大人のLD(学習障害)

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「学習障害」と聞いて、みなさんはどんな状態を思い浮かべるでしょうか。
「学習の障害だから…学校の教科の勉強が苦手だった人のことで、社会人になれば問題ないのでは?」と感じる方がいるかもしれません。
また、「知的障害とどのように違うの?」と疑問に思われる方もいるでしょう。
このページでは、LD (学習障害)/ SLD(限局性学習症)について概要をご紹介します。

LD (学習障害)/ SLD(限局性学習症)とは

LD は ”Learning Disorder” または ”Learning Disability” の略で、日本語では「学習障害」と呼ばれています。
Disorder は医療の場面で、 Disability は教育の場面で多く使われているようです。

最新の診断基準である DSM-5※ では、 SLD = ”Specific Learning Disorder” (限局性学習症)に名称が変更されました。
「限局性」という言葉が示すように、全体的には理解力などに遅れはない(この点が知的障害とは異なります)ものの「読み」、「書き」、「算数(計算)」など特定の課題の学習に大きな困難がある状態のことを指します。

SLD は、単に「国語の成績が悪い」「数学が苦手」という障害ではありません。
様々な認知能力、例えば「聴覚的/視覚的短期記憶」や、「ものの順番を認識する能力」、「聞いたことや見たものを処理する能力」などの凸凹が、結果として「読み」、「書き」、「算数(計算)」の苦手さとして現われている状態が SLD です。

学習の困難さは子供の頃から始まります。
しかし、年齢によって求められる水準が変化した結果、困難さが分かることがあるため、それまで明らかにならないこともあります。

※ DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

LD / SLD の特徴

LD (学習障害)/ SLD(限局性学習症)の特徴は、おおまかに「読み書き障害」と「算数障害」の2つに分けられます。

読み書き障害

加齢や後天的な障害によって文字が読みにくくなったり、漢字を思い出しにくくなるということがありますが、ここでいう「読み書き障害」は先天的な障害のことを指します。

「読み書き障害」は、文字通り、読んだり書いたりすることに困難さが表れる場合です。
やや難しい表現をするならば、文字の読みや書きについての流暢性、正確性に障害が表れます。
例えば、文字の形をとらえることが苦手だったり、実際にご本人が書いた文字に問題がなさそうでも実は文字や漢字を思い出すのに時間がかかっている…などの場合があります。

一般的に私たちは文章を読む際、無意識に単語のまとまりを作って読みますが、「読み書き障害」のある方の場合は文字を1文字ずつ追っていく読み方をすることがあります。そのため、文章を読むのに人よりも時間がかかります。
一方で日常的な会話は問題なくできる場合が多いので、普通に接しているだけでは障害があることが分かりにくいことがあります。

一般的に、「読み障害」のみが見られるということはほぼなく、「読み」の障害がある場合は、「書き」にも困難さがある状態がほとんどです。

「読み書き障害」は、使用する言語によって出現頻度が異なります。文字から音の変換が不規則な言語、例えば英語では読み書き障害の出現頻度が高くなります。
ちなみに、英語圏では10%以上の出現率だそうです。

日本語では、ひらがな、カタカナ、漢字それぞれの読みで出現頻度が異なりますが、ひらがなでの出現頻度は0.2%という報告があります。
英語圏と比較すると、ずいぶん差があることが分かります。

算数障害

例えば脳梗塞などの後天的な要因で、計算することや数を数えることが困難になることがあります。
しかし、ここで紹介する「算数障害」は先天的に「計算や数の概念をとらえる」こと、「推論する」こと(例えば算数の文章問題を解くこと)、に困難さを抱えることを指します。

DSM‐5※に示されているのは、「数量の概念」、「暗算」、「筆算」、「文章問題」などの困難さです。
「算数障害」と聞くと、単純に「算数や数学が苦手な障害」と思われがちです。
しかし、「算数障害」は「読み書き障害」同様、認知能力のアンバランスさが要因となっています。

「算数障害」の方は短期的な記憶(ワーキングメモリー)が弱かったり、視覚的な認知が弱かったり(単に視力が低いということではありません)、認知能力の発達に凸凹があります。
したがって、算数や数学の試験を受ける必要のない大人になっても、仕事や生活の中で苦手さが生じる場合は少なくありません。

※ DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

診断基準

DSM-5※ では、以下のような診断基準が定められています。

以下のうち1つ以上に当てはまり、少なくとも6ヶ月以上持続している

  • 文字や単語、文章を読むときに正確でなかったり速度が遅かったりする
  • 単語を読み間違えたりためらいながら読み上げる
  • 当てずっぽうで読むことがある
  • 発音が正確でない
  • 読んで意味を理解することが難しい
  • 文章が正確に読めていても文章に登場するものの関係性や意味理解ができていない
  • 文字を書くことが難しい
  • 文字の一部分を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりすることがある
  • 文章を書くことが難しい
  • 文法や句読点を複数間違える
  • 段落ごとに内容がうまくまとまっていない
  • 伝えたいポイントが明確でない
  • 数の概念、数値、計算を学ぶことが難しい
  • 数字やその大小、関係性の理解が弱い
  • 1桁の足し算を暗算でなく手の指を折って数える
  • 計算の途中で迷ってしまい別の方法に変える
  • 数を使って推論することが難しい
  • 数量の問題を解くために数学の概念や事実、方法を使うことが大変難しい

※ DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

生活での支障

本人の実年齢でできると期待されるよりも明らかに低いレベルまでしか作業ができず、学業不振だけではなく、学齢期では学習以外の意欲の減退や心身症、不登校など学校生活における様々な問題に発展することが、さらに成人になっても仕事や日常生活の様々な場面で支障が生じることが、医師や専門家によって確認されています。

他の発達障害との重複

ASD (自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害)、 ADHD (注意欠如多動症)同様、 LD  (学習障害)/ SLD (限局性学習症)は他の発達障害と重複している場合があります。ある研究では読字障害があるときに、ADHDと43.6%、ASDと25.8% もの高い比率で重複が認められたとのことです。
そのため、実際に起こっている困りごとが、どの障害に起因するのか判断するのが難しい場合があります。

例えば、実際の困りごととして「長い文章を読むのが苦手」ということがあるとします。
これが、視知覚認知のアンバランスさが原因の「読み書き障害」が原因なのか、それとも周囲の刺激を受容しやすく気が逸れてしまう「 ADHD 」が原因なのか、一般の人が見分けることは困難です。

しかし、現実に「長い文章を読むことが苦手」という困りごとは起こっているわけですから、具体的な策を立てていく必要はあります。
診断名だけを重視するのではなく、ご本人の現状に沿って「こうしたら上手くいくのでは?」という仮説を立て、ご本人にあった工夫をしてくことが大切です。
可能であれば専門家(例えば精神科医や心理士)の助言を受けながら対策ができると、よりご本人のニーズに合った対策をとることができるでしょう。

職場での「困りごと」と「対処方法」

困りごと1: マニュアルを読むことが難しい

LD (学習障害)/  SLD (限局性学習症)の方には文字を読むことが困難な方がいます。
マニュアルを読まなければならないような案件、職場環境では業務を遂行するのは困難です。

対処方法

「読みの困難さ」の種類にもよりますが、カラーバーなどを利用して今読んでいる箇所がはっきりわかるようにして読むようにしましょう。
また、可能であれば、マニュアルをよく理解している人に重要な部分だけ分かるようにマーカーを引いてもらうようにしり、できればマニュアルは、文章だけでなく図や写真入りで作成してもらうようにしましょう。

困りごと2: メモを取る(書く)ことが難しい

LD (学習障害)/ SLD (限局性学習症)の方の中には文字を書くことが困難な方がいます。
そのため、見たこと、聞いたことをサッとメモに書き取ることができず、書き終わるまでに時間がかかって相手を待たせることが多くなり、スムーズなコミュニケーションが取れない場合があります。

対処方法

対処方法としては、「手書きではなく PC やタブレットなどでメモを取る」や「指示はあらかじめメモやメールで渡してもらう」などなるべく文字を手書きしなくても良い方法を考えましょう。

困りごと3: 数の概念を用いた業務

LD (学習障害)/ SLD(限局性学習症)の方の中には単純な数字の入力などはできるが、計算することは苦手という方がいます。
また、公式に当てはめられるようなものであれば問題はないが、自分で数式を考えて数字を操作する、ということが苦手な場合があります。(例えば、数式が何を意味しているのかは分からないけれども操作的に計算はできる、という場合です。)

対処方法

特に新しく数式などを考える必要がある場合、「やり方を他の人に聞く」あるいは「数式が合っているかを確認する」ようにしましょう。
一度やり方を教わったら、次回から機械的に計算できるように自分なりのマニュアルを作っておくようにしましょう。


監修者コメント

学習障害(LD)は、ASDやADHDと並んで三大発達障害として紹介されることが多い割に、余り関心が払われていません。学習障害だと診断されることは滅多に無いのです。薬が効くわけでもない、ということが十分に啓発されてこなかった理由の1つでもあると感じます。製薬会社が動きませんからね。しかし、LDを持った方の生活に、LD特性は本当に深刻に作用します。先日私が関わった、知能指数が130を超える書字障害の理系学生さんは、「余りに字や文章が書けないために、中学時代は頭が悪いとみなされていました」とのことです。医療が最初に関わるということが極めて難しいことを考えると、やはり学校の先生にしっかり認識していただく必要がありそうです。特に小学校で、書字や計算にこだわりを持たれてしまうと、本人の能力が発揮できずに、正当な学力評価ができないことがあります。「勉強ができない」には理由があり、単純に知的問題に帰結させないこと、つまり努力不足でも能力不足でもない可能性を考えて欲しいのです。幼少期、学齢期に肯定的評価が少ないと将来の無力感に繋がりやすく、結果として努力ができなくなってしまうことが最大の二次障害と言えるかもしれません。教育界、医学界がこれからしっかりと対応すべき最大の障害の1つがLDと私は考えています。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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