うつ病での休職や退職を経験すると、再就職や復職に対する不安が大きくなるものです。「また働けるだろうか」「うつ病が就職活動で不利になるのでは」と、悩みが尽きない方も多いのではないでしょうか。
うつ病を乗り越えて再び社会復帰を目指すためには、病状に応じた無理のない就職活動や、適切な支援が重要です。本記事では、うつ病の方が再就職を考える前に気をつけたいポイントや準備方法、再就職までの流れを解説します。ご自身のペースで無理なく再就職を目指すため、ぜひ参考にしてください。
うつ病で転職・再就職を考える前にチェックしたいポイント

転職や再就職は人生の中でも大きな決断の1つです。決断するまでに今の会社のことだけでなく、新しい会社のことまで考える必要があり、相当なエネルギーを使います。
ここでは、うつ病になり転職や再就職を考えた場合に何を優先すべきか、考え方や注意点を解説します。安易に考えて行動しないように、一度自分の状態や状況を見つめ直してみましょう。
うつ病の症状が辛いときに大きな決断をしない
うつ病には「急性期」「回復期」「再発予防期」という3つの段階があります。中でも急性期は、気分の落ち込みや無気力、不眠、食欲不振などの症状が強く現れる時期であり、日常生活を送るのもつらい状態です。
このような時期には、将来のことを考える余裕がなくても無理はありません。転職や再就職といった大きな決断をするのは避け、心身の休養を取りましょう。
回復期以降になると、少しずつ前向きな気持ちが戻ってきます。自分の現状や再発予防、将来の選択肢についても、客観的に見つめられるようになるでしょう。
焦って一人で決断しない
うつ病の方の中には「早く社会復帰しなければ」「このままではいけない」と焦りを感じる方もいるかもしれません。特に症状が強い時期は次々とネガティブな考えが浮かんだり、特定の選択肢しかないように感じたりする場合もあるでしょう。
しかし焦る気持ちから一人で再就職や転職の決断をすると、うつ病の回復が遠のいたり、適切でない選択肢を取ってしまう可能性があります。自分では「もう大丈夫」と思ってもまだ内面の疲労が残っている場合もあるため、自分だけの判断にはリスクがあります。
再就職などの決断をする前に、必ず主治医やカウンセラー、家族などへ相談しましょう。インターネット上には根拠が明確でない情報もあるため、信頼できる人への相談が重要です。
うつ病の方は転職・再就職に不利?難しい?

うつ病のため転職や再就職をすることは必ずしも不利に働くとは限りません。一般雇用の場合はうつ病などの精神疾患のある方を採用対象としていないため、場合によっては避けられてしまうこともあるかもしれません。しかし、現在は障害者雇用や合理的配慮など多様な働き方を取り入れている企業も増えてきています。
うつ病の方の中には、治療と就活を同時に行うのは難しい人もいるかもしれません。うつ病の状態にもよりますが、治療と就活の並行が難しいようであれば、主治医と相談しながらまずは治療や休養を優先しましょう。
気をつけたいのが、うつ病が原因で転職を短期間でくり返すことです。早期に退職と再就職をくり返すと、入社してもうつ病を原因にすぐ辞めるかもしれないと判断される可能性があります。いずれにせよ、転職や再就職のための準備をしっかり行えば決して不利にはならないはずなので、体調を安定させ長期的に働ける職場や方法を見つけることが大切です。
うつ病の原因は発達障害の可能性も
うつ病の治療をしてもなかなか改善しない、もしくは再発をくり返す場合は1つの可能性として発達障害*が隠れている場合があります。発達障害とは生まれつき脳機能にかたよりがあり、先天的な特性がある障害です。特性によるストレスや失敗体験などによって、うつ病などの精神疾患を発症することを二次障害といいます。
うつ病などの二次障害は発達障害の特性と見分けがつきにくいため、うつ病の治療だけしてもなかなか改善しないことも少なくありません。医師でも根本の原因である隠れた発達障害に気がつかないこともあるため、うつ病をくり返す場合は発達障害の可能性も視野に病院を受診してみましょう。
うつ病からの再就職に向けて準備したい3つのこと

うつ病による休職や退職から再び職場に戻るためには、段階的な準備が欠かせません。いきなり就職活動を始めるのではなく、焦らずに自分の心身の状態と向き合いながら少しずつ準備を進めましょう。
この章では、再就職に向けての準備として「体調と生活リズムを整える」「自己分析をして自分に合う働き方を考える」「活用できる支援制度を把握する」の3つを紹介します。
体調と生活リズムを整える
再就職に向けた活動を始める前に体調と生活リズムを整え、長期的に就労できる下地をつくりましょう。うつ病の症状が落ち着いていないうちに働き始めると、再発のリスクが高まります。無理をすると再び休職に至る可能性もあるため、十分な休養と適切な治療の継続が重要です。
体調が回復してくると服薬や通院を中断してもよいのではないかと思う場合もあるかもしれません。しかしうつ病は再発しやすく、適切な治療を継続しないと悪化してしまう可能性もあります。主治医の指示に従って治療を続けるようにしましょう。
また、正しい生活リズムも重要です。長期間の休職や自宅療養が続くと不規則な生活になりがちで、日中に活動する体力が落ちてしまう場合もあります。朝に起きて日中に活動するサイクルを整え、毎日通勤できる体力をつけましょう。体調に応じて、まずは朝に起きて日差しを浴びる、家の近所を5分だけ散歩するなど、無理のない範囲から活動の幅を広げていきましょう。
自己分析をして自分に合う働き方を考える
うつ病からの再就職を成功させるため、どのような職場環境なら無理なく働けるか理解しておきましょう。自己分析をして自分の強みや弱み、価値観、働くうえでのストレス要因を明確にするのがポイントです。
過去にどのような仕事にやりがいを感じたか、どのような人間関係や業務内容でストレスを感じたのかを振り返ると、今後の職場選びのヒントになります。フルタイムでの勤務が難しい場合は時短勤務や在宅勤務を選ぶ、対人関係にストレスを感じやすい場合は少人数の職場を探すといった工夫も考えられるでしょう。
長期的に働ける職場を探すには、休職に至った要因を振り返るのも重要です。偏った思考の癖がある場合は、認知行動療法の活用も有効な選択肢となるでしょう。また、ストレスが溜まった場合に現れやすい自分の体調の変化を知っておくと、不調を早期に察知しやすくなります。
活用できる支援制度を把握する
治療中の生活や再就職への不安を少しでも減らすためには、公的な支援制度の活用も有効です。
うつ病で休職している場合、傷病手当金や自立支援医療制度などの経済的な支援制度を利用できます。傷病手当金は、休んだ日にち分だけ給与の約3分の2程度の手当が受け取れる制度で、期間は最長で1年6ヶ月までです。自立支援医療制度は、うつ病などの精神疾患で継続的な通院治療が必要な方が受けられ、手続きをすると医療費の負担が3割から1割に軽減されます。
経済的な支援制度だけでなく、転職や再就職のためのサポートを受けられる制度もあります。うつ病などの精神疾患で休職した方の復職を支援するリワーク施設のほか、ハローワークや就労移行支援サービスなどでも、メンタルの状態に配慮した相談や職業紹介を受けられます。
うつ病の方が再就職するまでの流れ
うつ病からの再就職には、病状の経過を踏まえた段階的な準備が必要です。急性期、回復期、再発予防期それぞれに応じた過ごし方を意識し、主治医にも相談したうえで再就職に適したタイミングを見極めましょう。
急性期は精神面・身体面の症状が強く現れ、日常生活だけでも大きな負担になります。この時期は薬物療法を行いながら休養を取り、心身の回復に専念しましょう。
回復期になると症状が少しずつ和らぎ、活動できるようになってきます。ただし、自分ではよくなったと感じてもまだ軽快したとは限りません。薬物療法やカウンセリングなどの治療を続けながら、無理のない範囲で少しずつ活動を増やしていきましょう。
回復期から再発予防期になっても、再発予防のために薬物療法を続ける必要があります。急に薬の量を減らすと体調の悪化につながるため、主治医の指示に従って少しずつ減薬しましょう。うつ病発症の原因や、働き方、生活スタイル、思考の癖の見直しも重要です。
再就職や復職に向けた活動を始めるのは、回復期以降が適しています。回復期も体調に波があるため、主治医と相談して無理のない範囲から始めましょう。個人差はあるものの、一般的には急性期は1ヶ月〜3ヶ月程度、回復期は4ヶ月〜6ヶ月以上続くため、焦らないことが重要です。
うつ病の方が転職や再就職を成功させるコツ
うつ病からの転職や再就職を成功させるため、無理なく自分の状態や特性に合った働き方を見つけましょう。この章では、うつ病からの再就職を成功させるためのコツを3つ紹介します。
治療に専念して症状が落ち着いてから就職活動をする
急性期の症状が強い時期は焦らず治療に専念し、心身の状態が落ち着いてから就職活動を始めましょう。うつ病の再発を防ぐには、安定した状態がしばらく続いてからの社会活動再開が重要です。
治療に専念している時間は、決して停滞しているわけでも怠けているわけでもありません。回復後の就職活動をスムーズに進め、長期的な就労のために自分を整える大切な期間です。不安があるなら主治医やカウンセラーに相談し、自分のペースで治療を進めましょう。
一般雇用・障害者雇用どちらも検討する
一般雇用だけでなく障害者雇用も視野に入れて就職活動をすると、自分に合った働き方を見つけやすくなります。雇用枠に優劣はないため、現在の自分の体調や働ける条件に合わせて無理のない選択をしましょう。
一般雇用は給与水準や業務内容の幅が広く、さまざまな選択肢があります。一方で正社員の場合、勤務時間はフルタイムが基本であり、任される業務の量や種類も多くなりがちです。休職から復帰したばかりの方にとっては、負担が大きい可能性もあるでしょう。
障害者雇用は、主に精神疾患や発達障害などの方が対象です。業務内容や勤務時間への配慮があるため、安心して就労できるでしょう。まずは短時間の勤務や特定の分野に絞った業務から始め、体調に応じて勤務時間や業務量を増やす選択肢もあります。
リワークを活用する
リワークは、うつ病などの精神疾患によって休職・退職した方の復職や再就職をサポートするプログラムです。専門知識を持ったスタッフのもとで体調面・精神面のリハビリテーションを行い、ビジネススキル向上のための支援も受けられます。ほかの参加者との交流を通して、徐々に人との関わりに慣れていく訓練も積めるでしょう。
Kaienのリワークプログラムでは、精神疾患や発達障害のある方、診断はついていないものの症状や特性に悩むグレーゾーンの方向けの支援を実施しています。一人ひとりの病状や特性に合わせてオリジナルのプログラムが組まれ、定期的な面談でカウンセラーに不安を相談できるため、自分のペースで再就職・復職の準備を進められます。
Kaienのリワークプログラムについて詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
リワーク施設とは?施設の支援内容、施設の探し方や選び方も解説
うつ病の方の転職・再就職は支援機関の活用もおすすめ

うつ病による休職・退職からの再就職や復職は、焦らずに自分のペースで準備を進めましょう。急性期には心身の回復に努め、主治医と相談したうえで症状が落ち着いてから就労に向けた活動を始めるのが重要です。
再就職を目指すときは、リワークプログラムといった支援の活用がおすすめです。心身のリハビリテーションやスキルの再就職といったサポートを受けられ、少しずつ人との関わりに慣れていけます。
Kaienでは、精神疾患や発達障害の方の就労を支援するリワークプログラムを提供しています。見学や個別相談も受け付けておりますので、まずはお問い合わせください。
監修者コメント
うつ病と不安は、自由が保障されればされるほど増えると言われると、逆説的に聞こえたり、皮肉に感じる方は多いでしょう。しかし、自由とは常に個人の主体的な意思決定を求められるもの(制度)なのです。誰からも拘束されることがない反面、自身の決定による結果は自分で負わなければならないのです。この「自業自得」状態を自覚することで人々は不安になったり、うつ状態になって意思決定を回避しようとしたりします。さらには、自由による不安から権威主義やファシズムに逃避する人間の姿をエーリッヒ・フロムは『自由からの逃走』で論じました。
うつ病の最中に転職を勧めないのは、この不安に縛られて本来の自分とは異なる意思決定をするリスクがあるからです。ところが、うつ病はその人特有の考え方に大きく依存するため、同じ職場に復職しても再発するリスクもまた、あります。
ベストセラーとなったマンガ『うつヌケ』作者の田中圭一さんは、気温と体調をエクセルで管理することによって、自身のうつ状態が気温差に左右されるというパターンを掴むことができました*1。「うつヌケ」の方法には個人差がありますが、ご自分の気分や客観的指標を記録することで、あなたらしいうつ病対策が見つかることでしょう。
*1: https://www.gqjapan.jp/life/grooming-health/20190522/utsu-nuke-interview-1

監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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