大人の学習障害/限局性学習症(LD/SLD)とは?特徴や診断方法、対処法を解説

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「学習障害*¹(限局性学習症)」と聞くと、子どもが勉強を苦手とする状態を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、発達障害*²の一種である学習障害は、大人になってからもさまざまな困難を引き起こすことがあります。大人の学習障害の特徴や適切な対処法を知ることで、自分に合った働き方が見つけやすくなるはずです。

この記事では、大人の学習障害(LD / SLD)の概要や特徴、診断基準などを紹介します。職場でよくある困りごとと、その対処法についても解説するのでぜひ参考にしてください。

LD (学習障害)/ SLD(限局性学習症)とは

LD (学習障害)は「Learning Disorder」または「Learning Disability」の略で、日本語では「学習障害」と呼ばれていました。2022年に改訂された(邦訳は2023年)アメリカ精神医学会が発行する最新の診断基準である「DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)」では、LDの診断名が「SLD = ”Specific Learning Disorder” (限局性学習症)」に変更されました。

LD / SLDは、全体的な理解力などに遅れはないものの、読み書き計算などの特定分野の学習に大きな困難がある状態です。単に成績が悪いということではなく、視覚的短期記憶や聴覚的情報処理といった認知能力の凸凹が、結果として特定科目の苦手さという形であらわれます。

またLD / SLDは、文部科学省の定義と医学的診断基準が異なる点に注意が必要です。教育の立場においては、文部科学省の定義である「全般的な知的発達の遅れはないものの、見たり聞いたり推論するといった広い面での学習能力の障害」を指すのに対して、医学的には「読み書きや算数技能の獲得における特異的な発達障害」を指すことが多くあります。

なお、LD(学習障害)は現在、「SLD(限局性学習症)」に名前が変更されていますが、最新の診断基準である「DSM-5-TR」以前の名称である「学習障害」といわれることが多くあるため、本記事では「LD / SLD」と併記しています。

LD / SLD の特徴

LD / SLDにおいて困難が生じる学習分野は「読み」「書き」「算数」の3つに大別され、それぞれ名称や特徴が異なります。ただし一般的には、「読み障害」だけ見られるということはほとんどなく、「読み」の障害がある場合は「書き」にも困難さがある状態がほとんどです。

ここでは3つのLD / SLDの特徴である、「ディスレクシア」「ディスグラフィア」「ディスカリキュリア」について解説します。

ディスレクシア(読字不全/読字障害)

ディスレクシア(dyslexia)は、字を読むことが困難な状態を指し、読字障害や難読症などと呼ばれることもあります。文章をすらすら読めない、正確な読み方がわからない、読めても内容を理解できないといった困難さがあります。

LD / SLDの中でも特によく見られる特徴であり、欧米では約10~20%の人がディスレクシアに該当するといわれています。

ディスレクシアの特徴的な症状は以下のとおりです。

  • 文字を一字ずつ拾って読む(逐次読み)
  • 変なところで区切ってしまう
  • 読み飛ばしや文末を変えて読むなど、不正確な読み方をすることが多い
  • 本などで文章を読むとすぐに疲弊する(易疲労性)

ディスグラフィア(書字表出不全/書字表出障害)

ディスグラフィア(dysgraphia)は文字を書くことが困難な状態です。ディスグラフィアはディスレクシアが影響していることも多く、文字を読むこと自体難しい、読めるのに書けないといったパターンがあり、症状の出方は人それぞれです。

ディスグラフィアの特徴的な症状は以下のとおりです。

  • 鏡文字などの不正確な文字を書く
  • 「ぬ」と「ね」など似ている文字を間違えて書きやすい
  • 「っ」「ゃ」「ょ」などの小さな文字を間違えることが多い
  • 「お」と「を」など似た発音の文字を間違えやすい

ディスカリキュリア(算数不全/算数障害)

ディスカリキュリア(dyscalculia)は算数障害などとも呼ばれ、数の感覚や計算など算数・数学の学習に困難がある状態を指します。ディスカリキュリアの方は一般的に、数の概念や数式の規則性などを理解するのが難しく、文章問題などの推論も苦手としています。

ディスカリキュリアの特徴的な症状は以下のとおりです。

  • 簡単な数字や計算式で使う記号を理解できない
  • 繰り上げや繰り下げ、数の大小などがわからない
  • 筆算をすると桁がそろわない
  • 文章問題や図形、グラフなどが苦手

LD / SLD の診断基準

DSM-5※ では、以下のような診断基準が定められています。

以下のうち1つ以上に当てはまり、少なくとも6ヶ月以上持続している

  • 文字や単語、文章を読むときに正確でなかったり速度が遅かったりする
  • 単語を読み間違えたりためらいながら読み上げる
  • 当てずっぽうで読むことがある
  • 発音が正確でない
  • 読んで意味を理解することが難しい
  • 文章が正確に読めていても文章に登場するものの関係性や意味理解ができていない
  • 文字を書くことが難しい
  • 文字の一部分を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりすることがある
  • 文章を書くことが難しい
  • 文法や句読点を複数間違える
  • 段落ごとに内容がうまくまとまっていない
  • 伝えたいポイントが明確でない
  • 数の概念、数値、計算を学ぶことが難しい
  • 数字やその大小、関係性の理解が弱い
  • 1桁の足し算を暗算でなく手の指を折って数える
  • 計算の途中で迷ってしまい別の方法に変える
  • 数を使って推論することが難しい
  • 数量の問題を解くために数学の概念や事実、方法を使うことが大変難しい

※ DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

LD / SLDのアセスメントと診断方法

LD / SLDの診断は精神科や心療内科などの医療機関で行っています。上記の診断基準や問診の内容を参考にしたり、アセスメントとして読字と書字の正確さを測る検査の「RaWF(ローフ)」や、読み書きの困難を自己評価する尺度であり、LD / SLDの方が成人期に体験しやすいことを項目化した「RaWSN(ロースン)」といった読み書き検査をしたりする方法もあります。

LD / SLDの診断はまず最初に、「WAIS-Ⅳ」などの成人用のウェクスラー式知能検査等を用いた知能検査が行われるのが一般的です。検査により知能指数が知的障害レベルではないことが確認されたら、ひらがな音読検査など必要な検査を行い診断を進めていきます。

ただし使える検査が限られていることもあり、大人になってからLD / SLDの診断をするのは難しいケースが多いです。医療機関で診断を受けられないわけではありませんが、LD / SLDに詳しい医師・医療機関はごく限られているのが現状となっています。

生活での支障

LD / SLDの方は、本人の実年齢でできると期待されるよりも、明らかに低いレベルまでしか作業ができない傾向にあります。学齢期では、学業不振だけでなく、学習以外の意欲の減退や心身症、不登校など、学校生活における様々な問題に発展することが多いです。さらに、成人になっても仕事や日常生活の様々な場面で支障が生じることが、医師や専門家によって確認されています。

他の発達障害との重複

ASD (自閉スペクトラム症)、 ADHD (注意欠如多動症)同様、 LD  (学習障害)/ SLD (限局性学習症)は他の発達障害と重複している場合があります。ある研究では読字障害があるときに、ADHDと43.6%、ASDと25.8% もの高い比率で重複が認められたとのことです。

そのため、実際に起こっている困りごとが、どの障害に起因するのか判断するのが難しい場合があります。

例えば、実際の困りごととして「長い文章を読むのが苦手」ということがあるとします。

これが、視知覚認知のアンバランスさが原因の「読み書き障害」が原因なのか、それとも周囲の刺激を受容しやすく気が逸れてしまう「 ADHD 」が原因なのか、一般の人が見分けることは困難です。

しかし、現実に「長い文章を読むことが苦手」という困りごとは起こっているわけですから、具体的な策を立てていく必要はあります。

診断名だけを重視するのではなく、ご本人の現状に沿って「こうしたら上手くいくのでは?」という仮説を立て、ご本人にあった工夫をしていくことが大切です。

可能であれば専門家(例えば精神科医や心理士)の助言を受けながら対策ができると、よりご本人のニーズに合った対策をとることができるでしょう。

視覚の問題の可能性

LD / SLDのような学習の困難さは、発達障害だけでなく視覚の問題が影響している可能性があります。学習を進めるためには、基盤となる視覚などの知覚機能の発達が必要不可欠です。視覚に問題がある場合、見たものを正確に認識できない、見たものと言葉が結びつかない状態だと、学習面でも大きな支障をきたします。

例えば文字や図形の構造を視覚的に認識できなければ、その意味するところも理解できません。学習においては視覚が正常に機能していることが前提であるため、特定の学習に困難さが見られる場合は、視覚に問題がないか調べてみることも大切です。

職場での「困りごと」と「対処方法」

困りごと1: マニュアルを読むことが難しい

LD (学習障害)/  SLD (限局性学習症)の方には文字を読むことが困難な方がいます。

マニュアルを読まなければならないような案件、職場環境では業務を遂行するのは困難です。

対処方法

「読みの困難さ」の種類にもよりますが、カラーバーなどを利用して今読んでいる箇所がはっきりわかるようにして読むようにしましょう。

また、可能であれば、マニュアルをよく理解している人に重要な部分だけ分かるようにマーカーを引いてもらうようにしたり、できればマニュアルは、文章だけでなく図や写真入りで作成してもらうようにしましょう。

困りごと2: メモを取る(書く)ことが難しい

LD (学習障害)/ SLD (限局性学習症)の方の中には文字を書くことが困難な方がいます。

そのため、見たこと、聞いたことをサッとメモに書き取ることができず、書き終わるまでに時間がかかって相手を待たせることが多くなり、スムーズなコミュニケーションが取れない場合があります。

対処方法

対処方法としては、「手書きではなく PC やタブレットなどでメモを取る」や「指示はあらかじめメモやメールで渡してもらう」などなるべく文字を手書きしなくても良い方法を考えましょう。

困りごと3: 数の概念を用いた業務

LD (学習障害)/ SLD(限局性学習症)の方の中には単純な数字の入力などはできるが、計算することは苦手という方がいます。

また、公式に当てはめられるようなものであれば問題はないが、自分で数式を考えて数字を操作する、ということが苦手な場合があります。(例えば、数式が何を意味しているのかは分からないけれども操作的に計算はできる、という場合です。)

対処方法

特に新しく数式などを考える必要がある場合、「やり方を他の人に聞く」あるいは「数式が合っているかを確認する」ようにしましょう。

一度やり方を教わったら、次回から機械的に計算できるように自分なりのマニュアルを作っておくようにしましょう。

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大人のLD / SLDは特徴に合わせた対処法で対策を

LD / SLDは特定分野の学習に困難を覚える状態で、精神科や心療内科で診断が受けられます。特性により生活や仕事で支障をきたすことが多く、職場でも困りごとを抱えやすいため、就労移行支援などのサービスを適切に活用するのがおすすめです。

LD / SLDには「ディスレクシア」「ディスグラフィア」「ディスカリキュリア」の3つの特徴があり、それぞれ苦手とする分野が異なります。困りごとの内容に応じて対策を講じ、職場での働きやすさを向上させるとよいでしょう。

*1学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます

*2発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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