ADHDの方は障害者手帳をもらうべき?もらえないケースや取得メリットを解説

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障害者手帳とは、何らかの障害によって日常生活や社会生活に困難を抱える方を対象に、各自治体が交付する手帳を指します。発達障害*の1つであるADHDの方の中には、障害者手帳をもらうべきか悩んでいる方もいるかもしれません。

今回は、ADHDの方が取得できる障害者手帳について、その仕組みやメリット、申請手順を解説します。障害者手帳の取得を迷っている方や、これから取得を考えている方はぜひ参考にしてください。

ADHDの方は障害者手帳を取得できる?

「ADHD(注意欠如多動症)」とは、発達障害の一種で、先天的な脳機能の偏りにより、日常生活に支障をきたす状態のことです。ADHDには、落ち着きのなさが目立つ「多動・衝動優位型」や、不注意が多い傾向にある「不注意優勢型」、その両方が混ざった「混合型」の3タイプで解説されることが多いです。

現在日本には、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類の障害者手帳があり、発達障害専用の障害者手帳はありません。

ADHDの方が障害者手帳を取得する場合は、精神障害者保健福祉手帳あるいは、知的障害を伴う場合は、療育手帳を取得できます。

ADHDの方で障害者手帳をもらえないケース

ADHDがあっても、障害者手帳をもらえない可能性もあります。考えられるケースは以下の通りです。

  • 確定診断がない
  • 取得条件を満たしていない

それぞれのもらえない理由を、詳しく見てみましょう。

確定診断のない方は障害者手帳を取得できない

障害者手帳を取得するには、医師から発達障害の確定診断を受け、診断書を発行してもらわなければいけません。そのため、確定診断が下りないいわゆる「グレーゾーン」の方は、手帳を取得できないのです。

発達障害の診断基準には明確な数値的指標がなく、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)という診断基準に基づいた問診が中心になっているため、診察時のやりとりだけでは特性や困りごとを伝えきれず、診断がつかないケースも考えられます。

そのため、診察の結果に納得できない場合は、1回の診察で終わりにせず、手帳の取得を希望していることを伝えたり、別の医師に相談するセカンドオピニオンも検討してみましょう。また、診察前に日常生活での困りごとやエピソードをメモしておき、医師に正確に伝えられる準備をしておくことも大切です。

取得条件を満たしていない

障害者手帳の取得には、確定診断を受ける以外にも条件があります。精神障害者保健福祉手帳の場合、初診日から6ヶ月以上経過していることが条件となります。

精神障害者保健福祉手帳は、障害によって長期にわたり日常生活や社会生活に制約がある方が交付対象です。ADHDの診断を受けても、6ヶ月以内だと「長期」とみなされないため、手帳の申請は初診から6ヶ月経ってから行うよう注意しましょう。

ADHDの方が取得できる障害者手帳とは

ADHDを含む発達障害は2000年以降に診断が増えてきた「第4の障害」です。

このため、発達障害者への障害者手帳はすでにある3障害(身体・知的・精神)の支援制度に後から組み込まれる形になりました。つまり発達障害”専用”の障害者手帳はありません。

ただし、知的に遅れがない場合は「精神障害者保健福祉手帳」を、知的に遅れのある発達障害の人は「療育手帳」を取得できます。

以下で精神障害者保健福祉手帳と療育手帳の概要や、取得の条件などを詳しく見ていきましょう。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害の状態にあることを認定する手帳です。発達障害などの精神疾患により、日常生活や社会生活における制約がある方が取得の対象となります。等級は1級から3級まであり、等級に応じて税金の控除や医療費の軽減、公共交通機関の割引など、生活の負担を軽減するさまざまなサービスを受けられます。

申請には、医師が作成した診断書が必要です。また、手帳の有効期限は2年間で、更新時には再度診断書の提出が必要となります。

療育手帳

発達障害のある方で知的障害も合わせてある場合は、「療育手帳」を取得するのが一般的です。知的障害と言うのは自治体によって定義が異なりますがおおむねIQが70以下とお考え下さい。

療育手帳は障害の重さによって等級が分かれています。

例えば東京都の「愛の手帳」は1度が「最重度」、2度が「重度」、3度が「中度」、4度が「軽度」となっています。

「療育手帳」は障害福祉課などの市区町村の窓口か、もしくは直接都道府県の障害者福祉センターなど(18歳未満は児童相談所)でIQテストや面接をして判定を受けます。

判定には、幼いころの様子をよく知る家族の同行や、幼いころの様子がわかる学校の通知表などの資料の提出が求められることがあります。

判定から1〜2ヶ月で結果が届き、手帳が交付されます。手帳の更新があるかどうかや更新のタイミングは自治体によって大きく異なります。

ADHDの方は何級の障害者手帳がもらえる?

精神障害者保健福祉手帳の等級は、障害の程度によって1級(重度)2級(中度)3級(軽度)の3段階に分かれています。

等級は判定基準に則って決定されるため、「ADHDだから〇級」と一概にはいえません。また、「〇級がほしい」など、自分の希望で決められるものでもないのです。参考までに、Kaienの登録者では3級と2級の割合がおよそ3:1で、1級の方は少数となっています。

等級は、1級に近いほど自立した生活が困難とみなされます。そのため、精神障害者保健福祉手帳1級を取得していると、就職などが不利になる場合もあります。

ADHDの方は障害者手帳を取得すべき?

障害者手帳の取得は任意であり、ADHDと診断されたからといって必ず取得しなければならないものではありません。

しかし、障害者手帳を持っていると福祉サービスの申請が簡略化されたり、一部税金が控除されたりといったメリットがあります。また、障害者手帳を持っていることで、法的・社会的に制限されるなどのデメリットも基本的にはありません。

障害者手帳は、自分から希望をすれば途中で返還や取り消しも可能です。取得を迷っている方は、まず取得してみて、必要ないと感じたら手放すという方法をとっても良いでしょう。

ADHDの方が障害者手帳を取得するメリット

改めて、ADHDの方が障害者手帳を取得するメリットを以下にまとめました。

  • 税金が安くなる
  • 医療費の助成や補助が受けやすくなる
  • 割引制度が利用できる
  • 障害者雇用に応募できる

それぞれ、メリットの詳細を見ていきましょう。

税金が安くなる

障害者手帳を取得していると、一部の税金で障害者控除や減免を受けられます。障害者控除を受けられる税金は以下の通りです。

税金の種類控除額
所得税障害者:27万円特別障害者:40万円同居特別障害者:75万円
住民税障害者:26万円特別障害者:30万円同居特別障害者:53万円
相続税障害者:10万円/年(満85歳になるまで)特別障害者:20万円/年(満85歳になるまで)同居特別障害者:なし

特別障害者とは、身体障害1級および2級、精神障害1級の認定を受けた方、そして重度の知的障害と判定された方を指します。また、同居特別障害者とは、親族のどなたかと同居している特別障害者の方のことです。

上記以外に、本人や扶養家族が所有する車に対する自動車税・軽自動車税や自動車取得税が減免される場合もあります。

医療費の助成や補助が受けやすくなる

障害者手帳を持っていると、自立支援医療費制度や重度障害者・高齢重度障害者医療費といった医療費の助成申請がしやすくなります。

特に、特定の医療の医療費負担を軽減できる自立支援医療費制度は、継続した通院が必要なADHDの方には大きなメリットとなるでしょう。軽減率は所得によって異なるものの、場合によっては1割の負担で済むケースもあります。

医療費の助成制度は申請手順が複雑なものも多いので、障害者手帳による申請の簡略化は利点です。

自治体によっては、上記にプラスして医療費助成や補助を行っているところもあるため、気になる方は一度お住まいの自治体に問い合わせてみましょう。

割引制度が利用できる

障害者手帳を取得していると、上下水道料金や公共交通機関の料金などの公共料金が割引になります。他にも、携帯電話の料金や映画館、博物館の入場料金が割引になるケースも。中には、障害者手帳を持つ本人だけでなく、その同伴者にも割引が適用されるものもあります。

さまざまな施設やサービスが、障害者割引を実施しています。自分が利用する施設やサービスに割引制度があるかどうか、一度確認してみましょう。

障害者雇用に応募できる

障害者雇用とは、障害者手帳を持つ方を対象とした雇用を指し、一般枠とは別に設けられます。障害者手帳を取得すると、障害者雇用枠を設けている企業で働くことができます。

障害のある方を前提とした雇用なので、採用後も障害の特性に理解や配慮がある環境で働ける可能性が高いでしょう。

障害者雇用枠でも、履歴書の送付や面接といった採用プロセスが必要です。障害者雇用を目指した就職活動に不安がある方は、就労移行支援サービスなどの福祉サービスの利用がおすすめです。

ADHDの方の障害者手帳の申請方法

ADHDの方が、精神障害者保健福祉手帳や療育手帳を取得するための申請方法や、取得までの流れを見ていきましょう。また、精神障害者保健福祉手帳は更新が必要なので、障害者手帳の更新方法についても紹介します。

精神障害者保健福祉手帳の取得方法

精神障害者保健福祉手帳の取得方法は以下の通りです。

精神科受診

初診から6ヶ月経過後に手帳申請ができます。申請を希望する場合は事前に主治医に相談しておくとスムーズに手続きできます。

診断書作成

市区町村の窓口(障害福祉課など)で申請書と指定の診断書書式を受け取り、主治医に診断書作成を依頼します。

申請

申請書に必要事項を記入し、診断書・証明写真・官製はがきを添えて市区町村の窓口に提出します。

審査

通常2〜3ヶ月で審査結果が通知されます。

交付

交付されたら市区町村の窓口で手帳を受け取ります。

発達障害を事由とした「精神障害者保健福祉手帳」の申請は、首都圏の各都県では概ねスムーズに認定・交付されています。(当社調べ)

申請したが取得できなかったという事例は過去数千人の支援をしていて数例というのが実際です。

一方で、これまでうつ病や統合失調症などの事由での申請が多かったために、発達障害を理由とした申請がスムーズに進みづらい自治体が残っている可能性もあります。

お住まいの地域でこれまで発達障害の人の手帳判定でどんな傾向があったか主治医や支援機関に前もって確認することをお勧めします。

更新の際の注意点

精神障害者保健福祉手帳の取得で覚えておきたいのは、2年ごとに更新があることです。更新の際に申請書や診断書を提出して、現在の障害の様子を改めて確認してもらい、再判定を受けることになります。そのため、障害状況の変化に応じて手帳の等級が変更される可能性がある点に注意が必要です。

精神障害は状況が良くなったり悪くなったりと変化することが少なくありません。元々この手帳は精神障害のある方向けにつくられているので、2年に一度の確認が必要とされるわけです。

発達障害は先天的で、根本的に治癒するものではありません。しかし、厚労省が知的障害のない発達障害を精神障害者保険福祉手帳の対象と定めたため、精神障害者保健福祉手帳の認定の仕組みに則って2年ごとの更新と状況の確認が必須となっているのです。

ADHDを含む発達障害の方の中には、特性自体は変わっていなくても、仕事や環境の変化によって特性が影響しづらくなり、等級が変わったり、障害者手帳を返還したりする方もいます。

療育手帳の取得方法

療育手帳の取得の流れは以下の通りです。

申請

市区町村の窓口(障害福祉課など)または都道府県の障害福祉センターなど(18歳未満は児童相談所)で申請・判定予約を行います。

判定

都道府県の障害福祉センターなど(18歳未満は児童相談所)でIQテストや問診・面接を行います(2〜3時間程度)。

審査

通常1〜2ヶ月で判定結果が通知されます。

交付

市区町村の窓口または郵送で手帳を受け取ります。

療育手帳を取得する際の注意点

療育手帳の取得時に注意したいのが、地域によって認定基準に差があるということです。療育手帳の認定区分は、障害の程度や特性に応じて「A(重度)」と「B(それ以外)」に区分されますが、自治体によっては区分が細分化されている場合があります。

例えば東京都では1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)の4段階、大阪府ではA(重度)、B1(中度)、B2(軽度)の3段階に区分されています。

そのほかにも、療育手帳は原則として更新が不要であること、精神障害者保健福祉手帳と併せて取得できる場合もあることも覚えておきましょう。

ADHDの方が受けられる支援やサービス

ADHDを含む発達障害の方が受けられる福祉サービスは、以下の通りです。

  • 発達障害者支援センター:発達障害の方とそのご家族に生活・就労に関するアドバイスや支援を行う。
  • 就労移行支援事業所:障害のある方が一般就労を目指すための支援を行う。
  • 自立訓練(生活訓練):障害がある方が自立した日常生活を送れるようになるためのサポートをする。
  • 障害者就業・生活支援センター:障害のある方が職場に定着しやすくするための支援を行う。
  • ハローワーク:障害のある方向けの求人情報の提供や、就職活動のサポート等を行う。
  • 地域若者サポートステーション:主に就業経験の少ない若者に対して、職業訓練や就職活動のアドバイスを提供する。

なお、上記の支援サービスは障害者手帳を持っていなくても、障害福祉サービス受給者証があれば受けられます。

Kaienの支援サービス

Kaienでも、精神医学や発達心理学に基づいた「就労移行支援」と「自立訓練(生活訓練)」を実施しています。

就労移行支援では仕事に必要なスキルや知識の習得、就活支援、就職後の定着支援など、就労に向けたトータルサポートを行います。自立訓練(生活訓練)では、障害の理解を深めたうえで、安定した生活を送る知識やコミュニケーションスキルなどの習得を目指します。自立訓練(生活訓練)で就労や生活に対する自信をつけてから、就労移行支援に移行する形をとってもOKです。

どちらも多くの場合、自己負担なしで利用できるので、就職や転職の悩みや日常生活に困りごとがある方は、お気軽にご相談ください。

障害者手帳の取得メリットを有効活用しよう

障害者手帳には、医療費の助成・補助や税金の控除を受けられたり、障害者雇用に応募できるなど、さまざまなメリットがあります。必要がなくなったら返還や取り消しもできるので、障害者手帳を取得しようか迷っている方は、まずは申請してみるのも良いかもしれません。

精神障害者保健福祉手帳の場合、2年ごとに更新の必要があるので、その点だけ忘れないようにしましょう。障害者手帳の取得で困ったことがあった際は、Kaienのスタッフにお気軽にご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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