ADHD(注意欠如多動症)の方は、特性により仕事でミスや失敗することが多く、衝動的に転職を繰り返しやすい傾向にあります。しかし転職しても新しい職場になじむのも楽ではないので、長く勤められる職場を見つけたいと思っている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、ADHDの方が転職を成功させるためのポイントを解説します。ADHDの特性をおさらいしつつ、特性をカバーするための具体的な対策や向いている仕事、利用できる支援機関などを紹介しているので、参考にしてください。
ADHDの特性がある方に向いている仕事とは?
ADHD(注意欠如多動症)は、脳の発達の違いにより、「不注意」「多動性」「衝動性」が現れる発達障害*です。
- 不注意:集中力が続かず、物事を忘れやすい
- 多動性:じっとしていられず、落ち着きがない
- 衝動性:思いついたことをすぐに行動してしまう
ADHDの特性は、生まれつきの脳の発達の特徴であるため、成長とともに症状が変わるケースはあるものの根本的な特性自体は変わりません。
ADHDの方は特性に合った仕事を選ぶことで、ストレスを軽減して自分の強みを活かしやすくなります。まずはADHDの特性を活かせる仕事の特徴や職種について紹介します。
ADHDの特性を活かせる仕事の特徴
ADHDの特性を活かせる職場環境の特徴には、自由度の高い職場、短時間で成果を出しやすい業務、クリエイティブな発想が求められる職種などが挙げられます。これらは、一見短所に捉えられやすいADHDの特性を、長所として捉えた視点です。
具体的には、以下のようになります。
- 集中力が続かず、物事を忘れやすい
→ 短時間で成果を出す、瞬発力が求められる仕事に向く
- じっとしていられず、落ち着きがない
→ 身体を常に動かす仕事や、働く時間や場所に拘束されにくい仕事に向く
- 思いついたことをすぐに行動してしまう
→ 常識に捉われず、次々にアイデアを出すクリエイティブな仕事に向く
ADHDの特性を前向きに捉えると、自分に合った仕事を見つけやすくなるでしょう。
ADHDの特性がある方におすすめの職種例
先ほど説明した特徴を踏まえると、ADHDの方に向く職種としては、以下が挙げられます。
【クリエイティブ職】
- デザイナー:自由な発想を形にする作業が多く、衝動的なアイデアを活かしやすい
- ライター:自分のペースで文章を作成でき、不注意があっても短時間集中で対応しやすい
【動きのある職種】
- 営業職:外出が多く、活動的な環境で働ける
- カメラマン:異なる現場での撮影が続くため、単調な作業が少なく飽きにくい
【専門特化型職種】
- プログラマー:リモートワークで柔軟な働き方ができる企業が増えている
- 研究職:物事に捉われない自由な発想を活かせる
【働く場所や時間が自由な職種】
- 自営業:時間や内容を自分で調整できるため、自分のペースで働きやすい
- フリーランス:リモートワークができる分野が多く、柔軟な働き方が可能
このように、ADHDの方が力を発揮しやすい職種は数多くあります。
ADHDの特性のある方が転職を成功させるには?転職で抱える悩みと対策
ADHDの方が適職を見つけて成功させるためには、転職活動の進め方や面接での伝え方、転職後の環境適応まで、それぞれ対策が求められます。
そこで、次項から、ADHDの特性を抱える方が転職活動で直面しやすい悩みを取り上げ、それぞれの場面で有効な対策を解説します。これらのポイントを押さえて、自信を持って転職活動を進めていきましょう。
自分に合った仕事がわからず転職に踏み出せない
ADHDの方の中には、自分の得意なことや適した仕事がわからない悩みを抱えた方が少なくありません。過去の仕事での失敗体験から、「また同じことを繰り返してしまうのではないか」と慎重になり、転職に踏み出せず不安を抱える方もいるでしょう。
このような場合は、まず自己理解を深め、自分の特性に合った職種を見極めることが重要です。ADHDの特性は努力や工夫だけで完全に変わるものではないため、特性を踏まえた上での仕事選びが、長期的に安定して働く上でのポイントとなるからです。
ただし自分を客観的に理解するのは意外に難しいものです。そのため、就労移行支援や地域障害者職業センターなど、専門知識を持ったスタッフによるカウンセリングや適職診断の活用をおすすめします。周囲のサポートを受けると自分の特性を深く理解でき、転職の第一歩を踏み出しやすくなるでしょう。
転職活動を継続できず途中で挫折してしまう
ADHDの方は、計画的に物事を進めるのが苦手で、長期間にわたる活動を続けるのが難しい場合があります。これは転職活動にも当てはまります。
例えば、履歴書作成や企業リサーチを始めても途中で投げ出してしまったり、逆に過集中により一時的に頑張りすぎ、その後、疲労感から活動を中断してしまったりするケースも少なくありません。
このように結果が出ないと、焦りや自己否定感が強まり、活動そのものを諦めたくなる場合もあります。そうした際には、転職活動を小さなステップに分解し、成功体験を積み重ねる方法が有効です。
具体的には、「今週は履歴書の見直しを行う」「今月は2社だけ応募する」といったように、目標を細かく設定します。それらを一つずつ達成していくことで、進捗状況が見えやすくなり、自己肯定感も得られやすくなります。進捗状況をチェックリストで可視化したり、定期的に振り返りを行い、達成点や改善点を確認したりすることで、計画的に物事を進めやすくなるでしょう。
一人で進捗を管理するのが難しい場合は、支援機関や担当医などの専門家と活動を定期的に振り返る機会を設けるのも効果的です。孤立感や不安を軽減し、モチベーションを保つ工夫が転職活動の継続には欠かせません。
面接で自分の特性をどう伝えればよいか迷う
「特性を隠すべきか」「職場に配慮を求めても良いのか」と悩むADHDの方は少なくありません。
特性を伝える「オープン就職」は、サポートを求めやすい一方で、採用のハードルが高くなる可能性もあります。特性を伝えない「クローズド就職」では、就職先の選択肢が広がる一方、サポートが得にくい可能性を考慮しなければなりません。
そのため、転職活動を始める際には、オープン就職かクローズド就職のいずれを選ぶか方針を決めておくことが重要です。無理に特性を隠す必要はありません。現在、企業には障害特性に配慮する「合理的配慮」が義務付けられており、それを積極的に活用する方も増えています。
ただし、特性を伝える際は、ADHDのポジティブな側面を強調しつつ、具体的な対策をセットで伝える工夫が求められます。的確に伝える準備を整えておくことで、自信を持って面接に臨みやすくなります。
転職後の職場で長く働き続けられるか不安
ADHDの方は、新しい環境に慣れるまで時間がかかりやすく、対人関係でストレスを感じやすい傾向があります。そのため、転職後の職場で長く働き続けられるか不安を抱える方も少なくありません。
不安を軽減するには、まずADHDの方に適した職場を選ぶことが一つの方法です。例えば、リモートワークやフレックスタイム制など、自分のペースで柔軟に働ける環境を選ぶのも有効です。
職場定着のためには、スケジュール管理ツールを活用して業務の進捗を見える化したり、ストレスケアの方法を習得するといった工夫も有効です。これらのスキルを磨くためには、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受講すると効果的です。
さらに、不安の軽減策として、職場に対して業務内容や働き方について合理的配慮を求める方法もあります。後述する支援機関の中には、職場定着支援の一環として、合理的配慮を企業に求める際の仲介役を担うところもあるので、必要に応じて活用するとよいでしょう。
ADHDの特性のある方が転職活動を成功させるために必要な準備
ここからは、ADHDの特性のある方が転職活動を成功させるために必要な準備について、前述までの内容を踏まえながら、さらに具体的に解説します。
ポイントとなるのは、医師や支援機関のサポートを上手に活用することです。というのも、転職活動を成功させるためには、「採用担当者にADHDの特性がどのように見えるか」という他者視点が重要ですが、ADHDの方はコミュニケーションに課題があり、上手に伝わらない場合が多いからです。専門家のサポートを得ながら転職活動に取り組むと、内定の確率が大きく上がります。
ここでは、面接対策、診断書や意見書の準備、専門家の意見の活用の3つの観点で解説します。
自分の特性を理解し面接で伝えられるように準備する
ADHDの方が内定を獲得できない原因として多いのは、面接対策が不十分であるケースです。具体的には、多動性や衝動性の特性によって、面接中に話がテーマから逸れ、面接官にまとまりのない印象を与えてしまう場合があります。また、自分の特性を聞かれた際に、「注意力が続かない」「衝動的に発言してしまう」といった具体例を挙げることで、ネガティブな印象が強調されるケースも少なくありません。
話の脱線を防ぐための対策としては、面接前に伝えたい内容を箇条書きにして整理しておく方法が効果的です。特に「結論」「根拠」「具体例」という構成を意識し、それぞれをメモに書き出しておくと、一貫した説得力のある自己PRができます。
また、ADHDの特性について説明する際は、強みと弱みをセットで伝える練習が有効です。例えば、「私はADHDの特性上、注意が散漫になることがありますが、集中力を保つために短時間集中の作業方法を取り入れています」といった伝え方をすると、自分の弱みを補う工夫も同時にアピールできます。
必要に応じて医師に相談し、診断書や意見書を準備する
ADHDの特性がある方が転職活動や就労に不安を感じる場合、医師に相談して現状を整理し、必要に応じて診断書や意見書を準備しておくと良いでしょう。診断書や意見書があれば、企業側に合理的配慮を依頼しやすくなります。また、障害者雇用を希望する際にも、診断書が証拠書類として役立ちます。
診断書や意見書を依頼したい場合は、通院中の医療機関で相談するのが一般的です。転職活動に必要な情報を具体的に伝えた上で、作成を依頼するとスムーズです。
また、転職活動中はストレスや不安が増え、ADHDの症状が強まる場合があります。こうした変化に早めに気づき対処するためにも、医師に活動状況を伝えておくと安心です。
支援機関を活用して事前準備を整える
一人で転職活動を進めるのが不安な場合や、活動の進め方に自信がないと感じるときは、後述する就労移行支援などの支援機関を活用して準備を整える方法も有効です。発達障害やADHDの特性を理解した専門家が在籍している支援機関を利用すれば、一般的な就職支援よりも手厚く、特性に合ったサポートを受けられます。
これらの支援機関では、応募書類の添削や模擬面接、職場体験プログラム、実践的な職業訓練などを提供しています。スキルを高めることで、自信を持って転職活動を進めやすくなるでしょう。
発達障害のある方は、認知の偏りが影響し、自分の考え方や行動のパターンを客観的に把握しづらいことがあります。専門家の客観的なアドバイスを受けることで、自分では気づけなかった強みや改善点を知るきっかけにもなります。
ADHDの方が転職で利用できる支援機関
ADHDの方が転職で利用できる代表的な支援機関について、支援内容やメリットなどをまとめて紹介します。
- 就労移行支援事業所
- 自立訓練(生活訓練)
- 少人数面接会
- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
上記は支援機関の一例ですが、自分に合いそうなサービスがあったら、百聞は一見に如かずなので見学や体験利用などを申し込んでみましょう。
ハローワーク
ハローワークでは障害者雇用の求人を取り扱っているほか、障害について専門的な知識をもつ担当者を通じた情報の提供や、就活相談などを実施しています。
また、障害者雇用の求人情報では「職場適応援助者(ジョブコーチ)の有無」や「エレベーターの有無」など、障害のある方に対する配慮事項の確認も可能です。
自分が仕事に向いているのか確認したい場合は、地域障害者職業センターと連携した適性チェックも受けられます。さらに職業訓練を活用すれば就職のために必要な知識や技術の習得も可能です。
少人数面接会
少人数面接会とは5人以下のような少人数で面接を行う場のことです。一人当たりの発言時間を多くとれるので面接官とコミュニケーションが取りやすく、発言へのストレスも少ないでしょう。
Kaienの「マイナーリーグ」でも少人数面接会を取り入れており、オンラインでの採用説明会を随時実施しています。少人数なので具体的な話ができ、その場で障害に対する配慮を確認することも可能です。
また、どうしても質問しにくいことは、匿名でのチャットで担当者に確認することもできます。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターとは、障害がある方に専門的な職業リハビリテーションを提供する施設です。全国の各都道府県に設置されており、以下のような就職支援事業を行っています。
- 職業準備支援:職業紹介やジョブコーチ支援などを受ける準備段階として作業体験、職業準備講習、社会生活技能訓練といった基本的訓練を行う
- ジョブコーチ支援事業:労働者と事業主の双方に対して、派遣したジョブコーチを通じた支援を行う
- 精神障害者総合雇用支援:主治医や医療機関と連携して、精神障害がある労働者と事業主双方の支援を行う
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害者のある方の就業面と生活面の一体的な相談・支援を行うための施設です。
就業に関する支援としては、職業準備訓練、 職場実習のあっせん、障害のある方の特性、能力に合った職務の選定、職場定着に向けた支援などが受けられます。
また、生活面に関する支援としては、生活習慣の形成や健康管理、金銭管理といった日常生活の基礎に関する支援や、地域生活と生活設計に関するサポートなどが受けられます。
就労移行支援
Kaienの就労移行支援は、ADHDを含む発達障害や精神障害を持つ方に、一般就労を目指すサポートを提供しています。専門知識を持つスタッフが支援するため、一般的な就職支援サービスより安心して利用できます。
主なサービス内容は以下の通りです。
- 職業訓練: 100職種以上の業務を実践的に体験できるプログラムがあります。
- スキル講習: ライフスキルや就活スキルなど、50種類以上の講座を受講可能です。
- 就活サポート: 求人紹介や面接練習・書類作成、面接の同行などをサポートします。
- 職場定着支援: 職場での悩み相談や、企業に対する合理的配慮の交渉を通じて、職場への定着を支援します。
例えば、コミュニケーションやストレスマネジメントの講座を受講することでスキルを高め、採用の可能性を広げられます。また、職業訓練では、事務やデザイン、IT関連まで、幅広い職種が用意されているため、自分に合った職業を探しながら、実践的な能力を育てられます。
また、自己理解を深めるカウンセリングや適職診断などを通じて、自分に合った職場や働き方を見つけやすくなります。発達障害と上手に付き合う方法を知ることで、就職後の職場定着もスムーズになります。
みらいの仕事を“試着”できる Kaienの就労移行支援プログラム
自立訓練(生活訓練)
Kaienの自立訓練(生活訓練)は、生活リズムの改善や自己理解の促進を通じて、無理のない社会参加や就労準備をサポートするプログラムです。特に、ADHDの症状が重く、転職活動の前に生活基盤を整えたい方に適しています。
主なサービス内容は以下の通りです。
- 生活リズム改善: 睡眠の調整や生活時間の整え方を学びます。
- 生活スキルの向上:料理や洗濯、掃除など、生活スキルを学べます。
- 感情コントロール: 感情の起伏を理解し、適切な対処方法を習得します。
- コミュニケーション練習: 人間関係の構築や職場での対話スキルを磨きます。
- スケジュール・金銭管理: 社会生活で必要なスキルをトレーニングします。
- カウンセリング:1対1でのメンタル面のケアやサポートです。
自立支援サービスの利用によって、心身の安定を図り、就業に向けた自信を取り戻せます。生活基盤が整った後は、次のステップとして就労移行支援やハローワークなどの支援サービスを活用するのもよいでしょう。
自分を見つける、視野を広げる、未来に出会える 自立訓練(生活訓練)プログラム
ADHDの方の転職は適職を知った上で支援の利用も検討してみて
ADHDの方が転職活動を進める際には、発達障害特有の困りごとが生じる場合があります。特性に合った職種の選択や、面接対策、合理的配慮の要請、医師の診断書や意見書の準備など、取り組むべき課題も多岐にわたります。自分一人で抱え込まず、支援サービスを上手に活用することが、転職を成功させる重要なポイントです。
一般的な就職支援ではサポートが不十分な場合には、Kaienの就労移行支援の利用もご検討ください。Kaienでは、実践的な職業訓練やカウンセリングを通じて就職を支援しています。専門知識を持つスタッフが在籍しており、ADHDの特性に配慮した支援も可能です。
さらに、Kaienでは、復職や就職活動の前に生活基盤を整えたい方を対象に、自立訓練(生活訓練)も提供しています。ADHDの症状に関連して生活リズムが乱れたり、心身のコントロールが難しかったりする場合には、生活スキルの向上やストレス対処法の習得などをサポートいたします。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。