セルフアドボカシーとは

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「セルフアドボカシー」という言葉を聞いたことがある方は、まだあまり多くはないかもしれません。近頃よく目にする「合理的配慮」や「障害者差別解消法」について考える時、このセルフアドボカシーという言葉が非常に重要になります。この記事では、「セルフアドボカシー」の意味や、なぜそれが重要であるかについてご紹介します。

そもそもセルフアドボカシーとは

皆さんは、障害者権利条約という条約をご存知でしょうか。「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」をスローガンに、世界中の障害を持つ当事者も声を上げたこの条約は2006年に国連で採択され、2014年に日本も批准しました。このスローガンは、セルフアドボカシーの考え方を分かりやすく表現しています。

セルフアドボカシーとは、日本語では「自己権利擁護」と訳され、障害や困難のある当事者が、自分の利益や欲求、意思、権利を自ら主張することを意味します。

歴史的に、障害のある方は「支援をされる対象」として、ある意味で受け身の存在として扱われてきました。このことは、障害者権利条約に示されているような基本的な人権としての「自分自身のことを自分で決める(自己決定)権利」を奪われてきたと捉えることもできます。

例えば知的障害のある方が自分に関わることを決定する時、自己決定のための能力の課題から、第三者が考える望ましい選択肢を(あくまでも善意で)本人の代理で選択する、という場合があるとします。これはある意味、本人の主張や決定の機会を奪っている、と考えることもできるのです。

どんな仕事に就き、どのような生活をし、稼いだお金をどう使うか、どんな風に幸せになるのか。我々の日々の生活は誰かに一方的に指示されたり、決定されるものではありません。自分自身で考え、主張し、選びとる権利があるのです。もちろんそれは障害の有無に関わらず全ての人に共通しますが、障害者権利条約の締結に伴い、障害のある人のセルフアドボカシーが世界的に考え直されています。

セルフアドボカシーの考え方が浸透することは、これまで「支援される側」として受け身の存在ととらえられがちだった障害のある方を、自立的に「支援を求めていく」能動的な存在としてとらえる認識が広まることにつながるでしょう。

裏を返せば、より一層、自分自身に必要な支援を自分から発信することが重要視されていきます。もちろん、このことは「主張ができない人は支援を受けられない」という意味ではありません。今後は支援を提供する側が、支援を受ける側の要望や考え(支援ニーズ)をより重視した支援を提供する必要があり、支援を受ける側は自分の意志で支援を選びとることができる、ということです。また、自己決定は必ずしも本人が一人で行う場合に限定されません。自己決定のための支援(自己決定支援と言います)を受けながら行う場合もあります。

合理的配慮との関係

「合理的配慮」とは、「障害がある人が、障害のない人と同じように人権や基本的な自由を得るための必要かつ適当な変更及び調整」のことです。配慮というよりも、「調整」ということばの方が理解しやすいと思います。

合理的配慮を説明する時に、よく登場するのが階段と運動障害を持つ方の例です。

運動障害があり車いすを利用している人にとって、階段を使って2階まで登ることは非常に困難です。これでは、「2階に上がる」という権利や自由が奪われてしまいます。ですが、スロープを設置したり、エレベーターを設置したり、施設側が階段以外の手段を使えるように整備することでこの困りごとは解消できるでしょう。このように、障害のために困難さをもつ部分について受けられる配慮が合理的配慮です。

発達障害の例で考えましょう。

読み書きの障害があり、書字が困難な方がいたとします。その方の職場では、業務日誌を手書きで提出するのが通例ですが、書字の苦手さのために膨大な時間がかかってしまいます。例えばこういった場合の合理的配慮の例として、PC入力でも良いことにする、日誌の内容を口頭で報告する、書き出しソフトを使う、などが考えられます。
合理的配慮は障害者差別解消法の中に明文化されており、学校や企業では必要な配慮を提供することが義務化されています。

合理的配慮のポイントのひとつは、「当事者の権利主張から配慮提供が始まる」という点です。ここで、セルフアドボカシーの考え方が出てきます。障害のある方が一方的に支援される対象としてではなく、自分に必要な支援を主体的に表明し、それに基づいた提供側との「建設的な話し合い」の中で、実際の配慮事項を共に決定していくのです。

話し合いの中で、提供側からご本人が最初に提案したものとは別の方法での配慮が提案されることももちろんあります。(例えば、最初に要請された配慮内容が提供側にとって過度な負担を生じさせている場合です)その場合も、一方的に別の方法での支援が提供されるのではなく、あくまでも申請した本人の困りごとや考えを尊重し、最終的な配慮内容が決定されます。

ですので、同じ障害をもつ人でも、そのご本人の状態や周囲の環境によって提供される配慮は様々です。合理的配慮の義務化は一人一人にオーダーメイドの配慮が提供されることにつながりますが、そのためには、配慮を受ける本人がまずは自分に必要な配慮を「オーダー」する必要があるのです。

合理的配慮については、詳しい内容を別のページでもご紹介していますので、ぜひそちらも併せてお読みください。

いっぽう、この記事を読んでいる提供側(企業や学校)の皆さんに誤解していただきたくないのは、合理的配慮の提供だけが支援の方法ではないということです。もちろんご本人の気持ちや主張は最も尊重すべきところですが、合理的配慮という形以外でも支援をすることはできます。例えば、タスク管理が苦手な部下の仕事の進捗状況を共有してアドバイスをしたり、言葉だけでは伝わりにくい相手に絵や図を入れて説明したり、日常的に仕事がスムーズにできるように自然にサポートをすることがあると思います。こういった支援を「ナチュラルサポート」と言います。

自分自身を知ることがセルフアドボカシーの第一歩

ここまで読んでくださった方の中には、「権利って言われても、難しいことはわからない…」「そもそもどんな状態の時、どんな配慮をしてもらえるのかがわからない…」という方もいるのではないでしょうか。

すごく簡単に言えば、日々職場で(あるいは学校生活で)困っていることがある場合、それを改善するような配慮を企業(学校)にしてもらえるように主張する、ということです。もう少し柔らかな言い方をすれば、配慮を受けられるように依頼する、という感じでしょうか。

いっぽうで、ご本人からの申請が必要ということは、まずはご本人自身が自分の状態を把握している必要があります。自分はどのような特性を持っていて、どんなことに困っていて、最終的にどのような状態になりたいのかを理解していることが大切です。

しかし、発達障害のある方には、「そもそも自分が何に困っているのかわからない」という方も少なくありません。これには、発達障害が個人差の大きい障害であることや、他者の状態と自分の状態を比べにくい障害であることも関係しています。

また、ご自身の特性や困りごとを理解していた場合でも、どのような配慮を受けることが適当かということをご本人だけで考えるのは難しいことも多いでしょう。こういった場合は、主治医やカウンセラーなど、ご本人の状態をより客観的に把握できる第三者の意見を聞くことが非常に有効です。

「権利主張」には練習も必要

多くの人にとって、「自分の権利を主張する」というのはあまり慣れない行為かもしれません。障害の有無に関わらず、そもそも自分自身を「権利を持つ主体」であると意識すること自体が少ないのではないでしょうか。

自分の状態を把握し、必要な支援を要請する力を「セルフアドボカシー・スキル」と表現することがあります。このスキルを一人で会得していくのは、人によっては至難の業です。ですので、まずは「支援を要請するための支援」を受けることを考えましょう。

自己理解や必要な配慮、提供先への依頼の仕方、話し合いにどのように参加するかなど、最終的に自分にとって必要な支援を得るために、そこまでのプロセスをサポートしてもらい、その中で少しずつ権利を主張するということの練習をしましょう。

例えば就労移行支援を利用する中での自己理解や企業へ要請する配慮を考えることはその練習につながりますし、大学生の場合は学内で合理的配慮を受けるまでの流れを体験することが卒後社会人になってからも役立つでしょう。

このように支援を受けながら「権利主張の練習」を行い、少しずつセルフアドボカシー・スキルを身につけていくのです。

また提供側もどのような配慮が合理的なのか、配慮の代替案は適切か、そもそも話し合いの場はどのように設ければいいのか、などまだ模索しているのが現状です。ですので、しばらくの間は配慮提供を依頼してもスムーズに話し合いが進まないこともあるでしょう。

権利を主張する側(当事者)も、その主張を聞いて受け入れる側(企業や学校)も、しばらくの間は練習が必要なのかもしれません。


監修者コメント

支援者側の皆さんが例えば発達障害について勉強をし始めたときに、ASDならこういう支援、ADHDならこういう支援というように、特定の発達特性と1つの支援を一対一対応できればいいのにと思う方がいるかもしれません。しかし実際には同じ診断があっても何に困っているかは人それぞれなわけで、固定した支援が望ましいわけではありません。一方、支援される側も、決めつけられた「支援」という名のお仕着せをされないためには、自らのニーズに基づいて何をして欲しいのかを伝えていくことが必要です。セルフアドボカシーとは難しい言葉ですが、自分にオーダーメイドされた支援を受けるため、加えて自分が望んでいない支援(や行為)を受けないために知っておくべきコミュニケーション手段だと言えるでしょう。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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