発達障害の診断基準とは? DSM-5から見る発達障害

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発達障害の診断はだれがどこでする?

発達障害の診断は医療機関で精神科医が行います。

ややわかりにくいかもしれませんが、発達障害に関する相談やサポートは医療機関以外の場所(例えば地域の発達障害者支援センターや福祉センターなど)でも受けることができます。
大学生の場合は、大学内の学生相談室でも対応できる場合が増えてきました。

一方で障害の診断ができるのは医師に限られます。
発達障害の診断がなくても(つまり障害の疑いがあるという状態でも)利用できるサポートは多くあります。
ただし、ご自身の状態に診断名をつけたい場合、あるいは障害者手帳の申請等のために診断が必要な場合等には診断のできる医療機関を訪れる必要があります。

目的機関・場所
診断医療機関(精神科医)
相談・サポート(診断がなくても利用可能)地域の発達障害者支援センター、福祉センター、大学内の学生相談室など

発達障害の診断基準 DSM-5

では、医師はどのような基準をもとに発達障害の診断をしているのでしょうか。
今回は日本の精神疾患の診断のために参照されることが多い「 DSM-5 」についてご紹介します。

「 DSM 」とは、アメリカ精神医学会が出版している、精神疾患の診断基準・診断分類のことです。
「 Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 」の頭文字をとって DSM と呼ばれます。
DSM-5 の5は、第5版という意味です。
DSM は1952年に初版が発行されてから改訂を重ねられ、日本では2014年以降、最新版の DSM-5 が使用されています。

例えば自閉スペクトラム症( ASD )の診断基準として、 DSM-5 では以下の4つの基準を満たした場合に診断が下ることになっています。

DSM-5 における自閉スペクトラム症( ASD )の診断基準
  1. 社会でのコミュニケーションや対人交流の持続的な障害
    1. 社会での情緒的な相互交流の障害
    2. 社会的交流における非言語コミュニケーション行動の障害
    3. 人間関係を築いて保ち理解することの障害
  2. 限られた反復されるパターンの行動や興味、活動(以下の項目のうち少なくとも2つに当てはまる)
    1. 型にはまった体の動き、物の使用や発話
    2. 同一性へのこだわり、決まった手順への融通の利かない固執、儀式化された言語もしくは非言語行動パターン
    3. 集中の深さや狭さが一般的でないほど非常に限られている大変強い興味・関心
    4. 感覚入力に対しての反応性の過度の上昇もしくは低下、もしくは周囲の環境の感覚的側面に対しての並外れた興味
  3. 症状は早期の発達段階までに発現していなければならない(が、社会的な要求が限られた能力を超えるまで全てが現れないかもしれない。
    もしくは後天的に学んだ対処法で見えなくなっているかもしれない。)
  4. 症状によって社会や職業またはその他の重要な分野で臨床的に重大な機能障害が起こっている

医療・相談機関を訪れる際のポイント

前述の通り、発達障害の診断では DSM-5 のような診断基準が参照されます。

診断のための診察で注意すべきポイントとして成育歴を尋ねられることがあります。
成育歴とは、私たちが生まれてから今日までどのような環境でどんな風に育ち、どんなエピソードがあるかをまとめたものです。
例えば、就学前検診でこんなことを言われたとか、小学生のころは授業に集中できずによく先生に注意されていたとか、ご家族の中に発達障害の診断を持つ方がいるとか、これまでのほかの精神疾患の診断を受けたことがあるとか、今仕事でどんなことに困っているかなど、ご自身の情報を過去にさかのぼって質問されます。

今のご本人の状態や困りごとが最近起こり始めたことなのか、幼少期から同様の特性を持っていたのかは、発達障害の診断をするうえで非常に重要です。

例えば下記のようなケースでは自閉スペクトラム症ではなく別の精神疾患(たとえばうつ病など)の診断が下る可能性があります。

別の精神疾患(たとえばうつ病など)の診断となる可能性があるケース
  • 接客業に転職をしてから急に周囲とコミュニケーションをとることが難しくなり、落ち込むことが増えた。
  • 上司からは、もっと社内の暗黙のルールを守れといわれるが、ほかの人がどんなルールに従って活動しているのかがわからない。
  • 最近では会社に行こうとすると頭痛がしてつらい。
  • 幼少期は友達も多く、転職前までの職場(事務職)ではコミュニケーションで困ったことはなかったのに…。
  • 最近テレビで発達障害の特集を見て、自分は自閉スペクトラム症の傾向があるのではないかと思い受診した。

発達障害の場合は幼少期から症状が認められる必要があります。
現在の状況だけを見ると自閉スペクトラム症の診断基準に当てはまる部分があるものの最近のエピソードだけでは自閉スペクトラム症の診断には至りません。

もちろん、自閉スペクトラム症の傾向が幼少期からあったものの本人や周囲ともに特にその特性に気がつかず、接客業についたことがきっかけで自閉スペクトラム症の特性がはっきりとわかるようになった、という可能性もあります。
また、ご本人に自覚がないだけで、じつは幼少期から自閉スペクトラム症の傾向があったという可能性もあります。
ですから、診断の際はこういった背景情報も考慮しながら診断基準を参照する必要があります。
一概に「本人の話が診断基準に当てはまっている」=「発達障害の診断をする」というわけにはいかないのです。
したがって、 DSM-5 の基準は一般に公開されているものの自分の障害を自己診断することはできません。
あくまでも熟達した医師が基準を参照し、本人からの情報や時に本人以外(家族等)からの情報、知能検査など客観的指標を総合的に考慮したうえで診断名がつくのです。

大人になってから診断を受ける場合も、できるだけ幼少期からのエピソードがお話できるとよいでしょう。
例えば事前にご家族にご自身の幼少期のお話を聞いておくのもよいですし、学生時代の通知表の所見に書かれた情報が役立つこともあります。
また、もし医療機関を訪れる前に知能検査や心理検査を受けたことがあればその結果も持参しましょう。客観的指標として診断の際の参考になります。

DSM-5 以外に診断のための基準はある?

はい、あります。
DSM-5 は現在日本の多くの精神科医が参照する診断基準ですが、そのほかに「 ICD-10 」という診断分類があります。
ICD-10 について、詳しくは「 ICD-10 って何?~ DSM との違いや ICD-11 への改訂について~」の中でご紹介しています。

DSM-5 との違いは、 ICD-10 は精神障害以外の疾病も含めた分類水準であることや、 ICD-10 は WHO が定める国際的な分類の方法である、ということがあげられます。
診断にあたってどちらの基準が優れている、ということはありません。
DSM-5 と ICD-10 の精神疾患の分類方法や診断基準の間に大きな違いはなく、どちらも診断の際の資料として参照されています。

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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

発達障害の診断は必ず精神科医が行います。その際に最も参照されるのがDSMとICDですが、同じ時期に出た診断基準に基本的に大きな差はありません。もっともDSMもICDも版が違うと大きな差があります。つまり発達障害の医学的捉え方は時代とともに変遷してきた歴史があるのです。その意味では依然として他の疾患、例えば統合失調症や双極性障害などと比較するとまだまだ変わりゆく側面はありそうです。とはいえ、今後も変わりそうにないのは2点でしょうか。まずは幼少期から特性が確認できること。これは見逃されていることもあるので、必ずしも親や支援者に気づかれているとは限りません。もう1点は、現時点で診断するとしたら、特性があるだけで診断するのではなく、その特性が本人の社会生活上、何らかの生きづらさに繋がっている場合に診断することです。困り感そのものは本人ではなく、家族を始めとした周囲の人々の可能性もあります。社会生活上特に問題なく過ごされている方を、単に特性が当てはまるからと言って診断することは無いと考えてください。その点、症状が一定基準を満たせば診断する他の精神疾患とは概念上少し異なっているのも特徴ですね。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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