発達障害と不安

不安が私を襲ってくると、上司の指示が頭に入らなかったり、
つまらないミスを繰り返したりして、仕事が手につきません。
 電話に出るのも、会議に出るのも不安になります。
ときには会社に行くこと自体が出来なくなります。

 不登校、職場でのパニック、離職・休職、アルコールや薬物、ギャンブルへの依存、人間関係の破綻や孤立…。発達障害*の人が起こしやすい様々な問題行動の原因には不安が関わっています。不安がこうじて、発達障害だけではなく「不安障害」を併発することもあります。

 不安への対応は発達障害の人には不可欠とも言えます。でもご安心ください。その対処法は誰でもすぐに実践できるものばかりです。この記事で紹介する中で自分にあったものを探してください。きっと日々の生活がより落ち着いた平穏なものになり、職場で就活で本来の能力が活かしやすくなるでしょう。【参考リンク】不安障害

この記事でわかること

不安は人類に備わった”危機回避反応”

 不安は誰でも感じる基本的な感情です。不安になると不快に感じますが、古代の人類にとっては、動物に襲われるといった状況に立ち向かうため、いわば生存には不可欠な反応でした。現代生活でも例えば下記のような状況では不安つまり「逃げたい」という感情が自然に起こりえます。

  • ジェットコースターに乗る
  • 運転免許の実技試験を受ける
  • 就職の面接に臨む
  • 大人数の前でプレゼンやスピーチをする
  • 異業種交流パーティーに出席する

 職場で不安になると仕事に集中できなくなったり、ミスが多くなったり、細部に目が届かなくなったり、その結果仕事がはかどらなかったり、特定の会議や打ち合わせに出られない、といった悪影響が現れるのは、ご紹介するまでもないでしょう。

発達障害の人にありがちな不安の3大要因

 発達障害の方が抱えやすい不安の原因。「予想外の変化」「強迫的な思い込み」「歪んだ思考パターン」の3つが主なものです。

1. 予想外の変化

 先を見通すことが苦手な発達障害者には、単なる変化が他の人以上に辛い状況になりえます。そもそも現代生活は変化の連続で、変化に上手く対応できなければ、毎日をパニックの中で過ごすことになってしまいます。変化は避けられないものと知り、対処の仕方を戦略的に学べば、より上手く対応できるようになることを知りましょう。

  • 転職をした時の毎日の生活リズム
  • 通勤時の変化(電車の運休や遅延)
  • 仕事の内容の変更
  • 職場の同僚・上司の変更
2. 強迫的な思い込み

不安はしばしば非合理的な信念や思い込み(強迫観念)によっても引き起こされます。下に信念の例を挙げます。

  • 私生活や職場で接する、すべての人に好かれるか承認されるかしなければならない。
  • 仕事で決して間違いを犯してはならない。
  • 自分の運命は終わりに近づいており、物事は思い通りに運ばず、むごたらしい。
  • 幸せは自分の力の及ばないところにあり、そのために自分ができることは何もない。
3. 歪んだ思考パターン

不安を引き起こす救いがたい思考のパターンには下記のようなものがあります。

  • フィルタリング:悪い点ばかりに注目・誇張し、良い点を忘れる/見落とす。
  • 壊滅化:最悪の事態、うまくいかない事態を想定し、周囲にもそう信じこませる。
  • 責任転嫁:感じている痛みや不幸を周囲や他人のせいにする。

最近感じた不安を書き出してみよう

 不安の原因を特定することができれば、それを予測し不安を緩和するための対策を立てることができます。まずはどんな場面で不安を感じるか、何が不安を引き起こすのかじっくり考えてみましょう。可能であればペンと紙、あるいはメモをとるためのPCやスマホなどを用意してください。

  • 上司、部下、同僚、取引先が新しい人になる
  • 同僚から昼食/飲み会に誘われる
  • 社食で誰かと相席になる
  • 電車が遅れて遅刻しそうになる
  • 取引先へ訪問途中に道に迷う
  • 会社の電話や空調など環境音
  • 給湯室での同僚の噂話
  • 上司からの不明確な指示
  • 外部からの電話に出る
  • 出勤初日にトイレの場所を探す
  • 同期が出世する
  • 採用面接を受ける

 あなたに強く当てはまる項目はありましたか?これらはほんの一例です。引き起こされた不安が仕事のパフォーマンスに影響を与えていないかどうかについても考えてみましょう。

不安を鎮めるための”お勧めテクニック”

 不安の種類も様々ですが、対処方法も多様です。不安の緩和に有効な対処テクニックを挙げてみます。一つ一つ試してみてください。きっとあなたの不安にフィットした対策が見つかるでしょう。

認知行動療法的なアプローチ
  • 否定的考え方を断ち切る 無理にでもいいのでポジティブな側面を挙げてみましょう。
  • 全体像を見る 細部や気になる部分にばかり固執せず、大きな視点、異なる視点から物事を眺めてみましょう。
ヨガや呼吸法でのアプローチ
  • 呼吸法を学ぶ 正しい呼吸はリラックスにつながります。呼気のときにゆっくり秒数を数えましょう。また鼻から息を吸い、口から出し、横隔膜をしっかり上げ下げする腹式呼吸を心がけます。何はともあれ不安になったら深く深呼吸して下さい。
  • 筋肉のゆるめ方を学ぶ 全身の筋肉の緊張をほぐすこともリラックスにつながります。会社の中で誰にも見られず邪魔されない静かな場所を見つけておき、できるだけ定期的に行うのが秘訣です。
日々の生活でのアプローチ
  • リラクゼーション 音楽を聴く、外出をする、お茶を飲む…手軽なリラックス方法を見つけておきましょう。
  • 休憩時間を取る 発達障害者は一般的に疲れやすいため、職場では定期的に休憩を取るよう心掛けましょう。また、強い不安を感じたら一旦今携わっている仕事を止めて、他のルーティンワークをしてみるのもお勧めです。
周囲に協力を得るアプローチ
  • サポートを得る:自力で緩和が難しい場合は、カウンセラーや産業医、かかりつけの医師や就労定着支援のスタッフなど、外部の専門家に相談してみましょう。

~最良の戦略は、まず身近な人に不安を告げること~

 あらゆる種類の不安に対してなによりもまず最初に行うべき対策は、身近で適当な人――家族や恋人、友人かも知れませんし、上司や同僚、あるいは産業医やかかりつけ医、就労定着支援のスタッフかも知れません――を探して、できるだけ早く抱いている不安について話をすることです。

 不安を語ることで半分の不安が解消するという人もいます。不安について話をすれば、その原因を取り除いてくれる場合もありますし、対処や緩和の仕方についての的確なアドバイスを貰えることもあるでしょう。少なくとも話を聞いてもらうだけで不安を客観視することができ、心の荷が下りて不安が和らぎます。

不安に対処するためのアクション まとめ

自分の不安を書き出す
  • 職場で何があなたを不安にさせるのか、その不安が仕事のパフォーマンスにどんな影響を与えているか書き出してみましょう。
  • 要因のひとつひとつについて対処方法を考えてみましょう。
変化への対処方法を書き出す
  • 職場で不安を起こす要因となり得る変化について書き出してみましょう。
  • その要因に対し、どのような対処策があるか考え、書き出してみましょう。
不安への備えを書き出す
  • あなたの抱える不安について身近ですぐに相談できそうな人を4人挙げてみましょう。
  • 今最も不安を感じる事柄を頭に描き、それに対する戦略を、上に挙げたテクニックにあなたのオリジナルも加え、3つ以上挙げて下さい。
  • あなたが幸せを感じたりリラックスできる状況を3つ以上挙げて下さい。
  • 職場でのリラックス手段を3つ以上挙げて下さい。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

何かが少しでも変わってしまうことに不安を抱いている方は少なくありません。そういった方は、外来も例えば毎月第4月曜日にしてください、と言ってこられたりします。こだわりとされることの多くも根底には変わりゆくことへの不安があったりします。それに発達特性の有無に関わらず、そもそも私たちの多くは「前と同じ」ほうが安心できるのです。とりわけ日本は社会全体が前例主義に傾いている気がしますね。ですから変化への不安は当たり前とも言えますが、そうは言っても対応しないといけないのも事実。仮に不安のせいで生活に停滞が生じているようでしたら、是非その不安をどうすると和らげて次の一歩に繋げていけるのか、身近な方、支援者の方や主治医と話し合ってみてください。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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