聴覚過敏とは、周囲の音に対して日常生活に支障が出るほどの不快感やストレスを感じてしまう症状のことです。「大勢の声を聞くと頭が痛くなる」「サイレンのように突然鳴る大きな音を聞くと不安になる」など、苦手な音や具体的な症状は人それぞれです。
この記事では、聴覚過敏の症状や考えられる原因、対策などを紹介します。また、発達障害*がある方も聴覚過敏が起きることがあるため、発達障害と聴覚障害の関係性についても解説します。
聴覚過敏とは
聴覚過敏とは、人の声や物音など身の回りの音がとても大きく聞こえてしまい、不快感やストレスで日常生活に支障が出てしまう状態のことです。
ほかの人はあまり気にならないような音でも、聴覚過敏の人は「うるさい」「不安になる」などと感じることがあり、耳の痛みや頭痛を感じることもあります。
聴覚過敏は診断名ではなく、特性・症状のひとつです。人によって不快に感じる音の種類や大きさはさまざまで、不安感や痛みなど表れる症状にも違いがあります。例えば、子どもや女性の高い声を苦手に感じる人もいれば、物と物がぶつかる音が苦手な人もいるでしょう。
聴覚過敏は、その日の気分や体調、ストレスなどによって同じ人でも症状の強さに違いが出てきます。気分がいい日はあまり周囲の音が気にならなくても、体調が悪かったりストレスがたまっていたりすると、同じ音でも聴覚過敏の症状が出ることがあります。
聴覚過敏以外の感覚過敏
聴覚過敏は感覚過敏といわれる特性・症状のひとつです。聴覚過敏以外には、以下のような感覚過敏があります。
- 視覚過敏
- 嗅覚過敏
- 触覚過敏
- 味覚過敏
視覚過敏は光など目から入ってくる刺激に対して、嗅覚過敏はにおいに対して過敏に反応してしまう症状です。触覚過敏の人は、「服の肌触りや人に触れられるのが苦手」といった症状が見られます。味覚過敏とは、特定の食材や味に対して過剰に反応してしまうことです。
このように、さまざまな感覚過敏の症状があり、人によっては複数の感覚過敏が同時に起こる人もいます。
聴覚過敏の方が苦手な音とは?
同じ聴覚過敏の特性を持つ人でも、人によって苦手と感じる音は違います。聴覚過敏の方が苦手に感じる音には、以下のようなものがあります。
- 赤ちゃんの泣き声
- 子供の声
- 大勢の人が話す声
- 掃除機やドライヤーの音
- トイレを流す音
- 食器がぶつかる音
- ドアをノックする音
- 電話の着信音
- 救急車やパトカーのサイレン など
このように、特定の人の声や特定の機器が出す音、予測できない突然鳴る音などを苦手に感じる人が多い傾向にあります。
例えば、スーパーやショッピングモールのような施設では、人の声・エスカレーターの音・館内放送・トイレのエアータオルの音など、さまざまな音が一気に押し寄せるため、聴覚過敏の方にはつらい環境でしょう。
家のなかでも、家族の話し声や洗い物をするときの食器の音、トイレを流す音や外から聞こえるサイレンなど、さまざまな音が聞こえるため聴覚過敏の症状が出てしまうことがあります。
聴覚過敏は周囲から理解されにくい
感覚は人によって違い、自分がどのように感じているのか他人と共有することはできないため、残念ながら聴覚過敏は周囲から理解されにくいのが実情です。
周囲の音に苦しんでいるのに、そのうえ「そのくらい我慢できるはず」「そのうち慣れるでしょ」などと言われてしまうこともあり、対人関係でつらい思いをしている人も少なくありません。
周囲に理解されないことで、「自分の我慢が足りない」「このくらいでつらいなんて言ってはいけない」など自分自身を責めてしまう人も多くいます。
聴覚過敏と発達障害の関連性
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)など発達障害の方は、聴覚過敏の特性を持ちやすいことが知られています。発達障害の方は定型発達の方に比べて、外部からの刺激に対する特性を持ちやすく、聴覚過敏だけでなくほかの感覚過敏の症状が起きることがあります。
ただし、そのような傾向があることがわかっているだけで、発達障害の方に聴覚過敏の症状が起きる原因はわかっていません。
聴覚過敏の原因とは?3つのパターン
聴覚過敏の原因として考えられるのは、次の3つです。
- 耳の機能
- 脳の機能
- 自律神経の乱れ
それぞれどのような原因で聴覚過敏の症状が起きるのか、以下で解説します。
1.耳の機能が原因のパターン
耳には、大きな音が聞こえたときに耳の奥に届く音の大きさを抑える機能が備わっています。この機能が正常に働いていれば、大きな音が鳴っても耳にそのままの大きさで届くことはありません。
しかし、なんらかの原因でこの機能がうまく働かない状態では、音の大きさが調整されず不快感などを感じてしまいます。
メニエール病や突発性難聴などの耳の病気も、聴覚過敏を引き起こす原因のひとつです。これらの疾患では、音そのものは聞こえにくくなる一方で、特定の音だけ強く響いたり不快感が生じたりすることがあります。
耳の病気以外には、顔面神経麻痺が原因となっているケースも見られます。顔面神経麻痺では顔の動かしにくさのほかに、「音が響く」「味がしない」など、感覚に支障が出ることがあるのです。
2.脳の機能が原因のパターン
私たちの脳は、無意識のうちに聞きたい音とそうでない音を振り分けています。これを選択的注意といい、この機能がうまく働かないと脳がすべての音を取り込もうとして、聴覚過敏の症状が表れることがあります。
てんかんや片頭痛なども、聴覚過敏を引き起こす原因のひとつです。これらの疾患は脳の神経細胞を過剰に興奮させ、聞きたい音をうまく選べない状態となって音への不快感を生じさせるといわれています。
また、先ほど紹介したとおり、発達障害によって感覚が敏感になることで聴覚過敏に悩まされている人もいます。ただし、原因ははっきりわかっておらず、発達障害のすべての方に聴覚過敏の特性が表れるわけではありません。
3.自律神経の乱れが原因のパターン
自律神経とは交感神経と副交感神経といわれる神経で構成されたもので、この2つの神経のバランスが崩れることを「自律神経が乱れる」といいます。交感神経の働きは身体を活発にすることで、反対に副交感神経の働きは身体をリラックスさせることです。
自律神経が乱れて交感神経が過剰に働くようになると、心拍数が急激に上がったり血管が過剰に収縮したりします。これによって耳にも不調が表れ、聴覚過敏や耳鳴り、難聴などを引き起こすケースがあります。
自律神経の乱れの原因のひとつが、ストレスです。そのため、強いストレスを感じたときに聴覚過敏が表れることがあります。
聴覚過敏の治療法はある?
聴覚過敏そのものに対する治療法は確立されていませんが、原因となっている疾患がある場合はその疾患を治療することで聴覚過敏の症状が軽減される可能性があります。メニエール病や突発性難聴、てんかんなどの病気が疑われる場合は、医療機関を受診しましょう。
聴覚過敏の原因がわからない方は、まず耳鼻咽喉科で相談してみるとよいでしょう。耳の不調が原因なら、そのまま治療してもらえます。
強いストレスを感じているなら、精神科や心療内科を受診しましょう。カウンセリングや薬の処方によってストレスによる身体の不調が緩和され、聴覚過敏の症状も和らぐ可能性があります。
聴覚過敏の対策
聴覚過敏の原因となっている病気が治るまでに時間がかかったり、そもそも原因が特定できなかったりする場合には、少しでも症状を和らげるための対策が必要です。
聴覚過敏への対策には、以下のようなものがあります。
- イヤーマフやイヤホンなどの活用
- リラックスできる方法を見つける
- 周囲に特性を伝え、環境の調整を行う
それぞれの対策について、以下で見ていきましょう。
イヤーマフやイヤホンなどの活用
聴覚過敏は周囲の音が負担になるため、イヤーマフやイヤホン、耳栓などを活用して耳に届く音を減らすのが効果的です。特に、ノイズキャンセリング機能がついたヘッドホンやイヤホンは騒音を減らしてくれるのでおすすめです。
耳を覆うことで周囲の音が気にならなくなり、不快感を軽減したり仕事に集中しやすくなったりする効果が期待できます。
重さや装着感はアイテムによって変わるため、長時間装着していても負担にならないように、自分に合ったものを選びましょう。ヘッドホンやイヤホンはワイヤレスタイプも多く販売されているので、触覚過敏でコードが身体に触れるのが気になる方でも取り入れやすいでしょう。
リラックスできる方法を見つける
ストレスによる自律神経の乱れによって聴覚過敏が起きている場合は、リラックスする時間を意識的に作ることが大切です。自分はなにをしているときがリラックスできるのか、あらためて考えてみましょう。
職場環境にストレスがあるなら上司に相談して環境を変えてもらうなど、ストレスの原因を減らすのも効果的です。また、ストレスを感じたときに休める場所や、相談できる相手を見つけておくのもよいでしょう。
不規則な生活や栄養不足なども自律神経が乱れる原因となるため、規則正しい生活を心がけたり食事の栄養バランスに気をつけたりすることも大切です。
周囲に特性を伝え、環境の調整を行う
職場でも過ごしやすいように、周囲に聴覚過敏があることや具体的な症状を伝え、働きやすい環境を整えてもらえるよう相談してみましょう。聴覚過敏は周囲に理解されにくい現状がありますが、しっかり理解して対応してくれる職場もあります。
会社に聴覚過敏の症状を伝えて、「職場でのノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可してもらう」「静かなエリアの席に変えてもらう」など具体的なサポートを求めてみましょう。
環境の調整やアイテムの活用で過ごしやすい状態を作ろう
聴覚過敏とは感覚過敏のひとつで、周囲の音に対して敏感に反応してしまう症状のことです。人の声やものがぶつかる音、着信音やサイレンなど、苦手な音は人によってさまざまです。苦手な音を聞くと不快感や耳の痛み、頭痛などさまざまな不調が表れ、不調の度合いは本人の気分や体調によって変わります。
聴覚過敏の原因には、耳の不調や脳の病気、自律神経の乱れなどがあります。また、発達障害の方も聴覚過敏の特性が表れることがありますが、原因はわかっていません。
聴覚過敏は過ごす環境を調整したりイヤーマフなどのアイテムを活用したりすることで、症状を緩和できる可能性があります。聴覚過敏にお悩みの方は、これらの方法を試してみましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
聴覚過敏、はそれを持っている人にとっては、持っていない人からは想像のつかないような辛さがあり、かつ様々な音に対する過敏さがありえます。原因が明確であれば良いのですが、実際には慣れることも難しい場合も多いので、様々な対策が必要ですね。私も片頭痛を抱えており、発作時にはどの音も頭に「暴力的」に響きます。最近ではノイズキャンセリングイヤホンなどデバイスの進化も手伝って対応可能な手段は増えていますので、過敏さをお持ちの方は色々と試してください。耳栓も高性能で快適なものを探すとあったりします。100円で済ませないほうが良いかもしれませんよ。
また、学校・職場でデバイスの使用など配慮が必要な際には思い切って医師からの診断書の提出を考えてみてください。尚、聴覚過敏と思っていたら、実はADHD特性の不注意の範疇といえる範疇だったこともありました。是非医療者と相談してみてください。

監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。