広汎性発達障害と自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群の違いは?

自閉症関連の様々な診断名を診断基準の変化とともに整理します
HOME大人の発達障害Q&A発達障害 総合広汎性発達障害と自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群の違いは?

発達障害*は「ASD(自閉スペクトラム症)」、「ADHD(注意欠如多動症)」、「LD(限局性学習症)」の3タイプに大別されます。このうち「ASD」の特性を持つ方の診断名は過去の診断名も含めて「自閉スペクトラム症(ASD)」、「広汎性発達障害(PDD)」、「アスペルガー症候群」、「カナー症候群」など多岐に渡ります。さらに「高機能自閉症」、「低機能自閉症」といった言葉も用いられます。この記事ではそれらの自閉症関連の診断名の混乱を診断基準の変化のポイントと併せて整理します。

診断基準の改訂で「広汎性発達障害」から「自閉スペクトラム症」へ

実はこうした混乱は、複数の診断基準が存在することや、診断基準の改訂で診断名に変更があったために起こっています。日本で発達障害の診断基準として使われているのは、世界保健機構(WHO)が公表している「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」と、アメリカ精神医学会が公表している「精神障害の診断・統計マニュアル(DSM)」の2つです。

日本における発達障害の診断基準は以下の2つ
診断基準公表機関
疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)世界保健機構(WHO)
精神障害の診断・統計マニュアル(DSM)アメリカ精神医学会

1990年代に公表された「ICD-10」と「DSM-IV」では、「広汎性発達障害」という大きなグループの中に、「自閉症」や「アスペルガー症候群」、また特定不能の「広汎性発達障害(PDD-NOS)」などが含まれていました。しかし2013年に公表された「DSM-5」では細かい分類をなくし、「自閉スペクトラム症」という大きな1つのくくりにまとめました。2018年6月に公表された「ICD-11」でも同様に「自閉スペクトラム症」にまとめられました。つまり「広汎性発達障害」や「アスペルガー症候群」は一世代前の、「自閉スペクトラム症」は現在の診断名ということができます。

一方で、「知的障害」や「言語障害」を伴わない「自閉症」を、「知的障害」を伴う「低機能自閉症」或いは「カナー症候群(カナー型自閉症)」と区別するためにアスペルガーや高機能の名称を用いるケースや、当事者がその特性に誇りを持って「アスピー」を自称するケースは現在も依然として多くみられます。

ICD-11発表告知(厚労省)リンク

診断軸は「3つ」から「2つ」にまとめられ、「ADHD」との併存診断が可能に

「広汎性発達障害」から「自閉スペクトラム症」に診断名が変わったことで、診断の要件も変わりました。「DSM-4」ではいわゆる「三つ組みの障害」と呼ばれる「①社会性の障害」「②コミュニケーションの障害」「③こだわり」の3つの特性が揃っているかどうかで診断名を決めていましたが、「DSM-5」では①と②が統合され、Ⓐ社会的コミュニケーションの障害とⒷこだわりの2つの診断軸に変更されています。1つの症状がコミュニケーションの難しさから起こっているのか、社会性が身についていないからなのかは判断がしづらいことが理由と言われています。

診断基準の変化
DSM-4
(1994-2012)

広汎性発達障害(PDD)

  • コミュニケーションの障害
  • 社会性の障害
  • こだわり
DSM-5
(2013-現在)

ASD(自閉スペクトラム症

  • 社会的コミュニケーションの障害
  • こだわり(感覚過敏・鈍麻含む)

他にも、「DSM-5」からこだわりの中に感覚過敏や鈍麻が含まれるようになったり、これまでは「広汎性発達障害」と「ADHD」の両方が疑われる場合は「広汎性発達障害」を優先して診断していたのが、「自閉スペクトラム症」と「ADHD」は併存していると診断できるようになるなどの変更がありました。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

発達障害診断をどのように行うのかは時代とともに変遷しているので、情報を知りたい、学習したいという方にとっては、とても混乱する要因になっています。本文にある通り、現在最新の診断基準と言えるのはWHOのICD-11とアメリカ精神医学会のDSM-5であり、医療現場ではDSM-5を基準に診断を考えることが殆どです。一方行政文書の病名では依然としてICD-10が使われており、実地臨床との乖離も大きいのが困った点です。

さて、DSM-IVと5(ちなみに5から算用数字が使われています)の大きな違いとして、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)を併存診断可能にしたことは本文の通り。特に小児科の先生からすると、両者併存は普通ですよね?という認識も強かったので、元々違和感はあったのです。ようやく実際に即した診断ができるようになった、とも言えるし、そもそも個別性が強い発達障害特性を持つ人を、人工的な基準でスパッと分けることができるはずは無いのだと言うこともできる気がします。全く個人的には、どっちの診断かは、どちらに当てはまる部分が多いかという程度に過ぎず、診断というよりは「困り事が何か?」を中心に支援を考えることが大事ではないかと考えています。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


まずはお気軽に!見学・個別相談会へ!

見学したい・相談したい

予約専用ダイヤル 平日10~17時

東京: 03-5823-4960 神奈川: 045-594-7079 埼玉: 050-2018-2725 千葉: 050-2018-2078 大阪: 06-6147-6189