神医学の概念ではありません。感覚処理感受性とは、生まれつきと言えるような形で、感覚が過敏で、環境の刺激に影響されやすいことを指します。
HSP(エイチエスピー)と自認する方の傾向として、生きづらさを抱える方が多く、HSPという言葉で自己理解を深めている方も少なくありません。また、うまく言葉にできない自身の生きづらさに対して、HSPとラベリングすることで、安心感を感じている方もいるでしょう。
しかし、実際は生きづらさの背景には障害や疾患が隠れているケースも少なくありません。
精神医学では、感覚過敏には別の原因があると考え、感覚処理感受性が高い可能性がある人たちに対して細かく分類、診断します。うつ病や社交不安障害、回避性パーソナリティ障害、ASDやADHDといった発達障害などの可能性がないか、詳しく見て診断を下します。
本来であれば診断がついて、治療が行われていく症状であっても、HSPだと思い込んでしまうことで診断や治療の機会を逃してしまう場合もあります。HSP(エイチエスピー)かもしれないと悩んでしまう場合は、医療機関の受診を検討してみましょう。
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