【セミナー解説】医師に聞く「発達障害と家族」

HOME大人の発達障害Q&A発達障害 総合【セミナー解説】医師に聞く「発達障害と家族」

ご自身が発達障害*、または家族に発達障害の人がいる場合、生活を共にしていると、日常のふとした場面や、会話を交わす際に何らかの困りごとを感じることがあるかもしれません。

本記事では、2024年1月23日に行われたKaien特別セミナー「医師に聞く【発達障害と家族】」にて、昭和大学付属烏山病院の病院長(当時。現・昭和大学 特任教授)を務める岩波明(いわなみ・あきら)先生にお話しいただいた内容を紹介しています。

親子や夫婦間の問題に発達障害がどう関連してくるのか、当事者以外の家族はどうあるべきなのかについて、今回は2つの事例を交えながら解説いたします。

「家族のあり方」を見直す良い機会になると思いますので、発達障害当事者、そのご家族に関わらず、すべての方に見ていただきたい内容です。

2024年1月23日開催のKaien特別セミナー「医師に聞く【発達障害と家族】」(講師:昭和大学附属烏山病院 病院長 岩波明先生)の本編動画はこちら

発達障害に関する3つの誤解

発達障害と家族の問題を見ていく前に、岩波先生のような医療従事者が、発達障害の診断・治療をする際に注意している点について紹介していきます。

まず、ここで取り上げるのは、医療関係者を含め、多くの人が誤解している可能性のある「発達障害に関する3つの事実」についてです。

1. 発達障害は成人になって発症することはない

発達障害は成人になって発症することはなく、基本的には小児期から連続しているものです。そのため、確定診断には、小児期の症状の確認が必要になります。

2. 成人期の発達障害においては、通常は知的障害を伴わない

大人になってから発達障害が顕在化し、そこで初めて受診をするケースでは、通常は知的障害を伴わないとされています。

ただし、カナータイプの自閉症(自閉症と知的機能の発達の遅れを伴う障害)に至っては、上記には該当しません。

3. 発達障害の重症度はさまざま(「疾患」から「性格」まで)、症状の発現には、状況依存性が大きい

発達障害は「障害」とつくために「疾患」なのか、それとも「性格」や「特性」と捉えるべきなのか、それは見方によってさまざまだと言えます。基本的に特性自体は、子どもから大人になるまでほとんど変わることはありません。

また、症状の発現には、ご本人を取り巻く周囲の環境、状況依存性が大きく影響します。

ASDとADHDの診断バイアス

ASDとADHDの診断には、これまで様々なことが議論されており、時には誤った認識をされていることもありました。ここでは、ASDとADHDの診断バイアスについて、動画での岩波先生のお話をもとに解説しています。

ASDとADHDは併存するのか?

かつてDSM-IV(米国精神医学会により定められた精神疾患の診断・統計マニュアル)には、診断基準上、「ASDとADHDは併存してはいけない」という風に明記されており、当時はどちらかの診断名を付けるのが一般的でした。

しかし、2013年に出版されたDSM-5では、「ASDとADHDは併存してよい」という内容に変更になったのです。

実際、臨床的にはASDとADHDの両者の特徴を持つケースは多かったのですが、それまで別個のものと扱われていた両者を鑑別することは、なかなか難しいこともあったようです。

ただ、岩波先生は、「真の併存は存在せず、見かけ上似ているだけではないか」という見解を持っておられるそうです。その理由については、後述しています。

医療現場で起こるASDの過剰診断

以前の日本における児童精神科、小児科などが発達障害の診療を行う際は、自閉症などASDの診断名を過剰につけていた傾向があり、当時は診断にかなりバイアスがかかっていたと言えます。

実際、当時記録されている症例のほとんどがASDだったようです。

また、その頃(2000年〜2010年頃)の医療や社会の、成人期の発達障害への関心も、アスペルガー症候群などASDに集中していました。

ASDとADHDの症状で知っておくべきこと

ASDとADHDの特徴的な症状については、以下の通りです。

▼ASDの症状
1. 対人関係の障害
2. 常同的な行動パターン(こだわりの強さ)

▼ADHDの症状
1. 多動
2. 衝動性
3. 不注意

岩波先生によると、ASDについては、診断にあたって 1. の「対人関係の障害」に焦点をあてられることが多く、 2. の「常同的な行動パターン」が忘れられることがしばしばあるそうです。

また、上記のようにASDとADHDそれぞれの症状の特徴を文字にすると、一見、両者は異なって見えますが、臨床的に類似している部分は多数あるようです。その例については次章で紹介しています。

ADHDに関しては、ADHDの特徴症状である「衝動性」は様々な場面で表れ、以下の言動や状態を引き起こす可能性があることも覚えておく必要があります。

  • 攻撃的な言動・自殺企図
  • 自傷行為(リストカット、OD)
  • 買い物依存・過食・アルコール
  • 薬物依存・ギャンブル依存
  • インターネット依存

これらの症状の背景には、ADHDの「のめり込んでしまう」という特性があります。

ASDとADHDの関連性と鑑別の注意点

ASDとADHDの症状には類似する部分が多いことを前述しましたが、他にも似ている特徴を持つ疾患はいくつか存在します。実際、類似していることで症状の鑑別を正しく行えず、誤った診断がくだされるケースもあるようです。

ここでは、動画で取り上げたケースについて、いくつかご紹介しています。

【ケース1】対人関係の障害がみられるからASD

岩波先生のもとには、「対人関係の問題が大きいからこの人はASDだろう」と書かれた紹介状がよく届きますが、その場合は横断面だけで診断していると思われるそうです。

ADHDもそうですが、ASDの診断には小児期における情報が非常に重要な意味を持ちます。

例えば、子どもの頃は友達が多くてクラスの中心だったような子が、思春期になってメンタルダウンして対人関係に障害をきたしている場合、その方がASDであることはまずないそうです。しかし、そういった方にもASDの診断がついていることもあるため、注意して見る必要があります。

【ケース2】空気が読めないからASD

「その場の空気が読めないからこの人はASDだ」と決めつけてしまう場合がありますが、ADHDの方も場に適さない言動をすることがあります。

ADHDの方は、考えるより前に行動が先に立ってしまうことがあるため、空気が読めないというよりは、むしろ「読もうとしない」と考えるのが正しいです。

【ケース3】気分の波があるから双極性障害

気分の変動が頻繁にあると、一見、双極性障害(躁鬱病)に見えてしまいがちですが、ADHDでは気分の変動は必発と言えます。

当然ですが、ADHDの方が双極性障害の治療を受け続けても、症状が改善することはないため、見極めには注意が必要です。

発達障害と家族

ここからが、セミナー動画のメインである「発達障害と家族」の内容になります。今回は、「不登校のお子さん」と「ご夫婦」の2つの事例を取り上げ、発達障害のある家族との関わりについて、動画内でお話しいただいた岩波先生の見解をご紹介いたします。

では、初めにお子さんの事例を紹介する前に、前提知識として以下の情報も知っておいていただければと思います。より事例への理解が深まりますので、そちらも併せてご覧ください。

【小児から思春期】ASDのお子さんの問題と特徴

烏山病院での調査によると、小児から思春期に該当するASDのお子さんは、いじめの被害や不登校になりやすいという結果が出ているそうです。

  • いじめ被害 46%
  • 不登校   19.8%

子どものいじめ被害や不登校の問題について、文科省や学校は様々な対策を打ち立てています。実際に、教育現場で対応する先生方も、問題の背景に発達障害があることも分かっていると思いますが、その数は減っていないのが現状です。

家族に関するFACTS

家族と発達障害について考える際に、知っておくべきFACTSというのものがあります。遺伝的な発達障害の特徴や、問題事例化しやすい傾向についてまとめていますので、こちらも見ていきます。

  1. 精神疾患は、家族内集積性が高い
  2. 本人と保護者の両者が受診している例は多い
  3. 保護者の病状が、子どもの受診や支援に重大な影響をもたらす
  4. 受診、支援への道筋がつけられないケースで、保護者がなかなかキーパーソンになれない場合は、問題事例化しやすい。

支援の遅れはなぜ生じるか

発達障害がある人、特にお子さんが、治療や支援になかなか結びつかないケースがあります。その場合の原因について、動画で解説しています。

  1. 保護者が、(子ども、自身の)障害の存在を認められない
  2. 障害の存在を認めても、医療、行政の関与を拒否する
  3. 教育現場で、障害を認知できていないか、認知が遅れる。認知された場合も、適切な評価に至らない。あるいは評価するシステムがない。
  4. 教育現場から連絡や依頼があっても、保護者が指示を拒否、あるいは無視する。

事例①ADHDの思春期例

では、1つ目の事例である「不登校のお子さん」について、紹介していきます。取り上げるのは、男子中学生のケースです。

なお、本記事では事例について一部抜粋、あるいは要約したものを載せておりますので、詳細を知りたい方はぜひセミナー動画をご覧ください。

事例の概要

  • 小学生時代から不登校を繰り返した男子中学生
  • 実父は双極性障害
  • 両親は離婚・家族(義父)への暴力のため、事例化

今回、事例化した男子中学生の実父は、もともと双極性障害を患っており、仕事ができない状態が続いていました。そんな中、両親は離婚。ご本人はお母様と一緒に転居し、そこでお母様は義理の父親にあたる方と再婚されています。

当初、ご本人は義父に対して明るく振る舞っていましたが、義父の威圧的な態度に不満を抱き、次第に反発するようになりました。精神状態も不安定になり、義父とは一切会話をしなくなりました。

義父は、それでもご本人に細かな注意をしていたのですが、ある時衝動的に義父に暴力を振るってしまうという事態に陥りました。

適切な見立てが行われなかったことが、原因のひとつ

岩波先生としては、「今回の事例は適切な見立てが行われていれば、事態を未然に防ぐことができたのではないか」と考えておられるそうです。

というのも、ご本人には幼い頃から発達障害、特にADHDの特性があり、学校でも問題行動がいくつも見られていたのです。

この方は小学校3年生になると、クラスでいじめられるようになり、さらに丁度その頃に両親の関係が悪化。その上、母親は仕事と家事で余裕がなくなり、ご本人にも強くあたるようになりました。

しかし、最終的には児童精神科につながり、医療保護入院までするのですが、そこでは「発達障害の疑いがある」ということのみで、適切な診断がされることはありませんでした。

もちろん、「義父に暴力を振るってしまう」ところに行きつくまでは、両親の離婚や母親の再婚、いじめ、学校の対応など、複数の要因がありました。

ただ、医療的に見ればADHDであるのは明らかで、本来ならば母親や学校から適切なケアを受けることが必要でした。また、医療につながっているにも関わらず、適切な診断をされなかったことで治療が中断され、症状の改善が認められなかったことも、原因として挙げられます。

ADHDの方で不登校になる人は、中高生に多く、その背景には様々な要因があります。しかし、適切な診断を受け、投薬治療を受けることで改善、復活をする人もたくさんいるのも事実です。

医療の立場からすると、「適切な診断を受けること」、環境要因からいうと、「家庭や学校など周囲がサポートをすること」が非常に重要になると、岩波先生は動画内で語られています。

事例②夫婦の問題により受診となったケース

では続いて、2つ目の事例を見ていきます。こちらで取り上げるのは、60代のご夫婦のケースです。

岩波先生のもとにご相談に来られるご夫婦の場合、多くは男性の方に何らかの問題があり、奥様や女性のパートナーに勧められて男性側が受診されるケースが多いそうです。今回の事例も、そのパターンにあたります。

また、ご夫婦の場合は、数十年と一緒に積み重ねた月日が背景にあるため、その時間の中で出来上がった関係性についても、この事例を考える際の重要なポイントになります。

事例の概要

男性(旦那さん)のプロフィール

  • 定年退職をした60代男性、妻の希望で受診
  • 2人暮らしで、子ども2人は独立
  • 男性には「片付けが苦手、人の話を聞くのが苦手」という特性あり
  • 有名私大卒業後、食品会社に入社し、定年まで勤務
  • 不注意によるケアレスミスはあるものの、業務上の問題はなし

男性は幼いころから、ケアレスミスが多い、落ち着きがないというような特性はあったものの、成績は優秀で、大学は有名私大に入学されました。

大学卒業後は食品会社に入社され、営業や人事など様々な部署を経験し、定年まで勤務。ご本人の話では、不注意によるミスは多少ありましたが、業務上はそれほど問題にならなかったそうです。

一方で、奥さんの方は旦那さんに対して、非常に多くの不満を溜めていました。例えば、以下のようなものです。

「家事や育児を手伝わない」

「人の意見を聞かない」

「新しいこと、決まり事などが覚えられない」

「集中力がなく、不注意」

「共感性、思いやりがない」

これらを見て、男性に対してまず一つ言えるのは「不注意症状」があるということ。それから、奥さんとの向き合い方、「奥さんの話を聞こうという姿勢がない」ことが問題であると、岩波先生は話されています。

長年の積み重ねが、夫婦の関係を悪化させる結果に

男性は診断的にはADHDであり、ベースに不注意や集中力の障害があることが分かります。しかし、知的水準が高いために、成績は優秀なまま大学に進学され、仕事も表面上は問題なくこなせていました。

では、なぜ家庭では上手くいかなかったのかーー

岩波先生は、この方は職場と家庭でのテンションに落差があったのでは、と推測されています。仕事の疲れはあるかもしれないが、そもそも奥さんの話自体に関心がないために、話を真剣に聞こうとしないという状態を続けていた。さらにその背後に、奥さんを見下すような姿勢があったのでは。

結果として、長期にわたって上記のような関係が続いてしまったために、夫婦関係は修復が困難なほどに悪化してしまいました。

男性に対し、岩波先生は「まずはちゃんと奥さんの話を聞きなさい」とアドバイスをしたそうです。しかし、奥さんの方も長年積み重なった不満のためか、旦那さんと安定的な会話をすることがなかなかできず、関係を修復させるところまで至るのが困難な状態になっています。

関係を修復させるためには、やはり「お互いに関係を修復しよう」という気持ちがなければ難しい、と岩波先生は語られます。さらに、20年30年とどちらかが不満を抱いた状態が続いてしまうと、修復はより難しくなっていくのでしょう。

この世に機能不全ではない家族などいない

今回は「発達障害と家族」というタイトルの動画でしたが、発達障害あるなしに関わらず、この世に機能不全ではない家族なんていないと岩波先生は話されています。

一緒にいるのであれば、「同じ志をもって、お互いに足りないところを補っていく」、そういう気持ちがあればお互いに上手くやっていけるのではと、最後にセミナー動画のまとめとしてお話しいただきました。

今回の事例①と②は、家族としての役割がなかなか上手く機能することができませんでした。しかし、その原因には、必ずしも「発達障害」が背景にあるわけではありません。

このことについては、質問タイムの方で岩波先生が回答されていますが、ご本人を取り巻く環境や、ご本人の性格、価値観、夫婦であったら配偶者の性格、長年の軋轢などが問題を改善できない要因になることも覚えておく必要があります。

Kaienとして、ご本人のご家族に直接支援をすることは難しいですが、ご本人が今よりも生きやすく、自信を持って社会に出ていけるように、可能な限りサポートをさせていただきたいと考えています。

2024年1月23日開催のKaien特別セミナー「医師に聞く【発達障害と家族】」(講師:昭和大学附属烏山病院 病院長 岩波明先生)の本編動画はこちら

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

まずはお気軽に!見学・個別相談会へ!

見学したい・相談したい

予約専用ダイヤル 平日10~17時

東京: 03-5823-4960 神奈川: 045-594-7079 埼玉: 050-2018-2725 千葉: 050-2018-7832 大阪: 06-6147-6189